影武者として 2
私に言われたからというよりは、メジャーを外す時に気持ちが盛り上がって言った可能性の方が高そうだけど。川原の立場から考えるなら、試合の前や後に二人になりたいだろうから断った方がいいのかもしれない。かもちゃんの立場なら…一人で観るのは恥ずかしいのだろうか。
「えーっと」
川原を見ると、会話を聞いていたのか、首を横に振っている。断れ、と言っているらしい。
まぁ、そうだろう。私が行っても邪魔だろうな。
「あたし、顔ランキングのこともあって断りづらくて。ツッキーが行くなら行こうかなって思ってるんだ」
「……」
そう言うことならば、私は行くしかなくなる。再び川原を見ると、首を縦に振っていた。
首、痛めんなよ。試合あるんだから、気をつけろ。
「どうかな?」
そんな、上目遣いでじーっと見られては思考を奪われる。川原を思うなら“行く”、かもちゃんを思うなら“行かない”?昨日のアイシャドウが、川原への興味の現れなら、“行く”なのかもしれない。
私としては、影武者としての任務もあるから他の用事はなるべく入れなくないのが本音だ。
この場合は、“行かない”かな。
「かもてゃん〜! そんなやつのことなんていいから来てよ〜。俺、かもてゃんのためにシュート決めるからさ」
「うーん…でもなぁ」
「ダンクの方が好きならダンク決めるし、スリーポイントの方が好きならスリーポイント決めるから!」
「バスケのことよく分からないし」
「分からなくてもボールがゴールに入ったか見れば大丈夫!」
「そうなの?」
「そうそう! というか、来てくれるだけで俺……っ」
試合を見てほしいというより、かもちゃんとの二人きりの時間を作りたいらしい。顔を赤くし、視線を逸らす川原。
試合に誘う、顔を赤くするという反応から、かもちゃんは川原の気持ちに気づかないのだろうか。
「いつなの、それ?」
「今週の土曜! お前は来んな?」
「ふ〜ん、じゃあ行かない」
「ツッキーが行かないならあたしも「淡成様! 是非来てください」」
「え、やだ」
「はあ? なんでだよ、ふざけんな」
「ほら、そういう態度だもん」
「……」
「ツッキーもそう言ってるし、この話は白紙に戻そう!」
「かもてゃん! お願い〜! 来て!」
「えー…」
不毛なやり取りにげんなりする。あーだこーだ言ってる間に、ふわりと柚子の香りがして振り向いたら瀬尾がいた。
ふわふわの茶髪に、ふにゃりとした笑顔。胸の奥がきゅっとした、気がした。
「なんの話?」
「川原がかもちゃんをバスケ観戦に誘って、失敗したところ」
「あちゃー。どんまい!」
「うっせーな! 関係ないやつは引っ込んでろ」
「俺、行こうかな? 月奈も行こうよ」
「なんで瀬尾が行くの?」
「バスケ観てる間、月奈と一緒にいられるなぁと思って」
「きゃー!! 瀬尾くん、直球!」
「直球……」
直球に言えなかった残念なやつは肩を落とす。分かりやすいやつ。
「嘉森さんと俺と月奈で観戦しようよ」
「いいアイデアだ! みんなで来い!」
「関係ないやつって言われてたのに優しいね、瀬尾くん」
「そんなことないよ。俺は月奈といたいだけ」
「よかったね〜ツッキー!」
さりげなく川原をフォローした瀬尾の株が、どんどん上がっていく。できる男、瀬尾。カモちゃんが瀬尾を褒めるたび、川原が小さくなっていく気がする。
「……かもてゃんは、瀬尾が好きなの?」
「好きだよ」
「え」
「だって、ツッキーに一途なところがすごくイイ!」
「……」
「それに、誰にでも優しいし」
「……」
「ツッキーには、特別に甘々なところもきゅんポイントだなあ!」
「……」
川原のHPのゲージ0。勝負あり。勝者、瀬尾!
だけど、かもちゃんの言い方だと瀬尾が私のことを特別扱いしてるみたいに聞こえる。瀬尾なんて受け流すくらいがちょうど良くて、いちいち相手にしてたらこっちが身が持たなくなると思ってた。
「素敵な人が大切に思ってくれてるなら、好きになってもおかしくないでしょ?」
そうだよ。瀬尾がいいやつだから、好きになって当たり前なんだ。これが、普通の感情。私もカモちゃんも、瀬尾が好き。それだけの話だ。
「かもてゃん!」
「はい」
「俺が試合で勝ったら……」
「……」
「俺とっ…デ……デデデデ……」
「……」
「……」
「……ん、壊れた? 叩けば直る?」
「昭和のテレビかよ」
瀬尾がボケたので、すかさずツッコミを入れた私。笑い出す、かもちゃん。黙った、川原。
「“俺とデスティニーを感じよう”じゃない?」
「瀬尾、なんかダサいよそれ。“俺とデネブを観に行こう”かも」
「デネブってはくちょう座のα星? 夏の大三角の一つの」
かもちゃんが、聞いてくる。
「そう。ちょっとロマンティックじゃない? 未来の予定で」
「デネブか〜いいかも」
「次はデンマーク? デジタル? データ?」
瀬尾がいくつか候補を出していくと、
「デートだよ!」
ようやく川原が言葉にした。遅いんだよ。へたれが。
ハッとした川原は、恐る恐るカモちゃんに視線を向ける。かもちゃんは、にこにこしていた。
「…試合で勝ったら、俺とデートしてください」
思いが伝わり、そうかもしれないという可能性が断定へと変わった。言葉にするのとしないのとは、結果は大きく変わってくるだろう。
「いいよ」
「……え?」
「勝ったらね」
パァっと表情が明るくなる、川原。こんなに嬉しそうな顔は、見たことがないかもしれない。相当嬉しいんだろう。
「評判のいいお店を予約するから、楽しみにしてて!」




