姉を狙う者 4
校舎の裏側にあるテニスコートにて、体育の授業が行われた。クラス全員がジャージに着替え、制服の時と雰囲気ががらっと変わる。
ダブルスでミニゲームが行われた。意外な人が、テニスが得意だったり笑顔でゲームを楽しむ姿に目を惹かれたりして発見があった。
日差しに応援されながら、花に見守られ、土煙があがったコートやラケットの片付けをする。でも、村坂に試練三を言い渡されたから、目線が女子の胸にいってしまう。
占いで「ラッキーアイテムが何色です」と言われて、目につきやすくなるような感覚に似ている。
逆に、見られているなと感じることはあった。例えば、運動してる時やショルダーバッグの斜めがけをした時だ。スカートもそうだが、なぜこんなに女は気をつけねばならないことが多いのだろう。
男は、目立たないのでいいなと感じる。女は、知られたくなくても分かってしまうから、からかわれたり、とある図々しい男は、学年の女子のカップ数を知ろうとしている。知りたいのなら、自分のブツの長さも言うのが常識だろう。人に名前を尋ねるときは自分から名乗れ、と習わなかったのかいう気持ちになる。
「ネットがうねっちゃう」
「平気、平気。そこまでやれば、大丈夫だって。それっぽかったら、何も言われないよ」
そうだ。適当でいい。バレやしない。
「不正は、許さない」
体育が終わり、教室に戻ってスマートフォンを開くと、私の考えを見透かしたメッセージが入っていた。声に出していなかったのになぜだろう。タイミングが怖い。村坂の隠し持っていた特殊能力だろうか。
ああ。私は疲れてるのかもしれない。休憩時間に、休憩ができていないからだ。急なSF展開はやめよう。
『不正は許さない』という言葉から、村坂は調査会社のスパイの可能性があるかもしれない。なぜなら、胸のサイズを知って興奮することが目的なら、適当でもいいと思う。勝手に妄想して、興奮していればいい。そこに、正確性を求めるならリアルな情報を求める組織だと考えた方が自然だ。そうだとすれば、一学年とは言わず、全学年調べさせるだろうに。
ーードンッ
「いたっ……は?」
がたいのいい男がぶつかってきたのにも関わらず、こちらを見ることなく、何事もなかったかのように歩いていく。私は、バランスを崩しただけで倒れはしなかったものの、肩に痛みはある。
そもそも、こんなに広い教室でぶつかるなんてあり得ない。絶対、わざとだ。川原、本当に腹立つ!
「ツッキー! ご飯食べよ」
「あ、ごめん。やらなきゃ行けないことが」
「…ご飯も食べず?」
「早くミッションコンプリートしないと、何されるか分からないし」
「そっか……分かった」
「ちなみになんだけど…かもちゃん、何カップ?」
「……………え?」
困惑する、かもちゃん。当然の反応だ。なんで私が、セクハラをして回らないといけないのだ。血管が切れそうだ。
一学年の女子は全部で百名だ。五クラスあるので、一クラスに二十人いる。二十人のうち、村坂派がクラスの四割を占めていて、残り二、三人のグループで構成される。その場の雰囲気やアルファベットを指さすくらいだったら、答えてくれる人もいるだろう。その他は秘密兵器と、とっておきの策がある。
昼休みは、売店に買いに行く人や場所を移動して食べる人など、自分の教室を離れる人もいるため、分かりやすいように一組の席順に始めることにする。いない人には、戻ってからアタックする。
昼休みが終わるまで会えない人は、私の想像で記入するつもりだ。または、どうしても言いたくない人も。
お姉ちゃんという人質を取られているからには、ちゃんと遂行しなければいけないけど、数人誤魔化したって気づきはしないだろう。そもそも、この手の質問は本当のサイズを教えてくれるとも限らない。本当のサイズを知りたいならば、下着屋でサイズ別の売上を見るのことが一番いいのだ。
「一組の相澤さんより、俺の方が胸あったりして」
「大胸筋で谷間もつくれるからな」
一組に向かう途中の廊下で、男子たちが面白そうに話をしていた。残念なことに、相澤さんの指を差したアルファベットは、お前たちが思っている相澤さんのサイズとは違うものだった。男と女では、バストの認識のずれがあるのだろう。




