63話 英雄の死
マーリンの姿が見えなくなって数分後、その場にいたディアボロスの3人は誰からともなくふぅと一旦落ち着くようにため息を吐いた。
数分間待ったのは、マーリンの姿を消す魔法なりスキルなりの効果時間が一定時間で消滅するタイプだった場合に備えてであり、経験上、5分以上その場から消える魔法やスキルの類は効果がかなり長時間に及ぶだろうと当たりを付けていた。
そういう類の物で有名なのは、魔王ことヒナが所持している『世界断絶』だ。
「ジョウホウデハ、ヤツノスキルハ24ジカンジゾクスル。ソレヲカンガエレバ、キョウダケデモワタシノショウカンジュウヲオイテオイタホウガイイダロウ」
「……あぁ、そうだな」
その、数年共に暮らしても解読に少々の時間を要するだろう機械的な言葉を発するサンに少しだけイラつきつつ、ジルはコクリと頷いた。
仕留めきれなかったのは残念だが、自分達の目的は『英雄の排除』であり、結果はどうであれマーリンが今後王国の王政にあれこれ首を突っ込むことは無い。
それに、もしも1日で今のこの状態が解除されるのであれば、いくらHPが全回復していようとも丸腰で死神に勝てる程では無いだろう。
「あの手のスキルは、魔力の回復とか一定距離以上の場所移動は出来ない……だったよな?」
「サァナ。ムコウデハ、イチジテキナカイヒシュダントシテシカツカワレテイナカッタ。スガタヲケシテイドウシヨウナンテカンガエルヤカラハイナカッタカラシラン」
サンがしかめ面でそう言うと、ジルもそりゃそうだと頭を掻きながら同意する。
暗殺者である男――レオのクラス専用スキルである『存在抹消』もそうだが、ほとんどのプレイヤーはどうしようもない状態に陥った状況で緊急回避的な運用をすることが多く、そのスキルを使用してどこかへ行こうなんて考えるプレイヤーはいなかった。
なにせ、そういう“世界から存在を消す”魔法やスキルは、総じて効果時間の間は攻撃系の魔法やスキルを放てなくなるという仕様があったからだ。
仮にそのスキルを使って敵の背後に回り込もうとも、よほど初心者のプレイヤーでなければ辛うじてではあろうが対応してくるし、インターバルの長いその類のスキルをそれだけの為に使うのは躊躇われる。
少なくとも、あまり効果の期待できない博打に使うよりは、緊急回避用のスキルとして運用した方が遥かに現実的なのだ。
「まぁ良い。で……これからどうするか指示くれや」
「個人的には、あの馬鹿共の教育をもうちょっとなんとかしてほしいんだがな……。奴らの尻拭いをするのも楽じゃないんだ」
「……ゼンショシヨウ。タダ、ワタシモアマリヘタハウテン。ナニセ、ロイドノヤツハチノウガイジョウニハッタツシテル。ボケツヲホルトイッシュンデショウタイガバレル」
「そ、そうか……。まぁ、ほどほどにな……」
いい加減その妙な話し方は止めろと言いたいが、ラグナロクをプレイしていた時から何度言っても聞いてもらえないので無駄なのだろうなとレオは肩を落とす。
解読するのにもちょっとしたコツがいるその機械的な声は長時間聞いていてあまり心地の良い物ではない。
それに加え、彼女は仲間だろうと平気で殺しかねない残虐さと冷酷さを持っているせいで、あまり下手な事を言って自分の寿命を減らしたくない。
恐らく、普段野生の獣のように好き勝手振る舞っているジルがサンの前だけは大人しくしているのもそのせいだろう。
レオは目の前でぐあぁと大きなあくびをかましている同僚をチラッと見つめ、内心ではぁと大きく深いため息を吐いた。
「デハ、シジヲダス。ジルハホンブニカエッテホウコク。レオハソノママオウジョウナイニセンプクシ、マーリンノシュウイト……デキレバヘヤノチョウサヲススメロ。アイテムボックスノナカミハカイシュウシテオキタイカラナ」
「はいはい、了解したぜ~。んじゃ、俺は先に帰っとくわ!」
指示の内容が短かったことを良いことに、さらに面倒な指令を与えられる前に超人的な身体能力で本部へと帰っていった同僚を心の中で非難し、レオもなんとか解読を済ませてコクリと頷く。
サンはどうするのか……そう口を開きかけ、彼女の王城内の仕事を思い出して口を噤んだ。
「デハ、カイサンダ。ワカッテイルトオモウガ……」
「城内の奴らには見つかるな……。分かってるよ」
王城内に無数に潜んでいたマーリンの召喚獣から身を隠すのは、盗賊のクラスを習得いる彼からしてみれば面倒というだけで別段難しくはなかった。
しかも、今回はそんな面倒な召喚獣を放つ存在も、そして城内を警戒しているだろう人物もいないので潜伏も断然楽になるだろう。
それに、マーリンほどのプレイヤーが残しているアイテムの数々も気になるところだ。課金アイテムの補充なんかが出来れば嬉しいのだが……。
と、そんなことを考えているのだろうレオの顔を横目で見つつ、サンは己の心の内でマーリンが再び姿を現すのは当分先になるだろうという妙な直感を働かせていた。
サンは、マーリンの事を人並み以上……もしかすればマーリン以上に評価している。
そして、そんな人物が苦し紛れに貴重な存在隠蔽系のスキルや魔法を使うだろうか……。
少なくとも、自分が彼女の立場であればそんなことはしない。なぜなら、そんなことをしてもなんの意味も無いからだ。
(出てくるのは数か月……もしかすれば数年後かもな。私らが奴の存在を忘れた頃にひょっこり出てくるって方がシックリくる)
そう結論付けた彼女は、心の中で自分の失態を後悔しながらサッサと王城へ戻った。
彼女の王城での仕事はマーリンの弟子……と、勝手に名乗っているだけの治療術師だ。
マーリンがしばらく顔を出していなかったここ数十年の間に王城へ忍び込み、王国を内部から腐らせている主犯は彼女だった。
それはまるで動物の体内に寄生する虫かのように、本人達が自覚しない程度にじっくりと……それでいて確実に王国の力を削ぎ、立ち直れない程度に腐敗させていた。
その目的は――
「遅かったじゃねぇかメルヴィ! おめぇの言う通りにやったが、見ろよこの傷! あいつ、全盛期の力は失ってるんじゃなかったのかよ!」
「サリアス兄さんの言う通りだ。見ろ、私とロイドの腕は消えたぞ! どうしてくれる!」
王城へ帰るなり、サンを待ち受けていたのは2人の王子の激しい叱咤と理不尽な罵倒だった。
正確に言えば、王城へ帰って来たサンの元へ彼らの専属メイドが顔を青くしながら彼らの部屋に招き入れ、入るや否や止血された傷の部分を強調しながら迫って来たのだ。
サンは内心で「マーリンの脅威については散々説明し、何があっても侮るなと言っただろ」と愚痴りつつ、人の良い笑顔を浮かべて謝罪を口にする。
「スマ……いえ、申し訳ありません。ただ今治療いたしますので、少々お待ちください」
ここにディアボロスのメンバーがいれば両の目を飛び出させながら漫画のように「えぇ~!?」と叫びだすような態度だが、彼らに取り入るにはこのスタイルが一番適切なのだ。
それに、彼女の密かなる目的の為には愚かとは言え彼らの力は必要だ。なので、我慢すること自体も別に悪いことではない。なにせ、急いでどうにかしたい計画ではなく、長期的に事を進めているのだから……。
「ロイドさんはどこへ? あの方も酷い怪我をなさっているのでは……?」
2人の王子の傷を回復魔法で癒しながら首を傾げると、サン――ここではメルヴィと名乗っている――は、広すぎるサリアスの部屋をキョロキョロと見回す。
決して趣味が良いとは言えない調度品が乱雑に配置され、子供向けの番組で映せば子供に悪影響を及ぼすだろうグロテスクな絵画が飾られたその部屋に、次期騎士団長と呼ばれている男の姿はない。
すると、彼らはお互いの顔を見合わせるとすぐにニヤリと笑って、なんてことなしに「父上に報告に行った」と口にした。
その瞬間、サンは額に血管が浮かぶのを必死で抑え、怒りでプルプルと震えそうになる拳をどうにか抑える。
(なに私に断りなく動いてんだよ。奴が死んだことを確定させると計画が進みにくくなるってのに……)
少なくとも、彼らのこの行動のせいで、あと数年で終わるはずだった計画に大きなゆがみが生じたのは間違いない。なにせ、マーリンの死を確定させずに他国へ亡命されたとでも言えば、彼女を反逆者に仕立ててその国家と戦争する事が可能になるはずだったからだ。
しかし、マーリンの死を確定させてしまえばその大義名分すら無くし、他国への侵略もこの国に潜り込んでいる真なる計画の成就も大幅に遅れてしまう。なので、後々他国侵略という餌をぶら下げて英雄の暗殺という栄誉を隠させようと計画していたのだが……
「そうでしたか。では、その報告が終わり次第私の部屋へ来るよう伝えてください」
「おう! にしても……」
「自分の師匠だった奴を殺す計画を立てるなんて、君も悪だよね」
サッサと部屋を後にしようとしたサンを引き留めたのは、この期に及んでマーリンを殺したのは自分達だと思っている脳内にゴミでも詰まっているんじゃないかと疑いたくなる2人だった。
思わずベースを弾いて魔法を放とうとするのを意志の力で抑え込み、なんとか笑顔を作ると意味ありげにふふっと笑う。
「そりゃ、あの人がいなくなれば名実ともに、世界一の魔法使いは私ということになりますので」
「はっは! 違いねぇ!」
「だね。これからも頼むよ、メルヴィ」
「はい、これからも皆様の闇……いえ、この国の汚れ仕事と繁栄の為にこの力を使う事を約束しましょう」
内心では「用が無くなったら最初に殺すのはお前達だ」と吐き捨てながら部屋を出たサンは、その足で自室へ戻り、計画の大幅な修正が必要になった事と、大変な遅れが出そうだという報告書を作成する。
それを召喚魔法で呼び出した高レベルの鳥型モンスターの足に括り付け、仲間の元へ運ぶよう指示を出す。
この世界において脅威と成り得る存在はしばらくこの世界に現れないだろうことを確信しつつ、先程まで相手していたバカ2人の事を思い出して部屋に置いてある机をバンと思い切り叩く。
「サッサトワタシノシロニモドラセロ! アノバカドモガ……」
以前はランスロットの部屋だったらしいその部屋は、10畳ほどの広さなのに必要最低限の物――紺色の机と椅子――しか置かれていない寂しい部屋だ。
元々の住人があまり部屋に物を置きたがらなかったのもそうだが、貴族街にある一番大きな屋敷に“彼ら“のアイテムボックスやらなにやらが全て置かれているのが、この部屋に物が少ない主な理由だ。
もう何十年も戻っていないギルド本部の事を思い出しながら頭を抱えてはぁとため息を吐いたサンは、しばらく項垂れてから新たな計画を練り始めた。
………………
…………
……
その翌日、エリンとシャトリーヌ……いや、それだけではない。城内に住む全ての人間と、騎士団の面々が全て謁見の間に集められた。
謁見の間はキャメロット城がこの世界に来てから変わらずその荘厳な姿を維持しており、鏡のようにピカピカに磨かれた大理石の柱が何本も等間隔に左右に並び、フカフカの赤い絨毯が玉座に向かって伸びている。
謁見の間に入るための扉を50メートルほど進んだ先に鎮座するその玉座は下品にならない程度の装飾が施され、一度座れば離れ難い感覚に襲われるだろうクッションは彼らの清廉潔白なイメージを体現するかのように真っ白だった。
その玉座の後ろでは円卓の騎士のギルドマークが謁見の間を見守るようにドンと描かれ、必要最低限の調度品の数々もその空間の壮大さや玉座に座る人物の偉大さを強調しているようだ。
そんな、歴史があり選ばれた者しか座る事が許されない玉座に、偉そうにふんぞり返って足を組み、深く腰を落とす人物こそ、現在の国王であるケイネス・ベール・アーサーである。
派手すぎる深紅のマントと似合っていない赤と金色の王冠を被っている父を見るたびに微妙な気持ちになるシャトリーヌは、周りに揃っている面々の顔を見回して何があったのか大体想像を付けた。
この謁見の間には騎士団のお偉方から国の内政を司っている大臣達から伯爵以上の貴族家の当主まで、国の重鎮と呼んでいい人物がほとんど揃っていた。
そして、その中にいるはずの女性が見えないとなれば、確定と言って良いだろう。
「良く集まった、皆の者」
どことなく威厳に満ち溢れているような気がする父の声がその空間に広がった瞬間、シャトリーヌはここにいるだろう少女の姿を必死で探した。
しかし、数秒で見つかるはずが無いと諦めたのかその先に続く言葉を聞きたくないと言わんばかりにギュッと目をつぶって両手で耳を塞いだ。
「遥か昔からこの国に従えてきた最後の英雄……マーリンが、昨日息を引き取ったと報告があった。死因は……賢い其方らなら、分かるだろう?」
なぜか意味ありげに笑った父を見て、幼い少女はおぼろげながらも事の真相を理解した。
そして、その瞬間にマーリンと最後に交わした約束や、その真なる意味を悟ったのだ。
(マーリン様……そんな……そんな……)
今にも、泣き出してしまいそうだった。もう、あの英雄がこの世にいないなんて……そんなこと、信じたくなかった。
しかし、子供のように泣いている場合ではない事は分かる。だから、無理くり涙を瞳の奥へ引っ込めて、先程諦めてしまった少女の捜索を再開する。
シャトリーヌは国王の側室である女の娘だ。その為、この謁見の間で並んでいるのはかなり玉座に近い場所だ。
並んでいる順番は幼い少女には分からなかったが、恐らく血縁者を始めとした国にとって重要度の高い人物が玉座により近い位置に座れるのだろうことは少し考えれば分かった。
(エリン様は……血縁者ではあるけど、この国の現状を考えるに……)
普通に考えれば王族であり王位継承権を持つエリンが自分より後ろの位置にいるはずがない。
しかし、彼女はマーリンとの度重なる会話の中でこの国の腐敗についても十分理解していたし、エリンがその事に気付いているだろうことも薄々分かっていた。
実は、その勘の良さは彼女の特殊な力によるものなのだが、この時の彼女はその力を自覚していなかった。
だが、今回ばかりは自分の勘を信じて自分の遥か後ろへ視線を送る。
(背が高い人が多くて全然見えない……。けど……)
子供の背丈ではいくら背伸びをしても見える範囲は高が知れている。そんな事は十分承知だが、なんとか目を細めて、この場にいるはずの少女の姿を探す。
隣で父を真剣な眼差しで見つめている母に注意されるがそんなことはどうでも良いとばかりに聞く耳を持たず、顔を動かし続け……たっぷり1分程の時間をかけた後、見つけた。
「……」
やっとの思いで見つけたエリンは、マーリンが死亡したという事実に驚愕してはいても、それほど衝撃は受けていないように思えた。
一瞬なんでそんなに落ち着いていられるのかと怪訝そうに顔を歪めたシャトリーヌは、すぐに「マーリンが自分の正体を明かしていなかった」という真実に辿り着いた。
いや、ここで彼女が動揺していない理由なんて、それしか考えられないだろう。
「なんで……」
なんでマーリンは、自分の正体を話さなかったのか……。そうポツリと零そうとしたその瞬間、エリンの瞳にじんわりと涙が浮かぶ。
そして、数秒もしないうちに声も出さずにオロオロ泣き出してしまった。
衝撃が時間差でやって来たのか、それとも実はマーリンの正体に気付いていたのか。それともただ、自分が憧れていた人物の死に遅ればせながら悲しみの感情を抱いたのか……。
少なくともそのいずれかだろうが、大粒の涙を流して泣くその少女の姿を見て、シャトリーヌは自分の心臓をギュッと握り潰されたような感覚に襲われた。
(まも、らなきゃ……)
この時のシャトリーヌの心には、それだけしかなかった。
マーリンとの最後の約束もあるが、それ以上に、彼女の事をもう二度と悲しませたくなかった。
それは、マーリンに言わせれば淡い恋心……だろうが、少女のそれは恋なんてものではない。
言うなればそれは、臣下が王へ向ける類の親愛であり、尊敬であり、この国の者達が総じて失ってしまった“他者を思いやる気持ち”だった。
シャトリーヌは、無意識のうちに足を動かしてエリンの元へ歩いた。
隣で娘の横暴を目撃した女は、王の機嫌を損ねる前に急いで連れ戻そうとするが、その小さな右手を掴まれることを予期したのか、少女は女の姿を見もせずにフッと躱す。
そして、女がさらに手を伸ばしてくる前に歩く速度を速めてその少女の元へ急いだ。
「――!」
背後で未だ続いている昨日から考えていたのだろう薄っぺらい父の追悼の言葉の邪魔にならない程度の声量で名前を読んでくる母の事なんて、既に少女の意識からは抜け落ちていた。
肩で息をしつつも、母の声を受けて自分の動きを止めようと伸びてくる無数の手をヒラリとなんとか躱しつつ、たっぷり3分ほどの時間をかけてエリンの前へ辿り着いた。
「エリン様……」
しかし、少女に出来たのはそこまでだった。
瞳からボロボロ涙を流し、必死でそれを止めようと目元を拭う少女を前にして、まるで体が金縛りでも起こしたかのようにピッタリ動かなくなってしまったのだ。
まるで数日何も口にしていないような、口を開けて寝てしまった時のような感覚が口内に広がり、唇が瞬く間に渇いて喉の奥から言葉が捻りだせなくなる。
「まーりんさま……。いちどだけでも、おあいしたかった……。ぐすっ」
鼻を啜りながらその場で1人、本物の涙を流している少女になんて声をかけるべきなのか……。いや、そもそもなんで、自分の体はこんなにも動いてくれないのか……。まるで魔法でもかけられたかのように全身が硬直して、指の1本も動かせない。
だがしかし、目の前の少女はシャトリーヌに気付かずオイオイと小さな声で泣き続ける。
(……強く、ならないと。私が……私が、マーリン様の代わりに……守るんだ……)
意志の力だけで唐突に襲ってきた金縛りをどうにか解いたシャトリーヌは、グッと拳を握ると、自分に言い聞かせるようにポツリと呟いた。
「あなた様は……私が、守ります。必ず、守り抜いてみせます……」
それだけ言うと、シャトリーヌはその場から去った。
まだ国王の話が続いているとか、それに激怒した母親から数時間後に雷を落とされるだろう事なんて気にせず、その場を去った。
そして、まっすぐにマーリンの部屋へ向かうと勢いよく扉を開け、誰もいないその部屋を……いや、まだ微かに住人だった彼女の匂いが残っているその部屋の空気をいっぱいに吸い込み、ふぅと吐き出す。
「任せてください、マーリン様……。私が必ずや、エリン様を守って見せます」
少女はその日から、人の心を捨てた。
いや、それは正しくない。エリンとマーリン以外の人間を信用する事をやめたのだ。




