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27話 滅茶苦茶な存在

 ブリタニア王国の王都キャメロットは、初代の王であるアーサーとその臣下達の異常なこだわりによって作られた街並みそれ自体が一種の観光スポットとなっていた。

 凹凸の無い綺麗に塗装された石畳と赤や青など、様々な色の煉瓦が使われた立派な建物が立ち並び、人々は笑顔を浮かべてその街を行き来する。

 犯罪とは無縁の国として知られ、世界一幸福な国とも言われたその場所は、全ての苦しみから解放されたまさに理想郷とも言うべき場所だ。


 だがそれも、130年前に初代王の側近だった最後の1人が暗殺された事で完全に終わりを告げ、かつての理想郷の面影はすっかり失われてしまった。


 今や最低限整備されている石畳の上は所々に凹みができ、少し見渡せば大規模な地震でもあったのかと思わんばかりの地割れがあちこちに広がっている。

 周りの建物もかつては美しい色の煉瓦で作られていたのだが、今やそれらは無骨な石へと姿を変え、まるでロアの街にあった城壁のような面影がある。

 とても食事処や人の住居のそれには見えないほど荒んでおり、理想郷というよりは西部劇の舞台になりそうな街並みという言葉が最も似合う場所だ。


 その中で太陽光に照らされてその存在をアピールするキャメロット城が街の中心で眩いばかりに輝き、その周囲を囲むような白くのっぺりとした壁の内側に貴族達の住むエリアがある。

 彼らの住居や王城だけは何百年経ってもかつての栄光にしがみつくようにその姿を保っており、白い壁から一歩外に出ればそこは別世界のように荒んでいた。


 街行く人々の顔にも笑顔はなく、皆がどこか下を向いて絶望している風な表情を浮かべている。

 その実それは正しいのだが、誰も王族に対して文句は言えない。そんなことをすれば瞬く間に兵士達が駆け付け、家族全員が処刑されさらし首にされるからだ。


「街に活気が無いとは聞いてたけど、これほどとは思わなかった」

「たるに同意~。戦争にでも負けたのかってくらいお通夜だな~」


 ロアの街に比べてその半分も人のいない街道をキョロキョロと見回しながら、イシュタルとマッハがポツリと呟く。

 こんな荒んだ地では、あの素晴らしい城も嘆き悲しんでいるだろう。


 かつてのこの国の様子を知っているのは今やこの世界に何十人といないのだが、彼らは決まってこの国を見るとその顔を苦悶と嫌悪に塗れて王族たちへの殺意をその瞳に宿す。だが、何もできずに悔し涙を呑んでいるのが現状だった。

 彼らに出来る事なんて、アーサーの側近が居なくなってしまった時点でなくなってしまったのだから。


「……キャメロット……」


 誰に言うでもなく、豪勢な城を見上げながらヒナは呟いた。

 かつて自分をギルドに勧誘しに来たアーサーと名乗る少年は言っていた。自分達のギルドはそれはもう素晴らしく、中に入ればきっとあなたも気に入るだろうと。

 そこで自分達と共にゲームを楽しくプレイしてほしい。何度もそう言われた記憶が昨日のことのように脳裏へ蘇る。


 こうして近くで見て……いや、数日前にその城を初めて目にした時から確信していた。だがしかし、改めて見てみると、本当に不思議な事ばかりだ。

 なんでこの世界に自分以外のプレイヤーが転移してきた形跡があるのか。

 なぜ、転移してきたプレイヤーはそのギルドごと転移してきているのか……。


 様々な謎が彼女の小さな脳みそを埋め尽くさんと迫る中、服の裾をピッと摘ままれた事で、ヒナは深い思考の中から這い上がる。


「ヒナねぇ……?」

「……ん? あ、ごめんねけるちゃん。どうしたの?」

「ん、まずは冒険者ギルドに顔を出さないかと聞いた。依頼があるかどうかはともかく、宿を探す必要がある」


 そう、このブリタニアに来るにあたり、ヒナ達は事前にこの国の宿に泊まってみようという話をしていた。

 それは「何日滞在するかは分からないが、いちいち本部に戻ってまたここへ帰ってきてを繰り返すのは面倒」というマッハの言葉から始まった。

 ついでにブリタニアの食事が美味しいかどうか、この世界のベッドの寝心地はどうなのか。その全てを確かめられるしちょうど良いだろうという事で、すぐに全員が納得した。


 問題は宿選びだが、それはギルドの職員に丸投げすればなんとかしてくれるだろうというケルヌンノスの発言に、ヒナ以外の全員が首を縦に振った。

 ダイヤモンドランクの冒険者でお金に余裕はあるのだからそれなりの宿は紹介してもらえるだろうし、ムラサキの名前を出せば大抵の無茶は通るだろうという思惑があるのがその考えを後押ししていた。


 依頼があるかないかはこの際関係なく、とりあえずギルドに顔を出して宿を探すという彼女の提案には、ヒナも賛成だった。


「そうだね。とりあえずギルドの場所知ってそうな人に聞いてみようか」

「お~! じゃあ私が聞いてくる~!」


 マッハはそう言うと辺りをキョロキョロ見回し、後方でローブを目深にかぶったいかにも怪しい風貌の女めがけて駆け出していく。

 その腰に刀が吊るされていなければ微笑ましい光景に見えるのだが、彼女がそれをやると強敵を探す獣にしか見えないから不思議だ。

 そんな獰猛な獣に迫られてもっとも動揺したのは、そのローブの女だった。


(は!? 私、気配遮断してるんですけど!?)


 女の名はマーサ。グランドマスターこと、冒険者ギルドの創設者であるムラサキに、ヒナ達4人が面倒ごとを起こさぬように秘密裏に監視しろと命を受けた者だった。

 そんな彼女はその任務内容故に気配を遮断し周囲の視界から完全に消える魔法を王都に入った直後から使用していた。

 だがしかし、マッハはそんな事知らぬとばかりに満面の笑みを浮かべて自分に迫ってくるではないか。


 逃げようにもここで逃げるのはあまりに不自然だとなんとか思い留まった彼女は、太陽のように眩しい笑みを浮かべて「ねぇねぇ!」と尋ねてくるマッハに苦笑を漏らした。

 こうして近くで見ると可愛らしい年相応の子供にしか見えないが、その実ムラサキを遥かに凌ぐ化け物だと言われるとにわかに信じられない。

 だが、ここで考えるべきはそんな事ではない。いかに自分が、ギルドの人間だとバレないように立ち回るかだ。


「ん~? どうしたのおじょ……可愛いお嬢さん」

「あのなぁ~? 私らこの街の冒険者ギルドに行きたいんだけどさ、お姉さん、道知ってる?」


 ヒナ達を指さしながらそう言うマッハに、一瞬本当の事を話して良い物かどうか迷う。

 もし彼女が、自分の存在をブリタニアに入る前から視認していたのだとすれば、ここで「知っている」と答えると不自然だろうかと。

 しかし、変に嘘をついて相手にバレた方が面倒だとすぐさま結論付けてニコッと微笑む。


「えぇ、知ってるわよ。この道をもう少し進むと大きな噴水がある広場があるのね? そこで十字路を右に曲がった先に、貴族街があるんだけど、そのすぐ目の前に冒険者ギルドがあるの」


 膝を曲げてマッハと視線を合わせながら道の先を指さすと、彼女は「ありがとう」と満面の笑みを浮かべて可愛らしくお辞儀をする。その姿はまるで教育の行き届いた子供そのもので、思わず頬が緩みそうになる。

 だがそこで、マーサは重要な事を伝えねばとヒナ達の元へ戻ろうとした彼女を呼び止める。


「あ、ごめんね? 大丈夫だとは思うけど、あの白い壁あるでしょ? あれは、貴族街や王城と、平民の私達が暮らすエリアを分断してるものなんだけど、あれより向こうに行っちゃダメだよ?」

「ん~? なんで? 私ら、あの城もっと近くで見たいんだけど」


 首を傾げながら場違いなほど眩く輝く王城を指さし、マッハは言った。


 確かにここからでは、その巨大な城の一部分しか見て取れず、その城の下の方は壁に阻まれて視認すらできない。

 初めてこの国に来たのならその好奇心も共感に値するのだが、それだけは絶対に叶わない。たとえ彼女達が、最高ランクの冒険者だとしてもだ。


「えっとね? この国じゃ、貴族の人達は、私達よりとっても偉いの。だから、そんな人達が住んでる場所に行くには、特別な許可が必要なの。許可も無しにあの壁の向こうに入っちゃうと、生きて出てこられないかもしれないのね? だから、行っちゃダメだよ?」

「へぇ~……。ん、分かった!」

「うん、お姉さんとの約束ね? それと……あれは、あなたの姉妹?」


 ヒナ達を指さし、マーサはこの場で初めて会う一般人なら当然するだろう質問をする。

 あまり顔を合わせてその記憶に残るのは避けたいが、ここで質問しないのも不自然で彼女の記憶に残る可能性がある。なら、ここではただの通りすがりの冒険者……もしくは魔法使いという認識であった方が良いと即座に判断する。


「そうだぞ? それがどうかした?」

「やっぱりそっか~。みんな可愛らしいから、お姉さんビックリしちゃったってだけよ。特にあの、一番背の高い子、あなたのお姉さんかな……? あの子、すっごく可愛いわね」

「だろ~? ヒナねぇは私達の自慢なんだ~! お姉さん、見る目あるな!」

「あら、ありがと。あなたはお姉さんの事、大好きなんだね」


 彼女は、ムラサキに「もしも接触してしまう事があれば彼女達を褒めとけ」と言われていた。

 その理由は分からなかったが、なにがあろうと彼女達の気分を害するな、彼女達に物理的に触れるな、彼女達を否定するなという3項目は守れと口酸っぱく言われていた。なので、マーサはそう言っておく。

 6割ほどは本心だが、その効果は目の前の可愛らしい少女が眩しいほどの笑顔で、それでいて上機嫌で彼女達の元に帰っただけだったが……


(分かりやすいな……)


 何事かを嬉しそうに話して教えた通りの道を歩き出す4人は、生涯孤独の身のマーサには眩しすぎる。

 なんでこんな仕事をしているのかと後ろ向きな考えが心の中をじんわり侵食しはじめるが、その考えが頭を支配する前に頭を振ってその雑念を追い払う。

 改めて気配を遮断する魔法を発動させて周りから自分の姿を認識されないようにしつつ、今度は話しかけられる事が無いように民家の屋根へと飛び乗る。


 一方で、マーサからヒナを褒められて上機嫌になったマッハは、一行の先頭を胸を張って歩きながら鼻歌を歌いだす。

 もちろんその話は3人の元に帰った瞬間したのだが、ケルヌンノスもイシュタルもヒナが可愛いという事にはコクコクと頷き、さっき話した女の人は見る目があると同じ結論を出していた。

 唯一ヒナだけは顔を真っ赤にして俯いていたけれど、そんなのは些細な問題だった。


「あの人が男だったら許せないけど、女の人だったなら見る目ある」

「女の人だったぞ~? 私らも含めて皆可愛いけど、ヒナねぇは特別ってさ~」

「そう……。ヒナねぇに作られた私達も可愛いと言ったのはポイント高い。ワラベより見る目がある」

「もう良いってばぁ……」


 頬を染めながら声にならない叫び声を上げるヒナを微笑ましそうに見つめつつ、彼女達はその『見る目のある女』の話に花を咲かせる。

 薄緑色の濁った水を天に打ち上げる噴水と、闘技場のステージほどの広さのある広場には目もくれず、3人はもっとその人と話したいと口々に話す。


 彼女達は初対面で可愛いだの好きだの言ってくる『男』に対しては非常に厳しい態度を取るが、それが同性であった場合に限って満面の笑みに変わる。

 もちろん相手が男でもそれが初対面ではなく、なおかつ下心の無い本心からの言葉であれば満面の笑みを浮かべてそうだろうと胸を張る。かつてのアーサーがそうだったように……。


 だが、この世界には未だそこまでストレートに言ってくる人はいなかった。

 ワラベは彼女達の名前が美しいと言ったのでその評価を劇的に上げたのだが、やはり名前よりも容姿を褒められた方が嬉しいのは事実だった。

 名前も容姿も性格も、全てがヒナに与えられたものだが、顔を褒められるのはやはり女の子だからなのか、他のなにより嬉しかった。


「私も話したかった……。その人、今はどこら辺にいるとか、マッハねえのスキルなら分かる?」

「ん~? 分かるけど……なんでか、屋根の上にいるんだよな。誰か尾行でもしてるんじゃないか?」


 その尾行の対象が自分達だとは露ほども思わず、マッハは何気ない調子で後方30メートルの民家の屋根を指さす。

 目を凝らさなければ分からないが、そこには確かに黒いローブを頭から被っているいかにも怪しい女の姿があった。彼女はそれでも気配遮断の魔法を使っているのだが、実力差がありすぎるせいでそれはヒナ達4人には全く効果を発揮していなかった。


「ふーん。なら、職務を邪魔するのは良くない。見る目のある人なんだから、その仕事は邪魔するべきじゃない」

「けるに賛成~。せっかくああ言ってくれたんだしそっとしとこう~」

「……ん、今回は仕方ない」


 残念そうにコクリと頷いたイシュタルは、もう一度その女を視界に捉えると、可愛らしくフリフリと手を振る。

 その時、監視対象に自分の姿がバレてると知ったマーサの動揺は計り知れないものだったが、そんな事知る由もない彼女達は無邪気な笑顔を浮かべながら談笑を再開した。


 どうなってるんだと叫びたくなる気持ちをなんとか抑えつつ、ムラサキに「早速気付かれたがどうすれば良いか」と手紙を飛ばすために一度その場を離れることにした。


 マーサが彼女達の監視を一時的に中断した数分後、4人はマーサの言う通りに進んで無事に冒険者ギルドブリタニア支部へと辿り着いた。

 そこはロアの街のそれとはまったく違い、無数の丸太から作られた立派な小屋のような外観をしており、2階建ての建物だった。

 どこかで見た事のあるような外観とデザインに全員が驚愕してポカーンと口を開ける。


「……私らの家じゃん」

「そっくり……。というより、まんま……」

「けるねぇに同意……。ヒナねぇがこだわった細かい所までは流石に違うけど、外観は完全に家……」

「こ、こんなことある……?」


 そう、冒険者ギルドブリタニア支部の外観は、ヒナ達のギルド『ユグドラシル』の本部とまったくと言っていいほど同じだった。

 ヒナの細部への異常なこだわりを知っている彼女達が見れば別物だと分かるが、そんなことを知らない赤の他人が見れば見分けなんてつかないだろう。


 周りが石やコンクリートのような物で作られている無骨な建物が並ぶ中、なぜかこの場所だけ自然の温かみを感じる設計になっていることにとてつもない違和感が湧いてくる。

 まるで、女性専用車両に男が1人だけ入っているかのような圧倒的なまでの異物感と存在感を放っている。


「と、とりあえず……入るか?」

「……は、入ろっか……」


 恐る恐るといった感じで尋ねてくるマッハに苦笑しながら答えたヒナは、代表してかその扉をおっかなびっくり引いてみる。すると、ギギギっと耳障りな音を奏でながらゆっくりと扉が開かれた。

 その内装は流石に彼女達のよく知る物とはかけ離れており、ロアの街にある冒険者ギルドの2階となんら変わらない光景が広がっていた。その事にホッと胸をなでおろした彼女は、どこか残念そうに「え~……」と呟くマッハの頭を優しく撫でた。


「それはそう。冒険者ギルドなんだから、内部まで家に酷似してる訳が無い。それに、そもそもなんで外観が家と酷似してるのか意味不明」

「……同意。たまたま似てるとかそんな次元じゃない。明らかに意図的」


 人が群がっている掲示板や受付をボーっと見つつそう言う2人は、ここからどうしようかとヒナを見る。


 彼女達は今、ギルドから貸し出される文字を翻訳してくれる魔道具を所持していない。それに、どうせ掲示板に貼られている依頼を受ける訳では無く、この場所には宿を紹介してもらいたくて来たのだ。

 ヒナもそれは十分よく分かっているので、マッハに受付の人に冒険者カードを見せてワラベのようなギルドマスターに取り次いで貰うようお願いする。


「ん! ちょっと待ってて~」


 分かりやすく凹んでいた彼女は仕事を任されたのが嬉しかったのかニコッと笑って横断歩道を渡る時のようにピッと右手を上げてちょこちょこと受付に歩き出す。

 彼女はちょうど1人の冒険者の受付を終わらせて休憩に入ろうとしていた女性に話しかけると、ポーチの中から冒険者カードを取り出し、言った。


「ギルドマスターの人と話したいんだけどさ、いる?」


 ダイヤモンドランクの冒険者がそんなことを言っても「何を言ってるんだ」と突っぱねられるのが常――ギルドマスターはそこまで暇では無いから――なのだが、彼女は今日の朝礼で言われたことをハッと思い出す。

 自分達のギルドマスターがどこか疲れたように肩を落とし「近々ダイヤモンドランクの冒険者が、僕に面会を求めてくるかもしれないから、その時は取り次いでくれ」と。


 その時は意味が分からなかったが、とりあえず目の前の少女に少々待っているよう告げると、受付の奥にあるギルドマスターの私室の扉をノックする。


「ペイル様。面会を求めるダイヤモンドランクの冒険者様がいらっしゃっております」


 扉の前でそう告げると、中から動揺したような「は?」という呟きが漏れてくる。

 すぐさま顔を出したペイルと呼ばれた男は、目の前の受付嬢を見るとその冒険者の見た目を聞き出す。そして――


「連絡より滅茶苦茶早いじゃん……。早くて明日だと思ってたんだけど……」


 がっくりと肩を落としたその人物は、20代前半ほどの若い男だった。

 髪は絹のように白く寝癖のように所々がピンと刎ねているのが印象的だ。

 それに加え、右目には『愛情』と書かれた眼帯を付け、首や手首などの関節部分にピンク色のチョーカーを付けている。両耳にはお札のように長いピアスを付けており、左の桃色の瞳は目の前の部下を信じられないと言いたげに見つめている。

 彼が、この冒険者ギルド、ブリタニア王国支部のギルドマスターであるペイルだ。


「あ~、良いよ。応接室に通してくれ」

「かしこまりました」


 恭しく頭を下げて受付まで戻ろうとする部下の後姿を見て「あっ」と思い出したかのように声を上げる。

 ペイルのその声に、受付に立っていた女は思わず足を止めて声の主を振り返る。


「どらやきってあったっけ?」

「ど、どらやきでございますか……? 確か、まだ2人分ほどはあったかと思います」

「2人分……。ならさ、誰かに頼んでどらやきと緑茶を買ってきてもらえない? お金はこっちで持つから、とにかく超特急で」

「は? あっ、いえ。では、そのように手配してきます」


 そう言って受付へ戻っていった部下の姿を見てホッと一息つくと、ペイルは自室へ消える。

 本部かガルヴァン王国支部のギルドマスターであるワラベに苦情の1つでも書いてやろうかと本気で考えるが、彼女達も別に悪気があってのことではないだろう。それ程までに、ヒナ達4人は滅茶苦茶な存在だから気を付けろと忠告してくれていたのだから。


「あ~あ、僕、やっぱりこの仕事向いてないや……。気が重い……」


 肩を落とした彼は、今行っていた仕事を一旦中断してから改めて部屋を出た。

 そして、なるべく急いで応接室へ向かい一応ノックして扉を開けると、そこには先程の部下に通されたのか4人の少女の姿があった。

 内心で「あ゛~!」と叫び声をあげつつ、ぺこりと頭を下げる。


「どうも、この王国にあるギルドのギルドマスターを務めてるペイルです。よろしく」


 頭を上げた時、4人がヤバい奴を見る目を向けてきて、彼の心はへし折れそうになったのだが、それはまた別の話だ。

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