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202話 圧倒的強者の余裕

 カフカがケルヌンノスへの説明をなんとか乗り切ってふぅと一息ついたその時、ちょうどマッハが展開していた索敵スキルに反応があった。

 しかし、彼女は敵の動向を数秒観察して「ん?」とすぐに疑問の声を上げた。


「どうしたの? なにかあった、マッハねぇ?」

「いや、索敵スキルに引っ掛かったんだよ。でもさ、その動きが全員おかしくてさぁ」

「おかしい? それはどういう意味だい?」


 ケルヌンノスも疑問に思った事を、そのままカフカも口にした。

 彼女が仮にシャドウを始めとした男連中であれば「私らにそんな口を利くな」と意味の分からない部分で切れられるだろうが、今はどうでも良い。


 マッハはその問いにはしばらく答えず、再びうーん?と勝手に悩んで首をかしげる。

 それが無視しているというよりは自分なりに一度考えて答えを出したい故の行為だという事をケルヌンノスは分かっているので特に何も言わない。

 しかし、質問を投げた本人は純粋に無視されたと思い込んで若干肩を落とす。彼女達の視界には、相変わらず入れていないのかと勝手に残念がってしまう。


「なぁカフカ~。この先ってなんかあるのか? 例えばめっちゃでっかいスーパーとか」

「す、スーパー……? うーん、この国にそんな物は無いよ。強いて言えばシュバリエっていう銭ゲバ魔人が作った宝石店はあるけど、ここにあるのは基本料理店か娯楽施設なんだ。その他には、さっきみた食料やらなにやらを製造する用の全自動の工場くらいだよ」

「マッハねぇ、なんでそんなこと聞くの?」

「ん~、いや、この先にある気配が全部なにかを探してるみたいな動きをしてるんだよな。私のスキルじゃ相手のぼんやりとした輪郭と大体の動きしか捉えられないんだ。だから、周りになにかあったりする場合はその何かまでは分からない」

「索敵スキルってのはそういう物だからね……」


 苦笑しながらそう言ったカフカは、この先でディアボロスの連中が何をやっているのか一度冷静に考えてみる。


 この国は現実の世界にあっても違和感が無いようにかなり精巧に作られ、建物の配置やその用途なんかにもかなりこだわって作っている。

 その中でスーパーだったり家電量販店のようなものが無いのはなぜかと言われると、ラグナロクというゲームのシステム的に、この街並みに相応しいクオリティのそれらをどうしても作る事が出来なかったからだ。

 外見だけなら金と知識がどちらも揃っているのでどうとでもなる。しかし、中に配置する家具だったり商品が無かった。


 防具なんかをそれっぽい形になんとか加工して置いてみてはどうかという案も出たのだが、そんなことをしても虚しいだけだし、それなら武器屋を置いた方が良いだろというスカーレットの正論パンチで却下された。

 まぁ、現実の世界に武器屋なんて物騒な物は無いのでそれも却下されたのだが……。


(彼らが欲しがりそうな物……? なにかあったか?)


「ねぇ、そいつらは確実に何かを探している感じだっていうのは間違いないのかい?」

「ん~? うん、多分な。なにか見つけたっぽい動きをした後は全員1人に報告しに行って、その先の広場みたいなとこに行った後、また探しに戻るってのを繰り返してるみたいだぞ?」

「その1人がリーダーというか、現場指揮官と見て間違いないだろうね。この場合その役目に相応しいのは……」


 ミセリアしかいないだろう。

 カフカは途中で合流したのでディアボロス襲撃の流れを全て綺麗に把握している訳では無いのだが、いくらスカーレットの種族固有スキルが滅茶苦茶な強化をこの世界で受けていると言っても、あの不死性を突破できたとは思えない。

 ならば、ミセリアを殺したと言っていたのはブラフ。そう考えて良いだろう。


 あの時は自分の表情や態度からそれを悟られるのを避けるためにシャドウに確認を取らなかったが、人殺し集団である彼らが文句も言わず大人しく従うそのプレイヤー。それは、幹部クラスの者しか考えられない。

 あの場にいなかった幹部はミセリアだけだ。レベリオに関しては人の上に立つようなタイプじゃ無いので除外して良い。


「一応確認するんだけど、君達はディアボロスの人達についてどの程度知ってるんだい?」

「存在だけは確認してる程度。ヒナねぇは知らないけど、私達が知ってるのは幹部って呼ばれてる特に強い何人かのランキングと好んでる戦い方くらい。対策会議でよく名前が挙がってたから」

「マッハちゃんも?」

「うん。ていうか、私達姉妹にラグナロクでの知識を求めるなら多分間違ってるぞ? ヒナねぇがブツブツ独り言呟いてた内容とそのメモの一端くらいしか知らないもん」


 ヒナはラグナロクの情報であれば知らない事の方が少ない。それこそ公式の人間よりもゲームのシステムに対する理解度は高いだろうし、スキルや魔法に関する事ならば全ての質問に即答できるレベルだ。

 装備の効果などに関しては数秒の思考時間を要する物の、ラグナロクに存在しているそれらを全て――イベント報酬等は除く――を所有しているので分からないなんてことは無い。


 それに、仮にイベント限定の物で自分が所持していない魔法やスキル、装備なんかがあったとしても各種SNSの力を駆使して情報を収集していたので知らないなんて事は無い。

 誰がどの装備や魔法を所有していて、その効果は何なのか。その対抗策まで完璧に記憶している人間など、それこそ運営にもいないだろう。


 マッハを始めとした3人の姉妹は、ヒナがメモ代わりに色々かき込んでいたチャットの内容は完璧に把握しているし、自分達が所有している魔法だったりスキル、一度使用したことのある装備なんかの情報は全て頭に入っている。

 だがしかし、それはヒナのそれほど完璧では無いし、プレイヤーの情報になると途端に自信が無くなる。


「ヒナねぇに向かってくるバカな奴って極端に少なかったし、仮にそんな奴がいたとしても、ヒナねぇを倒そうとするなら確実に探りを入れてこないといけないだろ? そんな輩の視線に、極度の人見知りのヒナねぇが気付かないはずが無い。そしたら、ストーカーってレベルで相手の情報を調べて返り討ちにするべく何度も作戦会議をしてたから、一度でも狙おうとしてた人の情報なら……って感じなんだよな」

「ちなみにwonderlandなら、アリスってギルマスと前にヒナねぇのログイン時間調べてた……名前は忘れたけど、その人」

「バレてたんかい」


 確かに一時期、アリスはヒナを無理やりギルドに入れる為に大勢でボコボコにして屈服させようとかいう滅茶苦茶な方法を取ろうとしていた。

 カフカの言でそれは無くなった訳だが、当人は本気だったので下調べも完璧に終わらせていた。


「もちろん。まぁ結局イベントでしかぶつからなかったから、ヒナねぇもホッとしてた。流石に私ら込みでも全員でかかって来られたら無理ゲーだって言ってたし」

「半壊くらいにはできそうだけどね……」


 カフカが苦笑気味にそう言うと、二人はぽかんと目を丸くして同時に言った。


『そんなの当たり前じゃん』

「……は?」


 あまりに当然の事のように言うので、カフカは当時の戦力を頭に思い浮かべてみた。


 まず、当たり前だがアリスとカフカ。それに、当時はギルドを結成して間もなかったとはいえ当時はランキング一桁だったスカーレットとシャドウ。そして、レガシーがいたかどうかは自信が無いが、彼女もかなり古参なので居たと仮定しても良いだろう。

 他に有力メンバーと言えば、ランキング二桁に名を連ねていた者達が数十人。三桁になると100人ちょっとは居たのではないだろうか。


 それを、強力なNPC2体――当時イシュタルは居なかった――とヒナだけで半壊滅状態に出来る? それも、当時は広範囲高火力の魔法なんてものはそこまで多く実装されていなかったはずだ。

 ソロモンの魔導書はあっただろうが、それでもそれだけの猛者を相手にしながら……?


「雑魚をどんだけ当てようとも、圧倒的な強者には意味無いだろ? 多分、ほとんどの奴らはヒナねぇとけるだけで一撃だったと思うぞ? 私は剣士だから当時の魔法使いと違って一対多でも全然いけたし」

「一応、ランキング三桁に乗ってることが当時の加入条件だったんだけどね……」

「雑魚だろ、そんなの。なぁ?」

「ん、同意。一桁じゃない人達は何人群がってようと同じ。ヒナねぇはそう言ってた」

「…………あっそ」


 ヒナは聖人でもなんでもない。

 もちろん他人の目がある場では無用に怒りを買ったり批判を受けるような事は言わない。だが、それはギルド内で誰にも見られないチャットだと話は違う。


………………

…………

……


『ランキング一桁の人達は警戒しなきゃだよね。油断しちゃダメなのはやっぱり剣士の人だけど、魔法使いも大概火力おかしい人ばっかりだからなぁ……。時間があれば戦闘シュミュレーションAIとか、その手のソフト見つけてくるんだけどなぁ……』

『時間無いの?』

『雑なサイトのやつ使っても意味ないもん。それに、あんまり下手なコンピュータばっかりボコボコにしてても変な癖が付いちゃうしなぁって。二桁にいる人と一桁を維持できる人の違いって、基本的に課金額とゲームに対する理解度だから、課金額に関しては問題ないけど、理解度が高い相手は面倒な事が多いんだよ。だから、気になる事があったら徹底的に検証する今のスタイルを崩した時点で、多分速攻引きずり落とされる気がするの』

『絶対そんなことない。ヒナねぇは心配性すぎるだけ。火力が頭一つ抜けてるのはもちろん、ゲームの理解度だって他の誰よりも高いし、卓越してる。戦闘になった時の冷静沈着な頭の使い方はもちろん、行動に移す判断力の速さと正確さは人間の域を超えてるレベル』

『絶対持ち上げすぎだけどね、それは』


………………

…………

……


 こんな会話が、ギルド『ユグドラシル』の日常だった。

 殺伐としていて、物騒極まりない会話が常日頃から繰り広げられていたのだ。

 それもあってマッハ達3人の戦闘スキルやゲーム理解度が飛躍的に上昇したというのも、少なからずある。


「ともかくそんな訳だから、私達はディアボロス云々についてはあんまり知らない。ヒナねぇは分かんないけど」

「ん、分かった。じゃあ、軽く作戦を立てようか。私はマッハちゃんの性能はある程度理解しているつもりだけど、ケルヌンノスちゃんについてはあんまり詳しくないの。連携を取るためにも、そこら辺詳しく教えてくれない?」


 その問いに数秒間考えたケルヌンノスだったが、ヒナがカフカと自分達を共に行動させるのを許した時点で、カフカは信用に値する人物という事だ。

 それに、仮に彼女が反旗を翻したとしてもマッハがいれば不意打ちを喰らう事は絶対に無いのでどうとでも対処可能だ。


「良いよ。なら、あなたの性能も教えて」

「性能って……。まぁ良いけど」


 変な所でAIっぽいんだな、なんて失礼な事を考えつつも、カフカは信用を得る為自分の性能から話し始めた。

 どんなスキルや魔法が使えて、どんな戦い方が得意で……と言うような事から、弱点や苦手としていることまで包み隠さず全てを話した。


「前衛職が苦手なのは私も同じ。だから、そこはマッハねぇに丸投げして良い。問題は、私の死霊系魔法が卵の殻を割れるかどうか」

「た、卵……?」

「あいつらの不死性の源。ゆで卵の殻」

「ごめん、全然分からん」

「……説明する」


 めんどくさそうにしながらも時間停止の説明をしてくれるケルヌンノスを微笑ましそうに見つめつつ、その口から語られる事実に、カフカは驚愕する他無かった。

 時間停止の種についてもそうだが、数回見ただけだろうにその真実に辿り着いてしまう彼女達の聡明さが、何よりも恐ろしかった。


「私が無理だったらあなたの魔法に頼る事になる。それでもダメなら、とりあえず一回退く」

「はい、分かったよ。ヒナちゃんも退いていいって言ってたしね」

「言ってた。マッハねぇ、それで良い?」

「ん、良いぞー。私は雑魚の足止めだよな。今回は仕方ない~」

「ごめん。その代わり、行けそうだったら色々実験してみるつもりだから許して」


 死霊魔法の中にだって物理ダメージで攻撃をするものはある。

 その結果によっては、マッハにも雑魚狩り以外の役目が回ってくるかもしれない。


「じゃ、行くか~」

「早く終わらせて褒めてもらう。もうかなり時間を食ってる」

「分かってるー! 巻きでな!」


 そんな暢気とも取れる会話を交わす2人の神を見つめつつ、カフカはぼんやり思う。


(こんな脳筋連中と戦いたくないわぁ……)


 ラグナロクがサービス終了に向かって行くにつれてどんどんインフレしてもなお、ヒナは研鑽を怠らなかった。

 恐らく、全盛期のwonderland全員が揃っても、今のヒナ達4人を相手に完勝する事は出来ないだろう。むしろ、勝敗それ自体が五分くらいにはなっているはずだ。


(嫌だいやだ……。あのバカはこんな化け物とタイマン張って良いとこまで行ったのか……。どうなってるんだ、ほんと……)


 そんな彼女の悲痛な本音は誰に聞かれるでもなく彼女の心の内に消えて行った。

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