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19話 急変

 ダンジョンから戻った翌日、装備品を置いて帝都のギルドへとやって来たヒナ達は、いつも通りワラベに応接室へと通された。

 この頃になると流石の冒険者達もヒナ達が何者なのかと興味が出てきたのか、姿を見せるたびにギルドマスターと応接室に消えていくので実は大物なんじゃないかと噂が立っていた。

 実際その通りではあるのだが、彼女達がギルドに初めて顔を見せた時に起きたちょっとした騒ぎを知っている面々は、誰一人として彼女達に話しかけようとしない。そのせいで、噂に尾ひれ……どころか大きな翼が生えてあることないこと風潮されかけているのだが、それはまた別の話だ。


「随分早い帰りじゃったな。ブリタニア支部からお主らに馬車を貸し出したという報告は受けておらんのじゃが……」


 ムラサキからの土産であるどらやきと緑茶をギルドの受付嬢に用意させつつどっかりとソファに腰を下ろしたワラベは、あからさまに上機嫌の4人を見る。

 今までどこか不機嫌だったその表情には陰りというか陰湿な怒りが消え、むしろストレスが消えてスッキリしたといった具合だ。


 高ランクの冒険者が失敗し、ギルドの切り札とも言われるムラサキに回ってきた案件がそう簡単なはずはない。

 ヒナ達の実力はその一端しか見ていないまでも十分承知しているつもりになっていたワラベも、流石に今回は数日彼女達の顔を見なくて済むだろうと安心していた。

 だがしかし、送り出した翌日には依頼完了の報告に来たと知らされて文字通り叫びだしたほどだ。


「飛んできたから、そりゃ早いに決まってる」

「とっ!? な、なんじゃと……?」

「……なんでもない。それより、報告」


 イシュタルが淡々と洞窟について話す間、ワラベは彼女達に悟られないよう……それでいて最低限の数どらやきを頬張ると、ヒナが遠慮した緑茶を遠慮なく自分の元に引き寄せる。

 その小さなお猪口に入れられた緑茶でどらやきの甘みをグッと喉の奥に押しやると、一度わざとらしくコホンと咳払いする。


「すると……なんじゃ。ムラサキでも、あのダンジョンに入るのは止めといたほうが良いと? お主らは、そう言うのじゃな?」

「うん、絶対無理。あの人じゃ、入って数分で死ぬ」

「だろ~な~。というか、前に調査に行ったって冒険者も、多分死んでるぞ? 洞窟じゃモンスターしか見なかったし」


 腕を組みながらどらやきを美味しそうに頬張るマッハは、隣のヒナを見つめるとその口にポイっと1つ放り込む。

 この間は苦手だからと食べていなかったけれど、私達姉妹は全員好きな味なんだから味わってほしい。そんなちょっとしたいたずらごころからだった。


「も~! はへもの(たべもの)へあほんひゃ(であそんじゃ)ひゃめひゃっへ(だめだって)

「え~? 良いじゃん、ほらほら、感想は?」

「ん~、私はやっぱり甘いものは苦手~」


 苦笑するヒナに「そっか~」と残念そうに頷くと、ワラベに断ってから皿ごとその膝に置き、まるで映画鑑賞している時に食べるポップコーンのようにボリボリと頬張っていく。

 今日は後ろで棒立ちしているケルヌンノスもそれだけは看過できなかったのか、イシュタルと共にマッハの持つ皿からどらやきを奪い取ろうと身を乗り出す。

 その世界一不毛で微笑ましい奪い合いが終結するのに要した時間は5分。その間一切報告は出来なかったが、ワラベにとってはムラサキでも死ぬと言われたことに対する動揺を鎮めるために、唐突に訪れたわずかな休憩時間はありがたかった。


 これがムラサキの実力を知らないダイヤモンドランクの冒険者に言われた事ならば一笑に伏す所だが、ヒナ達はムラサキの実力を知っているどころか、それを軽く凌駕する。

 特にマッハやヒナは、その実力の一端だけでもムラサキに『勝てる気がしない』と言わせるだけの実力者だ。そんな者達の言を信用しないほど、ワラベは頭でっかちではない。

 むしろ元冒険者という実績故に、自分より実力のある者からの進言は出来る限り耳を傾ける。それは、どんなに素性が怪しく、どんなに見た目が幼い者達だろうが変わらない。


「分かった、その件は伝えておこう。時に……そのダンジョンに、下の階層はありそうじゃったか?」

「……多分ある。早く帰りたかったから確認してないけど、多分……いや、恐らく……いや、絶対に、ある」

「どっちなんじゃ……」


 顔を覆いながらやれやれと呟くワラベは、その後もイシュタルに詳しい話を聞くが、彼女はギルドが本当に欲している情報は綺麗に持ち帰っていなかった。

 それどころか、自分自身の感覚でその全てを説明するので、ギルド本部に報告する身としては頭が痛くなる。


 イシュタルとしても別に悪気がある訳では無いし、それにちょくちょく補足を入れるマッハが余計に話を余計にややこしくするのも、別に悪気はない。

 それどころか、ワラベは自分達の名前を褒めてくれたのでかなり気に入っている。そんな人に出来るだけ苦労はさせまいとあーだーこーだ説明しているのだが、それが全て裏目となって余計にワラベの頭を混乱させていた。

 特にブラックベアという未知のモンスターの情報。その見た目についてもそうだが、肝心の強さの説明が「お前じゃ勝てん」か「ムラサキでもキツイ」のどちらかであればもうお手上げだ。


(こやつら……魔族だからとか亜人だからとか思っておったが、まさか実年齢そのままの見た目じゃないだろうな……?)


 魔族や亜人は、その寿命故に見た目と実際の年齢が嚙み合わない事が多々ある。

 たとえば、見た目では20前後にしか見えないエルフが実は300歳を過ぎた大人だという事はよくあるし、妙に老けているドワーフが実は40を過ぎたばかりでこの先500年近く生きるなんて事も良くある。

 その為、見た目だけでドワーフやエルフ、鬼などの亜人の年齢を区別するのはあまり褒められたことでは無いのだが……。


「とにかく~、ブラックベアはあのムカつく狐じゃ無理、絶対倒せないって~」

「……ブルーミノタウロスなら瞬殺される。それくらい、強い」

「同意。何もできずにあの世行き」


 ここ1時間ほど、ずっとこんな調子だった。

 その見た目の特徴すらなんとか理解できるレベルで簡単な図解を書くのに20分も要したが、なんとか書くことは出来た。

 だがしかし、報告書にどう纏めるべきなのかが分からない。


 新たに発見されたダンジョンに誰も近付かないようにすること自体は簡単だ。ギルドから接近禁止命令を出し、それでもなお近付くならその命の責任は取らぬと言えばいい。

 しかし、危険なモンスターが出るのであれば話は別だ。近くの村には多くないまでも市民が暮らしているし、早急にどうにかしなければならない問題であるのは事実だ。


(ここはムラサキに任せ……いや、しかしブリタニアの連中にもどうにもならんじゃろ、これは……。軍を導入するにしても下の階層まであるのならどうすることも出来ん……)


 下の階層にはさらに強力なモンスターが出る可能性もあるし、そもそも何十階層と地下深く続いている可能性だってある。

 ダンジョンからモンスターが出現する事はあまりないが、それが未知のモンスターともなると絶対にないとは言えない。なにせ、ここ数百年で初めて発見されたモンスターなのだ。今までの常識を勝手に当て嵌めるのは命取りになりかねない。


「……ねぇ、もうこれ無いの? いっぱい話してお腹空いた」

「お主ら、人の苦労を知りもしないで……。そんなに気に入ったなら、今度ムラサキに会った時に頼めばよかろう。どらやきはこの街じゃ手に入らん」

「そう、残念……。じゃあ、物のついでに聞く。ブリタニアという国について知りたい。特に、あの王城」

「ブリタニア? また唐突じゃな。なぜじゃ?」

「ヒナねぇが興味を持ってた。今日か明日、またあそこに行きたい」


 イシュタルが真剣な顔でそう言うと、ヒナがありがとうと感謝の視線を向ける。

 自分で聞きたくてもそれを言い出せない性格故に、誰かに頼むしかない。それでも、そんな情けない事は姉としてできなかった。なので、帰ってきてからも家族の誰にも言い出せていなかったのだが……。


「覚えててくれたの……?」

「当然。ヒナねぇがあんなに興味を持ってたのは珍しかった」

「っ! 私も覚えてたぞ!? ちょうど聞こうと思ってたんだ!」

「……私も、そう」


 慌てたようにイシュタルへ非難の視線を向ける2人だが、その視線をどう受け取ったのか彼女は誇らしそうにその薄い胸を張る。完全にしてやったりと言いたげな顔だ。

 そんな3人にニコッと微笑むと、ヒナはぎこちなく「ありがとね」と言うとワラベにぺこりと頭を下げる。

 その意味は分からなかったが、ワラベは小さく頷き、それでいて己の中にあるブリタニア王国に関する知識を超特急で呼び起こす。


「確かなぁ……あの国は400年くらい前に建国された国じゃったかな。初代の王は勇者と呼ばれておった男でな? なんでも、当時魔族を束ねておった強大な力を持つ男を討伐し、魔族と人間の戦争を止めたらしい。ま、その頃にはまだわしは生まれておらんかったから詳しくは知らんがな……」

「戦争してたの……? 魔族と、人間が?」

「今はそんなことないが、昔はそういった事も多々あったんじゃ。その名残で、今でも魔族を忌避しておる国があるくらいじゃからな。世界最大規模の戦争と言われたそれを、たった1人で止めたとされておるのじゃ。勇者と呼ばれるのも納得じゃろ?」


 正確にはその勇者と、当時弟子入りしたばかりだったムラサキがその戦いを止め、数人の臣下と呼ばれる者達が人と魔族の仲を取り持ったことで今の世があると言っても過言ではない。

 なにせ、それが無ければ今魔族と人間は完全に相容れぬ存在として認識され、魔族と同様の扱いを受けていた亜人も同じような道を進んでいた可能性が高いからだ。

 まぁ、今になってはその勇者も臣下も全員帰らぬ人となっているのだが……。


「……死んだの?」

「勇者は、確か何者かに殺されたんじゃなかったかの……。その相手は誰か知らぬが、ムラサキが咎めておらぬ所を見るに、知り合いか誰かなんじゃろうな。臣下の者達はつい100年ほど前に最後の1人が暗殺された。他の者達は全員寿命で命に終わりを迎えたというのに、残酷な話よの」

「へ~。じゃあ、あの城とかは誰が建てたの。遠目から見ただけだけど、この街の王城より立派だった」


 イシュタルがそう言うと、ワラベはうーんと唸り、背もたれにゆっくり腰を預けた。


「それが分からぬのよな……。あんなに見事な王城、この世界のどこを見ても存在しておらん。それどころか、彼の国の城下町とこのロアの街並みはさほど変わらん。変わっておるのは王城だけじゃ」

「……王城だけが、異様に綺麗?」

「そういう事じゃ。ムラサキに聞いても知らんとしか返って来ぬからな。まぁただ一つ言えるのは、あの国には足を踏み入れぬ方が良いという事じゃ」


 ワラベは目頭をギュッと抑えながらそう言うと、不思議そうに首を傾げるヒナ達4人にどう説明した物か……。そう口の中で呟く。


 各国を飛び回り、各国の王族や貴族を相手に華麗に立ち回り、そのうますぎる交渉術を駆使して全世界に冒険者ギルドを立ち上げたムラサキでさえ、滅多な事ではあの国に足を踏み入れない。その理由は簡単だ。


「こんなことを言って、もし奴らの耳に入ったら面倒な事になるんじゃが……。ここ最近の王族があまり褒められた奴らじゃないそうでな。その臣下達も含め、胸糞の悪い奴らばかりなんじゃ。勇者が王として名君だったというのもあるが……それにしても酷いもんじゃ」

「……そんなに?」

「あぁ。権力に物を言わせ、守るべき民を守らず私腹を肥やす。ド畜生共じゃな、王の風上にも置けぬ」


 初代王のアーサーやその臣下であったランスロット、マーリン、その他複数名の統治は素晴らしい物だった。それは、ブリタニアこそ世界一幸福な国とも呼ばれたほどだ。

 だがそれも、アーサーが亡くなり、臣下達が次々に寿命でこの世を去ってから変わってしまった。

 その子孫達が彼らの偉大な功績の上に胡坐をかき、勇者や臣下達が残した遺産を使って他国を侵略し始めてから全てが変わってしまった。

 今や彼の国は暴力で全てを支配する、世界一残虐な国と呼ばれるほどに堕ちてしまったのだ。


 それならなぜ世界中から友好的な者達が集まり、ムラサキもそんな現状を黙認しているのか。

 それは、彼らが自分達と比べて遥かに強い兵を無数に持っているからと、非常に分かりやすい理由からだった。


「武力が全てとはよく言った物じゃが……あれはやりすぎじゃ。あんな国に行くくらいなら、ムラサキが拠点にしておるメイシア人類共和国に行った方がよい。ここと違って食い物も美味いし、街にも活気があるからな」


 ブリタニアは、アーサーを始めとした臣下達がいたからこそ成り立っていたような国だ。それが全て壊れ、その輝かしい功績に縋り付く者達がその政治を握り始めた今、彼の国は以前の栄光や活気を全て失い、力と金だけが渦巻く国になってしまった。

 だから、そんな国よりもメイシア人類共和国という、豊かで食事も美味しい国へ行くことを、ワラベは強く勧める。決して嫌味でもなんでもなく、本心からの忠告だった。


「……ヒナねぇ、どうする? 行ってみる?」

「…………行きたい。あのお城を、もう一度しっかり見てみたい……」


 ヒナも、チャット上でしか話したことは無かったが、あのアーサーと名乗るギルドマスターの性格は分かっているつもりだ。あの人こそ、聖人と呼ばれるような人なのだろう。

 勇者と呼ばれた初代の王様がその人だったとしてもなんの違和感もないし、むしろそうであってほしい。そう思っていた。


 自分と同じで突然この世界に放り込まれたのだとしたら会ってみたい。そんな思いはあったが、すでに亡くなっているのならそれは叶わない。

 でも、その人が残した国を、城を、見る事ならできるかもしれない。

 当時の姿からは様変わりしてしまっているかもしれないけれど、それでも、その目であの王城が自分のよく知るキャメロット城なのか、確かめたかった。


「……分かった。ヒナねぇが行くって言うなら、私達は着いていくだけ。ね? けるねぇ、マッハねぇ」


 イシュタルが隣の2人に目を向けると、彼女達は当然と言わんばかりにコクリと頷いた。


「もちろん、着いていく」

「私も~! 王様がどうとかこれっぽっちも興味ないけど、ヒナねぇが行くなら私も行く~。面白そうだしな~」

「……そうか。なら、依頼を受けたくなったら、その時はまたどこかの街のギルドへ顔を出すがよい。冒険者カードを見せればムラサキに報せが行くよう、こちらで手配しておく」


 ワラベが疲れたようにソファから立ち上がり、関係各所への連絡をしてくると部屋を出ようとしたその時、勢いよく応接室の扉が開かれ、ローブを着た汗だくの男がその顔をのぞかせた。

 その男は肩を上下させはぁはぁと息を切らし、顔の所々から鮮血を滴らせていた。


「し、失礼するぞ! ギルマス、お話し中とは思うんだが、緊急事態でさ!」

「はぁ……。わしの精神と肉体的な疲労が緊急事態だと叫びだしたい気分なんじゃが……。っと、悪いな。して、何があったんじゃ?」

「それがよ! 数えきれねぇくらいのモンスターの大群が、ロアに向けて進軍してきてるんだよ! とりあえず街にいた冒険者連中で対応しようとしてんだが、俺達だけじゃどうにもならねぇってくらいの数だし、そいつらがいちいちつえぇんだ!」


 ワラベは額を抑えてはぁとため息をつくと、すぐさま受付嬢を大声で呼びつける。そしてすぐムラサキへ連絡を入れるよう指示を出した。

 もちろん、こんな状況で彼女を呼ぶのは、その力を使って街を守ってもらうためだ。


「にしても、なんで急にそんなことになったんじゃ……。どっかのバカが、モンスターの巣から卵でも持って帰って来たんじゃなかろうな……?」

「いや、そんな感じじゃねぇんだ! どっちかって言うと、ありゃ軍の侵攻とかそういう類の奴だ!」

「なっ! ますます分からん……。はぁ……とにかく、お主らも来てもらうぞ。仕事じゃ」


 ソファでのんきに談笑している4人に鋭い視線を向けると、マッハがえぇ~と面倒臭そうに頬を膨らませる。

 状況がまだ分からないのでなんとも言えないが、仮にモンスターの侵攻と考えるのであれば、その数は100や200では足りないだろう。

 それでは、決してレベルの高い冒険者がいるわけでも無いこの街は、数の暴力ですぐに滅びてしまう。


「別に、私らはこの街に思い入れがある訳じゃないもん~。それに、ヒナねぇとけるは装備を家に置いてきてるし~」

「同意……。私達が関わるメリットが無い。冒険でもなんでもないのに、モンスターを狩る趣味はない」

「私も、別に興味ない……」

「な、なんじゃと……?」


 ヒナだけはそんな事無いと言ってくれるかと期待していたワラベだが、彼女は良く知らない男が部屋に入って来た時点でイシュタルの胸に顔を埋めてビクビクと震えている。今は戦力にならないどころか、この街を見捨ててでもさっさと逃げ帰りたいとさえ思って良そうだ。

 だが、それでは困る。いくらムラサキでも、ここに来るまでにはそれなりの時間を要するだろうし、それまでに大多数の冒険者が命を落としてしまう。それだけは、冒険者ギルドのギルドマスターとしてどうしても避けたい。


「本当に、この街におる冒険者連中だけじゃ、無理なんじゃな?」

「あぁ! 数的にも、奴らの強さ的にも厳しい! だからこうやってギルマスに助け求めに来たんだ!」


 男の胸元で輝くエメラルドのプレートにチラッと目を向けつつ、ワラベは思案する。

 この街で最高ランクの冒険者がこう言ってきているのだから、実際に彼らだけでは絶対に止めきれないのだろう。

 様々な情報が不足しているのは確かだが、ここで選択を間違えれば街が滅ぶと考えれば彼女が取るべき行動はただ一つだ。


「……この街を守ってくれれば、ムラサキに頼んでどらやきを好きなだけ仕入れてやると言ったら、どうじゃ……?」


 それは、彼女達をどうにかしてこの戦いに参戦させる事だ。その為には手段は問わなくていい。彼女達が戦いに参加してくれるならば、この街の冒険者全員を合わせても余りあるほどの戦力になる。ならばこその提案だった。

 そして、彼女達はお金に困ってない。なら、報酬として差し出すのは金貨よりも彼女達が欲しい物を差し出す方が合理的であり、その方が参戦してもらえる可能性が高くなるだろう。


「……それは、魅力的な提案」

「好きなだけだってさ~! ついでに、他の美味しいお菓子も食べてみたいよな~!」

「……面倒だけど、私達なら苦労はしない。それであれが手に入るなら……良いかも……」


 うーんと唸り始めた彼女達に、さらにワラベが追い打ちをかける。


「ムラサキに言って、美味い菓子をたらふく持って来させよう。問題が片付けば、それを報酬として渡そうと思うが……どうじゃ?」


 ヒナはともかく、マッハやケルヌンノス、イシュタルはヒナがそうあれと望んだからこそ、いい意味でも悪い意味でもまだ子供だった。

 だからこそその返事は、ワラベが望んだものとなった。


「『やる!』」

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