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13話 謝罪

 狐の女とヒナ達4人が冒険者ギルドへと辿り着くと、狐の女は迷わず昨日ヒナ達が案内された応接室へと向かい、自分はワラベを呼んでくるからと部屋を後にした。

 残された4人は、今度こそヒナを中心に座らせて左右にイシュタルとケルヌンノスが、そして、いつでも動けるようにマッハがヒナの後ろに立った。

 そこまで警戒しなくてもとヒナは苦笑するが、あんなことがあった後でそれを容認するほど3人は楽観的な性格をしていないし、ヒナの身を第一に考えた結果だった。


 イシュタルはともかくとして、ケルヌンノスは常にヒナの身をスキルを使用して保護し、剣士であるマッハは狐の女が帰ってきてヒナに再び何かを行おうとも即座に対応できるよう腰は下ろさない。くつろぎたいという思いが無いかと言われると嘘になるが、そんなものは私情であってヒナの命に比べると粗末な問題だ。

 ヒナが自分より圧倒的に強く、たとえあのまま女の刃を受けていても傷一つ受けなかっただろう事は知っている。それでも、心配・警戒をしない理由にはならない。


「悪い悪い、待たせたね」

「意外と早い帰還じゃったな。……どうした、何かあったのか?」


 部屋に入るなり剣呑な雰囲気を纏ってうっすらとした殺意と明確な敵意を狐の女に向けるマッハに、ワラベは首を傾げる。だが、自分は街に潜ませていた部下からの情報で、彼女達が街に入ったと本部に報告しただけで、その先何があったのかは知らなかった。


 とりあえず彼女達の正面に腰を下ろすと、ふ~と息を吐いて目の前のどこかオドオドしているヒナを見つめる。


「……」

「……」

「……な、なんですか……」

「いや、何があったのか聞きたいのじゃが……」

「……けるちゃん、お願い……」


 泣きそうなウルウルした目で隣のケルヌンノスを見つめると、その薄い胸に飛び込んで震えだす。それ程までに、ヒナにとって知らない人と話す事はハードルが高い事だった。

 その様子を狐の女は興味深そうに見つめてふむと頷くと、ワラベの隣のソファへ腰掛ける。


「……ヒナねぇは人と話すのが苦手と前にも言った。虐めないで」

「……悪い。別にそういうつもりでは無かった」

「なにがあったか聞きたいなら、隣の狐に聞くんだな」

「……? おい、こ奴らは怒らせるなと言ったはずじゃ。お主も、別に怒らせるつもりは無いと言うておったではないか」


 咎めるような視線を狐の女に向けたワラベは、すまんすまんとまるで反省していないような狐の女にはぁとため息をつき、その腰に差してある鞘に刀が入っていない事に気が付く。

 彼女がいつも肌身離さず持ち歩いていた見事な細工が施された刀はどこへ行ったのか。その答えは、ワラベの視線に気付いた女によって語られた。


 街で起きた戦闘とその行方を、偉そうに足と腕を組みながら聞いていたワラベは、女が最後に「刀は壊されちゃった」とのんきに言い放った事で怒りが爆発し、女の着物の袖を掴んだ。

 その額には血管が浮かび上がり、身分の差を忘れて怒鳴りつける。


「お主はなんてことをしとるんじゃ! 街に被害を出しただけじゃなく、わしがやった刀を折られただと!? 腕試しをするならここに呼んで、木剣でも使えば良かったじゃろうが!」

「え~? だって、私がほんとに試したかったのはそこのお嬢ちゃんだもん……」

「だってじゃないわ! わしがあれほど怒らせるなと言ったではないか! お主はバカなのか!? いや、そもそもなんで共和国から数分でこの街に来られるのじゃ! その時点でおかしかろうが!」


 その後もワラベによる狐の女への説教は続き、あまりの剣幕にヒナが怯え始めてマッハが止めるまで続いた。

 ヒナの瞳には怒られている本人じゃないとはいえうっすらと涙が浮かび、その体は恐怖でブルブルと震えていた。

 それは以前、この場所にいた時と全く逆の光景であり、今はヒナがケルヌンノスの胸に抱かれて慰められていた。


「はぁ……すまん、取り乱した。わしからも、こ奴の無礼を謝罪しよう。すまんかったな」

「……別に良い。でも、次やったらそいつの命の保証はしない。ヒナねぇには止められてるけど、2度目を許すつもりはない」

「たるに同意だ。今回は見逃すが、次同じ事したら、私は知らん」


 腕を組んで狐の女を見下しながらそう言うマッハは、斜め右で妹に抱き着きながら子供のように泣いているヒナを見つめるとコホンとわざとらしく咳払いする。

 それに動揺してビクッと背筋を震わせたヒナは、ここに来た目的を思い出してケルヌンノスから離れると目元を拭って背筋をピシッと伸ばした。

 自分のわがままでここに来ているのだから、いつまでもウジウジしている訳にはいかない。


「……ヒナねぇが言う?」

「…………むり、たるが言って?」

「……はぁ、分かった。今日ここに来たのは、冒険者になるため。正直その女が刃向けてきた件はもうどうでも良い。マッハねぇ達が言ったように、次同じことやったら私も知らない」

「こ、怖いねぇ……。でも、君達が冒険者? ワラベの話では、金には困ってなさそうという事だったが?」


 怪訝そうに首を傾げた狐の女に、ワラベも同意とばかりに頷く。

 それはもちろん事実ではある。が、それとは別でモンスターと戦って以前のような冒険がしたいという理由があるヒナ達にとって、金銭なんて文字通り二の次で良かった。

 最悪報酬なんてなくとも、冒険気分が味わえればそれで良かった。

 元々、ヒナにとって冒険とはラグナロク内でモンスターやボスを倒す行為その物であって、ドロップするアイテムや素材なんて文字通りの副産物でしかなかったからだ。

 新モンスターやイベントのボスモンスターに初見で挑む時のようなワクワク感。あれを、家族全員と共有しながら再び味わってみたいだけなのだ。


「……なるほどね~。だけど、良いのかい? 君達の実力なら、適性試験ではまず間違いなく破格の点数が出る。そうなると、一気に有名人になって絡まれる回数も多くなるだろう。それを面白くないと思う奴も出てくるだろうし、私のように名前が売れると面倒な付き合いも増えるよ?」

「……適性試験? そんなのは聞いてない」


 首をひねりながらワラベをジッと見つめると、彼女はとぼけたように笑って「冒険者になるとは思ってなかったから話してなかった」と謝罪を口にした。

 確かにあの時話を聞いた時点では冒険者の職業それ自体に興味があっただけで、実際になるとはヒナ達でさえ思っていなかったのでそこを責めるつもりはない。

 ただ、面倒な付き合いが増えるというのは考え物だった。


 自分達はそういう物はまるで興味がなく、ただ純粋にモンスターを倒してかつての冒険に似た事をしたいだけだった。それこそ、家族4人で、誰の介入も受けることなく。


 街やギルド内で絡んでくる冒険者達は無視していれば良いけれど、面倒な付き合いというのが王族や貴族を指すのであれば、無暗に無視し続けていると面倒な事になる事は想像に難くない。

 そして、それは残念ながら事実のようで狐の女は苦笑しながら肩を竦めた。


「私……は例外だとして、ダイヤモンドランクの冒険者達は、その力故に国家からの依頼を受けることが度々あるんだ。もちろん、冒険者の役割は基本的にはモンスターの退治であって人同士の争いに首は突っ込まない。ただ、何事にも例外はある。破格の報酬で要人警護を依頼されたり、戦争の駒として使われたりね」

「……そんなのはごめん。私達はともかく、ヒナねぇは人を殺すなんて出来ない」

「君達は出来るんだ……って、そうだよね、私を殺そうとしたもんね。ただ、厳しい事を言うと、これらは断れない。もし断れば国家単位で圧力をかけられて冒険者資格を剥奪するって事態になりかねないからね。いくら私達でも、国家と戦争するとなると少々面倒なんでね」

「……その前に、あなたは誰? すっかり忘れていたけど、あなたがなぜこの場にいるのか、私達は分かっていない」


 イシュタルが不審者を見るようなジト目を向けると、再びワラベが呆れたように大きなため息を吐く。


「お主、自己紹介すらしておらんかったんか……。まったく、呆れて物も言えん……」

「あっはっは、色々ありすぎて忘れていたよ。私はムラサキ。この冒険者ギルドというシステムそのものを作った……いわゆる創設者だ。普段はメイシアという国に住んでいるんだけど、君達に会う為にやって来た。よろしく」

「……なんでそんなものを付けている?」

「あまり人前に顔を晒すのが得意ではなくてね。王族や貴族と面会する時もこの仮面は付けているから君達だけという訳では無い。無礼というのは承知しているが、気にしないでくれ」


 彼女がヒナに右手を差し出すと、それを阻止するようにケルヌンノスがその手を握る。

 大っ嫌いな人に大好きな人の手を握られるなんて、そんなところを見たら嫌でも女に殺意が湧いてしまう。ならば、どんなに嫌でも自分が引き受けてしまおうという考えの元だ。

 そのケルヌンノスの心意気も全て見透かしたうえで、ムラサキはフフフと不気味に笑い、手を引っ込める。


「で、話を戻すけど、国からの依頼を断った場合冒険者資格は剥奪。最悪の場合は国から暗殺者が向けられる」

「……ヒナねぇ、どう? 暗殺者どうこうは別にどうでも良いけど、すぐに冒険者の資格が剥奪されるなら、冒険者になる意味がない気もする」

「…………護衛の仕事なら引き受けるけど、私も皆に人殺しなんてさせたくない……。そう、根回ししてくれる、なら……」

「と、ヒナねぇは言ってる」


 その言葉の裏には、どうしても皆で冒険がしたいから冒険者にはなりたいという思いが込められていた。それを重々承知しているイシュタルは、視線に少しだけ力を込めながらムラサキを睨む。


 ギルドの創設者がどんな存在なのかはまだイマイチよく分かっていないが、それくらいの力はあるだろう。直感的に、そう感じた。

 そしてそれは、ある意味で間違っていない。ギルドの創設者はその力とは別に、各国に冒険者ギルドを設立し、各国のモンスターによる被害を大幅に減少させたというデカすぎる実績故に、国家もその存在を軽く見れないのだ。

 もし冒険者ギルドが国から消えて冒険者達が国から去ってしまっては、モンスターによる被害が目に見える形で増加し、無駄な血が流れてしまうのは明らかだ。

 だからこそ、ムラサキの発言は滅多な事では無下にされないし、したくても出来ない。


 ただ、ムラサキ本人も王族や貴族に関わる事は苦手だし、どちらかと言えば彼らを避けている傾向にあるので優秀な冒険者の為とはいえ、そんな口利きをした事なんて一度も無かった。

 労力に見合うだけの報酬や見返りが無いというのもそうだが、自分がそこまでやるのが単純に面倒だというのが大きい。


 そんなムラサキの性格を知っている為、彼女の隣に座るワラベはうーんと唸る。が、今回ばかりは相手が特別だという事もあって、ムラサキの返事はワラベの予想とは違う物だった。


「良いだろう。各国家の王族や貴族には、私から手紙を書いて口利きをしておこう。もしその時が来ても、君達が国家間の戦争に巻き込まれることは無いと保証するよ」

「……そう、助か――」

「ただし、条件がある!」


 人差し指をピシッと立ててムラサキがそう言うと、ヒナを指さして続けた。


「君、魔法使いだろう? 私と手合わせしてくれないか? もちろん殺したりはしないし、その体に危害を加えるつもりもない。もしもの事があった場合でも、私は治癒魔法を一通り使えるので四肢を失おうが再生させると保証する。現に、そこの彼女に斬られた私の手首は戻っているだろう?」


 仮面の下でニコニコしているのが分かるように朗らかに言い放った彼女は、急に話を振られてビクッとするヒナを面白そうに見つめる。

 そんなこと、ケルヌンノスやマッハが許すはずも無いのだが、今回ばかりは横から口を挟めなかった。なぜなら、これはヒナが望んだ冒険者になるために必要な事であって、自分達が介入して「なら断る」とでも言われてしまえばそれまでだからだ。


 ヒナとムラサキを戦わせたくないのは、あくまでケルヌンノスやマッハの個人的な感情でしかなく、ヒナの『冒険者になって皆と冒険したい』という思いを踏みにじってまで進言する事ではない。

 それに、ヒナがもし大丈夫というのであれば自分達は止める理由などない。ヒナが目の前の女にどうこうされる未来なんて、相手がどんなに強いと仮定してもありえない話だから。


「……な、なんで私なんです、か……」

「単純な個人的興味と好奇心だ。私には師匠が居てね。あの人が恐れ、師匠と呼んでいた魔法使いを探したいんだ。だから、強大な力を持つ魔法使いとは手合わせをしたいと兼ねてから思っていてね」

「わ、私は強くない、です……」

「それは違う。強さっていうのは当人が申告する物ではなく、周囲が決める物だ。あいつは強い、あいつは弱いって評価するのは、当人ではなく他人だからね。つまるところ、君の強さは自分で決める物じゃなく、他人が決める物だ」

「……何を知った風な口を。自分で最強だと言いふらしておるお主が言う事じゃなかろう……」


 呆れたように額を抑えながらそう言うワラベを無視しながら、ヒナはムラサキの言葉に少しだけ感心していた。確かに、その通りだと思ったからだ。


 ラグナロクをやっていた時のヒナだって、自分から強いだなんて言ったことは無い。

 いつも周囲から「あいつは最強だ」「あいつは魔王だ」とか言われていただけで、自分でそう名乗った事は無いのだ。

 だからこそ、ムラサキの言っている事は理解出来るし納得も出来る。


「……ほんとに、私や皆が、人を殺さなくていいように……その、してくれるん、ですか……?」

「それは約束しよう。私の要求を呑んでくれるなら、私の権限で出来る限りの根回しをする。それでももしそのような時が来れば断ってくれて構わない。いくら圧力をかけてこようとも、その時は君達を全力で守ると約束するよ」

「……ヒナねぇ、横からごめん。ムラサキと言った、お前に1つ聞きたい」


 ケルヌンノスは少しだけムッとしながらも、話を聞いていて気になった事を口にする。


「なんでそこまで、私達を冒険者にしたい? ただ強いだけの奴なら、他にもいるはず」

「ん~、それはちょっと疑問が残る質問だけど……答えよう。君達を冒険者で居させたいって訳じゃない。私が、そちらのお嬢さんとどうしても手合わせしたいんだ。ただ、その許可を貰うためには、君達にも許しを貰う必要がある。その代価として、冒険者という地位と、その地位が今後絶対に揺らぐ事は無いと提示したんだ。そこまでする価値が、お嬢さんとの手合わせにあると、私は考えている」

「……私達は、正直なんでそこまでヒナねぇにこだわるのか疑問。だけど、そこには確固たる意志があって、それはそうまでして叶えたい物であるという事は分かった。だから、私からはこれ以上何も言わない。後は、ヒナねぇが決めて」


 隣の少しだけ体が震えているヒナを見つめ、ケルヌンノスは言う。その意見に、マッハとイシュタルは賛同するようにコクリと頷いた。

 そしてヒナも、人と戦いたくないという思いはあるが、皆と冒険できるという事であればそれは個人的な感情であって、家族との冒険より優先するものではない。

 奇しくも、そこはマッハ達がヒナとムラサキの手合わせを拒否できなかった理由とまったく同じだった。


「わ、分かりました……。で、でもその……私、ほんとに……強くない、です……」

「感謝する。では早速で悪いが、この後どうだろう。今の季節であればちょうど闘技場がフリーで使えるはずだ。あそこなら、周囲の被害を考えずに戦える」

「い、今からです、か……?」

「あぁ。急すぎるという事であればまた後日でも良いが……君達も、すぐに依頼を引き受けたいんじゃないかい? 先程、モンスターを倒しに行きたいと言っていたじゃないか」


 それは、もちろんその通りだった。

 時間が限られているという訳では無いし急ぐ理由は無いと言えば無いのだが、新しいゲームを買ったらすぐにやりたくなるように、楽しみにしていた冒険が目の前にあれば早く冒険したいと思うのは自然な事だった。


 唯一の懸念事項として、今ヒナは杖を持っていないので万全の状態では無いという事だ。

 それで万が一の事があれば笑い事では済まないのだが、殺したりはしないというのであれば問題ないだろう。ちょうどHPの事について調べたかったので、一石二鳥でもあった。


「わ、分かりました……。皆もその……一緒に連れて行って、良いですか……?」

「もちろんだよ。闘技場には観客席があるから、そこからでも眺めていれば良い。ただ、手出しはしないでくれ」

「……ヒナねえが良いなら、私達は構わない。ヒナねぇが手合わせすると言ったなら、私達は大人しく見守る」


 イシュタルがそう言い、他2人も頷いたことでその場は丸く収まった。

 ただ1人、ワラベは呆れたように首を横に振ると疲れたようにはぁと全員に気付かれない程度の小さなため息を吐いた。

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