首限
怪物を狩る者は、いずれ怪物となる
深淵もそう言っている。
次の日、私は改めて 彼に会う為
古書堂を目指した。
結局、泊まれるホテルは見つからず
近くのネットカフェで夜を明かした。
今のマンガ喫茶とネットカフェはどこに違いがあるのか
2つはここに来て完全な融合を果たしている
どちらも歴史はまだ浅いと云える。
しかし、シャワーまで付き ネットは使い放題
一泊するには安いし、何より このカフェは牛乳が飲み放題なのが有難かった
私は、一応 昨日の怪物の出現場所に行ってみた。
綺麗になっていた、もはや規制線も張られていない
店員さんの言う所の『呪役』
昨日、ネットでも検索してみた。
呪術や、魔術
その使役された使い魔的なモノ
そこから呪役と呼ぶ人々がいるらしい
しかし、それらは彼が言ってた通り ほんの一部で
警察では、特定怪異危険生物第一種に分類され、そのまま呼称されているらしい
怪異、バケモノ それらが一般的な呼び方であり、またそれで結局 間違いではないと
専門の退魔使が解説付きの動画を出していた。
1800年代、ドイツで
ある実験があったと言われている。
科学の力で、平行世界 または未知の世界への扉を開き
そこを探索、新たなエネルギー資源を得ようとするモノだ
ドイツと言ったが、これはドイツに問題があったという事では無い
人間が、科学技術をある程度まで高め、そこに軍事的な目的が加わったりすれば
地球上で、誰かが必ずやり遂げる事だったのだ
実際に、アメリカや旧ソ連もそれに続いていたし
公にされてないだけで、実験は行われていたのかもしれない
結論をいえば、その実験は成功した_
そして、
大失敗したのである。
古書堂には彼がいた
相変わらず埃っぽい本たちに囲まれた城壁のその奥に、ポツンと座っていた
「早いですね、あぁ 今日は休日でしたっけ…」
大学はいけませんね、適当に出席してるので曜日の感覚が少し曖昧になる
彼はそう言いながら立ち上がり、奥に引っ込み
何やら誰かと会話している
だが、すぐまた戻って顔を出した
「私は今、ほとんど仕事をしていません 休日なんて関係ないし曜日感覚は あの日から壊れています…」
ほがらかな朝の空気感が一瞬張りつめた。
「鳩からは、まだほとんど返事が返って来ていないんですよ」
「電話ではダメなんですか?メールとか? 山奥に住んでるとかですか??」
私は、少しイラ立ちながら聞いてしまったと思う…。
「山奥に住んでるってのは実は、ズバリで そういう人もいます。 あとは電話嫌い、ネット嫌いとか」
そんな… 私は少し溜め息をついた
「もっとちゃんとした理由を言えば、電話やネットは盗聴、ハッキングの可能性をゼロには出来ません
特に”アヤカシ”相手だと さらに厄介になる
あいつら、ああ見えて電子機器に強いんですよ
電波とかと相性が良いのもいます
携帯を通じて、そのまま呪いを飛ばせる奴だっているんです。」
「私の妻の居場所を探るのに、そんなリスクはまだ無いと思いますが…」
「どんな事柄にもリスクはあります、それを限りなくゼロにしないといけない類の人達もいるんです、ご了承ください。」
昨日の怪異の事も気になりますから
彼はそう言って、なんとなく笑って見せた
あれ、呪役って呼ばないんだ…
でも、鳩だけじゃありません
”鴉”も飛ばしてますから、ちゃんと行動はしてます、今は待って下さい
鳩の次はカラスか…
「まるで鳥使いですね…」
私は悪気なくそう言った
「それが、今の僕にはピッタリの肩書かもしれませんね
でも、術師見習いなんて みんなこんなもんなんですよ?」
空気が少しだけ和んだような気がした。
鳩は、主に情報収集 情報の伝達を行います。
鳩といっても、もちろん普通の伝書鳩ではありません
特別な訓練をうけ、能力者の影響も多大に受けています。
100年以上生きてる鳩もざらにいますから_
鴉は、鳩より広い範囲で情報収集し、監視も行います。
見張り、警備、下等な妖魔の類なら倒せるくらい頭もよく、攻撃的
しかし、鳩より懐かせるのが10倍大変です。
こちらも、使う術者によっては強力な使い魔になります。
1000年以上生きている、化け物カラスもいるとか いないとか
ただの鳥ではないのだな…
私は少し頼もしく思えた
「ちなみに、ちょっといいですか?」
彼は私の方を向いて、あぐらをかいて座り眼を閉じた
「首、限」
風が、吹いたような気がした
私の首元に向かって
心地よい、優しい風だ
ん?なんだか体が軽くなったような…
「これを…」
彼は手に何か握っている、彼はそれを開いて見せてくれた
ひゃあああああ!!!!
私は思わず、飛びのいて尻もちをついた
イモムシ? いや、ミミズ???
灰色のそんな風に見える何かが、彼の手から大量に零れ落ちている
「ここに来るまでに、あなたが集めた邪気です
ただの邪気が貴方に纏わりつき、貴方の動向を探ろうと一つの意思で統合されていた」
危険、というのはわかって頂けたでしょう?
「何者かが、あなたに向かって術式を行っています 初歩的なモノですが 非常に高度に練られてる。」
「私は‥‥監視されてる? 誰に??」
「わかりません、昨日の怪物と無関係でなないでしょうが」
昨日は、ネットとかやりましたか?
はい、と私は正直に答えた
ネットは便利だが、その分 邪心を簡単に呼び寄せてしまう
特に誰もが使えるデバイスは危ない
自分のスマホ、携帯だけにしてください
そう言って彼は、何かのシールを私にくれた
「気休めです、それをスマホに貼っといてください いつでも剝がせますから」
私は言われた通りにする。
「フギン、いいぞ」
どこからともなく、カラスが現れ
さっきの蟲たちを啄みはじめた
お、美味しそうに食べている…。
「こんな事をする術師に狙われているなんて、事態は思ったより深刻ですね
まだ、返事がないんですが アポ無しで会いに行きますか 一人、近くにいるので」
鴉はミミズをたいらげると、何事もなかったように消えていった
驚いている場合ではない…
私は妻を、見つけなくては……