表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒い鴉は夜を啄む  作者: 月夜ノ歌
1/12

天餌


   神はサイコロを振らないというのなら、この世で起きる全ての悲劇は

   神様が用意周到に、予め準備した運命という事になる

   なんと、お優しいことだろうか_。





人が蠢く雑踏と雑音に囲まれる街


日本の街は特に混沌に塗れている気がする。

否定している訳ではない


ただ、そのカオスが ある時はとにかく不快で

ある時は心底心地よく、欲望と興奮を掻き立てるのだ。



雑居ビルと雑居ビルの隙間の隙間

迷路のような路地の中に

その古書堂は在った。


今にも潰れそうなその空間に、本がこれでもかと詰まっていた

蜘蛛の巣も、あちこちにある。


奥には、若い店員さんが座りながら本を読んでいた。


「すみません…」


私は、か細い声で声を掛ける

これでは相手まで届かないのではないか

外の室外機の音にかき消されそうな声だった。


「どうも」


若い男性は応えてくれた

大きめの眼鏡を掛けながら、猫背の背中を伸ばして こちらに向き直る。


<綺麗な眼をしていた>



「何かお探しですか?」



「いえ、すみません いや 探している事に代わりはないのですが…」




妻を探しています。




私の妻が失踪したのは5年前だ


それも新婚旅行の最中、多くの人でごった返す中で彼女は消えた



警察は、事故、誘拐、怪異、様々な観点から捜査してくれた。


それほど大きなニュースにはならなかった

成人女性のマリッジブルーによる失踪、世間の大半の見立てはこうだった


夫のボクに問題があった、ネットのSNSでは そんな事も書かれていた。


警察も、対応や相談は聞いてくれたが 事件性が発見出来ず 本格的な捜索はほとんど行われなかった



私に出来るのは、自分のブログに彼女の捜査状況を更新し情報を募ったり、ビラを配り 行方不明のポスターを張り出すことだけだった



私の事を良く知る友人や、知人、親類は 私が酷い夫などではなかった事を知っている。


浮気だって、付き合ってた時からしてない

暴力だって、ギャンブルもしない、酒は彼女と少々楽しむ程度に飲むくらい

とにかく、何も問題が無いなんて言えないが


彼女を失踪に追い込むような事はしてないつもりだ



(それとも、そんな何かがあったというのか? サユリ…)



5年の中で、自分でだって、自分を責めて来た。


探偵やら、テレビの捜索番組まで頼ったりもしたが結局見つからず

現在に至る


彼女が死んでいるのか、生きているのか

それすらわからない


そんな時、ある話を聞いたのだ この古書堂なら力になってくれるかもと


その依頼が難解であっても、特殊であっても

報酬次第で対応してくれると



「誰から、その話を聞きましたか?」



「いや、実はよく知らなくて 居酒屋で絡んで来た女性が酔っ払いながら教えてくれたんです…」



彼女に渡された、しわくちゃの連絡先が書かれた紙を渡す



「全く、あの人は…」



店員の男性は呆れた様子だ



「まさか、君なのか? 君が例の闇使い!?」


驚いた、もっと年配の人を想像していた



「いや、その…見習いみたいなモノで、まだ弟子というか…闇使いでも無いし…」



大丈夫だろうか? 私に負けず劣らず頼りない感じに見えて来た。



「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」



悲鳴!? 外から、とんでもない音が聴こえて来た 何か騒ぎが起きてるようだ



「とにかく、奥で話しましょうか…今、お茶を」


彼は、いたって冷静だ 何事もないような感じでお茶を淹れに行こうとしている。



「いや、何かあったみたいですよ!? ちょっと見て来ます!!」



私は、慌てて外へ駆け出した


今思えば、私の行動は単なる野次馬的な発想で

何の意味もない行動だったと言える

それでも、確認せずにはいられなかったのだ



怪物だ、10メートルはあろうかという黒い怪物が

触手?のような手を伸ばし、人を何人か掴んでいる



きょきょきょきょきょきょきょきょきょ



仮面のような白い顔の部分が見える、そこから気味の悪い声を上げていた



うわぁあああああああ


逃げる人、立ちすくむ人、スマホで撮影している人、叫ぶ人

色んな人間が居たが、皆冷静ではなかった


とにかく警察に・・・!!


私は携帯を慌てて取り出そうとする、あたふたしながら地面に落とした

落ち着け!と思っても、人間慌てるとこんなモノだ



「 天 」



突然、辺りが暗くなった


上を見上げ息を呑む



そこにはまた、別のバケモノが現れたのだ



「あっ…あ…?」



鯨? だが、翼のようなモノが生えて… 白い…手が何本も… エイリアン??


それは、とても醜く、禍々しく、恐ろしく



そして、美しかった…。




「 餌 」



あっという間だった、その化け物は、黒い細長いバケモノを その沢山の腕で掴み抑え込み


引き裂いて、引き千切って、食べた、喰ってしまった



辺りには、喰われるバケモノの悲鳴、断末魔と飛び散る血しぶきが 巻き散らされた


助けられた?人も真っ赤に染まっている


震えが止まらない様子だ。


自分もその一人だった



「あー、いたいた 大丈夫ですか?」



古書堂の店員さんが、駆け寄ってくる



「もしかして、あなたがアレを…?」



店員の男の顔色は特に変わらない



「警察、呼ばないといけませんね あ、でも掃除屋さん達の方がいいかな?」



店員さんは、汚れちゃってますねとタオルを渡してくれた



「ちょうど、近くに まだやってる銭湯があるので そこに行きましょう」




正解だ、この人だ この人なら




妻を見つけてくれる。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ