第八話「赤柴紫織子」
なぜ生き返るのかというと、なぜか生き返るからとしか言いようがありません。
モキョ先生と愉快な一族は科学の世においてファンタジーな存在ですから、考えるだけ無駄です。
ただ私ふくむ三橋一族は、そんなファンタジー一族を世間の好奇の目から守らなくてはならない誓いを生まれながらに背負わされています。原罪か?
なので。
――この場で蘇生されたら、困る。
先程触った感じでいうと、死後およそ五時間前後。つまりタイムリミットの六時間が近いわけです。
あのすっとぼけバカアホは「死んでた〜エヘへ」と言いながら登場するに違いありません。
周りは阿鼻叫喚でしょう。ホウ酸団子食べて死んだマヌケが息を吹き替えしているのですから。
その場合私はこの天才的な頭脳を酷使して切り抜けるか、最悪目撃者全滅ルートを導かなければならないのです。
全滅ルートするとパパに半日正座で説教されるから避けたいのが本音ですが……。
台帳から目を離し、私は言います。
「……冷蔵庫をもう一度見ませんか?」
「なぜ?」
等々等期さんが首をかしげました。
「手かがりが足りない気がするんです」
よしっ! 意味ありげに言えました!
冷蔵庫はもう最初に調べ尽くしましたし、なんならモキョ先生が誰かのサラミをもぐもぐしていたのも知っています。現場を荒らすな。
なのでもう一度見ても成果はありませんが、冷蔵庫に注意を向けている間にモキョ先生をどうにかする時間はあります。
そんなわけで私達は大広間に戻りました。とはいえカントリー風のこじんまりした空間ですが。
冷蔵庫に行き、ドアを開きます。生首はすでにクーラーボックスに移動しているのでご安心を。
「私だけでは見落としがあります。みなさん、なにか意味深な傷とか、汚れはありませんか?」
「そんなこと言われてもなあ……」
「年代ものだしねえ」
「うーん?」
「ちょっと見えないです」
わいのわいのしてる後ろでこっそりモキョの死体に近づきます。
……びび、と勘が働きました。
さん、にい、いち……。
「ふぁー、あれっハニーちゃ」
咄嗟にモキョの首をコキャります。ちょうど雷もなったのでうまく骨が砕ける音がかき消されました。
バレてはいませんね。
ふう、やれやれ。危なかった。