第十八話「赤柴紫織子」
椅子にぐるぐる巻きに縛られている等々等期さんの前に仁王立ちします。
ようやく! ようやく手かがりらしい手かがりが現れましたねまったく!!
「さあ織田信長! 洗いざらい、余すところなく、漏れなく、ことごとく吐いてもらいましょうか!」
「……その前に一ついい?」
「なんですか?」
ふんっ、死体損壊罪容疑者からの質問なんて普通は許しませんが私は穏健で心優しいですからね。聞いてやらんこともないでしょう。
等々等期さんは言いにくそうに目を泳がせます。
「織田信長は、血の盃ではないよ」
「はい?」
「盃にしたのは浅井長政の髑髏。とはいっても実際は金箔を貼って披露しただけで、盃にはしてないみたいだけど……」
「え?」
「でも分かるよ! なんかごっちゃになるもんね!」
ウワーッ! フォローやめろお!
周りも生暖かい目を向けるなあ!
むぎー!! 爆発させたる!! すべて爆発させたる!! なんで吸血鬼だの云々言っているメルヘンチック男に発言の修正をされなきゃいけないんですか!?
視界の端にモキョ先生(死体の姿)が見えて我に返ります。落ち着かなければ。素数を307まで数えて冷静さを取り戻しました。
……危ない危ない。取り乱して建物を倒壊し、パパとじいちゃんにめちゃくちゃ怒られたことを忘れてはいけませんね。
「で、話は戻りますが」
何事も無かったように私は言います。
聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥といいます。私は一時の恥で済んだんです、僥倖ではないですか。まあ色々最悪なシチュエーションではありますが。
「血を抜いたのはあなただとして、何故ですか。あと結局なんですかこの瓶詰めされた血」
「いや〜、だって丸々ひとり分飲めるって思ったらテンション上がっちゃって……。あ、瓶詰めの血はおやつみたいなものでね」
「あ?」
「ヒェッ」
真面目に答えてもらわないと困ります。
腕を組んでジト目になり始めた私を見てあわあわと等々等期さんが言い訳に似た自己弁護をはじめました。
「だって僕、吸血鬼だから!!」
「こんな貧弱そうな吸血鬼がいますか。スタンド出現させたり神父と激闘繰り広げたりクランでクソデカ感情拗らせてから来てください」
そうやって捜査を撹乱させようとしても無駄ですよ。
キューティー蜂蜜はそういうの全部無視していきますから。
「知ってることを話してください。さもなければ関節をすべて外していきます」
「うええ……仕方無いなあ……」
観念するまでが長すぎる。
「血を抜いたのは僕。バラしたのは僕。でもね――」
「――僕は殺していないし、あちこちに置いてもいない」
つまり――犯人は、まだいる。