第十七話「黄鱗きいろ」
突然、脳みそが夢と魔法と希望の国に行ってしまった等々等期さんから視線を逸らし、私は事件へと思考を戻しました。
しかし血を持ち去ったのは間違いないでしょう。
死体を吊して血抜きをするついでにどこかに血を溜めたりとかしたのでしょうか。
何に? 普通に考えれば容器ですが……ん?
そういえば冷蔵庫でそれっぽいものがあったような?
「等々等期さん」
「えっ、何何? 吸血鬼のこと真剣に考えてくれる気になった?」
「いいえ、まったく」
吸血鬼なんかよりケルベロスのほうがかわいげがあって好みですし。うちの実家で飼ってる土佐犬のもなかちゃんもかなりケルベロスっぽさがあってキュートです。
まあそんなことはどうでもいいとして。
「等々等期さん、冷蔵庫に入っているあのワインはあなたのものでしたよね?」
「うん、僕のものだよ」
「あちらはどこで調達されたんですか?」
「んー、このあたりにいいワインを作るワイナリーがあってね。そこで少し譲ってもらったものなんだ」
はい、ダウト。
モキョ先生の実家がこのあたりにある都合上、防犯の観点から我々三橋一族は周囲の施設を全て把握しております。
そして、この近辺にワイナリーなんてお洒落なものは存在していません。田舎なのでね……。
「……一度広間に戻りましょうか」
そして、私の推理が正しいか確認しようじゃありませんか。
結論から言うと、あのワインボトルの中身は血液でした。
コップに注いだ途端に漂う猛烈な血液臭。これは血の盃というやつですね。
「つまり等々等期さんは織田信長だったと」
「何の話!?」
「血の盃と言えば織田信長じゃないですか。知らないんですか?」
「いや、えっ、血を飲むと言えば吸血鬼でしょお!?」
「はははまたまた~吸血鬼なんてファンタジー存在いるわけないじゃないですか~」
「むぎぎぎぎ……」
というわけで死体損壊の容疑で等々等期さんを拘束しました。
血液フェチなのでしょうか?
ただまだよくわからないんですよね。血を抜きたかっただけならバラバラにする必要も首をヒエヒエにする必要もなかったでしょう。
彼が殺人犯なのか、それとも血を抜いただけなのか。
さてと、楽しい楽しい尋問のお時間です。