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遊び人の何が悪い!

どんなに自分の人生が幸運だとしても。

自分の仲間たちを救えなかったら。

それはどれだけの価値があるのだろうか?



―――― ビギナーズ・ラック! ――――


お約束のようにニートからの事故死を遂げた俺は

まるでラノベの世界のように異世界に転生を遂げた。


異世界に転生したら本気出す。俺にでもできるはず。

そう思っていた時期が私にもありました……




「はーい、異世界よりの転生者さんいらっしゃーい!」


目を開くと、死んだばかりとは思えない明るいノリで

若い女が俺にそう声をかけた。

高層タワーの最上階からダイブした影響なのか

それとも異世界にワープした影響なのか、少しめまいがするが

くらくらする意識の中でも中々の美人がお出迎えだ。

陰鬱とした少しだけ明るくなった気がする。




えらい軽いノリで俺は異世界に転生していた。

クソみたいな現世とはビルの上からダイブしておさらばしてきたって訳。


まぁ死んで転生するなんて正直みても思ってなったが

異世界よ、待っていろ。俺はいろんなラノベや「なろう」を読んできた漢。

世界の『救い方』知ってっから任せろや。

伊達にニートで一日12時間以上、「なろう」を読み続けてない。

いろんな条件とか突きつけられて、一見クソみたいな条件付きつけられて

こんなゴミみたいな能力でどうするんだ?!と見せかけて

俺レベルの知能でも使いみちみつけちゃって無双できるのが定番。


中には現世のスペックが高いからリアルの能力つかって異世界無双するヤツがいるんだが

それは俺のスペックでは無理!つまりそれだと「なろう」的には成り立たない!

従って俺の転生先は必然的に俺に勝利の目がある内容になってないと面白くないから

きっと一見微妙そうにみえるけどクソ強い能力がもらえるに違いない。


そんな俺のウキウキに対してさきほど声をかけてきた女が

見るからに汚物を見るような目で俺のことを見てくる。


「……あの、何を想像して変な笑い方してるのかしらないですけどー

 気持ち悪いんでやめてくれます?」


俺は自らの容姿を見ることが出来なかったが

ずーたいはデブでブヨブヨのままなので

たぶん容姿もお察しの現世のままなのだろう。

なんなら衣服まで死んだ時のパジャマのママじゃん。

飛び降りたときについたとおもわしき大量の血の痕跡だけが生々しい。

少し気が利かない異世界に飛んだかもしれない。


まぁ俺は知っている。これは強スキルを貰えるための前フリ。

強い奴はなんらかのハンディキャップ背負ってないといけないんだよ。

外見が悪いぐらいなら異世界の中では最も軽いデメリットとも言えるし

大体異世界転生では「ブサイク」はモテないぐらいしかデメリット無いのに

クソ強い事が多い。女にモテたい気持ちがないわけではないが

無双する気持ちよさには代えがたいものもある。

なんなら結果的に無双するからモテるみたいのもあるからまだワンちゃんある。

敢えて受け入れようではないか!


「……あーもうなんでもいいんで、早速手続きの方に移ってもらっていいですか?」


女が煩いんで仕方ないから移動してやろう。

そういって女が開けたドアの先には……




部屋はまるで大きな銀行?とでもいったように横長に受付が広がっており

様々な冒険者の装いをした人々が行き交っている。


おー、この雰囲気を見るといよいよ本格的に異世界に飛んで来たって言う実感を感じるぜ!


「あー、一番手前の空いてる窓口、あそこ転生した新人受付なんで早く行ってどうぞ」


……一々俺の盛り上がりに水を差す女だ。だが容姿がいいから許そう。

なによりこれから俺の栄光の異世界デビューが始まるのだからな!




窓口にいる女性は先程の一周回って潔い程に俺を小馬鹿にしていたヤツとは違って

『冷静』に俺をダメなやつとして認識してくれたようだ。

先程から複数枚の紙に目を通しつつも時折俺の方を侮蔑した眼で見てくる。


うーんなんか俺が思ってる異世界ってもう少し転生者に優しいと思ったんだが?


しかしこっちはクール系だが眼鏡の似合う、やっぱり美人なので許してしまう俺がいる。

まぁ受付とかは美人が選ばれるのは現世でも転生先でもやっぱ同じだな。


窓口にいる女性はいかにも面倒くさうそうな態度と声で話しかけてきた。


「なんで転生してきたんですか? そのまま死ねばよかったのに……」


え? なんでって故意に転生したわけではないんですが……

しかも後半ただの悪口だよね?! いくらなんでもひどくね?!


「あのー基本的人権の尊重って言葉知ってますか?」


すると彼女はかけている眼鏡をすこしだけくいっとすると


「貴方がこちらに来る前の世界に存在した概念ですよね。一応勉強しましたよ」

「ふふふ、ならばいくら僕が醜い外見をしてるとしてるとしても

 最低限の敬意をはらいたまえ。君の良識が疑われるぞ、フハハハ」


「残念ながらこの世界では無職には人権がありません。 お疲れさまでした」


オイオイオイ、転生したばっかで無職に人権は無いって

それはいくらなんでも無理ゲーだろ常考。


すると彼女は「はぁ……」とめっちゃくそ深い溜め息をついて

先程目を通していた書類をこちらに見えるように提示された。

ぱっとみでわかったがこれは履歴書か。


ざっと目を通すが基本的になにか変わったところがある内容ではないが

強いて言えば死んだことが記載されているのが少し変わっているか。

あとは我ながらあっぱれと言わんばかりの空白がおおいことか?


クールなメガネっ娘さんはメガネをいじりつつも若干の苛つきをあらわあにしつつ

私の経歴に対して少し敢えて大声で朗読するかのように読み始めた。


「小学生までは物静かで優しい性格だったが中学校でいじめに会い不登校に。

 そこからはずっと死ぬまで引きこもりで、20歳まではソシャゲ三昧。

 課金は全て親のお金であり、課金は盗んででもやっていた」


往来が多い場所とは言え、それなりの声の大きさで言われたため

些か周りの目線痛い。

そこの子どもと奥さん?! 見ちゃいけませんよのアレしてませんでした?!

ショック受けるんでやめてくださいませんか?!


「まあ正直ここ自体はさほど重要ではないんですけどね」

「おい! 重要じゃないならやめーや! 異世界に来てまで純粋無垢な

 少年少女に後ろ指刺されたくないわ……」

「日頃の行いが悪いので仕方ないですね」


いやいやいや、たしかに褒められた行為ではないだろうけれども

もうちょっと優しくしてくれても良くない?!


彼女は再びメガネに少し手を当てると、話を続ける。


「我々の世界には、不定期にあなたのいた世界から転生者がやってくることがあり

 転生者はそちら側の世界で死亡することによって条件は不明ですが

 稀にコチラの世界に転生してくるようです」


転生者は俺以外にもいるのか……俺以外にもいるとなると

俺だけが俺TUEEEEEできない可能性が高いな。

もっと気持ちよくなれる世界が良かったが贅沢は言えないか。


「で、俺は早速何をすればいいんだ? この世界、救っちゃえばいいのかな?」

ドヤ顔で俺は彼女に向けて言ったが


彼女の凍てつく目線が突き刺さるのが辛い。


「転生者は我々の世界の冒険者とは異なり、前世の行いによる影響をとても強くうけます。

 一般の冒険者も素養の影響はありますが、転生者の場合はほぼ固定といってよく

 前世の職業と能力をもち、その成長率もほぼそこに特化することになります」


え?……じゃあ俺はどうなるんだ?

前世でなんてゲームしてたぐらいしかやったことはないぞ?


「じゃあ俺はゲームぐらいしかしてないから可能性は無限大?」


彼女の冷ややかな目線が射抜くように鋭さを増した。


「貴方の前歴を確認した上で適正がある職業は1つしかありませんでした」

「ほほう、で、この俺様に向いた職業って何よ?」



「遊び人、です」


おいおいおいおいおい、遊び人って職業じゃないじゃねーかよ!

思わず俺は台バンしてしまった。


「おいせめてギャンブラーと言ってくれ!」

「……ちょっと言っている意味がわからないです」


受付嬢はメガネをくいっっと上げて答えた。


「ぐぬぬ……そもそも遊び人って職業じゃないじゃねーか!」


なかば八つ当たり気味に俺はキレ散らかした。

なんで転生してまでクソみたいな人生設定されなきゃならねえんだ。


「確かに生前の行いが偏っていたために特定の職業しか選べない方は数名見てきましたが

 あなたの場合は自業自得なのでは?」


相変わらずこの受付嬢は冷ややかな目線をたまに俺に向ける。

……むしろ基本直視することすら殆どない。

転生してきたときの俺のハイテンションはすっかり意気消沈しつつあった。


そんな俺の前にどさっと一塊の袋と1本の素朴な短刀が置かれた。

受付嬢が取り出して机の上に置いたものだ。

相変わらず俺の目を見ずに彼女は言う。


「冒険者として登録された方には全員に支度金の1000Gと職業に見合った装備が支給されます

 あなたの場合は遊び人ですので支度金はやや多目の1200Gと短刀となります」


「冒険者として登録? 俺はそんなもんした覚えはないぞ?

 しかもこの世界がどんなもんかもしらないけど

 たかだか200Gと短刀もらって何しろっていうんだ!?」


するとこの女はまた「やれやれ」といった表情でこちらも見ずに冷めきった顔で続けた。


「まず我が国、ニッポンに転生された方は自動的に冒険者とする法律があります。

 話すと長くなるので簡単に言いますが、転生者は基本一般市民としての生活適性が

 極めて低いため、殆どの場合適正の高い冒険者にするのが最も得策であるからです」


おいおい、国の名前ニッポンって日本かよ。

俺の立場も大概だが一体何なんだこの世界は。

しかし俺の困惑を知ってか知らずかこのメガネ女は解説を続けた。


「また、遊び人への支給品ですが……」


メガネ女はコホンッとわざとらしく咳き込み話を続ける。


「これは慈悲です。正直適正遊び人を選択する人材に国は期待を寄せていません。

 しかし転生者がいきなり見ず知らずの土地に来て何も出来ないのは致し方ないことです。

 その中でも無能な職を選ぶものがいたとして、何も与えなければどうするでしょう」


メガネ女の放つ雰囲気の冷たさが更に増していく。

まるで人として見られていない気分。

なんで俺は転生してまでこんな思いをしなければいけないんだ。


俺は女の言うことを理解しつつも頭がぼんやりしていた。

そう、自殺したときや親に苛ついた時にキレそうになるあの時に近い。


しかしソレに釘を刺されるような言葉が俺に突き刺された。


「今の貴方の雰囲気のような人間は特にそうですが、ヤケになって周りに危害を加えるものが

 現れるのは想像に難くないです。むしろ一度そのようなことがありました。

 そんなことを国がいつまでも放置しておくと思いますか?」


そういい、メガネ女は俺が入ってきたところとは別の出入り口を一瞥した。

そこにはいかにも屈強そうな全身鎧に槍を地面に突き立てて当たりを見回している

警備兵が二人立っているのが見えた。


「遊び人を選んだ方にとってのその1200Gと短刀は、この国で大人しく生活していくための準備金です。

 正直この国で生活していくために1年でかかる費用は100Gほどです。

 短刀も売却すれば2000Gほどにはなるでしょう。それまでに手に職をつけて

 この国で生涯をまっとうしなさいという温情です。

 贅沢をしない場合は一生過ごせるレベルのお金ではありますよ」


……なるほど、この支度金っぽいもので贅沢しなければ一生ニートのように生活できるというわけだ。

しかしこの国にソシャゲはあるのか?なにをして退屈を潰せばいいのか?

流石に本ぐらいはあるとおもうが……。


少しだけ考え込んでいた時、俺の背後にカシャカシャと金属の擦れる音と合わせた

足音が聞こえてきた。


「何だアリス、新しい転生者か? あんまりいじめてやるなよ?」


――ふと振り返ると俺の背後には白銀の鎧に身をまとい、兜を左腕で抱えた

赤髪の女性が立っていた。


うーむ、めっちゃ好みだ。俺が死ぬ前にもしアニメの登場キャラとして見たら

フィギュアを絶対買うレベルだ。


鎧自体は基本的に殆ど実践的な無骨なものだが、シンプルな中にも少しだけ

華やかさを感じさせるようなデザインをしている。

まぁソレ以上に顔がいい。うむ。


アリスと呼ばれたクソメガネ女は相変わらず俺を汚物を見る目で一瞥したあと


「ゴミ処理も私の仕事の一環なので」


などと抜かしやがった。


「アハハハハハッ、相変わらず辛辣ねぇアリスは。それよりこの子は新しい転生者なんでしょ?

 君名前は何ていうの? ……っと私はユウっていうの。戦士をやってるわ」


このクソメガネと比べると天と地ほど、まるで天使かと思うほど暖かさを感じる人物だ。

自分は素直に答えることにした。名前だけ。


「……歩です。歩くって字の……」


ソレを聞くとユウさんは優しくほほえみつつ俺に語りかけた。


「アユムね、ああ因みにこの国には漢字の文化は無いから転生者は基本的に漢字はなくなるわ」


……ということを知っているということは


「ユウさんも転生者なんですか?」

「ああ、そうだよ。その時もアリスが担当でね、私も結構辛辣なこと言われたわよ。

 殴る蹴るぐらいしか脳が無いから戦士か格闘家でもやってれば?ってね」


ユウさんはそうニヤニヤした顔でクソメガネをみながらも楽しげだ。


「しかしあまり正確には聞き取れなかったけれども、君は何の職業が適正だったんだい?」


うっ……聞かれたくなかったことをド直球で。

などと迷ってる隙にこのクソメガネは勝手に


「最も生きる価値のない遊び人よ」


などといいやがった。

それをきいたユウさんはめちゃくちゃ大声で大笑いし始めた。


「アッハハハハハ、本当に転生者で遊び人っていたのね。前例あるの?」


うう……なんかこんな人の良さそうな人にそこまで笑われると惨めな気持ちだ。

しかしそんな俺の思いなんぞ無視してクソメガネは書類をとりだして確認し始めた。

さほど枚数もないところを見るとやはり転生者という存在自体が希少性が高いようだ。


クソメガネはメガネに手をかけつつ言った。


「一応過去に遊び人の適性が合った人はいたけれども、遊び人しか適正がなかったのは

 このゴミが初めてね。まごうことなきゴミよ」


別にゴミに生まれたくて生まれたわけじゃねえんだ……そこまで言わなくてもいいじゃないか。

しかしそんな俺にこのクソメガネは現実を突きつけてくる。


「顔に仕方なかったって書いてあるような、人間誰でも苦労してることを考慮しない

 ゴミに遠慮する必要性を感じないからゴミなりの対応をしてるだけよ」


……確かに人は誰しも困難を抱えてるものだ。

逃げ続けた俺がどうこういうものではないが、このクソメガネはいいすぎじゃないか?

俺はまるで家でニートをしていた時に親が叱りつけてきたのに

キレるような返答をしそうになった時だった


「一人では乗り越えられない事もある。 だけど今、私は貴方と出会った。

 ならばこの世界ならば貴方は立ち直れるかもしれない。違うかしら?」


俺が死ぬ前にこんな事を言ってくれる人はいただろうか。

なぜこの人はこんなに優しいのだろうか?

俺は決して風貌も褒められた物でもない。人格者なわけでもない。


こんな人がいれば俺は今まだああっちの世界にいたのかもしれないな……


俺は目頭が熱くなって泣きそうになっていた。

しかしちっぽけなプライドでそれを堪えていた。


「ユウ、貴方そうはいうけど、この子、本当に遊び人しか適正がないのよ。

 貴方は今や立派な戦士になったけれども……」


クソメガネはどうやらユウさんのことは評価しているらしいが

そのいいぶりから余計に自分の置かれている立場の絶望を感じた。


異世界転生して無双するなんていうのは所詮小説の中だけの話であって

現実はこんなものか。


するとユウさんは机に置かれていたお金と短刀を取りクソメガネに向かって言い放った。


「アリス、この子、私が面倒見るわ。 構わないわよね?」


クソメガネはやれやれと言った表情で


「まぁ好きにすれば……ただ引き取るなら、そいつがやけ起こして

 問題起こすような事態にだけはしないでよね」


といった。


「心配しないでよ―、とって食ったりしないからさ」

「そんな魔獣みたいな奴とって食ってもいいけど貴方のセンスを疑うわ」


なんか俺の尊厳と意思の自由は無いようだ……。






――そのままユウさんは俺を引きつれて町中を連れ回して簡単に案内をしてくれた。


そして案内もそこそこにユウさんは城下町を外れた広い草原に俺を連れてきたんだ。


手には一本の短刀。ユウさんは甲冑こそ身につけたままだが

兜と荷物は置いてあり、右手には40cm程度だろうか、細い枝を手にとっている。


『まずは君の能力を知りたい』


そう言われてこの状況である。

正直刃物なんて扱ったことはないが、喧嘩なんてことさらしたことがない。


俺はそのまま右手に持ったナイフを振りかざしてユウさんに振り下ろした。

万が一ということもあるかもと思い、意図的に少しゆっくりと振り下ろしたが

そんな甘い考えは一瞬で打ち砕かれる。


ユウさんは目にも留まらぬ速さで俺の左サイドに移動しながら同時に

移動力を駆使した体当たりを決めていた。


ユウさんは女性にしては身長が高めとは言え俺より身長が低く

かつ100kg超えの俺の体をやすやすと吹き飛ばしたのだ。


何メートル吹き飛ばされただろうか。

俺の場合、自分の体重が仇となって吹き飛ばされたことで自分で自分を潰して

痛みが倍増してる気がする。


「いつまでも寝転がってないで立ちなさい! もし相手が本当の敵だったら貴方追撃で殺されるわよ」


言葉は強いが叱咤激励のようなものを感じる。

これもユウさんの人格のなせるわざか。

俺も女性にそんな事を言われて痛いだけで寝転んで入られれない。


そうおもってがんばって立ち上がろうとしたのだが何故か立ち上がれない。

そもそも激しい運動自体をろくにしたことがないのだ。

自分の体のこともよくわかっていなかった。


その様子を見てさすがのユウさんも頭を抱えた様子で面目ないとしか言えなかった。


「とりあえず戦士並に鍛えろとは言わないけど、最低限動けるぐらい痩せないとダメそうね」


まったくもってそのとおりとしか言いようがなかった。

そのとき、ふと思い出したかのようにユウさんは俺に言った。


「遊び人って何かわざを使えるのかしら……」

「技……ですか?」

「そう、技よ。頭の中でぼんやりとでいいから、技を探すようなイメージをしてみて」


ぼんやりと……と言われてもなかなか難しい話なのだが

言われたとおりに試してみた……らすぐに一つだけ出てきた。


 『ビギナーズラック』


その他にはないだろうかと頭の中を探るように見てみたが

他のスキルは一切思い浮かばなかった。


どうやらこのスキルしか使えないようだ。

幸いなことにこのスキルなら今の俺でもすぐに使えるようだ。


「ユウさん、ビギナーズラックっていうスキルなら使えるようです」


……そういった瞬間、ユウさんの顔が一瞬硬直したように見えた。

少しだけ怖さを感じた。


「……他はないかしら? 今は使えないものも将来使える可能性のあるものが

 みえることもあるのだけれども、どう?」


「いえ、このスキル以外には……。 でもこれならすぐ使えるみたいですよ?」

「そのスキルのことは忘れないさい。 今後一切使用してはいけません」


いつもの豪快さと優しさに溢れたユウさんとは思えない剣幕で言われ

俺は「はい」としか答えることが出来なかった……。

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