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陰陽剣劇譚―カミナリ―  作者: 黄坂文人
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二十話 剣客の登校

「と、いうわけでな」

 累が、ここに来た経緯を説明する。九十九はその間、口は開きっぱなし。累の言葉など頭に入ってこなかった。

 累は、周りのざわめきを無視して喋り続けた。無視して、というより累が静めた。そのざわめきは一度ピークに達したが、累が人差し指を口に当ててシッ、と云って周りを見遣ると、皆口を噤んでしまった。この剣豪は、状況が分かっているのだろうか。

「それにしても凄いな、ここは。学問所というより城のようではないか。しかし、城にしては地味だがな。ははっ。ん?九十九?おーい」

 九十九の思考は完全に停止していた。どうすればいい。いや、もう見られた。どうにかごまかすしかない。

「あのぅ」

「ん、なんだ?」

 一輝が、おずおずと累に声を掛けた。

「えーっと……九十九のお知り合い?ですか?」

「……そうだ。む、昔からの馴染みでな……」

 苦しい。目が泳いでいる。何故、そうまで嘘が下手なのか。

「九十九!聞いてねぇぞっ。誰なんだ、このレイヤーのお姉さんはっ」

「そうだよ、阿原!紹介してっ。コスプレ配信、コスプレ配信!」

 一輝と蒼が、色めき立って九十九に詰め寄った。

「うわっ、馬鹿野郎!撮ってんじゃねぇっ」

 蒼は、様々な角度から累にスマートフォンを向け、撮影していた。

「小島にも云われたが……こすぷれとはなんだ?」

 一輝と蒼の興奮した様子に困惑顔の累。

「うわぁ~キレーイ。美人さんだねっ」

 楓は、目を輝かせて、累の周りをぐるぐる回っている。

「お、おい。君達は、九十九の友人か?」

「えぇ。そうです。中学からの腐れ縁。菊池一輝と言います」

「飯束蒼ですっ、動画撮っていいですか!?」

「秋川楓……です。はぁ~、髪キレーイッ」

 三者三様の自己紹介だ。一輝は、格好付けて紳士風を装っているが、ただの気障な男である。蒼は、動画配信者としての血が騒ぐのか、鼻息荒く非常に不気味だ。楓は、累の容姿に見惚れ、憧憬の眼差しを向けている。楓の頭の中には、妖精が舞っていることだろう。

 累は三人に向き直った。

「一輝、蒼、楓。いつも九十九が世話になっている。私は佐々木累。累と呼んでもらって構わない」

 凛とした面持ちに澄んだ声。堂々としたその姿に、おぉー、っと三人から歓声が上がった。

「だあぁっ!累!こっちに来い!」

「おい、九十九っ、何をするんだ!」

 九十九は、累の手を引いて廊下に連れ出した。途中、三人の抗議の声が聞こえた気がしたが無視した。

 廊下に出ると、教室のざわめきに釣られて、他クラスの生徒が集まってきていたが、その大衆を無視して向かい合った。

「お前どうすんだよ!家で待ってろって言ったのにっ」

「だから説明したではないかっ、昨日の黒猫がいたのだと!それに、私をいつまでも閉じ込めておけると思うなよっ」

「変な言い方をするんじゃねぇ!閉じ込めてたわけじゃねぇだろうがっ……何見てんだお前らぁ!」

 回りの生徒が九十九に奇異の目を向ける。まるで犯罪者でも見るように。九十九の学生生活が、罅割れる音が聞こえた気がした。

「変態」

「犯罪者」

「えっち」

 教室の出入口の端からひょこっと顔を出した一輝、蒼、楓の三人組が九十九をなじる。その表情はどれも子憎たらしいものであった。

「……引っ込んでろ、馬鹿共っ!」

「お前に言われたくねーよっ、バーカ!」

「そーだそーだ、アホー」

「バカって言う方がバカなんだよっ……えっと、この二枚目!」

「……楓。それ、馬鹿に出来てねぇぞ」

 呆れて楓に突っ込む。秋川楓は、人を批判するのに向かない人間なのだ。

 その時、三人が目を見開いて教室に引っ込んだ。目にもとまらぬ速さだった。

「は?」

「つ、九十九。こちらの方は……?」

 嫌な気配がする。これまでに幾度も感じてきた気配だ。こちらを押しつぶさんばかりの圧を背中に受ける。九十九は覚悟してゆっくりと振り向いた。

 はたして、そこには担任の岡村の姿があった。

「あっ……雪ちゃ、岡村先生……」

「……」

 九十九と岡村が向き合う。目線は同じ高さ。累も背は高い方だが、岡村はさらに長身で、一七五センチの九十九とそう変わらない背丈を誇っていた。

 同じ身長のはずなのに、岡村の方が大きく感じる。見下ろされているような感覚だ。無言の圧力が半端ではない。

「一体、何の騒ぎだ」

 眼鏡の奥の眼が、鋭い刃の如く九十九に突き刺さる。

「これは……その~」

「来い」

「はいっ」

「……君もだ」

「あ、あぁ」

 拒否など許されない。意気消沈した様子で岡村の後をついて歩く。九十九と累は職員室へ強制連行となった。

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