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Gin Laphroaigの追想1 

〜Serious story 1/3〜

 地球と空球は同時に創られた双子の天体だ。

その為か発展や情勢分析の比較対象になり易く、代々の統治神は皆、互い同士が対抗者だったと聞く。


 我らがこの世界を統治するようになったのは、2千年紀の後半だった。

前神たちも、程良く競い合ったのだろう。

大同小異な2つの世界は、どちらもルネサンスと呼ばれる、文化や芸術運動が活発に行われいた。


 そんなある日、地球神が許多の酒を抱えて空球にやってきた。

「初めまして。お近づきの印に酒盛りしない?」

今思えば、実に彼奴らしい。けれどこのお陰で我らは歴代とは違う関係を築き始める。

そして最も気に入った酒を自身の渾名とし、互いで呼び合うようになって行く。


 2人で幾度も話し合い、地球には科学を。空球には魔法を放散した。

ここから2つの世界は、これまでと打って変わり大異小同な発展をし出す。


 原初こそ空球は、異様な速度で一気に発展した。

けれど魔法は便利過ぎたのだろう。

不便さが魔法で緩和されてしまう故、探究心や好奇心が生まれないのだと思う。


例えばドレスが苦しくなくなる魔法、裾を踏まずにすむ魔法。

そういった緩和魔法があるから、ドレス自体を改善する方向には考えが及ばない。


交通もそうだ。きっと近い未来、瞬間移動の魔法が生み出されるだろう。

けれどそれまでは、不便ない程に緩和された、馬車や機関車が移動手段のままだろう。


反対に地球は魔法がない分、不便さを科学で補い大きく発展した。

服飾や交通も不便なものは廃れ、科学の力で新しく斬新なものへと生まれ変わっていく。


 3千年紀に入った今、どちらの世界も魅力的に発展したのだと思う。

何処か他人事なのは、数百年統治してきた我が世界に何の関心もなかったから。

たった一人の少女と出逢うまでは、心揺さぶられるものなど何一つ無かったのだからーー



********




「ねえジン、この子可愛いでしょ。こんな小さいのに孔雀みたいなオーラだし」

 ウォッカやジンなどと面白半分で互いに呼び合ってはいるが、我らに真名はない。

民たちが我らに勝手な名をつけ伝説を創り上げ、拠り所として縋るだけの存在だ。


 こちら側からしても人間など取るに足らず、河原の石と何ら変わりない。

未曾有の天変地異が起こらない限り、欲深い民の願いに手を貸すこともない。


 稀にウォッカや他神に頼まれ、転生者を受け入れることはあった。

けれど自分から頼んだことは一度もなく、何するわけもなくただ常世とこよから傍観するだけだ。


だから退屈凌ぎに、互いの世界を行き来する。

ただ例外で、意外にも地球の料理が好きだった。

研究心旺盛な科学の民が作り出す調味料の数々は興趣が尽きない。

そしてその日もまた、地球の料理を堪能すべく足を運んでいた。


 着いて早々ウォッカが、自室のディスプレーを指で数度小突きながら私へと告げる。

それは地球中で社会現象をも巻き起こした児童文学書を実写化した映画で、彼が指差す者は、そこに登場する子役の少女だ。


「お前はこのオーラを孔雀と表現するのか?」

「えぇ? ならジンにはどんな風に見えてるの?」

「まぁ、言い得て妙ではあるよ。目玉模様ではあるからな」

「はい? まさか、ジンには百目鬼にでも見えてるの?」


 百々目鬼とは、手癖の悪い女に金の精霊が目玉となって取り付き蝕む妖怪らしい。

けれど彼女のそれは違う。

幾多もの好奇の目と押さえつけるような監視の目が、彼女のオーラに気味の悪いほど貼り巡らされている。


唯でさえ凡人にはない特殊なオーラであるのに、この無数の目玉は年の頃10ほどの子が背負うには余りにも辛かろう。

だからなのか、他の要因もあるのかは未だに解らない。

けれど彼女の行く末がどうにも気になり、頻繁に地球へ訪れる様になって行ったーー




「ねぇ、あの小説やラノベって本当にジンが書いてるの?」

「いや、あれは空球うちで流行っているものを丸パクリ転載」

「だよねぇ。異世界転載なら著作権で揉めないし、やりたい放題だね!」

「その前に神を訴える者はいないだろ」


 我らの口から放たれることばは、全てを真実・事実に塗り替えてしまう力が宿る。

だからこそ民へ無用な発言をしないよう、現世うつしよには降りず、常世から眺めるものだ。

それなのに、何かを通した映像ではなく、直に彼女が見たいという誘惑に駆られた。


 人外ゆえ、人間の全てを掌握できる。

心の中を読み取ることも当然可能であり、先にも述べたように、詞に依って心とは裏腹に操ることすら出来る。

だからこそ我ら暗黙の禁忌として、統べる民の心は読めないよう術を掛けている。

数多の民が祈る度、その声や願いが聴こえてくるのは鬱陶しいからでもあるが。


けれど他世界の民に関しては、その限りでない。心も読めるし操れる。

そして彼女は地球の民であり、我が空球の民ではない。

だから私が不用意に話し掛けてしまえば、彼女の人生を狂わせてしまう。


さらに彼女は地球でも特殊な環境にいるため、間近で見るには其れなりの地位が必要だった。

そこで考えた。沈黙を貫けて、間近で彼女を見る方法を。

そして話せない小説家という地位を創り上げ、撮影現場に堂々と潜り込んだ。


 初めて直に見る彼女は、我らと同じ人外の機能が備わっているのではないかと疑う程に異彩を放っていた。

心の中と表情が真逆なのに、そこに微塵の嘘も感じさせない言行。

それは撮影中だけでなく休憩時でも同じで、平素から『三田園小桜』を演じているのだろう。


そんな彼女が唯一、ただならない張り詰めた空気を纏う時があった。

母親の登場。母親が現場を訪れ、優しく微笑み彼女に話しかける。

そして人気ない場所へ彼女を誘導した途端、それは聞こえてきた。


『痛いのはヤダ、痛いのはヤダ、痛いのはヤダ、痛いのはヤダ』


言葉に発せられない、誰にも聞こえない彼女の悲鳴。

内側から熱く沸くような、煮え滾るような、初めて経験する圧倒的な感情に見舞われた。


 直ちにマネージャーをその場へ動かし、彼女を公の場に連れ戻す。

そして何食わぬ顔で母親に近づき、他の誰にも聞えぬよう、通り掛けに詛を囁いた。

「悪夢を見よ」

母親の短い吸気が狭い通路に響く。けれど振り返ることなくその場を去った。



 この頃からきっと、我は彼女に囚われていたのだと思う。

何が作用し、こんなにも彼女だけに執着してしまうのかが解らない。

それでも彼女が我に齎すこの不思議な感覚に、戸惑いながらも高揚する。

凪ぎて虚ろな我の中に、様々な風を起こし続けるから。


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