<こんにちは。アミュレットに ようこそ>
想像されるのは、かのシャーロックホームズ全盛の、19世紀ヨーロッパ風異世界で良いと思いますのよ。
空はどんよりグレーですし、行き交う車両は馬車ですし、生まれながらの身分制度もウザったいですし?
ですけれどマジカルなワールドのため、インフラ整備は、あの青色猫型ロボットのポケットからでてきそうな塩梅で発展しておりますの。
それでも残念ながら『例のドア』はなく、天井にドゴンと頭をぶつけたりする移動呪文もないので、長距離移動手段は前面に変顔が描かれた、青や緑の機関車なのですけれど。
余談なのですが、この機関車には意思がありますのよ。それもハードコアな。
故に怒りに任せてスピードを上げたり脱線してみたり、些細なことでヘソを曲げ、機関車同士が喧嘩したりと面倒臭いことこの上ないんですの。
まぁ、サックリ纏めますと、ゴードンだらけな機関車だ。という認識で宜しいかと存じますわ。
さてさて、お話を戻してわたくし話を推し進めますわね。
実はわたくし、誘拐人間ですの。
や、闇に隠れて生きる『べ』のつく方々とは綺麗さっぱり違いますのよ?
アレは妖怪。わたくしは誘拐。
お間違いのないようお願いいたしますわ。
わたくしが以前に暮らしていた世界は、皆さま方がよくご存知の地球。
今居る世界は空球と申しまして、実はこの地球と空球を統べる今神同士が親友でしたの。
そして互いが視察という名目にて、互いの世界を頻繁に行き来しているのだとか。しかも現在進行形で。
それを伺って納得いたしましたわ。
互いの神々は自世界のお気に入りをアレコレ推すわけで、だからこそ相互の世界でその片鱗を垣間見るのだと……
確かに地球で暮らして居た頃は、前世の記憶持ちで異世界転生をするという物語が沢山出回っており、その多くの世界観が空球と大差ありませんでしたし、人気のRPGゲームや乙女ゲームなどの世界観も以下同文?
これは反対に空球にも言えることなのですけれど、ラーメンだのハンバーガーだのカレーだの、名詞もそのままに料理として登場いたしますし、初めて見回った王都でも「あ、これどっかで見た」と思わず呟いたデジャヴュ感満載な観光スポットがあちらこちらにありますの。
それでも全国展開をされているバーガー屋台名が、空球では『ムック』なのはちょっと、こう、
何やら、パテに赤いモジャゲが練り混ざっていそうでモヤっとしますぞ。色々。
ま、まぁ、この状況を纏めますと、それらを擦り合わせて謎解きをすれば、相互世界間の転生・召喚などは日常茶飯事なのではないか?と思うなりけりなのですわ……
けれども誘拐はわたくしが最初で最後だと、土下座平謝りする空球神が仰っていらしたので、そこは信じてさしあげようと思いますの。
「ほんとごめん! ゾノだけが本命だし2度としない。信じて!」
だなんて、妻に浮気がバレた夫のような言い方でしたけれども。
では何故、仮にも神という立場の方がそのようなことを仕出かしたのか。
それはわたくしの前職と、相互の世界がごちゃ混ぜなことに原因があるらしいのですわ。
地球でのわたくしは、世界的に知名度の高い『女優』たるジョブに就いておりましたの。
さらに流行の魔法学校物語が実写映画化されて、わたくしはそのヒロイン役を演じている時でしたわ。
「ゾノに見惚れて心の臓が止まるかと思ったよ。気づいたら床にポップコーンをばら撒いてたし」
このように、地球視察へいらした空球神がその映画を観て、わたくしを見初めてしまったという嘘臭い経緯なのですけれど……
神様とは、雲の上から下界の様子を見ているというイメージでしたけれど、ちゃっかり映画館で鑑賞などするのですわね。
しかもポップコーン片手に。
というよりも、攫われ時空移動中の狭間で彼が空球神と名乗った時、わたくしから放たれた第一声はこうでしたわ。
「えぇ? 貴方は話せない小説家さんでしょ?! なんで喋れるの?!」
イケメン外国人小説家! 小泉八雲の再来! 緘黙のラノベ作家!とかなんとか持て囃されていたのですよ、彼。
薄々悟ってはおりましたけれど、空球に舞い降りて確信となりましたわ。
彼は自世界の史実を、地球にてラブファンタジーラノベとして書籍化してやがりましたのよっ!
しかもご丁寧にコミカライズまで。
と、まぁ、こんなあまりにも勝手な理由でわたくしは、積み上げてきた何もかもを失いましたから、もうありとあらゆる罵詈雑言を放ちたかったのですけれど、流石に神と名のつく方ですからその後が恐ろしいので、仕方なし最小限に詰め込んだ怒りを放出して差し上げましたわ。
「お前は暇かっ! そこに正座っ!」