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ギルビーは こんらんした

 ギルビー様は街に所用があるとのことでその場を去り、神閣下に抱き上げられて、難なくシルバ様の背に乗らせていただきましたの。

初めて見るそこからの景色は、マンション3階のベランダから身を乗り出した世界といった具合ですが、手すりなどがございませんから、少々ぞわっといたしますわ。


 実はわたくし、元世界では絶叫マシン愛好家でございましたの。

余暇を無理矢理捥ぎ取っては、各国のマシン制覇に勤しんでいたものですわ。


それだけにシルバ様との飛行が楽しみ過ぎて、神閣下がわたくしをお姫様抱っこをしようが、神閣下がわたくしを背後から抱きしめようが、それはそれでアトラクションの一部だと思っておりましたの。

大体、腹部に回る神閣下の腕など、コースターの安全バーみたいなものでございましょう?


「ゴッドハンドを何だと思ってんだお前……」


 まぁ、確かにそうね。しかも本物だし。でもなんかちょっと、こう、

思い描くゴッドハンドと神閣下の腕は、似て非なるものな気がするのはどうしてだ。


「かっ! もういい出発するっ! ハイヨーシルバーっ!」


 あ、やっぱ言うんだ、それ。シルバ様の名を聞いた時から言いそうな気がしたよ、それ。

神閣下がいつから生きてるのかは怖くて聞けませんが、それ、元ネタは50年代の西部劇ですよね?

大概、監督とかスポンサーとかのお偉いおじ様方が、知ってて当然かの如く意気揚々とそれを言うわけですよ。

前職柄、結構昔の作品も参考の為に観ましたよ? えぇ観ました。

だけどもう、そこまで遡るのはキツイんですよね。まだ若いんで。youと違って。

大体さぁ、ミレニアムにフィフティーズを語られても、半世紀前だよ?半世紀。

なのになんで、どういう思考回路をもってすれば話が通じ


「あーあーあー聞こえなーい。うるさい黙れ! カプッ」



********



 はたと目覚め周りを見渡すと、豪華絢爛レースなクイーンサイズの天蓋付きベッドで寝ておりましたの。

状況把握に勤しめば勤しむほど、苛立ちと悔しさで押し潰されそうになるのですが、このやり場のない怒りはどちらへぶつけたら宜しいのでしょうか?

などと考えておりましたら、向こうから現れてくださいましたよ、サンドバッグが。


「気がついたかい? ハニー」

「ちっ」

「め、目覚めた途端の神へ舌打ちって、どうなのお前……」


 はん。舌打ちされて当然ですわ。あれだけ楽しみにしていた、シルバ様との飛行記憶が一切ございませんのよ?

それもそのはず。神閣下がわたくしの首をカプっと噛み、この乙女の稀血を気絶するまで飲み干


「飲んでません。飲むかアホ!」


……。


最近、被り気味に話すよね。最後まで言えなくて不完全燃焼だよ。喋ってはいないけど。

でも血を欲せずしてなぜ首を噛むの? ほら道理が立たないじゃん。だからやっぱり血を飲


「飲みません。吸血鬼じゃなく神なんで。神。神ね? わかる? 神」 


だっt

「飲んでません」


一生お酒を(超早口)

「飲みません! っあ…」




 そんなこんなと遣り合っているところへ、所用を済ませたギルビー様が戻っていらっしゃいましたの。

「ゾノ倒れちゃったんだって? もう! ジンがまた何かしたんでしょ!」


 わたくしを思い遣る言葉で、神閣下を責め立ててくださりありがとう。もっと言っていただいても可。

けれど何やら服や声質は同じでも、先程とは様変わりしたギルビー様の口調に、違和感を感じてしまうのですが。


「ウォッカ、誤解を招くから人聞きの悪い物言いはやめろ」


ん? ジンとウォッカ? その黒い組織な方々っぽい名前に聞き覚えがありますぞ?

いや、ムックじゃなくて、あれ? ウォッカって地球の神のあだ名じゃなかった?


「ふふ。初めましてだねゾノ。ちょっとギルビーの肉体を借りて入らせてもらったんだよ」


神閣下が地球でラノベ作家として遊んでいたように、地球神は空球で執事ごっこをしているということでよろしいのでしょうかね。暇か。

入らせてもらったということは、ギルビー様は依り代であり、本物ギルビー様もちゃんと存在するということでよろしいのでしょうかね。暇か。


「あははっ! あってるあってる、暇だし!」

「我は暇ではないし、地球で遊んでいたわけでもない」

「あ、でもね? 本物のギルビーも、そこそこの読心術は心得てるから気をつけてね!」


 間に挟まっている神閣下台詞は左耳から右耳にさくっと通過させるとして、地球神の台詞は聞き捨てならないお話でしたので詳しくお聞きいたしましたの。


 このラフロイグ辺境領は3国に囲まれた国境を守るべく、龍王シルバを始めとする天災級の魔物や、戦闘に長けた特殊技能を持つ魔人が多く集っているのだそうですの。

確かに辺境領駅で下車してから、ケモ耳さんやトンガリ耳さんとの遭遇率が高いと思っておりましたけれど、そのような事情でしたのね。


そしてギルビー様はその中でも魔人に属する天使族であり、天使族の得意分野は精神制御。

つまり、他人の精神状態を読み取ったり、暗示をかけて支配したりなど、俗に言うマインドコントロールのようなものらしいのですわ。

まぁ、あくまで天使であり、あくまで悪魔ではないのが残念ですわ。ややこしいけれど。


「それから、ジンは何もゾノに教えてあげてないみたいだから、僕から解説しておくね。ゾノの持つ通称モブチートはーー」


 更に地球新ウォッカ様が、わたくしの持つモブチート魔法を細かく解説してくださいましたの。


まず、危険を素早く察知し回避する『危機管理察知』

そして、自分の姿を隠してしまう『穏形』

さらに、半径1mの『結界』と『空間支配』


半径1mというのがちょっとなにやらアレですけれど、こちら4点が、ファラオの呪い動作で無詠唱にて発動するとのことですわ。


「攻撃魔法や回復魔法は使えないから、ヤバイと思ったら、逃げる! モブる! を徹底してね?」


なるほど。空球に来てから早数年、攻撃回復どころか火を起こすなどの補助魔法すら使えないと思っておりましたけれど、逃げることにスキル全振りでございましたのね。


そして最後にこう告げながらわたくしの額に口づけをし、加護を与えてくださいましたの。


「あ、そろそろ僕帰らなきゃ。ゾノ、何度も言うけど、ここは王都王宮と違うから本当に気をつけるんだよ? チュ」


けれどここでウォッカ様は意識を手放し、本物のギルビー様と入れ替わった為、阿鼻叫喚な地獄絵図が展開されたのでございますーー



「いやああああああああああああああ〜っ! 貴様、俺のサラになんてことを!!」

「うわああああああああああああああ〜っ! 閣下、誤解です! 私はなんてことを!!」


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