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<はぐれゾノBは にげだした!!>

 やって来ましたラフロイグ辺境領。

こちらの世界では海外どころか王都以外を存じませんし、旅行も観光もしたことがございませんでしたから

「トーマス乗車の一人旅をしながら、のんびりおいでハニー」

たる神閣下の提案を受けて固まり、気付いたら機関車の旅を1週間も掛けて無事到着いたしましたわ。


「動向は常にチェックしてるから安心していいよ?」

たる神閣下のストーカー台詞を受けて固まり、ましたけれど…なんかもう今更でございますよね。色々。


あ、1週間も掛かる程のガチ目の辺境ではなく、単にわたくしが事件に巻き込まれたりしたため予定より大幅に遅れての到着ですの。

順調ならば関東から関西ほどの距離ですから、機関車でも1日で着きますわ。


「でも流石に遅すぎだよね? あの事件は仕方ないとしても、乗車するまでに3日かかるとかナメてんの?」

 駅まで出迎えてくださった神閣下に、着いて早々嫌味を放たれましたが、丸っとスルーで宜しくどうぞ。

そんな戯言よりも現実的に、いや物理的に即対応をしなければならないことがあるので仕方ございませんわ。


「寒っ。どこにもアウター売ってないんだけど、何でみんなそんなに薄着でいられるの?」


 王都は万年常春なので上着の必要性を感じなかったのですけれど、辺境領の体感季節は柚子欲する冬至。

それなのに行き交う皆様全員が、王都同様の薄々ペラペラ春仕様。

さらに服屋台にもどこにも、コートなどの上着類が売られていないため、寒くてたまらなかったのですわ。

そこでその疑問に答えるべく神閣下が腰を降り、わたくしの髪を耳へ掛けながら耳元でそっと呪文を唱えましたの。


「チュッ」


 その呪文の苛烈さに気を失いかけましたけれども、閣下は神だけに、無詠唱の魔法を躊躇いなくお使いになっていたはず。

このコレも、防寒魔法をわたくしに施してくださったのですが、無詠唱を誇っていらっしゃるならば、擬音語を言う必要なかったですよね?


「ねぇ、そんなことより犯人は誰だったの?」

疚しいことのある者は大きく話を逸らす。を地で行く神閣下は、偉く目を輝かせながら、わたくしが巻き込まれた事件の話をしはじめましたわ。


「大雪で止まった機関車。そこに見つかった死体。跳ね上がった口髭の探偵ーー」


いや、うん。確かに簡単明瞭に言えばそうね。そう。

でもそれ、オリエントな殺人事件のキャッチコピーに聞こえるよね?


「そそ! だからさ、やっぱ犯人はアガサる感じ?」


出たよ、体言プラス『る形』の若者言葉。

ググる、ディスる、キョどる、アガサる……って、あれ? アガサるは知らない。何それ美味しいの?


「察してよ。ネタバレはやばいでしょ」


あー、はいはい、なるほど。アガサるとは、小説と同じ結末という意味なのね。

でもさ、動向はチェックしてるんじゃなかったの? どーせ知ってるよね結末。

いや正確には、旅の余興として神閣下が仕組んだオリエント小芝居だよね、アレ。


「っ! 君をやっとこの地に迎え入れることが幸せすぎて、時が経つのも忘れてしまったよ」


いやいや、偉く目を泳がせながらすっとぼけてもダメだから。完全に図星だったんだね。

だからこの際ハッキリ言わせてもらいましょう。


犯人はお前だっ!



「うっさい黙れ。そ、そうだ、紹介するよ。侍従のギルビーだ」


黙れも何も、ほぼほぼ喋っていないですが。

勝手に心の中を読んでのソレってどうなの、神として。しかもあんな巧妙なアガサトリックトレインまで用意して。

って待て。突如神閣下の背後に現れた、そのコスプレ臭半端ない殿方はもしや?


「お初にお目に掛かります。私、ラフロイグ公ジン様の侍従、ギルビー・スミノフと申します。お会い出来たことを心より嬉しく存じます」


ファーーっ!黒い執事キターーっ!

懐中時計のチェーンジャラジャラ具合とか仕草とか、それはもう紛れもなく、あくまで執事な感じで。

やばい。イエス・マイ・ロードって言って欲しい。


「ダッチェス、生憎でございますが閣下は公爵デュークですので、そのような敬称ではお呼び致し兼ねます」


あーねー。本当にややこしいよね。

公爵プリンス公爵デューク侯爵マーキスの違いとかさ?

それに伴う夫人の呼び方だとか、子息令嬢の呼び方だとかって…あれ? 今私を公爵夫人ダッチェスって呼ばなかった?


「イエス・ダッチェス」


いやいや、そんな白手袋をお腹に添えて辞儀をされても、公爵夫人じゃないので困ります。

公爵家の家政婦としてこちらに伺ったのですが、この勘違いをどう訂正したら良いのでしょう。

というか、物凄く大事なことを見落としているような?

いや、名前がウイスキーじゃなくてウォッカだとかじゃなくて、なんだっけ?


そこで正確な指摘を、神閣下自らがしてくれましたとさ。


「ギルビーが、読心術をマスターしてるからじゃない?」


そうじゃん! そうだよ! まだ喋ってないじゃん一言も!

つまりセバスチャじゃなく、ギルビー様も心を読めてるってことだよね?

大体、何その読心術マスターって。そんなチートがあってたまるか怖いな異世界!


「チートじゃないよ。身体や表情の筋肉の動きから心を読み取る術で、ギルビーの鍛錬の賜物だよ?」


そっか、そうだよね。頑張ったんだねセバっギルビー様。神閣下とは雲泥だね。

これから上司になる方だし、ちゃんとご挨拶をして誤解も解かなくては。

最初が肝心だし、言葉で返答する前でよかったよ。

第一声が奇声だなんて、頑張るセバっギルビー様に対して失礼だし、黒い執事どころか黒歴史になっちゃうもんね。



「いえいえ、侍従たるもの、このくらいのことできなくてどうします?」

「ファーーーーーーっ!!」




********




 これより駅から邸までの移動手段は、辺境ラフロイグ領ならではなのだそうですわ。

地球で言うところの駅前ロータリーのど真ん中が、ヘリポートのような造りになっておりまして、HではなくDの文字を丸で囲んでありますの。

そして轟音と共にそちらのHポートならぬ Dポートへ飛来したのは、そう、お待たせいたしましたわ、ドラゴンちゃんですのよ!


「龍の背に乗って移動するんだよ。我の龍は特殊な銀色なんだ」


 ドラゴンと龍は、微妙に描くイメージが違いますわよね。

龍と言うと蛇の上位互換と申しますか、坊や良い子だ的なウニョっと長いイメージ。

片やドラゴンは紋章に使われるような、翼あるワイバーン的なイメージ。


けれど発表させていただきますわ。

こちらのドラゴンの見た目は、ミュ◯ツーです。

てっきりポケットなモンスターのハク◯ューか、その進化系のカイ◯ューだと思って居たのですが、予想外の変化球を投げつけられた気分です。


「嘘でしょ! 逆襲されずに銀の龍の背に乗れるなんて!」

「んー、ハニー? あんまりハッキリ言っちゃうと、ジャスラ◯クから戦いを挑まれちゃうから止めようね?」


 無理です。もう色々いっぱいいっぱい脳内エンドレスで、孤島のお医者様奮闘記な主題歌が流れまくってます。

どこかの砂漠へ、なにかの渦を運べちゃうほど。


「おいでハニー。シルバが挨拶をしたいって」


 どうやらドラゴンの名はシルバと言うらしい。見た目は明らかミュウ◯ーなのに。

そんなシルバの首元を神閣下がポンポンと撫で叩くと、たちまち地響きが起きて足元がふらついた。

猫が喉を鳴らすような心地よい音色を、腹の底から這い出るように変化させて奏でるシルバはネコ科じゃないと思う。多分。


「グォォォォォ!」


 怖くないと言ったら嘘になる。

ドラゴン特有のファイヤーブレスだなんて放たれたら、煤まみれ髪逆立ちなド◯フのコントだし。

だが敢えて言おう。挨拶だと言いつつ発せられたその覇気ロゴの戦い、元女優の名に掛けて受けて立つ!


「ゴゴゴゴゴゴッ!」


覇気を纏い炎のようにそれを放出するイメージで吠える。

左足を一歩前に出し、両手は眩しさから顔を隠すように広げ掲げて、首を傾け叫んだ。


「王道、仗助立ち見参っ!」


奥義名を叫んだ瞬間、シルバの鋭く息を飲む気配がする。決まった、決まったな。

だから北叟笑ほくそえみながら、開いた手の隙間からシルバを見やる。

ところがシルバは立ち上がり、右手で胸元を真横へ引っ張っり吠えた。


「ゴォォォォォ!」


そ、それはジョルノ立ち…、服を着てないクセに完璧に体現したわね!

負けられない。元女優の根性見せてさしあげるわ!


「ドドドドドドド!」


斜に構えて手をクロスさせ、左手は狐。右手指を天に向ける。覇気イメージは高潔だ。


「くらえ 花京い」

「ねぇ、どうでもいいけど、その効果音は口に出さなきゃダメなの?」


シルバに向けた必殺技名を神閣下に遮られ、無性に腹が立つ。

が、もっと苛立つことを問われたので、言い返さずには居られないのがオタクの定め。


「はぁ? 当たり前でしょ? 覇気音は口に出さなきゃダメ絶対!」

「へ、へぇ……」


 ここでシルバの威圧覇気が、図らずも消えた。

おそらく場を読めないKY神閣下のせいで、戦意が萎えたのだろう。

それならば久々の好敵手に、戦い後のご挨拶をスポーツマンシップに則り送ろうと思う。


「シルバ様、お見事でございましたわ」


神閣下が止めるのも制止しシルバへ歩み寄り、右手を差し出し握手を求めた。

けれどシルバは遥か頭上から頭を垂れて、とてもフランクにチークキスを恵んでくれたーー




「あははっっはははっ! 龍王とハグキスするって流石ゾノ、ウケる!ヒィ〜苦し〜っ」

黒モーニング腹部に白手袋押し当て笑い転げる侍従を、神閣下が嗜める。


「ウォッカ、お前は今、黒い侍従だってことを忘れるな?」

「無理だよ無理無理! あははっゾノ可愛い〜!」

「お、おまっ! ぶっとばす!」



このようなお話が行われて居たことなど露知らず、ライバルと認め合った龍王シルバとわたくしは、さらに拳を合わせ合うのだった。


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