<よくぞきた! ゆうかんなる ミタゾノよ>
異世界神に見初められ、時空を超えて攫われた見目麗しきミタゾノさん。
その強引さに憤慨し、平謝りを続ける神様に取り付けた約束は……
最強の『モブ』になれるというおかしなチートなのでした。
そして本日も?
どこまでも艶やかに、どこででも赫々眩く際立ちまくりながら
土壇場で気配を消し去りモブと化し、壁チラしますよミタゾノさん!
「ミタゾノ様! これより勇者様ご一行がお見えになるそうです!」
淑女行儀見習い奉公中だというのに、ノックもなく執務室へ飛び込んできた掃除婦が、鼻息も荒くわたくしへと告げる。
らしくない彼女が齎したそれは、確かに我を忘れるほどとても厄介だ。
なので読みかけの報告書を引き出しに仕舞い、すくと立ち上がりその場にいる全員へ通達する。
それは一気に。めちゃくちゃ早口で。当然ノーブレスはお約束っ!
「厨房に樽2つを用意しどちらか1つに金貨5枚を! 兵士待機所の箪笥にはマジカルな鎧とモモヒキを1点ずつ収納! 廊下には素焼きの種入りツボをそれとなくあちらこちらに配置! その他は魔法の鍵以上の宝物庫へ厳重に隔離してくださいませ!」
「「「「「はいっ!」」」」
********
冒頭から失礼仕りましたわ。
風薫る季節、皆様におかれましてはますますご清祥のこととお喜び申し上げますのよ。
わたくし、アミュレット王国 王宮家政婦長の『ミタゾノ』と申します。
以後お見知り置きくださいませね。
初見のみなさまには初っ端からの愚痴で恐縮ですけれど、この世界の勇者さま方には少々手を焼いておりますの。
なぜなら、パーティ全員が直列でカクカクと移動し、誰が見ていようがおかまいなし。
王の寝室だろうが牢屋だろうが、館内のありとあらゆる…ツボ!タル!タンス!を破壊しまくる盗人猛々しいことこの上ないのです。
ですからこれがこの世界の仕来りとは言え、そんな光景を何度となく静観熟し、辿り着いた答えは……
経費削減の勇者仕様一択っ!
わたくしも意外ではあったのですが、勇者さまは唯一ではなく、各地で大勢生誕されておりますの。
その大概の勇者さまが、我が国王への拝謁を申し出でるのですわ。
そして全てを隠し去ればさったで、シケてるなどと舌打ちをいただいてしまうため、このように宝を偽装するのですけれど……
盗賊を仲間にされている勇者さまがおりまして、そのお方がクンクンと盗賊の鼻をお使いになると、宝やアイテムの有無がだだ漏れなのも困りものなのですの。
さらに最上級の盗賊頭ですと、「レミなんたら〜」などとフロアごとに叫ばれ、隠していた宝が光ってしまったりするので殊更注意が必要なのですわ。
さて! 次号からの第1章全編は、わたくしの過去回想編となりますわ。
Here we go! でございますのよ。