表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

3



ぼんやりと椅子に座り、窓越しに空を自由に飛ぶ二匹の鳥を見つめる。番だろうか……どうか幸せにと心の中で呟く。


するとドアをノックする音が聞こえ、返事を返す。アデル様と家族全員が入って来た。何事かと私が怯えの表情を見せると、アデル様が優しい声で私を宥める。


「ラナ……大丈夫だ。今日はその……君の記憶を見ようと思って……嫌なら言ってくれ」


「私の記憶……?どうやって見るというのですか?」


「この魔導具で見ることが出来る。強さを変えればその記憶を体験することも出来る。これは尋問用の魔導具だ、、、あまり勧められた物じゃないが、私達が君にしたという記憶を、私とベルフリード公爵達で体感し、君の事を少しでも歩み寄れればと……」


見られたくない。あんな地獄の日々を、辱めを受け続けた日々を。だが、私の中のドロドロとした部分が見せて、同じ苦痛を味わわさせてやれと囁く。それが甘美な言葉に聞こえ、私は頷いた。


首輪の様な魔導具を付け、父も母も弟も、そしてアデル様も魔導具を付けた。私の記憶を体感するレベルで見るらしい。お母様は耐えられるかしら?


「それでは、始めるとしようか……ラナ、大丈夫。君には見えない様に改良した物だから」


私の首輪が淡い光を放ち、それは一瞬の出来事だった。 





「やめて!!痛い!!痛い!!」

「殴らないで!!お願いします!!言う通りにしますから!!」

「嫌あああえ!!もう嫌ああああ!!」

「誰か殺してええ!!もう死なせてええええ!!」





父は無言で涙を流し、母は泣き叫び、弟は震えて項垂れている。アデル様は顔を真っ青にし、口に手を当てていた。


「これが君の記憶……」


「ラナ!!ラナ!!許して、ラナ!!」


お母様が泣き叫び、私に泣き縋る。お母様には刺激が強かったのだろう。何しろ同じ女だ。あの屈辱は耐えられないだろう。


「お母様、謝る必要は無いですよ。私を地獄に堕としたのは一度目の世界のお母様なんですから」


「ラナ、ラナ、ラナ、、ああああああ!!」


「なんて私達は愚かな……」


「姉上……俺は……こんな……」


私は薄く微笑み首を傾げ、アデル様達を見据える。こんな汚れた私を貴方達は愛せますか?


「ラナ……そうだ……あの日私は目が覚めて……」


アデル様が急に私の両手を取り、額に当てる。私は薄く微笑むだけで何も言わない。


「すまなかった、君が生きていてくれた事が何よりも嬉しい」


それは幾度と聞いた懺悔の言葉。今迄に無く重い言葉だった。私の凍った心が動く。少しずつ溶け出す様に。


「アデル様、もう良いのです。これは過去の記憶、今世では繰り返されなかった歴史です。でも、私は汚い存在です。それでも貴方は私を婚約者にしますか?」


「ラナ、君は汚くなんか無い。ラナ、君はどうしたい?修道院に入るか、私の正式な婚約者になってくれるか……」


「私は……」


一度目の人生は地獄の様な日々だった。だが何故か二度目に戻りまた繰り返すのかと思った。だが、実際には繰り返されず平凡な日常が過ぎて行く。信じてもいいのだろうか、また地獄の日々がやって来るとは限らない。だが、私の過去を体験したアデル様の言葉を信用したいが、怖い。もしかしたらまた繰り返すかもしれない。


「私は……修道院に入りたいと思います」


「そうか……分かった。修道院への手続きをしよう」


家族も涙を流しながらも反対する者はいなかった。これで良いのだ。一度目の記憶とはいえ、そう簡単に傷は癒えやしない。私を蔑む目、私を殴りながら犯す男達。消えて欲しいのに消えてくれない残像。


私の生きる道はこれしか無いのだ。




ーーーーーーーーーー




今日やっと私は本当の意味で自由になる。修道院まで行く間、アデル様が同行を求めた。馬車には二人っきり。馬車にはあまり良い思い出がない。行き着く先がまた裏町だったらどうしようと、不安が押し寄せる。心臓がばくばくとなり、耳鳴りがする。


「大丈夫だ、ラナ。ちゃんと修道院に向かっている」


「……分かってはいるのですが、すみません」


「ラナ、私の願いは君が生きて幸せになる事だ。数年間もの間、婚約者候補として辛い思いをさせてすまなかった」


「もう、謝罪は受けとりました。……アデル様、貴方はもう私に囚われなくて良いのです。貴方ももう自由なのですから」


アデル様に優しく微笑みかける。アデル様は綺麗な瞳から涙を溢れさせ俯く。私は持っていたハンカチでアデル様の涙を拭ってあげる。 


「ラナ……ラナ……愛してる」


「アデル様……愛してました」


馬車が修道院に着き、私達は最後の別れを告げる。するとアデル様が私の手を取り言葉を紡ぐ。



「約束する。何度繰り返すことになっても必ず君を守ってみせる」


「……アデル様?」


アデル様は涙で歪んだ不格好な笑みで私に笑いかけた。私も何故か涙が溢れ、不格好な笑みを返す。


願わくば、もう繰り返さぬよう。




修道院エンド

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] かなり悲惨な目にあっても、多少の嫌悪感程度で終わり、その原因 であるにも関わらず、呆気なく再び恋する……。 その程度で許せるのなら、この主人公にとっては強姦されようが 拷問されようが、たいし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ