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戦場でのおにロリ

作者: seizansou

葉加瀬冬雪さんの以下のツイートを基に書いてみました。

解釈間違ってたらごめんなさい。

https://twitter.com/Hakase_Fuyuki/status/1253252456919654401

https://twitter.com/Hakase_Fuyuki/status/1253255589158768643

 バラバラバラ、と轟音を振りまきながらヘリがゆっくりと地面に着陸する。

 その周辺は元は途上国の街だったのだろうか、家屋の土壁や、簡素だったであろうビルが崩れおちて、あちこちに残骸が転がっている。それが今はあちこちにテントが設営してあり、前線基地の様相を呈していた。

 ヘリのメインローターの回転数が下がりはじめた頃に、側面の扉が開いた。最初に都市迷彩に身を包んだ兵士が一人、そしてそれに続くように二人の人間が地面に足をつけた。

 周囲では都市迷彩に身を包んだ兵士たちが忙しなく作業をしている中で、その二人は明らかに異質だった。

 一人は男性。すらりとした長い手足が、黒いスーツに包まれている。目尻は少しさがっているが、当人が放っている雰囲気から、優しさは感じられず、逆に容赦のなさが感じられる。古風な執事のようにオールバックに固められた栗毛色の髪を神経質そうになでると、眩しそうに目を細めた。

 もう一人は幼い女の子。その年代はおよそ小学校、というよりはエレメンタリースクールと言った方が彼女の雰囲気に合っているだろうか。ブロンドの髪に青い目という、典型的な西洋の女の子だった。こちらも黒い服ではあるが、明らかに場違いな服装だった。黒いヘッドドレス、編み上げのブーツ、そして最も目につくのが、生地の端を華美に装飾した、中世ヨーロッパを連想させるドレス。いわゆるゴスロリといわれるような服装だった。胸元には、年相応ともとれるウサギのぬいぐるみ。明らかに場違いなものではあるが、服装と年代にはふさわしい、というちぐはぐな状態だった。

 もし二人が立っている場所が洋館ならば、執事と家主の娘にもみえただろう。だが、周囲は崩れた市街の跡と急ごしらえのテントばかりで、二人はひたすらに異質だった。

「状況は?」

 スーツ姿の男が、駆け寄ってきた兵士にたずねた。

「先刻から変化はありません。予定通りに行動願います」

「らーじゃー」

 舌足らずな声で、少女が男の代わりに返答する。

「行くぞ、フェレット」

 男はヘリから子供を一人いれても余裕がありそうな、巨大なアタッシュケースを取り出しながら、少女に声をかける。

「気安く呼ばないでよ、アンティーク」

 年相応にすねた態度で、だけれど少し背伸びをして大人びた風に、フェレットと呼ばれた少女が応えた。

 アンティークと呼ばれたスーツ姿の男は不機嫌そうに鼻をならすと、前線基地の先、崩れた市街に向かって歩き出した。

 少女もその後をついて、しかし後を歩くのは不服とばかりに、男の隣を少し早足で歩いて行く。

「軍曹」

 二人の姿が遠くなった頃、二人と一緒にヘリを出てきた兵士に向かって、ある兵士が声をかける。

「なんだ?」

「あの二人は一体なんなんですか」

「知らん。私が聞かされていることは一つだけだ」

「一つ?」

「これから全員に通達が行くはずだが」

 軍曹と呼ばれた男が少しだけ逡巡するようにして続ける。

「指示があるまでは何が起きても待機、絶対に近づくな、だとさ」


「ちょっと、少しはゆっくり歩きなさいよ」

 フェレットと呼ばれた少女が男に不満をぶつける。

「知るか。そんな歩きづらい格好をしてるのが悪いんだろ」

 アンティークと呼ばれた男は構わずに歩を進める。

「服装は関係ないわよ。あんたの手足が無駄に長いせいじゃない。少しは頭を使ったら? 骨董品」

「うるせえわめくな、このイタチが。俺はさっさと帰ってココアを飲みたいんだよ」

「大人のくせにココアなんて。まるで子供ね。わたしだったらそこは優雅に紅茶を頂くところだわ」

「いちいち人の好みに口出すな。だいたいお前、この前備蓄の砂糖にまで手を出してたんじゃなかったか? どっちが子供なんだかね」

「う、うるさいわね! 砂糖はたまたま切らしてただけよ! ああもう! 『あんたたち』がいるからこんな男と一緒に居なきゃいけないのよ!」

 少女のその言葉を合図にするかのように、男は少女の背中に移動して、少女と背を合わせるように腰をおろした。そしてアタッシュケースから様々な機械のパーツを取りだし、素早く組み立てていく。

 少女は抱えていたぬいぐるみを、それについていた紐で肩掛けバッグのようにする。

 男がパーツを組み合わせて完成させたのは、重量、反動の理由から到底人間が携行出来るものではないとして、過去に開発計画が中止された、マイクロガンのような代物だった。地面の上で組み上げられたそれを、少女の方に倒す。少女はそれを掴むと、軽々と持ち上げた。そのマイクロガンのようなものからは、ケーブルが伸びていて、アタッシュケースの中のバッテリーと接続していた。

 少女がその不格好で破壊力のみに重点を置いた兵器を構え終わる前に、パラララ、とアサルトライフルの発射音が遠くから響き、発射された銃弾が少女に向かう。

 しかしその銃弾は少女まであと一メートルといったところで急激に速度を失い、ぱらぱらと地面に落ちる。

 少女はそれを見ても動じることはなく、素早く、けれど落ち着き払って銃声がした方向に銃口を向ける。そして間髪いれずにトリガーを引く。マイクロガンと似て非なる機構をもつその兵器は、人間では聞き取れないほどの連続した爆発音を発しながら銃弾を連続して撃ち出した。

 それは一秒にも満たない時間だったが、着弾した先は建物すら崩壊し、アサルトライフルの射手は人の形を為していなかった。

「撃ち過ぎだバカ! 毎秒何千発発射すると思ってんだ!」

 男が少女の背に隠れて、アタッシュケースに取り付けられた小型のPCを操作しながら文句をつけた。

「うるさいわね! あんたの作業が遅かったからちょっと焦っちゃったのよ! それでも歴戦のアンティークなの?」

「うるせえ、別に俺が自分で名乗ってるわけじゃねえよ。適当につけられた名前なんだよ。だいたい、お前とのペアなんてやらされてるから俺はこんな堂々と道のど真ん中を歩かなきゃならねえんだ。いくらお前には安心安全の『壁』があるって言われてもこんな危なっかしいことしてたら肝も冷えるんだよ」

「はあ。女に頼り切って情けない。それでも男なのかしらね」

「蛮勇ってのはあの世への特急券なんだよ。臆病なくらいが生きてられるんだ……おら、来てるぞ。分隊規模……あー、十五だな。今データを送るぞ」

 そう言って男はカタカタとPCを操作し続ける。

「らーじゃー。えーっと……こっち、こっち、あとこっちと……」

 そう言いながら、少女は目をつむり、兵器のトリガーを引いていく。引く度に爆音とともに建物を破壊しながら標的の人間を粉砕していく。

 その爆音の中、男が声を上げる。

「いいか!? 撃ち過ぎんなよ!? 弾に関しては手品は通用しねえんだ! 普通に有限なんだからな!?」

「わかってるわよ! いちいちうるさいわね!……これで、十五! ……一段落かしら?」

「……みたいだな。まあ、今の爆音で様子を察して残り物も来るだろうさ」

「ねえ」

「なんだ」

 少女は兵器を地面におろして声をかけた。男は少女の背中で腰を落としてPCを操作したまま応える。

「本当に人質はいないのね?」

「って話だ。そもそもそうじゃなきゃ俺らなんか呼ばれねぇよ」

「ふうん、ま、いいんだけど」

 少女は少し目線をあげて空を見る。

「こっちの空は日差しが強いのね。空は一続き、なんて嘘を言ったのは誰なのかしら」

「そういうのはポエム帳にでも書き留めておいてくれ。俺に上手い返しを期待するな」

「う、うるさい! ただの独り言よ! 忘れなさい!」

「……」

「な、何か言いなさいよ」

 男が片眉をあげておどけたように口を開く。

「忘れろって言ったんだろ? 忘れた人間が語れる言葉なんて何もないさ」

「いちいちしゃくに障る男ね! そんなんだから女に相手にされないのよ!」

「俺は静かな女が好みなんだ。あそこの連中はおっかなくてかなわん」

「ふん! 前時代的ね!」

「どうだっていいだろ……そろそろ気付いたみたいだな。今データを送る」

 そう言って男がPCを操作する。

「ふん、らーじゃー。……これ、車? ちがう、装甲車? なんであいつらがこんなもの」

「どっかのお国から型落ちでもプレゼントしてもらったんだろうよ。どこの国かは、知らぬが仏、だ」

「なにその言葉」

「日本の言葉だよ。知らない方が幸せに生きていけるって話だ」

「いわれなくても分かってるわよ。……準備よし、……発射!」

 少女が引き金を引き、爆音が崩れた市街にこだまする。

「え……」

 少女の呆気にとられた声が小さく響く。

「どういうこと!? なんであの装甲車、こわれてないの!?」

 少女の戸惑う声に男が応える。

「……型落ちってのは間違ってたのかもな。どこで手に入れてきやがったんだあんなふざけた装甲のやつ。いいか、さっきので損傷した装甲車の状態を解析する。ちょっと待ってろ、狙い所を特定する」

「ちょっと、向かってきてるじゃない! 大丈夫なの!?」

「知らん。が、最善はつくす。今出来るのはそれだけだ」

 少しうろたえた様子の少女に対して、男は努めて冷静であろうとする。しかしその額にはびっしりと汗が浮かんでいた。その様子が、そのまま二人が置かれた状況の危うさを表していた。

 男は、たまに手書きのメモに走り書きをしながら、必死にPCを操作している。少女の顔には不安そうな色が浮かんでいたが、むやみに声を上げることはなかった。少女は、自分に今出来ることはただ待つだけだということをしっかりと認識していた。

 次第に、装甲車はその走行音がきこえる距離にまで迫っていた。

「よし……よし、よし。ここで……いいはず……いや、いい。ここだ。今送る、送った! そこを狙え! 全弾撃ちつくせ!」

「らーじゃー!」

 少女は精密な動作で凶悪な兵器を構え、指定された箇所にピンポイントで照準を合わせ、ためらいなく引き金を引いた。引いた指はもう離さない。全弾撃ちつくす。ほんの数秒にも満たない時間が、二人にはとてつもなく長く感じられた。

 そして、兵器が音を発するのをやめた。弾がなくなったのだ。

 しかし、装甲車を壊し切れてはいなかった。決して無傷ではなかったが、まだかろうじて二人の元へと走行を続けていた。

 装甲車の上部ハッチが開かれる。きっとそこから誰かが顔をだし、なにかしらの兵器でもって二人を狙うのだろう。

「ああ……クソッタレ」

 アンティークと呼ばれた男が小さく呟いた。

 そのとき、少女は兵器を投げすて、肩掛けに持っていたぬいぐるみに手をかけた。

 強引に紐を引きちぎり、ぬいぐるみの中に手を突っ込むと、そこからは無骨なロケット弾が露わになった。少女はそれを掴むと、勢いをつけて、さっきまで兵器で銃弾を撃ち込んでいた装甲車の部位にめがけてやり投げのように放り投げた。

 しかしその軌道はやり投げのような放物線はとらず、重力を無視したかのように一直線に飛翔する。

 ロケット弾は寸分違わず装甲車の弱くなっていた部分に衝突し、大きな爆発を起こした。

 轟音が鳴り響き、爆風が二人を襲う。

 爆発の破片が辺り一面に飛び散るが、少女に飛んできたものだけは、その一メートル前ほどの位置で速度を失って地面に落ちる。

 結果、爆発によって飛び散った破片は、二人を避けるような形になっていた。

「最後のあれは、なんだ?」

 アンティークがフェレットに問いかけた。

「わたしのお守りよ。いつも最後にはわたしを守ってくれるの」

「ずいぶんと凶悪なお守りもあったもんで。っていうか持っているなら最初から教えてくれよ」

「秘密が女の美しさを際立たせるの。覚えておきなさい」

「そうですかい。ん? フェレット……イタチ……ははっ。そういうことか」

 アンティークはくつくつとこらえるようにして笑っている。

「何、どうしたのよ?」

「お前の名前の由来がわかったんだよ。イタチだ。イタチの最後っ屁、ってやつだ」

「なにその汚い言葉」

「日本の言葉だ。追い込まれた奴が最後に非常手段を使うことだよ。つまりおまえのお守りが最後っ屁ってわけだな」

「ちょっと! わたしのお守りのこと悪く言うのやめてくれる!?」

「ははははは! 悪い悪い! お守り様々だ!」

 少女は男から表情が見えないように顔を背けた。

「ふん! やっぱりあんたみたいな古びた型落ちのアンティークなんて嫌いよ」

「ははっ。こっちだってお前みたいな危なっかしい最後っ屁をかますフェレットはお断りだ」

 男は肩で笑いながら、PCを操作する。

「こっちは弾がカンバンだが、向こうは人手がカンバンのようだ。よし、報告も終わったし、帰るぞ」

 そう言って男は兵器の解体に取りかかった。少女は放り投げたぬいぐるみだったものを拾いに歩く。

 と、男の胸元で何かが振動した。男は胸元に手をやり、スマートフォンを取り出す。

「ああ、アンティークだ。……はあ? ……いいよ、わかったよ。手当はしっかり要求するからな。あと弾。弾切れ起こした。その辺も報告にまとめてあるから次の場所ではちゃんとしてくれよ。……ああ。わかった。はいよ」

 男は一つ息を吐いて空を見上げた。しばらくして気持ちを固めたかのように声を上げた。

「おいフェレット。俺らは馬車馬、歯車だ、そうだろ? ということで次に向かうぞ」

 遠くにはボロボロになったぬいぐるみを引きずるフェレットが「ええええ」と嫌そうに声を上げる姿があった。

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