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Cafe Shelly

Cafe Shelly カフェ・シェリー殺人事件

作者: 日向ひなた

 まさか、ボクの目の前でこんなことが起こるとは。

 三月某日、喫茶店カフェ・シェリーにて。ボクの親友黒川省吾の彼女で、もうすぐ親友の奥さんになるはずだった五十嵐久美子。この彼女が突然苦しみだし、そして死んでしまった。仕事柄死体は何度か見たことがある。が、目の前で、ほんのわずか数十センチほどの距離で人が死んでいくのを目の当たりにしたのは初めてだ。

「おいっ、どうしたっ、久美子だいじょうぶかっ!」

 隣に座っていた省吾はあわてふためいて彼女を抱きかかえる。しかしすでに時遅し。店内は騒然となってしまった。

「みんな、動かないで。そのままですよ。ボクは北警察署の刑事の新城敦です。今からすぐに警察に連絡しますので、現場保存にご協力ください」

 ボクは警察手帳をみんなに見せながらそう伝え、すぐに携帯電話で署に連絡を取った。久美子の脈を診てみたが、やはり死んでいる。

「一体どうして…なんで久美子が…」

 不思議なものだ。 ボクはいつになく冷静な態度をとっている。

「久美子、久美子ぉぉ~」

 ボクとは対照的に、省吾は久美子を抱きかかえて泣き叫んでいる。省吾の態度の方が当たり前なのだろうが。それにしても久美子に何があったというのだ?

「し…死んでいるんですか?」

 この店のマスターがおそるおそる私に尋ねてきた。

「はい。死因はわかりませんが、今の苦しみ方から見て薬物かもしれませんね。すいませんが警察が来るまでこのままでお待ちください。」

 その後は未だ泣き叫ぶ省吾の声だけが店に響いていた。ほどなくして警察が到着。ボクは上司に状況を報告した。

「そうか、それにしても非番の時に災難だったな」

「いえ、それよりもどうして久美子が…」

「まぁそれは司法解剖をしてみないとなんとも言えんが。それはそうと、ここにいる人の身元はうかがったのか?」

「あ、はい」

 ボクは警察が到着するまでにうかがったことを報告した。

「まずこの店のマスターと店員のマイさん。この二人はご夫婦だそうです」

「へぇ、見たところかなり年の差があるようだが?」

「えぇ、もともとマスターは駅裏にある私立高校で英語の教師をしていたそうで。

 奥さんはそのときの教え子だったそうです」

「なるほど。そちらの男性二名は?」

「スーツ姿の方は加藤隆史さん。父親の会社の文具屋で営業を担当しています。そして背の高い方は羽賀純一さん。コンサルタントの仕事をしているそうです。二人ともこのお店の常連客です」

「あちらの窓際の三人の女性は?」

「三人とも女子大生です。青葉洋子、篠原美紀子、そして垣原ますみ。青葉さんと篠原さん二人が外国語大学、垣原さんは医療福祉大学。三人とも高校時代からの友達で、マスターの教え子になるそうです」

「なるほど」

「さらに垣原さんの姉と死んだ久美子とは同級生です」

「そうか。ところで被害者とお前の関係は?」

「はい。省吾と久美子は学生時代の友達です。そして今度省吾と久美子が結婚することになって」

「なるほど。つまり今ここにいる全員は、被害者を含めてなにかしら関わりのある連中ばかりということか」

「えぇ。しかし久美子と直接面識があるのはボクと省吾くらいでしょう。垣原さんについては聞いたことはあるけれど会ったことはないと言っていましたから」

「ふぅむ…とりあえずそれぞれの連絡先を確認して、状況だけ聞いておこう。それと新城、お前も警察の人間とはいえ他の連中と同じ扱いだ」

「同じ扱い、というと?」

「死因はまだわからんが、これが事件ならばお前も参考人の一人だってことだ。この件に関しては容疑がはっきりとするまで捜査に加わらせるわけにはいかん」

「そ、そんな…私にも捜査をさせて下さい!」

「ダメだ。お前は今の強盗事件を引き続き追え。わかったな」

 係長の命令ならば仕方ない。

「係長、マスターから話をうかがいました」

 ボクの先輩でいろいろと指導をしてくれている安藤さんが報告に来た。

「被害者が注文したのはマンゴージュース。しかし死んだときに口にしたのはここの自慢のブレンド、シェリー・ブレンドだったそうです」

「そいつはどうしてだ?」

「あ、それはボクが注文したものなんです。この店のシェリー・ブレンドというのが変わった味がするそうで」

 報告の途中でボクが口をはさんだ。

「変わった味?」

「えぇ、飲む人の状態によって味が変化するそうなんですよ。省吾からその噂を聞いていて、じゃぁ今日はここで会おうってことになって。でも久美子はコーヒーはふだんからあまり飲まない方で」

「でもどうしてお前のコーヒーを口にしたんだ?」

「ボクが無理矢理勧めたんです。おもしろい味がするから飲んでみろ、と」

「ということはお前はそのコーヒーを飲んでから勧めたのか?」

「えぇ、ボクも一口飲んでこれはすごいと思ったから、久美子に無理矢理にでも飲ませたいと思ったんです」

「ってことはコーヒーに薬物が入っていた可能性はないってことか」

「あれ? お前が飲んだコーヒーを被害者が飲むって変じゃないか? 隣にいた婚約者はヤキモチ妬くんじゃないのかよ」

 安藤さんがそんな疑問を投げかけた。だがボクはあわてることもなくこう答えた。

「久美子ってちょっと変わった性格なんですよ。男性、女性関係なく、人が飲んでいたり食べていたりするものがいいと思ったら、すぐにちょうだいってねだってくるんです。おかげでボクは今までに何度も久美子に横取りされましたから。そんな性格を省吾も知っていますしね。だからボクが飲んだコーヒーに口を付けることくらいでヤキモチはやきませんよ」

 久美子は明るく、オープンな性格。そのため誰にでも愛されていた。そんな久美子がどうして殺されなければいけないのか。

「係長、今回店にいた人については一通り調べはつきました。後日また話をうかがうということで今日は帰してもいいですか?」

「あぁ、そうしてくれ。あ、マスターと店員、そして婚約者だけは残してもらってくれないか」

「わかりました」

「新城、お前ももう少し詳しい事情を聴くから同席してくれ」

 ここから先はボクは捜査にタッチできない。係長は表面上は何も言わないが、ボクは容疑者の一人なのだから。聞き込みは安藤さんの役目。

「では亡くなった五十嵐久美子さんはマンゴージュースを注文されて、それを運んだのは店員のマイさんですね」

「はい」

「マンゴージュースは市販のものを使用されているのですか?」

「ベースはそうなんですけど、それにミキサーで生のマンゴーをミックスさせて出しています」

「なるほど。念のため使用された市販のジュースを調べさせていただきます。それとコーヒーはどなたが?」

「はい、私がつくっています」

 この店のマスターが答えた。

「ではこれも店員のマイさんが運んだ、と」

「普通はそうなんですけど。今回はマイが奥に座っていた後輩たちから声をかけられて話をしていたので。そしたらカウンターに座っていた羽賀さんと隆史さんが手伝ってくれたんです」

「そういえばそうでしたね」

 ボクが横から口を挟んだ。

「手伝った、というと?」

「えぇ、羽賀さんと隆史さんがそれぞれこちらのお客さんにコーヒーカップを手渡してくれたんです。普通はそんなことさせないのですが、省吾さんはときどきこのお店に顔を出してくれて、羽賀さんや隆史さんとは顔見知りでしたから。だから甘えてお願いしたんです」

「そうですか…ありがとうございます」

 結局この日は形通りの調べしかできなかった。そして翌日。

「検死の結果が出たぞ。死因は青酸カリによる中毒死。至急薬物の出所をあたってくれ。安藤は山下と一緒に昨日店にいた人間の再調査。頼んだぞ」

 係長の命令で捜査があらためてスタート。

「係長、ボクにも捜査をやらせて下さい」

「ダメだ。おまえは強盗事件の聞き込みがあるだろう。この件は長さんと一緒に回れ、いいな」

 ボクは当事者でありながら捜査の蚊帳の外。しぶしぶ係長の言うとおりに動くことにした。こればかりは逆らうわけにはいかない。だが思わぬところから情報というものは入るものだ。ボクが捜査を命じられた強盗事件。深夜のコンビニに包丁を持った男が押し入ったのだが、店員の機転で難を逃れ犯人は未だ逃走中。覆面をかぶっていたため人相はわからないが、犯人の目星はおおよそついていた。店員の証言から、店によく来る四十代の浮浪者風の男ではないかと目星をつけている。強盗事件以来、その男は毎日のように店に来てたばこを買っていたのが、パタリとやんでしまったのだ。そして今日、その男のアパートに聞き込みに行ったとき、なんと昨日あの店にいた長身の男、羽賀にぱったり出会ったのだ。

「あ、昨日の刑事さん」

「あぁ、あなたは昨日お店にいた…今日はまたどうしてこちらに?」

「う~ん、やっぱりこれは話しておくべきかなぁ…本来は守秘義務があるんだけど、事がことだから…」

なにやら秘密が隠されている様子。

「ひょっとして昨日の事件に関係することなのですか?」

「えぇ…実は亡くなった五十嵐久美子さん、ボクのコーチングのクライアントでもあったんです。そしてその久美子さんが亡くなる直前のコーチングで妙なことを言っていたのを思い出して…」

「妙なこと? なんですか、それは」

「私、ひょっとしたら殺されるかも知れないって」

「そ、それどういうことなんですかっ!」

 ボクは思わず感情的に大声を出してしまった。隣にいた長さんがあわててボクを後ろにひっこめた。

「すいませんね、こいつ自分の友達が被害者なもんだから、つい感情的になっちまって。ところでその話、もう少し詳しく聞かせてくれませんか?」

 羽賀さんが言うには、久美子は一週間ほど前の夜にこの近くの路地で妙な男とばったり顔を合わせたそうだ。男は挙動不審でおどおどして、手には覆面らしきものを持っていたとか。翌日、コンビニ強盗があった話を聞いてピンときたそうだ。

「で、羽賀さんはどうしてここに?」

「えぇ、どうしても久美子さんの言葉が気になって。けれどコンビニ強盗と久美子さんがカフェ・シェリーで亡くなったことは関係ないでしょうけど。だって、あれって青酸カリでしょ?」

「えっ、どうしてそれを知っているんですか?」

「あ、やっぱりそうなんだ。青酸カリって胃酸と反応するとアーモンド臭がするって聞いたことがあったから。あのとき、そんな臭いがしたもので」

 この羽賀さんという人、観察眼はするどいようだ。

「でも、久美子さんはどうして新城さんに相談しなかったんでしょうね。お友達が刑事なら、真っ先にこのことを相談するような気がするんですけど」

「さぁ…さすがにそこまでは…」

 ボクは羽賀さんのその問いには答えられなかった。

「そうえいば久美子さんの実家はお調べになりましたか?」

「実家、というと?」

「久美子さんの実家ってメッキ処理をしている工場なんです」

「そうか、だったらシアン化カリウムを使っている可能性は高いな」

 長さんは何かに気づいたようだ。

「シアン化カリウムって?」

「新城、もうちょっと勉強しておけ。シアン化カリウムとは青酸カリのことだ。そしてメッキ処理にも使われる化合物だ」

 羽賀さんの一言でボクはすぐに係長に連絡。許可を得て久美子の実家へと足を運んだ。久美子の両親には今まで何度か顔を合わせている。

「えぇ、聞きました。死因は青酸カリによる中毒死だと。確かに我が社でもシアン化カリウムは扱っていますが…でもまさか…」

 久美子のお父さんはボクの言葉に半信半疑。劇薬なので管理はしっかりしているとのことだったが。しかし、話によると青酸カリの致死量はコンマ数グラムらしい。ほんのちょっとなくなったところで気づかない量ではないだろうか。でも、自殺じゃないのだから…。大した手がかりも見つけられず署に戻ったところ、青酸カリについては思わぬルートからの情報が入っていた。

「あの事件で現場にいた垣原ますみ、彼女の通っている医療福祉大の研究室で青酸カリを扱っているところがありました。しかも、それが垣原ますみのいる研究室です」

「ってことは、青酸カリの流出ルートの疑いもあるってことか」

「さらに驚くことがわかりました。あのときにいた青葉洋子、篠原美紀子と被害者の五十嵐久美子、ここにも接点がありました。五十嵐久美子はアパレルの会社に勤めていましたが、二人は同じ系列の他店でアルバイトをしています」

「ふむ、つまり青葉洋子と篠原美紀子、そして五十嵐久美子は顔見知りだった可能性が高い、ということか?」

「それが、顔見知りもなにも、女子大生二人は五十嵐久美子のことをあまりよく思っていなかったみたいで。どうやら男性をめぐるトラブルがあったみたいですね」

「えっ、省吾がいるのに?」

 ボクは耳を疑った。

「女子大生二人が勤める店の店長と五十嵐久美子の仲がいいものだから、それに嫉妬していたみたいです」

「まぁよくある恋の勘違いってやつか」

 係長の言葉にボクも納得。

「でも、殺す動機としてはあまりにもちょっと…」

「最近の女の子は何を考えているかわからないからなぁ。それにあのときに同じ空間にいたことも気になるし」

 そのとき、安藤さんが駆け込んできた。

「係長、新たな事実が発覚しました。婚約者の黒川省吾の父親、五十嵐久美子の父親の会社に一千万の融資をしています。五十嵐久美子の父親の会社は経営難で資金繰りに困っていたようです」

「省吾のオヤジはラブホテルをいくつも経営したり、飲食店もいくつか持っているオーナーだったな。あいつは金持ちのボンボンでもあったけど、そういうところがなかったから気楽につきあえたやつなんだが」

 省吾と久美子の間にそんなことがあったなんて、初めて聞いた。しかしそれが今回の件とつながっているとは思えない。

「では引き続き捜査を続けてくれ。特に青酸カリの入手ルート、これについては徹底的に洗うように」

 はい、という捜査メンバー一同の声。

「ところで新城、強盗の件はどうなった?」

「あ、はい。容疑者の辰巳伸之はコンビニ強盗事件以来姿を見せていません。どこかに雲隠れしたようですが、未だ足取りはつかめていません」

「わかった、引き続き捜査を続けてくれ」

 はい、とは言ったものの久美子殺しの方が気になって仕方ない。だがこのコンビニ強盗事件は予想外の結末を見せることになった。

「辰巳が死体で発見された!」

その一報を聞いたのは翌日の朝。死因はなんと青酸カリによる中毒死。久美子殺しと同じだ。さらに死体のポケットに名刺が入っていた。久美子が死んだときに喫茶店にいた文房具屋の加藤さんのものだ。この二つの事件、関連性があるのか? まぁそのおかげでボクも久美子殺しの事件に関わることができそうだ。ボクは早速長さんと一緒に加藤さんのところへと向かった。

「浮浪者風の男で辰巳さん、ですか?」

 加藤さんはカフェ・シェリーにいた。

「いやぁ、そんな男は知りませんね」

 ボクは写真を見せたが、やはり記憶にないとのこと。だが隣にいた羽賀さんがその写真に反応した。

「この人、どっかで…そうだ、黒川さんが話しかけているのを見たことがありますよ」

「そ、それはいつの話ですか?」

「確か久美子さんがコンビニ強盗らしき人とすれ違ったちょっと後だったと思います。黒川さんが公園で浮浪者風の男と話しているので、珍しいこともあるんだなと思ったんです。たぶんそれがこの人だったと思います」

「省吾が…?」

「あ、黒川さんなら私の名刺は持っているはずです。何日か前に私の名刺を一枚欲しいと言ったので渡したんですよ。どうして今さら、と思って聞いたら、名刺の整理をしていたけど私の名刺がなかったのでもらいたいと言っていました」

 ということは、辰巳に加藤さんの名刺を渡したのは省吾の可能性があるということか。しかしその行為にどういう意味があるのだろうか? 一連の話を聞いていたマスターがこんなことを言い出した。

「刑事さん、五十嵐久美子さんの死因は青酸カリによる中毒死だったそうですね。そして辰巳さんは、コンビニ強盗の容疑者でしょ。そしてこの方も青酸カリで亡くなっていた」

「ど、どうしてそれを?」

 ボクはビックリ。だって、辰巳のことについて一言も言っていないのに。

「刑事さんの言葉を聴いていればわかりますよ。確か今はコンビニ強盗の捜査をしていると聞きました。ここで起きた事件については新城さんは当事者なので、普通に考えれば捜査からはずされるはず。ということは辰巳さんはこの事件の容疑者だと思われます」

 まぁここまでは容易に想像がつく。しかし辰巳が青酸カリで死んだことはどうしてわかるのだ?

「そしてもう一つはそちらの刑事さんの態度でわかりました」

 マスターが言ったのは長さんのことである。長さんは自分のことと思わなくてビックリしていた。

「そちらの刑事さん、新城さんが私たちと話をしている間、カップとかクッキーとか、お客さんが口にするものばかりに目線がいっていました。これはおそらくこの店の中で青酸カリが使われるとしたらどれだろうかと探していたんじゃないかと。ということは捜査からはずされている新城さんとペアを組んでいる刑事さんは、あの事件の捜査に関わっているということ。ここで辰巳さんと久美子さんの事件がもっと深くつながっていると思ったんです。だからちょっとカマをかけてみました」

 ボクも長さんも、マスターの言葉にあっけにとられてしまった。これだけの観察力と推察力があるのはすごい。だがマイさんがすました顔でこう言った。

「マスター、最近推理小説に凝ってるからなー。もっと別のところにそういう能力を活かしてくれると、私も楽なんだけど」

 場は笑いのムードに包まれた。

「でも、あの状況から見てもあのときにいた誰かが久美子さんを殺害したのは間違いないですよね。自殺ってことはありえないだろうし」

「羽賀さん、どうしてそんなことが言えるんですか?」

 ボクはその根拠を知りたくて羽賀さんに質問をした。

「久美子さんはボクのクライアントだったから、だいたいのことはわかるよ。今は黒川さんとの結婚式に向けて、どんな幸せな家庭を築くかって話で盛り上がっていたからね。それだけ明るい未来の話をする人が自殺をするとは思えない」

「となると、あの中で久美子さんに恨みを持つ人が犯人なのかな?」

「マイさんの言う通りかもしれない。刑事さん、その辺はどうなんですか?」

「それはちょっと教えることはできませんが…」

 加藤さんのその問いにはさすがに答えるわけにはいかなかった。

「でも、あの二人は怪しいな」

 ふたたび羽賀さんの言葉。

「あの二人、というと?」

 加藤さんが興味深そうに聞いてきた。

「青葉洋子さんと篠原美紀子さんです。実は久美子さんとのコーチングで、若い店員に恨まれているということを聞いたことがあるんですよ。その二人が勤めている店長と話をしていると、嫉妬の目で見られることがあるとかで。久美子さんはそんな意識全くないのに、と言っていましたから」

「さらに、その二人の友達の垣原ますみの研究室では青酸カリを扱っている」

 マスターが横から割り込んできた。

「ど、どうしてそれを…?」

「あの三人、ときどきこの店に来るんですよ。前に三人で話をしているときに、青酸カリの話をしているのを耳にしましてね。こんな狭い喫茶店ですし、そのときに他に客もいなかったから会話が耳に入りまして。確か垣原さんが、青酸カリなら自分の研究室で扱っているということを口にしたのを耳にしました」

「長さんっ!」

「うむ、あの三人を調べてもらおう」

「しかし…」

 マイさんの言葉でボクたちの動きがぴたっと止まった。

「しかし?」

「しかし、あの場面であの三人はどうやって久美子さんに青酸カリを飲ませることができるんでしょうね?」

「そうか…確かにあの状況じゃそれは無理か…」

 ボクは思い出した。あの三人が座っている席からボクたちが座っている席までは距離がある。しかもボクと省吾の目もあるのだから。あのとき、あの三人のうち誰かが接近したということはない。

「となると、容疑者は私とマスター、羽賀さんと隆史さんの四人てことか」

「マイさん、オレには殺す動機がないっすよ!」

「まぁまぁ、隆史くん、あくまでも可能性があるのがこの四人だって話だから。そうだろう、マイさん。そう考えたら、刑事さんと婚約者の方も容疑者の一人になるからね」

 羽賀さんの言うとおりではある。けれどカウンターにいた四人に久美子を殺害する動機がない。

「なんだか行き詰まっているようなので、コーヒーでも飲みませんか、刑事さん。シェリー・ブレンドをサービスしますよ」

 長さんは遠慮がちにしていたが、飲むのがシェリー・ブレンドならば話は別。ボクは長さんに、これが普通のコーヒーとは違うことを説明したところ、急に興味が湧いてきたようだ。せっかくだからごちそうになることにした。

「では早速…んっ、これは…」

 長さんはシェリー・ブレンドを一口飲んだとき、驚きの表情を見せた。

「お味はいかがでしたか?」

 みんなの目が長さんに集まる。

「なんだろう、今までぼやけていたものがはっきりと見えてくるって感じがしたな。そう、容疑者が絞れていなかったのがばっちりわかった、そんな感じだ」

「さすが刑事さんですね、例えがわかりやすいですよ。それが今自分が欲しがっているものなんです」

 マスターの言葉に、めったに感心しない長さんがほほぅとうなずいていた。

「新城、お前はどうなんだ?」

 長さんに言われてボクもシェリー・ブレンドを口にする。

「んっ! 今一瞬頭に浮かんだのは、真っ赤な色が一瞬にして真っ白に変わるイメージでしたね」

「なんだそりゃ、どういう意味があるんだよ?」

「さぁ、ボクにもわからないんですけど…マスター、どういう意味なんでしょうね?」

「うぅん、私にもよくわからないけれど、何かの状況を変化させたいという願望があるんでしょうね」

 マスターの解説、ボクはわかったようなわからないような。この日のカフェ・シェリーでの捜査はこれで終了。署に戻ってみると、省吾に対して新たな事実が発覚した。

「あの黒川省吾、女がいました。それがなんと垣原ますみの姉、垣原さゆりです」

 この事実にはボクも驚いた。

「さらに垣原さゆりは事件前に五十嵐久美子と激しく言い争っています」

「よし、垣原さゆりと黒川省吾を引っ張ってきてくれ」

「わかりました」

 事件は急展開。翌日、二人が任意同行で取り調べを受けることになった。ボクは残念ながら二人とも面識があるため取り調べからははずされたが。話によると、二人とも犯行は否認。まぁ当然のことだろう。

「しかし、五十嵐久美子は一体どこで青酸カリを飲まされたのだろう?」

 今の刑事課の話題はこれ一色だった。コーヒーに入っていたとしても、直前にボクが口を付けている。マンゴージュースに入っていたのならば、飲んだ直後に苦しむはず。

「コーヒーカップに塗りつけてあった、とか?」

「そうだとしても、どの場面でそれが可能なんだ? それができるのはマスターか店員のマイさんくらいだろう」

「強いて言えばコーヒーを運んでくれたというカウンターにいた二人か」

「でも殺害する動機がありませんよ」

「無差別殺人?」

 意見は堂々巡り。金田一耕助かシャーロック・ホームズでもいれば事件は一気に解決するのだろうが。せめてコナンくんでもいれば。事件解決は小説やドラマのようにはいかないものだ。そんなとき、カフェ・シェリーのマスターから電話が。

「え、重要な情報を手に入れたんですか?」

「はい、お店に来ていただけないでしょうか」

 ボクは係長に報告をして、長さんと一緒に急いでカフェ・シェリーへと向かった。店には先日と同じように、マスターとマイさん、そして羽賀さんと加藤さんが。さらに窓際のテーブルには女子大生の三人組、青葉洋子、篠原美紀子、そして垣原ますみもいる。

「どうぞこちらへ」

 マイさんから案内されたのは、事件当日ボクが座っていた席。長さんは省吾が座っていた席へと案内された。そしてよく見ると、久美子が座っていた席にはかわいいぬいぐるみが置かれていた。

「マスター、これって…」

「はい、あちらの三人にも協力してもらって、事件当日の場面を再現してみました。それじゃぁマイ、始めるぞ」

 そう言ってマスターはコーヒーを入れ始めた。さらにマイさんは奥の女子大生三人組の方へと移動した。マスターがコーヒーを入れている間、羽賀さんがボクに話しかけてきた。

「亡くなった久美子さんのお父さんは、黒川省吾の父親から一千万円を受け取っていますね」

「え、えぇ。久美子の会社も厳しいらしく、資金繰りに困っていたみたいで」

「そのお金のせいで久美子さんは黒川省吾から暴力をふるわれていたの、ご存じですか?」

「省吾が久美子に暴力を?」

「はい、本当は守秘義務があるので公言はできないのですが、事が事なので。久美子さんが亡くなる前にそんな相談を受けていたんです。しかし、前からと言うわけではなく突然そうなったみたいで」

「ってことは、やはり黒川省吾があやしいということか…」

 長さんはそうつぶやいた。

「コーヒー、できました」

 マスターがカウンターにコーヒーを置く。そしてボクのコーヒーを加藤さんが、省吾役の長さんに羽賀さんがコーヒーを渡してくれた。さらに羽賀さんは久美子が座っていた場所にマンゴージュースを置いた。

「おそらく今の動作はあの事件のままです。今のように、羽賀さんは両手がふさがっている。これでは青酸カリをカップやグラスに塗ることはできない。また隆史くんも今のように両手を使って運んだため、これも無理」

 マスターがそう解説。マイさんもずっとカウンターから離れているため、事実上青酸カリを塗るのは無理だ。女子大生三人組についても、今のところそれを行うのは不可能。となると、容疑は省吾かマスターに絞られるわけだ。しかしマスターには動機がない。

「やはり省吾が…」

「ではあのときの場面をさらに再現してみましょう」

 マスターがそう言うと、マイさんは久美子役のぬいぐるみの替わりに席に座った。

「さすがにぬいぐるみにはこれからの役はできませんからね。確か最初は久美子さんは自分の注文したマンゴージュースを飲んだんですよね」

 マイさんはそう言うとマンゴージュースを口に含んだ。

「えぇ、そしてボクと省吾はそれぞれシェリー・ブレンドを飲みました」

ボクはそう言うと、シェリー・ブレンドを口にした。長さんも遅れてシェリー・ブレンドを飲む。

「ところで新城さんはシェリー・ブレンドを飲んだのはこのときが初めてだったんですよね。このとき味の話をした、そうですね?」

マスターの問いかけにボクは首を縦に振った。

「えぇ、噂には聞いていましたけれど、あのときの衝撃は大きかったですから」

「どんな話をしたんですか?」

「えっとですね、確かドキドキ感というかワクワク感というか。そんな映像が頭に浮かんだんですよ」

「その話は私もちらっと耳にしたから覚えているわ。新城さんがやたらと大げさに話をしていましたから」

 これはマイさんの言葉。

「そうそう、この人すごく興奮してた」

 垣原さゆりがそう言葉を加えた。ボクのそのときの様子は周りのみんなが覚えていたようだ。

「そしてその後、そのことについてすごく語っていましたよね」

 マスターの言葉に私は首を縦に振った。

「えぇ、だから久美子にもそれを味わってもらいたいと思って、ボクのコーヒーを飲ませたんです」

そう言ってボクは久美子役のマイさんの前にコーヒーカップをそのまま差し出した。

「はい、ここでストップ。コーヒーカップを今久美子さん役のマイに差し出しましたね。これはこの状態で間違いないですか?」

「えぇ、たぶんそうだと思いますが」

「その前に黒川省吾さんの味は聞かなかったのですか?」

「えっ、省吾の味ですか?」

「はい、普通ならそうするところかなと思いまして」

「そう言えばそれは聞かなかったような気が…」

「そしてもう一つ、久美子さんは本当に新城さんのコーヒーを飲んだのですか?」

「そ、それはもちろんそうですよ」

「残念ながら違うのよね」

 マスターとの会話の横からマイさんが口を挟んだ。

「違うって、どういうことですか?」

「黒川さんって左利きなんですよね。新城さんは右利きでしょ」

「えぇ、そうですけど」

「だから黒川さんには左利き用のカップを使っているの。デザインはまったく同じだけど、握るところの傾斜が微妙に違うんですよ」

 長さんはそう言われて、ボクの使っていたカップと長さんのカップを握り比べた。

「確かに、微妙に握り方が違いますね。私の目の前にあるカップを左手で持つとしっくり来るけど、右手だと違和感がある」

「これはお客様には公にしていないんですけど。何度かいらっしゃるお客様で左利きの方にはこのカップを使うようにしているんです。そして亡くなった久美子さんが最後に口を付けたのは、今そちらの刑事さんが使っているそのカップと同じ種類のものです。現物は警察にありますけどね」

「ってことは、ボクがウソをついていると?」

「そういうことになりますね」

「そんな、ボクがウソをついてどうなるんですか。あ、それにひょっとしたらそちらのお二人がボクたちにコーヒーを渡すときに入れ違ったのかもしれませんよ」

「それはないですね。ボクはマスターからコーヒーを預かったときに、こちらを黒川さんにって渡されましたから」

羽賀さんがそうコメントした。

「おい、新城、どういうことだ」

 長さんにそう言われて、ボクは黙り込んでしまった。

「私の推理はこうです」

 マスターがカウンターから出てきて自分の推理を語り始めた。

「ズバリ、黒川さんと新城さんは共犯です」

「どうしてボクが?」

 マスターに反論したが、マスターはそれを無視してさらに語り続けた。

「新城さんが大げさに驚いて語っているときに、黒川さんはカップに青酸カリを塗った。そして新城さんはコーヒーを飲んでみろよ、と久美子さんに勧めた。そのとき黒川さんはさりげなく自分のコーヒーを久美子さんに渡したのです。婚約者から渡されたものですから、何の抵抗もなく飲むでしょう。いや、ひょっとしたら飲まないとまた暴力をふるわれると思ったからかもしれませんけどね。そして飲んだ直後に倒れた。そしてさりげなくあなたは黒川さんの方へカップを移動させた」

「そんな、証拠はあるんですか?」

「最後に黒川さんの目の前にあったカップが右利き用だったのが一つ目の証拠です。そしてもう一つ、あなたは先日ここに来てシェリー・ブレンドを飲んだときにこう言っていましたね。真っ赤な色が一瞬にして真っ白になる、と」

「えぇ、でもそれが証拠になるんですか?」

「色はウソをつかないわよ」

 マイさんがまた横から口を挟んだ。

「赤はエネルギーあふれる色。それが度を過ぎると怒りや反抗心を示すの。そして白は潔白という言葉が指すように、何もない状態を意味するの」

「それがどうしたんですか?」

 ボクの反論にマイさんはさらに言葉を続けた。

「これから察するに、新城さんは今までの怒りが一瞬にして何もなかったように治まる状態を望んでいたことになる。違いますか?」

「違いますかって、たかがコーヒーを飲んだときのイメージでそんなことを決めつけないでくださいよ。それにボクが久美子に対して何か怒りを感じていたってことなんですか? 省吾と久美子の祝福をしているボクが、どうして?」

「あなた、久美子さんから投資を受けていましたね。そしてそのお金でFXをやっていたけれど、失敗したそうじゃないですか。そして久美子さんに返済をしつこく迫られた」

「久美子から投資だなんて、それこそ証拠が…」

「久美子さんのお父さんが私に証言しました。黒川省吾の父親から借りたお金のうち、二百万円を久美子さんに渡したって。そのうち倍になって返ってくるから貸してくれと言われた、と」

 これは羽賀さんの言葉。

「あなたは垣原さゆりとつきあっている黒川省吾と手を組んで久美子さん殺害を思いついた。違いますか?」

「だから、ボクが犯人だって証拠はどこにあるんですか? 状況証拠ばかりで何一つ決定的なものがないじゃないですか」

「新城さん、私の名刺持ってます?」

「えっ?」

 加藤さんが突然そう言ってきた。

「ほら、事件当日あなたにお渡しした私の名刺ですよ」

「今は持ってませんが…」

「そりゃそうでしょう。だって、強盗事件の容疑者辰巳が持っていたのがあなたに渡した名刺なんですから」

「どういうことだ、新城?」

 長さんがボクに質問してきた。その問いには加藤さんが答えてくれた。

「黒川さんが私の名刺を辰巳に渡すわけがないんです。あの名刺には手書きで私の携帯のアドレスを書いていたんですから。でもあのとき、そのことには一切触れていなかった。普通考えれば、手書きメモがある名刺を人に渡すわけがない」

「でも、それがボクがもらった名刺とは言い切れないでしょう」

「そちらの刑事さん、あとで辰巳が持っていた名刺を見てください。おそらく裏面の左上に『325』と書かれていますから。私、誰に何番の名刺を渡したかをメモしているんですよ。新城さんは325番目です」

「それと久美子殺しとどういう関係があるんですかっ! 私が辰巳も殺したというのですか?」

「はい、そうです。辰巳は強盗事件の夜にあなたと久美子さんに会っているから。ちょうど青酸カリを受け渡す現場に」

「そんなことあるわけがないじゃないかっ!」

「新城さん、あなた久美子さんにこう言いましたね。黒川省吾には女がいる。だからあなたに暴力をふるっているんだって。このまま結婚すれば不幸になる。だから協力して黒川省吾を殺してしまおう、と」

「羽賀さん、ボクがそんな事言うわけがないじゃないですか」

「いや、ボクが久美子さんから聞いた『殺されるかもしれない』は、強盗事件のことではなく、あなたの事だったんだと思ったんですよ。あなたに青酸カリを渡したのはいいけれど、それが怖くなってそう言ったんだと思います」

「ははは、全てはあなた達の探偵ごっこによる推理でしょ。何度も言うけれど、証拠がないじゃないか。左利き用のカップだとか、赤色が白になったからだとか、名刺がボクがもらったやつだとか、直接的な証拠にはならないでしょうがっ」

「はいっ、こんなもんでいいでしょう」

 羽賀さんがそう言ってマスターに合図を送った。どういうことだ? するとマスターは棚からビデオカメラを取り出した。

「今までの様子をすべて撮影させていただきました。人間って、自分に不利な事実を突きつけられると、今の新城さんみたいにムキになって反論するんですよね」

「そ、それでわざとボクが不利になるような推理を次々と出してきたんですか? それでどうしようというのですか?」

「知り合いの心理分析学者に検証してもらいますよ。専門家の意見があれば、状況証拠でも起訴するには十分でしょうからね」

「きっ、きさまらぁ~、はめやがったな。ちっくしょう、あと一歩だったのに…」

「はい、マスター、今の言葉しっかり録画しました?」

「羽賀さん、ばっちりですよ」

 ど、どういうことだ?

「やっと本音が引き出せましたね。まさか二段構えでひっかけたとは思わなかったでしょう。ゼロポイントに戻すと、人ってあっさり本音が出ちゃうんですよね」

「な、なんですか、そのゼロポイントって?」

 長さんが羽賀さんに質問している。

「ゼロポイントとは、突然話題を別のものにしたりすることで思考をゼロにさせることです。今回は新城さんに次々と怒らせる言葉を投げかけ、そしてドッキリ風にネタ晴らしを見せることで思考をゼロにさせました。そこでどんな言葉がぽろっと出るのかを試したんです」

「しかし、いつ新城がくさいと思ったのですか?」

「お話ししたカップと色と名刺の件。あれを統合させると新城さんが犯人なのが一番自然だったんです」

「では青酸カリの受け渡しの件は?」

「あれはまったくの推測です。けれど久美子さんが強盗犯を目撃したのならば、真っ先に友人の警官である新城さんに話すはず。それなら強盗犯に殺されるかも知れない、なんて事は言わない。だとしたら、新城さんに話す必要がなかったんじゃないかって思ったんです」

「あ、なるほど、だから新城と五十嵐久美子は一緒にいたと」

「はい、その通りです」

「もう一つ、新城がFXで損をしていたという情報はどこから?」

「これはちょっと企業秘密なんですが、私には信頼できる情報屋がいまして。それ以上は勘弁してください。まぁインターネットの情報はどこから漏れるかわからないってことです」

 はめられた。まさかこんなところからボロが出るとは。 すべてはマスターや羽賀さん達の推理通りだ。辰巳は事件の翌日、ボクが口封じのために殺した。事件を混乱させるために、たまたまポケットに入っていた加藤さんの名刺を入れたのが仇になってしまったとは。省吾も次期に自白するだろう。せっぱ詰まったボクが取った行動は…

「さよなら」

 そう言ってポケットに忍ばせていた青酸カリを口に入れた。苦しさがのどの奥から込み上げ、そしてボクは事切れた。


「で、どうですか?」

 ボクはマスターに感想を聞いてみた。

「う~ん、心理学的なところを応用した推理はおもしろいけど、ちょっと無理があるかなぁ。それに左利き用のカップなんてあるのかな?」

「まぁそれはお話の上のことですから」

 午後のゆっくりとした時間、ボクは書き上げた原稿をマスターに読んでもらった。ボクは推理小説作家を目指して、日々こうやって原稿を書いては読んでもらっている。特に今回はこのカフェ・シェリーが舞台だから。

「今度はボクにも読ませてよ」

 探偵役で登場してもらった羽賀さんもボクの読者の一人。結構厳しいフィードバックをしてくれるので、いつも助かっている

「でも新城さん、今度こそは入選するといいですね」

 マイさんがにこやかにそう言ってくれた。

「今度はボクを犯人役にしてみるってのはどう?」

 常連の文具屋、隆史さんもノリノリ。このカフェ・シェリーに出会うまではいつも一人で悩んでうなっていた。けれど今は違う。こうやって作品を読んで評価をくれる仲間ができた。いつか推理小説だけじゃなく、このカフェ・シェリーそのものの姿を小説にしてみいな。

 そう思って、ボクはマスターの入れたシェリー・ブレンドに手を伸ばした。


<カフェ・シェリー殺人事件 完>

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