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小樽に住む女子高生マリ

1「私はマリだけどなにか?」

山田麻理枝17歳、普通の女子高生、書道部3年生。新入生が入部し、マリが指導することになったのだが… 運河沿いを歩いていると突然ガラの悪い女子3人組にお金を要求された。マリのとった行動とは。


2「私はマリ、パートだけど何か?」

マリは観光客相手のショップTGで働くことになった。店員のシゲミがマリの指導あたった。職場に花岡が様子を見に来た。そこにいたのは同級生で店長のテイジだった。


3「私はマリ、体外離脱したけどなにか?」

マリが拳法の道場で突然体外離脱を経験する。パート先のテイジとシゲミがマリの体験を分析する。相談を受けたテイジは、あるアイデアを思いつき商売に結びつけてしまう。そのアイデアがショップTGのヒット商品となる。


4「私はマリ、進路で悩んでますけどなにか?」

高校卒業後の進路決定に悩むマリにアヤミが、知人で先輩の路上占い師ピリカを

紹介する。初めてあったピリカの印象にマリは衝撃を受ける。  


5「私はマリ、東京に来たけどなにか?」

高校を卒業したマリは突然東京に出ると宣言し、上京の資金を2年で貯めることにった。東京には目標とする人物がいて彼女に会うため。上京したマリのとった行動とは。


6「私はマリ、花子と3年過ごしたけどなにか?」

花子と同じアーケードの下で働く事になった花子。ある時ジッタが突然現われた。花子と初対面のジッタの反応は?師と仰ぐ花子が突然旅に出ると言い残し吉祥寺を離れた。残されたマリは。


7「私はマリ、時間が変だけどなにか?」

突然花子から今小樽駅にいると連絡が入った。話を聞くためにショップに集まった。花子の帰省後マリはアーケード街の路上で書を売る事になった。そんなある朝だった。朝起きたら昨日の朝に戻っていた。


8「私はマリ、ジッタが死にそうだけどなにか?」完結編

不思議な日を過ごし思案にくれている頃ジッタ先生が入院中と聞かされる。見舞ったマリが目にしたジッタは別人のような様相。看病するマリにある心の変化が訪れる。


「ショップTGのシゲミ」

小樽のスピリチュアルショップTGで、働くことになったシゲミが繰り広げる奇想天外な発想を描いた作品。シゲミの販売方法にクレームをつける主婦連とのやり取りを見守る店長でオーナーのテ~ジの心理とは?


「ショップTGのアヤミ」

店の運営がマンネリ化した時にテ~ジはシゲミから新商品のアイデアを聞く。そのアイデアを双子の姉アヤミが制作して販売する。そんなところに消費者センターから来たという名刺も持たない不穏な婦人が店にやってくる。シゲミとアヤミが対応する…


【私はマリだけどなにか?】


1「私はマリだけどなにか?」


 ここは北海道小樽市。港が一望出来る閑静な住宅地。


市内の高校に通う女子生徒がいた。名は山田マリ十七歳。

マリには変わった性格とそれを助長する才能がある。

書道部の顧問はマリに対し、うまく理屈で説明できない何かを感じていた。


マリが廊下を歩いていると後ろから男性の声が「マリ、おはよう」担任兼書道部顧問の花岡仁太三十一歳独身である。

マリは学生カバンを回しながら「先生おはようございます。ちゃんと朝飯食ったか?」


「お前ねぇ!先生はこう見えてもお前より年上。しかも担任の先生。

俺の言っている意味が解る?」


「だからどうしたの? 鼻をかじった先生」


「あのさっ、俺の名前を途中で切らないでくれるかな~なんか変に聞こえるんだけど」


「先生の気のせいだな・・・で、なに?」


「おう、そうだそうだ!今年入部した一年生の世話役を頼まれてくんない?」


「おい、ジッタ。人にものを頼むのにその『くんない・・・』

ってある?どんな教育受けたんだ?ったく」


「あっ!そうだな・・・先生が悪かった。忘れてくれ」


「一度男が発した言葉をそう簡単に撤回すんな」


「ご、ごめんなさい」


「わかればいい。で、なんで私なのさ?」


「お前三年生だろ?だからだよ。あたりまえだろ」


「ジッタ・・・去年の事もう忘れたの?私が指導したせいで三人も

退部したじゃない。まだ懲りないわけ?」


「あれはお前が歪な教え方をしたから一年生が勘違いして戸惑ったんだ」


「何が?」


「だって、お前ねぇ書道習いに来た一年生になんでピアノのレッスンするの?それと、あの山口早苗にお前の家の屋根のペンキ塗らせただろ?」 


「だってあれはさ、強制じゃないって言ったもん。断ってもいんだよって」


「確かに言った。でもその後でなんつったか覚えているのか?」


「なんも言ってませんけど~~」


「あれ?その山口はお前が『私も一年の時は塗らされたの。まっ!書道部の伝統のようなもの…アハハ』って言ってたぞ。

この書道部のどこにそんな伝統があるんだ? お前、いったいどの先輩の家の屋根を塗らされたんだ? 名前を言ってみろ」


「先生、あのさっ!男が小さい事でがたがた言わないの…たく・・・わかった?」


「うん、分かった・・・うん???  なんで? 先生の立場がなんでマリより下な訳?」


「いいよわかったよ。了解。今年の一年生は、わたしが引き受けました。

それでいんでしょ・・・はい、お終い」


 

そして書道部に新入生の女子三人、男子一人が入部した。


マリが挨拶した。


「入学おめでとうございます。わたしは山田マリです。 一年間の短い付き合いになりますが宜しくお願いします。 分からないことがあったら聞いて下さい。 書道は習字と違って形にこだわりません。 

味で勝負!リズムとフィーリングを大切に。 正解はありませんから感性で書いて下さい。 こう言うと怒られますが、顧問の鼻をかじった先生も字は下手くそです。 味専門です。 本人は宇宙からのバイオリズムがどうのこうのと言ってますがあの顔で宇宙は似合いません。 君たち一年生でも顔を見れば解ります。 宇宙というよりも水槽の中のクリオネが昼寝してる感じ。ではお楽しみに。 以上」


「山田先輩、ひとつ質問いいですか?」


「はい、どうぞ」


「この書道部は過去になにか賞を頂いた事があるんですか?」


「賞? …なんで?」


「全国競書大会とか大書道展とかに出品されないのですか?」


「あんた名前は?」


「泉谷です」


「そう、あんたはなんで書道部に入ったの?」


「書が好きで書を書きたいからです」


「うん、私も書が書きたいからここにいるの。別に全国競書大会とか興味ないの。私は大会に出品して賞を貰うために書いてないし、興味もありません。そういう大会に出たい人は勝手に出品して下さい。否定はしません。そういう形式にこだわる人は、こことは別に習字部でも作ると良いかもね。ここは書を競うのでなく書を楽しむところなの。他に質問は?」


「蘭島からきた蛯子です。マリ先輩の作品はどれですか?山田マリさんの名前が見あたらないのですが?」


蛯子は壁に貼っている数点の書を指して言った。


マリはブツブツ言いながら作品を机の中から取り出し「これが私の作品。どう?」


蛯子がジッと見て口を開いた「?私、これ分りません。これがそのリズムっていう作品ですよね?」


「お前ねっ!生意気言ったらぶっ飛ばすよ!」


「あっ、いや、すいません!つい・・・」


「ついなにさ? 続き言ってみな・・・」


蛯子は翌日から部に来なくなった。


数日後、花岡が「マリ、今朝方、蛯子っていう一年生が退部届け持ってきたけどなんか聞いてる?」


「私、なんにも聞いてません・・・」


「そうか、わかった・・・」


花岡は内心思った。「これって、退部一人目かな?」昨年のことが頭を過ぎった。


ここは書道部。


「今日はテーマがあるの。各々自由な発想で丸を書いて下さい」


「??丸ですか?」


「そう、丸よ丸」


「丸になんの意味があるんですか?」


「宇宙よ。各々の宇宙を書くの。よく禅宗のお坊さんが書いてるでしょ。お寺なんかの掛け軸にもあるやつ。あれよあれ・・・」


一年から三年までの部員十名が丸を描き始めた。


一年生の書を並べてマリが「見てごらん。単純な形だけど三人とも違うでしょ?丸には自分の内面が現われるのよ。こぢんまりした可愛い丸。こっちは大胆不敵な我が道を行くっていう丸。これは均整の取れたはみ出しのない几帳面な丸。 個々の性格が出るのよ。ねっ、面白いでしょ?たった丸ひとつが沢山のことを表現する。それが書の味なのよ」


「ところでマリ先輩のはどんな丸ですか?」


「私の見る?」


「はい!」一年生全員が返事をした。


「ほれ、これが私の」


「ぷっ!」全員が吹き出した。


半紙いっぱいに書いた丸は完全にはみ出していた。


「マリさん、 これはどう理解したらいんですか?」


「そうね、自分で言うのもなんだけど。協調性がない、融通が利かない、自分勝手ってとこかな?オイ馬鹿野郎!な訳あるか!大胆で壮大な宇宙だろ!」


全員笑いころげた。


「なによ!なんで笑うの?どこが、どこが可笑しいのよ?」


「マリ、自分でなに言ってるか分かってるの?」同級生の美智子だった。


「な~にが?なんで?」


「諸君、これが悪い見本だからね」


「は~い」全員、声を揃えた。


マリは思った「いつか必ず、こいつら力一杯しごいてやる!」

 

顧問の花岡先生が「みんないいか、そろそろ全国競書大会に出品する作品を何にするか考えておくように」


「花岡先生、ちょっとよろしいですか?」


「おう、 泉谷どうした?」


「全国競書大会の件なんですけど。入部した時にマリ先輩が『この書道部は書を楽しむところ。書を争うところではない。そういう大会は出ないから、出たい人は自分で申込みなっ!』って言ってたんですけど?」


「あいつ、今年もそんな事、一年生に言ったのか・・・まったく。それは、あいつが勝手に言ってる事なんだ、ライバルを減らす為に」


「ライバルを減らす為・・・えっ!そうなんですか?」


泉谷が作品を書いてるところにマリが入ってきた。


「泉谷、なにやってるの?」


「競書大会に出展する作品を考えてます」


「あっ、そっ。聞いた?」


「聞きました。マリ先輩ずるいです。私達一年生には大会は出ない。出たい人は勝手に出ればって。おまけに、ここは書を楽しむところって言ってましたよね?」


「いつ、だ~れが、そんなこと言ったのさ?」


泉谷は次の言葉を失った。この先輩は私の尊敬できない人間リストに加えておこうと思った。


「一年生聞いてくれる?そう言うことで今年から競書大会にうちの部も出品することになりました。自分の納得いく作品を書いてね。善し悪しは自分で決めないで、鼻をかじった先生か三年生に聞くように、分かった?」


「は~~ぃ」一年生は渋々返事をした。



 下校途中マリはひとりで運河倉庫の陰を歩いていた。


後ろから女の声がした「おい、姉ちゃんチョット待てや」


マリが振り向いた「ん、なにか?」


同じ小樽市内の、もうひとつの高校の制服が目に入った。みるからにヤンキー風の3人組。


「あんた、チョット顔かせや」


「あんた誰?」


「関係ねぇ。ツラかしな」


「あいよ・・・」


3人は石造り倉庫と倉庫の陰にマリを連れ込んだ。


「何か私に用?」


マリが言い終わらないうちにひとりの女が、いきなりマリの足を蹴ってきた。その蹴りはマリの太ももにヒットした。


「痛えな!何すんだこら!」


「チョット金貸してくんねぇかな?」


「なんでだよ?」


「なんで?なこと関係ねえ、また痛い目にあいたいのか?」


「お前ら、私が誰かわかってやってんのか?」


「青葉高の山田だろ?」


「おう、私の事知っててやってんだ・・・ということは誰かに頼まれたね!」


髪を赤く染めた体格のいい女が「そんなの関係ねぇ」


「そんなの関係ねえてか?お前は小島よしおか?オッパピーてか?超古いんだけど、笑える」


女は、マリの顔面めがけて殴りかかってきた。瞬間、マリは左手でそれを払い、右手で女の腹へ拳で突きを入れた。女はそのまま唸り声を出してうずくまった。


「う~~~っ」


「さぁ次はだれだ?かかってこいや!」拳法の構えをした。

マリは中国拳法黒帯で全国大会入賞の腕前。


「顔面は勘弁してやるから好きなだけかかってきな。ちっ、面倒だ。どうせなら3人いっぺんにきな!その倒れてる奴は無理なようだけど」


残り2人もマリの勢いに腰が退けていた。


もうひとりの女が「あんた、なんかやってるの?」


「んなもん関係あるかい? さぁきな! 金が必要なんだろ?さぁ、かかってきな!私を倒してから金、持っていきな、 

さっ来い!」


「もういい、帰んな。今日は許してやる」赤い髪の女が言った。


「はぁ?許してやるってか? おまえバッカじゃねえの?許して要らねえよ。とっととかかってきな!」


2人はもうひとりを抱えて過ぎ去ろうとした。


「おい待ちな!帰る前に誰に頼まれたか言ってみな」


「あんたんのとこの1年っぺで蛯子って知ってるかい?」


「蛯子?ああ何となく知ってるけど」


「その姉がうちの高校の3年なんだ。 そいつから話聞いて、それじゃあ私らがとっちめてやろうかっていうわけ。 頼まれた訳じゃないからね。姉やその妹には関係ねえから・・・」


マリは「分かったよ、じゃぁな」


3人は、うな垂れて歩き出した。


その時後ろからマリが「チョット待った。帰る前に私に金貸してくんない?」


小太り気味の女が「ちっ、いくらさ?」


「嘘だよ。あんた達そのままだと道歩いていてもしょぼくれてて格好つかないよ。私とそこの喫茶店でコーヒーでも飲まない?少し休んでいこうよ、どう?」


思わぬ言葉に3人は戸惑った。


「嫌かい?嫌ならいいけど」


4人は喫茶店に入った。


「そっちのあんた、腹は大丈夫かい?」


「えぇ?」瞬間その思わぬ気遣いにマリの優しさに触れたような気がした。


「あんた達、いつもあんな真似してるのかい?」


赤毛が「してねぇ~よ」


「そっかい。わたしを路地の陰に引き込む手順は馴れてたけどね」


3人は罰悪そうにマリから顔を背けた。


「その顔はやってるね。もうよしな、格好悪いじゃん、そんな事。今度私が見かけたら完璧に締め上げるから、分かった?」


「・・・・・」


「返事は?」


「はい・・・」三人は小声で言った。


威厳のある口調で「声が小さい!聞こえない!」


「はい!」


「しっかり聞いたからね、忘れるなよ」


マリが「チョット、トイレ行ってくる」と席を立った。


その間3人は小声で話し始めた。


マリが戻ってきた。


「あ~~スッキリした。出すもん出さねえと落ち着かないね」


赤毛の女が切り出した。


「マリさん、今、話し合ったんだけど、あたい達を弟子にしてくんない?」


「なんの?」


「マリさんの」


「なんで?」


「格好いいから」


「弟子ってことは何かを学びたいんだろ?だから何を?」


「なんでも」


「あのさっ、書道でも教える?」


3人はこけた。

こうしてマリの高校3年がはじまった。



END






2「私はマリ、パートだけど何か?」


 小樽という街は日本全国とアジアからの観光客や修学旅行生でいつも賑わっていた。


観光の目玉に、ガラスを販売する店やオルゴールを扱う店が多く点在する。そのな中の観光みやげ店で、マリは夕方五時から不定期に週3回パートをはじめることになった。


観光みやげといっても水晶やタロットカードなどを扱う「スピリチュアルショップTG」という店で販売の助手をしていた。店ではシゲミとアヤミという双子の先輩がマリの指導役。


「マリちゃんは顔が怖いから何時も笑顔でいなね。なんでもハ~イって言ってりゃ客は良い気分になるから。適当にやってりゃいいのよ。買うものは買うし買う気が無い人はいくら安くったって買わないから、適当でいいからね。適当で…」


バックヤードで聞いていた店主のテイジが「シゲミちゃんさあ~ちゃんと教えてね、ちゃんと。最初が肝心だから。そうしないとシゲミちゃんやアヤミちゃんのように僕が舐められるから…」


「店長、私達舐めてませんけど…小バカにするけど」


マリは、このシゲミ先輩はひと味違うと思った。どことなく自分と同じ臭いがして親近感を感じた。パート初日から客引きをさせられた。


恥ずかしそうにマリは「いらっしゃいませ~~~」


それを見ていたシゲミが「声、小さい」


「あっハイ、いらっしゃいませ~」


「まだ小さい!チョット私の見てな」


そう言いながらシゲミは店頭に立ち「いらっしゃい。あなたにあった水晶を選びますよ~。開運・恋愛成就・家内安全・運気上昇いかがですか?今思っている彼との良縁を結びませんか~」


「シゲミさん、いつもそんないい回しするんですか?」


「するけど?なんで?」


「あっ、いやいいです」


こうしてマリのパートははじまった。働いて数日たった頃「マリ姉いる?」例の3人組がひやかしでショップを訪れた。


シゲミが「なに?マリちゃんの友達かい?」


マリは罰悪そうに「そうです、あいつら私をひやかしに来たんす」


「そう!まあ、見てな」


シゲミが不気味な笑みを浮かべて3人に近づいた。


「あんた達マリちゃんのお友達かい?」


「はいそうで~~す」


「まあ、入りなよ。見ていったら?気に入ったのがあったらハゲ店長に内緒で超安く売ってあげるからね。なんでもいいなよ」


「は~~い」3人は笑いながら店内に入ってきた。


「そこの赤い髪のあんた。この水晶手に持ってごらん」


そういって水晶を手に握らせた。シゲミは目を瞑り首を傾げて「う~~こっちかな?」


違う水晶を握らせ「・・・これだ。これがピッタリだね」


「な・なにがです?」


「相性だよ。あんたとこの水晶のバイブレーションが合うかどうか視てるのさ」


「相性なんてあるんですか?」


「当然だよ。あんた知らなかったのかい?なんにでも相性というのがあって、バイブレーションがあった時は相乗効果が生まれ、なんでも思い通りになりやすいのよ。そういう意味で昔から水晶は重宝されてるのよ。これどう?」


「相性ですか?」


「そうよ、特に男と女は相性が肝心なんだ。よく覚えておきなね」


「これください」満面の笑みだった。


「いいよ、他の二人は?」


「私達も視てください」


「よし、3人まとめたら超安くするよ。いいかい、あそこの

ハゲ店長には内緒だよ。ばれたらまた頭の毛が抜けるから」


3人は店長の頭を眺めて…にやけた。


「その2人も手にとってみてよ、私が視てあげる」


結局3人はシゲミに水晶を買わされ帰って行った。


マリが「シゲミさんありがとうございました」


「何が?」


「いや、安く売っていただいて」


「いいかい、ああやって売るのは悪い例だよ」


「なんで悪い例なんですか?みんな喜んで帰りましたけど」


「こんな透明な石ころでいいことあるわけ無いじゃん」


「えっ? 今言ったこと全部デタラメなんですか?」


「それは解らないね。そこのハガキ見てごらん」


段ボールには沢山の手紙やハガキが詰められていた。


「あとで何通か読んでごらん。願い事が成就したっていうお礼の手紙だよ。それ全部がそう」


目を丸くしたマリが「やっぱり何らかのパワーがあるのでは?」


「それは絶対無い!売ってる私が言うんだから間違いない」


「そうですか。で、さっき言ってた良い売り方とはどんな売り方ですか?」


「自分達で選ばすの。そうしたらクレームは無いよ」


「自分で?」


「そう、途中までは同じやり方なんだけど、最後に付け加えるの『私はそう感じたんだけどお客様はどう感じますか?』ってね、そして最後の選択はお客に決めてもらう。いわば、客を誘導しながらわたしの売り方に逃げ道を作ったの。これ、あのハゲ店長の直伝。ああみえてもあの中途半端ハゲって、けっこうしたたかなんだ…」


マリは、やっぱ、おとな社会は学生と違い面白いと感心した。


「いらっしゃいませ~ あなたと相性のいい水晶いかがですか?お手伝いしますよ~」呼び込みをするマリの姿があった。その姿を見てシゲミは微笑みながら頷いていた。



翌朝学校で「マリおはよう」花岡の声。


「先生、おはようございま~す」


「今日の放課後、部室に来てくれないかな?」


「いいですけど…なんすか?」


「うん、その時話すよ」


放課後マリは部室に行った。


「おう、忙しいところ悪いなっ。実はマリに先生聞きたいことがあるんだ」


「改まって、なんすか?」


「マリが最近、不良の女子高生3人と付き合ってるという噂を耳にしたんだが本当か?違ったらごめんな…」


「あ~あいつらか…本当だけど…なんで?」


「本当って、お前大丈夫なのか?不良と付き合って」


「あいつらが弟子にしてくれって言うから、しかたなく付き合ってるんだけど…私、あいつらを更正させてる最中なんだ…なんか悪いの?」


「マリの言ってること先生解らないから、解るように順を追って説明してくれるかな?」


マリは事の成り行きを説明した。


「本当か?先生お前のこと信じていいのか?」


「私、ジッタに嘘ついたことありませんけど…」


「そうだよな、先生信じるよ」


「それにしても何処から聞いたの?そんな噂」


「うん、3年生が話してるのを聞いたんだ」


「誰だ?そいつ…」


「ほらっ、お前はすぐに、そやってむきになるから噂に信憑性が出るんだ。お前を知ってる人はマリならやりかねないってなるんだよ」


「ちっ!くだらん学校だな」


「まぁそう言うなって。みんな心配してるんだから」


「分かった。先生もそんな噂、否定しておいてよね!頼むよ鼻をカジッタ先生。それよりか早く嫁さんみつけなよ、まだ頭の毛が残ってるうちに……」


「お前、俺の嫁さんのこと心配してくれてたのか?」


「そうだよ、もし嫁の来てが無かったら、私が嫁になってやってもいいかなって考えてたんだ。私でどう?」


「えっ?マリお前、俺のことそんな風に思ってくれてたの?」


「そんな風にってどんな風にさ?」


「いや…その…好きとか嫌いとかそんな風…でへっ」


「なに?言ってんだジッタ!ばっかじゃねえのいい年ぶっこいて冗談も分からねえのか?だから髪の毛薄くなるんだぞ」


「でも先生嬉しいよ」


「死ね!ハゲジッタ!ば~~か!」



「いらっしゃいませ~~あなたの・・・」


マリはショップのパートがすっかり板についてきた。


例の3人がまた現われた。


赤毛が「マリ姉働いてる?」


「おう、ちょうど良かった。3人に話あったんだ」


「なんすか?」


「あんたらその格好を変えなよ。私、先生に呼び出されてさ『マリお前、最近3人の不良と付き合ってるのか?』って言われたんだ。なにそれ?って聞いたら噂が出てるぞって。バッカじゃねぇのって言い返したけど、よく考えたらあんたらの格好はどう見てもヤンキーだよ。もう、その格好やめなよ。頭も黒くして、相手を下から上に舐めるように見る癖も駄目!分かった?その格好は禁止!それが嫌なら縁を切る・・・」


「マリ姉がそう言うなら…わかった」


3人はすごすごと退散した。


それから数日が経ちマリのもとにまた3人が現われた。


髪を黒く染めスカート丈も普通になった。その姿を見たマリが「へ~あんたら可愛くなったね、そのほうがずっといいよ」


「なんか、恥ずかしいけど……」


「大丈夫、すぐ馴れるよ。強い人間は格好じゃないから、中身だよ中身…」


そこに先輩店員のシゲミが割り込んできた。


「あれ?どうしたのあんた達。気の抜けたサイダーみたいだね。記念に水晶買わない?私が選んであげるよ、どれ…」


「いえ、結構です。この前買ったのがありますから」


「うん知ってるよ、でも今回は数倍パワーアップした石が入荷したんだ。こんなこと年に2回ぐらいしか無いんだよ」


マリが「シゲミさん、こいつらをからかうのやめて下さい」


「そっかい、予備にもうひとつどうかなと思ったんだけどねぇ…」


店内では観光客そっちのけで5人は盛り上がっていた。



 月曜日の全校朝礼が終り教室に戻る途中花岡が声をかけてきた。


「マリ、最近部活に顔出さないけどどうかしたか?」


「うん、パートの仕事が面白くって、そっちに行ってるから忙しいの」


「そっか…で、なんのパートやってるんだ?」


「キャバクラのネエちゃんだけど」


「うそっ…マリ、お前そんなことやってるのか?この学校は夜の接客業は禁止だべ。黙っててやるからすぐ辞めろ。知れたら即、停学か退学だぞ。なんて大胆なこと…あ~頭痛くなる。 で、その店の名前はなんていうの?安いの?高いの?いい娘いる?」


「ばっかじゃねえの…おい、ジッタ、嘘に決まってるだろ…なんで私がホステスするのさ?それに店の名前や値段を聞いてどうする気なんだ?このエロハゲ」


「お前ね、いくらなんでもエロハゲは無いだろう…それ言い

過ぎじゃねえのか?先生心配してるのに」


「言い過ぎじゃないし。だって本当だもん」


「先生泣きたくなるよ。月曜の朝からこれだ」


「スピリチュアルショップTGっていうところで店員の仕事してるの、そうだ!先生も一度顔出さない?水晶買ってよ。そこに凄い美人の双子が交代で働いてるんだ。シゲミとアヤミっていう人なんだけど、すっごく勉強になるんだ。修学旅行生からファンレターも届くんだよ。ジッタも店においでよ」


「なんだ、先生をビックリさせるなよ、そのうち暇になったら行くよ。たまには部活にも顔出せよ、じゃあな」


「は~~い、わかりました」


その日の夕方だった。店に場違いのオッサンが入ってきた。


「いらっしゃいませ~~」先輩シゲミが満面の笑みを浮かべていた。


「あの~こちらに山田マリという店員さんおられますか?」


「はい、おりますけど…今、休憩に入ってますが呼びますか?」


「いえ、店内を眺めて待ってます。あっ、申し遅れました。

僕はマリの学校の担任をしてます」


話の途中でシゲミが「鼻をかじった先生でしょ?マリちゃんから聞いてます。私も一度お会いしたかったです」


「あっ、そうですか…もしかしてあなたはシゲミさんですか?」ジッタの目尻がだらしなく下がっていた。


「はい、シゲミで~す。はじめまして・・・」


「マリがお世話になっております。どんどん世間勉強させてあげて下さい。私からもお願いいたします」


そこに例の3人組が入ってきた。


「シゲミさんお疲れ様っす!」


「おう、来たか、マリちゃん休憩中なんだ。でももう戻る頃だけど」


「は~~い、待ってま~す」


花岡は直感した「これが噂の3人組だな」


そこにマリが「ただいま戻りました」


「あれ・・・ジッタどうしたの?来てくれたの?うれし~い。なんか買ってけよ」


「うん、この辺に用事あって来たからさ、ついでに寄ったよ」


「嘘だろ、私の顔を見に来たんだろ。みんな、こちらが鼻をかじった先生。ハゲで独身、彼女いない歴?何年さ?因みに私を嫁にするのが先生の夢なの」


「いない歴約10年、お前なに言わせるんだ?バカ」


全員、吹き出した。


「まっ、こんな先生です。で、こっちが友達の3人集。先生、こいつら、私を倉庫の陰で喝あげしたんだ。当然未遂だけど、だから私、一発殴ってやったんだ。それからの付き合い。どう?見てくれも普通でしょ…先生の言うとおり髪もちゃんと黒く染めたんだから。そしてこの綺麗なお姉さんが…?ど・どっちだっけ?」


「マリ、お前ね・ぶっ飛ばすよ!」


「そうです、『ぶっ飛ばすよ』はシゲミ姉さん。因みに『ぶん殴るよ』がアヤミ姉さんです。以上」


また、他の客そっちのけで6人は盛り上がっていた。そこに店主のテイジが戻ってきた。


「君達、駄目だよ接客してくれないと…」


と、次の瞬間花岡の顔をじっと見ていたテイジが「もしかして鼻をカジッタか???」


「えっ?もしかしてテ・イ・ジ?」


「おう、ジッタなの?久しぶり!これ俺の店なんだ。ジッタ今、何やってるの?なんでここに?」


「うん、教え子のマリがここでパートしてるって聞いたから様子うかがいに寄ったよ。いや~懐かしいな、元気だった?」


二人は同じ高校の同級生。


こうして閉店後も7人の話しは盛り上がり、ジッタは酒とジュースを買い、テイジはつまみを買い、シゲミの双子の姉アヤミも呼んで盛大に盛り上がった。




END






3「私はマリ、体外離脱したけどなにか?」


 中国拳法全国大会実戦の部3位のマリが、久々に道場に顔を出した。


「おうマリ、久しぶりだな。生きてたのか?」


道場主の豊野師範がマリに声をかけた。


マリが道場へ顔を出したのは4ヶ月ぶりだった。


「師範、ご無沙汰しておりました。オス」


「もう辞めたのかと思った…ぞと」


「いえ、燃え尽き症候群で頭が真っ白になってしまい、道着を着る気にならなかったんです。オス」


「そうか、また着る気になったのか?ぞと」


「はい、身体が鈍ってきたので少し動かそうかと思いまして顔を出しました。オス」


「そうか、分かった。準備運動をしっかりやってから

練習しなさい。ぞと」


「ありがとうございます。オス」


準備運動に三〇分ほどかけてから軽く突き蹴りの練習を始めた。マリは突き蹴り両方のバランスが良く、なんといっても

技の早さと正確さに定評があった。どんな体勢からでも繰り出す正確な技は師範を時折驚かせた。


「4ヶ月ぶりにしては良い動きだな。さすが天才マリだぞと」


「ありがとうございます。オス」


「あの大会の準決勝は勝ってた試合なのに、なんであんなところで大きいクシャミするかな~?試合中のクシャミを見たのは、この道35年の俺でも、後にも先にもあの時だけだぞと」


「師範、もうその話はやめてください。オス」


その後、練習生の中に入って稽古を始めたその時だった。急に立ちくらみがして意識が少し遠のいた感じがした。


「師範、チョット立ちくらみするので休憩させて下さい。オス」


「久しぶりだからな無理するな少し休んでろ、ぞと」


マリは深く深呼吸をして体育座りをした。その時だった。再び目眩が襲い身体の揺れを感じて意識が遠のき、次の瞬間自分の意識が道場の天井の高さにあることに気が付いた。


「???な・なにこれ???」


そしてマリの意識は小樽の上空にあった。


「これって?わたし死んだの?うそ!まだ結婚してないし」


思った瞬間だった。何処かのお寺らしき建物の山門が目の前にあった。


「なにこれ??寺林少山崇?てらばやししょうさんすう?なんだこれ!」


「すうざんしょうりんじ」胸の奥で声がした。


「すうざんしょうりんじ?どっかで聞いた事あるけど?あっ、思い出した。小樽で我が中国拳法のライバル少林寺拳法だ。なんでお寺なのよ?しかも少林寺?」


また意識は移動し、今度は僧侶らしき人間が中国拳法と似た動きで稽古していた。その男は花岡先生に似ていたので一瞬吹き出しそうになった。次の瞬間その花岡と稽古している僧侶に意識が重なってしまった。


「あれ?肉体の感覚がある」


その花岡が上段突きを入れてきたので、左手で受けながら右で中段突きを入れた。瞬間相手は床にうずくまり倒れ込んでしまった。横から「やめ!」声がかかった。


また、場面が変わり、今度は浜辺でなにやら、ユラユラと岩場の昆布を思わせる白い道着を着た集団がいた。


「人間昆布?笑えるし…チョー受けるんだけど…」


またもやその中の意識に重なってしまった。


師範らしき男が「いいか、ワカメだワカメ。ゆらゆらと波に抵抗しない。ワカメのように波にひたすら身を任す。波の力を受け流す。抵抗しないでとにかく受け流す。それが永谷園流拳法の極意」


マリはだんだん自分がワカメになった気分になり、海水の味や臭いまで感じられた。その時遠くから声が聞こえた。


「マリ・マリ・大丈夫か?」


マリの意識が戻った。


「あつ、師範?」


「おい、マリ、大丈夫か?」


「あっ、はい大丈夫です」


「急に練習したから身体が馴れてないのかもしれんな、今日はもう帰りなさい。ぞと」


「あっ、帰ります。オス」


今視た光景の不可思議さが大きなショックだった。そのまま自宅に戻りベットに仰向けになると、今日のあのリアルな映像を思い浮かべた。


「私、もしかして臨死体験した?あの少林寺やワカメはなに?」だんだんマリの意識は混乱してきた。


「そうだ、こういう時にはテイジ店長に相談しよっと」



店は暇だった。


「こんにちわ」


「あれ?マリちゃん今日出番だっけ?」アヤミだった。


「いえ、店長に話しがあって来ました」


「あっそう、その辺に水族館のトドみたいに横になってるはずだけど…」


「いま、なにか言ったかい?アヤミちゃん」


「いえ、なんにも言ってませんけど。マリちゃんが店長に話あるそうで~す」


笑顔で「マリちゃんなに?」。


アヤミが「わたし、お邪魔かしらね?」


「いえ、アヤミさんも聞いて下さい」


マリは道場でのことを話した。


「マリちゃん、それって体外離脱してそのまま前世とか、パラレルの違う自分と重なり合ったんじゃない?」


「店長いいこと言うね。案外的を射てるかも…マリちゃん、その時って口で会話した?それともテレパシーのようなもので会話した?」


「それです、相手の考えてることが解るんです…」


「やっぱりそうだよ体外離脱したんだよ」


「でも私は頭も打ってないし、交通事故にも遭ってないですよ」


「そんなの関係ないよ。歩きながら臨死体験というか正確には体外離脱だね。聞いたことあるよ。マリちゃんはそれかもしれないね」


「体外離脱ですか・・・なんで私が体外離脱を?」


「思春期の頃に体験する人が多いんだよ。雑誌のMooで特集されてたの読んだよ」


アヤミが「店長そんな雑誌読んでるの?」


「ここはスピリチュアルショップだよ。それ系の情報は頭に入れないと、商売なんだからね。そうだ、閃いた!」


店長は上の棚から紙とマジックと蛍光ペンを取り出し。


[このコーナーの水晶を購入後、体外離脱を経験された方は体験談を当店にご連絡ください]


マリが「店長なんです、これ? 私、水晶持ってませんよ、それに水晶と体外離脱は無関係に思えますけど?」


店長は、アヤミ制作の水晶を組み込んだオーダーメード・ネックレスを取り「アイデア料。これ、店からプレゼント」マリに渡した。


アヤミが「さすが商売人テイジ。だてにハゲてないね」


「アヤミちゃんなんか言った?」


その後、店には体外離脱コーナーが設置され、急に水晶の売れ行きが復活した。そして体外離脱体験談のPCメールや封書が届くようになった。


マリが「シゲミさん、こんなに反響があって店長も私も驚いてます」


「でも、人間って面白いよね。体外離脱がこんな石で誘発されると思い込んだら、本当にする人いるんだね。鰯の頭も信心からって云うけど本当だね…私は体外離脱しなくっていいから彼氏欲しいな…マリちゃん、私に彼氏出来る水晶選んでくんない?」


「勘弁してくださいよ。…そうだ!店長なんてどうですか?店長はまんざらでもないみたいですよ。シゲミ姉さんを見る時の店長の目に星が出てますよ。知ってました?」


「マリ!お前ぶっ飛ばすよ。なんで私があんな中年ハゲと…あ~~気色悪い」


二人が笑ってると店長が「どうかしたの?なになに?聞かせてよ」


「店長のハゲ、よく見たら格好いいなって話してました」シゲミがそう言い終わると、二人はまた笑い転げた。


「あのね、僕の頭で遊ばないでね…さ、働いてちょうだい」


その後マリは頻繁に体外離脱を繰り返し、自分から意識的に体外離脱出来るようになり、色んな世界を体験した。


ある時店長が「マリちゃんは3年生だよね。もう進路は決まったのかい?」


「まだです。上の学校に行っても勉強したいこと無いから意味無いと思うし、札幌に出て就職でもしようかなって?まだ分かりません」


「事務系はどうなの?」


「私そんなガラじゃないし。机に座ってるのって私にあいません」


「でも書道部なんでしょ?」


「あれは子供の頃から嫌々させられましたから、その延長線上でジッタに頼まれてやってます」


「そうなんだ。文武両道で凄いなって思ってたんだけどね。ところでパソコン出来るのかい?」


「駄目です」


「そっか…でもマリちゃんなら何やらせても一流になれると思うけどね、なんかその特性を活かせる仕事見つけたいね。ジッタも誉めてたよ。マリはただの高校生と違うって」


「店長、話し変わりますけど、私、体外離脱簡単にできるように上達したんですよ。その特性を活かした仕事何かありませんか?」


「あるよ!」後ろからシゲミの声がした。


「あっ、シゲミさん、聞いてたんすか?」


「ハゲ店長が高校生のマリを口説いてるんじゃないかと心配でね、つい話しを聞いてしまったよ」


店長が「シゲミちゃんそれって、嫉妬なの?」


「おい、ハゲ!残ってる髪の毛抜いたろか?そのハゲ頭出せ、おら」


「また、すぐ頭のこと言うもんな…これでも、けっこう気にしてるんだけど…」


シゲミとマリは大笑いした。


「ところでシゲミさん、さっきの話しの続きなんですけど…」


「うん、マリが体外離脱して、自分のパラレル・ワールドに行ってそっちの世界の自分が、なにをやってるのか視てくるの。必ずこちらの自分の考えていることを既にやってる自分がいるはずなのよ。そして、その自分と重なるの。何回も繰り返してやってるとその技術がだんだん習得できるというわけ」


店長が「それ可能だよ。理屈に合ってると思う。シゲミちゃん、何処でそんな知識習得したわけ?尊敬するよ」


「店の雑誌Mooだけど、店長、せっかく買ってるのに読んでないの?どこ読んでるわけ?」


「たまたま見落としてるだけだよ…」


「店長・シゲミ先輩、良いアドバイスありがとうございます」


こうしてマリはパラレル・ワールドで職業訓練をすることになった。数ヶ月、マリは真剣に技術の習得に励んだ。ある時、学校で進路決定の報告が先生にされた。


花岡が「マリは進路どうするんだ?」


「先生・・・私、○○○・・・やりたいです」


耳に手を当て「なに?もう一度聞いていいかな?」


「おい、何度も言わせるな・・・ジッタしっかり聞けよ・・・」




END






4「私はマリ、進路で悩んでますけどなにか?」


 マリが店にやってきた「店長、アヤミさんおはようございま~す」


「マリちゃんおはようさん。僕、これから打合せで札幌に行ってくるからアヤミちゃんと店番お願いね」


「はい、わかりました」


アヤミが「マリ、そろそろ進路考えないとね…」


「そうなんですよ、私、やりたいこと無いんです。アヤミさんはどうでした?」


「私の場合はとりあえず旅に出て色んな人と友達になったね。そのうちにアクセサリーとか作って路上で売ったり。東南アジアの安い工芸品を買ってきて販売して今があるのよ。手職は強い味方。マリは何が出来る?」


「中国拳法と書道しかないです」


「書道か、そうだ!この色紙になんか文字書いてみてくんない」


「いいですけど…なんて書きます?」


「そうね…空がいい。空ひと文字」


マリは一気に空を書いた。


「おっ、いいね。バランスがいいよ、いけるよこれ。まだ八枚あるから全部書いてよ」


そう言って結局、道・雲・龍・光・魂・心・宙・喝と一気に書いた。


「よし次は名前だね、何が好い?」


「ピリカが好きです」


「書だから漢字だろうが!」


「これはどうですか?」


比莉花と書いた。


「うん好いかもしれない!決定」そう言いながらガラスケースの中に9枚を飾った。


「一枚3千円ぐらいでどう?」


「良いですけど店長に許可は?」


「な~~に、帰ってくる前に全部売っちゃおうよ」


アヤミはポップに【チャネラー比莉花 直筆】(当店限定)と書いた。


客が訪ねた「すいませんけど、この書はなんですか?」


「これはチャネラーの比莉花先生が、この店限定で書いてくれたんです。独特と味のなにかがあるでしょ。比莉花先生本人は否定してるけど、買った人は特別なバイブレーションが伝わると評判なんですよ。この書には何らかのパワーがあるみたいなんです。私も一枚持ってるの。これはさっき入荷したばっかりなので、たぶん次は来月まで入荷しません。旅の土産にどうですか?」


店長が戻る前に9枚すべて完売した。


「7千円は所場代として店長に、残りは山分けしようか」


マリはアヤミのさばき方に敬服した。


「アヤミさん凄いですね」


「路上で小物販売してたから売るコツを知ってるだけよ。この店に来る女の子は路上の客と比べると案外簡単なんだ」


「アヤミさんそのコツ教えてもらえないですか?」


「教わってどうするのよ。まさかマリも路上販売やろうなんて思ってないでしょうね」


「なんでですか?色んな人と知り合いになれて楽しいと思いますけど」


「そりゃ楽しいけどさ、生活は安定しないよ。雨の日もあるし、変な酔っぱらいだとか極道者の嫌がらせなんて頻繁にあるんだよ」


「私そういうのかまいませんけど」


「とりあえず卒業まで時間あるからじっくり考えな。そうだ今度の土曜日に私と狸小路に行ってみようか?路上販売の連中紹介するよ。面白いのいるんだよ。そうだ、その人もピリカって云うんだ味のある姉さんだよ…」



 土曜の夜九時、ここは札幌の狸小路というアーケード商店街。二人の姿があった。


「おや?珍しいね。アヤミじゃないかい。しばらくだね元気してたのかい?」


「ピリカ姉さんご無沙汰です」


マリが「ピリカさんですね。初めまして私マリといいます」


アヤミが「そう、この姉さんはこの辺を仕切ってる占い師のピリカ姉さん。この辺のことはなんでも聞いて」


「マリさんか…あんた好い人相してるね、私の目を視てごらん」


マリはピリカを凝視した。マリは初めて味わう感覚を覚えた。全てを見透かされているような。でも、今までで経験したことのない暖かさも感じられた。心の中でこの人はなに者?疑問と不安が同時に湧いた。


「マリ、マリ、おいマリ…」


「あっ、アヤミさん…なにか?」


「どうした?目が宙に浮いてるよ」


ピリカが「アヤミ、この娘はなにしてるんだい?」


「さすがピリカ姉さん。やっぱり分かるんだ。私もそう思ったから連れてきたの。マリはまだ高校3年生なの」


「そうなんだ、で、卒業したら上の学校に行くのかい?」


「いえ、まだ決まってません」


「そっかい、じっくり決めなよ。折角の自分だけの人生なんだから納得のいく道を歩んでね」


「はい」


それから二人は狸小路を一時間ほどぶらつき小樽に帰った。


「どうだった」


「うん、あのシリパさんが印象的で後のことはハッキリいってあまり憶えてません」


「分かるよ。私もピリカ姉さんと初めて会った時は衝撃的だった。シリパ姉さん独特のバイブレーションだからね」


「やっぱり大人の世界って面白いですね」


「黙っててもすぐなるよ」



 「マリ先輩おはようございます」書道部二年生の長尾だった。


「はい、おはよう」


「先輩、最近部活に来ないですね、どうかしました?」


「うん、子供の頃から書道やってると飽きる時もあるかもね」


「たまには顔出して下さい。マリ先輩がいないと作業に集中できるんだけど。面白さが半減しますから」


「あたしゃ、あんたらの何なのさ?」


「書道部のムードメーカーですけど…」


「お前も何でも思ったこと正直に云うね…分かった。今日顔出すから。しっかり私の分の墨をすっておきなね!中途半端にすらないでよ」


「お疲れ~久々の書道部。やっぱ墨の香りは落ち着くね」


「マリ先輩お久しぶりです」


「おつ、花江元気してたかい?」


「はい」


「さ~て?墨は?」


「出来てま~す」


「ありがとう」


マリは一気に10枚を書き上げた。


「先輩相変らず大胆ですね・・・どうしたらこんなの

書けるのかな?」


相変らず紙からはみ出しても気にせず、書き殴った字だけれど、訂正する箇所が無いスキのない字だった。顧問の花岡はマリのそこを入部した当初から認めていた。そこに花岡が入ってきた。


「おっ、マリ部活に来てたのか、ご無沙汰だな」


マリの書いた作品を見て「うん、前にも増して大胆になった。でも、字に迷いが感じられるけど…なんかあったか?」


マリが「ジッタ凄いよ、結構眼力あるじゃん。そう、迷いがあるんだよね。進路のことで」


「ほ~う、マリでも人並みに迷いがあるんだ…」


「おい、ジッタ人並みってどういう事さ?人並みって…」


「いや、先生の失言…謝る」


「もう遅い、私、しっかり聞いたけど!」


そのやり取りを見ていた他の部員は「これだよな、書道部名物、先生とマリ先輩のボケとツッコミ…」


マリが「おい、多田なんか言ったか?」


「いえ、何にも言ってません」


「そっかい・・・ならいいけど」


こうしてマリの久しぶりの部活は半分以上が二人のボケとツッコミ、そして笑いで終った。



「今日はこれで帰るから、また来るよ。じゃあ、お疲れさん」


久々に部活を楽しんだ。やっぱ墨の匂いって心落ち着くと改めて実感していた。


帰宅途中「マリさ~ん」後ろから声がした。


振り向くと後輩の新見直子だった。


「おっ、直子久しぶりだね」


「はい、お久しぶりです。わたし見ましたよ」


「なんだい唐突に、で、なに見た?」


「スピリチュアルショップでバイトしてるマリ先輩を」


「えっ、通ったなら声を掛けてくれたらよかったのに」


「うん、かけようと思ったら、急にマリ先輩大きな声で呼び込みを始めたから声かけにくくて…」


「そっか、直子に見られてたか」


「あれってどんなお店なんですか?」


「若い女子を騙して商品を売りつけるインチキな店」


「えっ?インチキなんですか?受けるんですけど…」


「ば~~か、うっそ。いろんなスピリチュアルな商品あるんだ。水晶だとかタロットカードなんかも売ってるし、詳しくは解らないけどね、今度きなよ」


「はい、今度顔出します。じゃぁ私こっちの道行きます」


「おう、遊びにおいで。直子に合った水晶探しておくからね、好い男性と出会える効力ある水晶を、どう?」


「マリ先輩きたいしてま~す」



放課後の職員室花岡が「マリは進路どうするんだ?」


「先生… 私……やりたいです」


「…なに?…もう一度聞いていいかな?」


「だから…私……やりたいです」


「なにを?」


「おい、ジッタしっかり聞けよ!」


「うん、ごめん」


「私は卒業したらファッションモデルになりたい」


「…だから…なんで?」


「なんで?って…なんで?そんなこと聞くの?」


「だって、どういう発想からモデルなのよ。先生をからかってるわけ?」


「うん、からかってる、ハハ、ばっかじゃないの…なんで私がモデルなの、もういい加減解れよな…私と何年付き合ってるんだ…たく」


「お前冗談きつい…先生マリについていけないよ」


「ごめん、まだ進路どうしようかなって考えてま~す。

やっぱ、ジッタの嫁さんになろうかな…私もらってくれる?どう?」


「先生、お前さえ良ければあれ?マリ?何処行った?」


既にマリは走りだし遠くから「ジッタのバ~カ」




END





5「私はマリ、東京に来たけどなにか?」


 花岡が「マリ、今日の放課後職員室に来てくれるか?」


「先生…私なんかした?」  


「来てから話す。その時に」いつになく神妙な声だった。


「な~~~に・・・偉そうに、もったいぶって…」


「じゃあなっ!」


放課後の職員室。花岡の横でマリが「先生、話しってなんですか?」


「マリ、何ですかじゃない。お前このままだと卒業難しくなるぞ。他の先生に話し聞いたけど国語・数学・英語・物理の出席単位が全然足らないって言ってるぞ。どういう事なんだ?」


「そっすか?」


「お前この教科の時間いつもどこに行ってるんだ?」いつになく花岡の語気は強かった。


「・・・・部」


「なに聞こえない」


「書道部ですけど…」


「なんで?」


「昼寝…」


「えっ?もう一度大きい声で」


「はい、書道部で昼寝してました」


職員室内に先生達のくすくす笑い声が聞こえた。


「なんで?」花岡は語気を強めて言った。


「はい、昼飯を食うとまぶたが閉まるのであります。もう絶対にしませんマリは誓います以上。と言うことでもう帰っていいですか?花岡先生」


「なんでそういう時だけ花岡先生って敬語使うんだ。いつもはジッタって呼び捨てなのに・・・」


「まつ、固いことヌキに、ね!マリも反省してることだし、今日のところはこれで許してやってください…」


「分かった、でもいいか英語の単位はあと2時間欠席すると留年決定だ。熱があっても学校に来い。分かったか…以上」


「オス。分かりました。マリ頑張ります。です」


「ですが多い。戻っていい」


「はい、失礼します。山田麻理枝帰ります」


マリが去ったあと花岡は「本当に分かってるのかなぁ・・あいつ」小さくぼやいた。



 翌年の春


体育館には正装した先生達と父母が並んでいた。


「先生、在校生の皆さん。今日まで大変お世話になりました。我々卒業生から皆さんに歌を送ります。心込めて歌います。どうぞ聞いてやってください。


さらば友よ 旅立ちのとき 変わらないその想いを今…

さくら、お聞きください。 卒業生起立!」


ぼくらはきっと待ってる  君とまた会える日々を


歌いながら、むせび泣く泣く卒業生。卒業生はどの顔も神妙だった。が、ひとりだけ場の雰囲気を無視し、終始笑顔の卒業生がいた。そう、マリだった。


先生側の席では花岡がマリに小さな手振りで「マリ、お前も泣け…」とサインを送っていた。


マリは「なんで?バ~カ」と手振りで返し、視線をそらした。


卒業式が終了し教室に戻った。花岡は担任として最後の挨拶をした。「みなさん卒業おめでとうございます。無事卒業式を終えることが出来ました。本当にこれで最後です。僕もみんなを受け持って大変勉強になりました。

2年間ありがとうございました…」


花岡の挨拶中マリは終始窓から外を眺めていた。


「マリ聞いてるか?」


「……」マリには花岡の話が耳に入ってない。


「おい!マリ…」


マリは後ろの席の榊原君絵に肩を叩かれた。


「ハイなんですか?」


「マリお前ね…最後までその調子だ…ちゃんと社会に出てやっていけるのか?先生マリのことが一番心配です」


「先生、こっちも私が卒業したら先生が下級生から、舐められて心労から頭の毛が枯れるんじゃないかととっても心配で~す。毛が枯れたらますます結婚出来なくなるよ。みんな先生の髪の毛がある状態をしっかり目に焼き付けておきなね。何年か後のクラス会までその晩秋の頭とお別れ~お疲れ様でした。以上解散!」


最終的にマリのひと声でクラス全員笑いながら解散した。


マリは高校を卒業し進学せず社会人への道を選んだ。目的達成のためのお金を貯めるためパートを掛け持ちしていた。

週3日は今まで通りTEIZIの店で働き、週3日はガラス加工のショップで店員として働くことになった。

毎週土曜の夜は札幌の狸小路の店が閉店後、マリの書いた書を路上販売する日が続いた。


ある時TEIZIの店長が「マリちゃんそんなに働いてどうするの?」


「今はとりあえずお金を貯めます。そして旅に出たいんです」


「旅に?なんで?」


「東京を見てきたいの」


「なんで?」


「色んな人に会いたいの」


「小樽や札幌じゃ駄目なわけ?」


「なんか、ここや札幌はこぢんまりしてそうで、人に会うならやっぱ東京と思ってます。色んな人がいると思うんです。そういう人と触れあってみたいから」


「なんか、アヤミちゃんみたいだね。で、東京でどうやって暮らすの?」


「安いアパート借りて自炊しながら、どこか狸小路みたいなアーケードで書を販売しながら暮らすの」


「書で生計出来るの?」


「たぶん出来ないと思います。だから今頑張って稼いで、

二年は遊んで暮らせるぐらい貯めようと思ってます。だから腕ならしのつもりで狸小路で土曜日に店広げてます」


「でも狸小路の閉店後からだと遅くなるよ、小樽まで帰り大丈夫なの?」


「土曜だけ高校時代の友達のアパートに世話になって、日曜の朝一で小樽に帰ってパートに行きます」


「そっかぁ、マリちゃん感心だね…少ないけど時給少し上げておくからね。くれぐれもあの二人には内緒にね…」


「店長ありがとうございます」


「いや、ジッタからも頼まれてるからね、これくらいなんくるない(大丈夫)さ~~」


「あんたはウチナンチュ(沖縄人)か?」


そして二年後マリ旅立ちの時。


 小樽の居酒屋に店長、ジッタ、シゲミ、アヤミ、例の三人娘そして今日の主役マリ。8人が久々の再会をした。


店長が「今日はマリちゃんの送別会。思えば3年前店に面接に来た時は・・・$#%#’Y%('%&」


シゲミが「店長、無駄に長いけど…」


「あっ、そうだね、とにかく、今日は盛り上がりましょう。マリちゃんの門出を祝しカンパ~イ」


「カンパ~イ」


宴もたけなわ、ジッタが「マリ、身体に気を配れよ。とくに水には気をつけるんだぞ…」


「ジッタ、年寄り臭いこと言わないの。今はおいしい水ならいくらでも売ってるし、コンビニ行ったらなんでも手に入るんだから」


シゲミが「ジッタ相変らずマリに言われっぱなしだね。どっちが先生なんだか…」


全員大笑い。


三人組が「マリ姉さん、東京に行ったら私達も遊びに行くから泊めてね。必ずね! そしてマルキューや竹下通りだとかアキバやブクロや巣鴨だとかスカイツリーも行くんだ」


マリが「あのねっ、そういうのをオノボリさんって言うのね、めんどくせっ! ひと昔前だとカッペともいうの。ホッペに赤い頬紅書いたら完璧に昭和だよ。あんたらに似合いそう…」


アヤミが「ところでどの辺りに住むのさ?」


「今のところ井の頭線の三鷹台から吉祥寺の辺りかなって考えてます」


「閑静な住宅地だね、でもなんで?」


「私、以前から注目してる人が吉祥寺のサンロードで占師みたいことやってるの。だからその人のそばで書の路上販売考えてます。いろいろ吸収したいので」


「それって、もしかしてもとホームレスの花子?」


「えっ!アヤミ姉さん花子さんを知ってるの?どうして?」マリは声高にきいた。


「私は直接会ったことないけど路上販売の中間から聞いたことあるよ」


ジッタが「どんな人なの?その花子って・・・」


アヤミが「なんでも、学生時代は『なんで?の花子とか哲学者花子』って云われてて、とにかく好奇心旺盛で何でも質問したらしいの。東洋学校出てから横浜でホームレスやってて、そこで知り合った何とかっていう爺さんに師事したらしいの。 


で、ある時その爺さんが若者達に絡まれて殺されたらしいのね、それがショックで段ボール小屋に彼女は何日も籠もり続けてたらしいの。そんなある時、一羽の海鳥が魚を捕獲しようと海に飛び込んだ光景を見た。刹那。悟りを開いたっていうの。

その後、家に戻って近くにある吉祥寺のサンロードで会話士と称し、客のガイドからの伝言を伝え相談に乗るという商売をはじめたらしい。

それが評判を呼んで、今では多い時には数十名が平日九時過ぎから訪れるらしいの。私が聞いた花子の情報はそのくらいかな」


ジッタが「それで井の頭線に住もうとしてるんだ…」


店長が「マリちゃんもスピリチュアルに興味あるの?」


「うん、最初はそうでもなかったんだけど卒業間近になって、偶然ネットで花子さんを知ってから、そっちの方に興味がわいたの」


店長が「なんだ、スピリチュアルのことなら僕が専門家なんだから、質問してくれたらよかったのに」


シゲミが「店長はやめときな。インチキだから」


「またシゲミちゃんそんなこと言うもんな! アヤミちゃんどう思う?」


「シゲミのいうとおりインチキだけどなにか?」


相変わらずこのメンバーは笑いが絶えない。


最後にマ「みなさん、今日はどうもありがとうございました。どうなるか分からないけどマリ頑張ります」



 3日後、マリは井の頭に安いアパートを借り吉祥寺のサンロードを歩いていた。


サンロードのストリートミュージシャンに「すみませんこの辺に花子さんという方が夜に出店してるって聞いて来たんですけど知りませんか?」


「あ~~。花さんならそこの銀行前だけど、彼女は不定期だから今日現われるかどうか分からないよ。あれを見てみなよ、若いお姉ちゃんが行儀よく並んでるだろ、花さんに話しがあるならあの後ろに並ぶんだ。でも、来るかどうか分からないから気長にね。暇だから僕の歌でも聴きながら待ってなよ」


そう言い終えると若者はギター片手に歌い始めた。


並び始めて1時間が経過した。小さい椅子と折りたたみの小さなテーブルを持った女性が現われた。並んでいる人の中に顔見知りがいて挨拶を交わしていた。女性は支度を終え、先頭から手招きして椅子に座らせ話し始めた。花子が来た辺りから先程のミュージシャンは気を遣ってからか声のトーンを落とし、歌のジャンルもバラード曲が多く感じられた。


相談はひとり10分ほどの持ち時間で終えていた。マリは時計を眺めながら「今日は無理かも・?また明日出直しか…」そう考えながら宙を見ていた。気が付いたら十一時が過ぎて今日は無理かも、と思っていた。その時だった。


急に花子の声がした「あなたどうぞ」


マリは咄嗟だったので心の準備が出来ていなかった。


「どうぞお掛けください」花子は抑揚がなく淡々とした口調だった。


「失礼します」


「はい、聞きたいことがあったらどうぞ」


「別にありませんけど」マリは自分でもなんでこんな返答をしたのか理解できなかった。


花子は「あなた、私に会いに来たの?」


「あ、はい」


「会ってどうしたかったの?」


「何か感じたかったんです。で、小樽から3日前に井の頭に引っ越して来ました」


「そう・・・で、私と会って何を感じたかった?私を見てどう感じた?」


「まだ実感ありません」


「そう、あなたの生年月日は?」


「平成5年2月28日です」


「はい、でなんで私なの?」


「ネットで花子さんのこと拝見して興味持ちました」


「どう興味持ったの」


「本当に悟りってあるのか?またどんなものなのか?」


「あなたは悟りについてどう思うの?」


「絵空事」


「なんで?」


「私の田舎は北海道の小樽なんですけど、どのお坊さんを見てもお経とお葬式ばっかで、なんか仏教という葬式屋さんみたいな感じが…」


「フふ、そっかそれ以外では?」


「分かりません。花子さんに会ったら聞きたいこと沢山あったんですけど、全部忘れました…」


「じゃあ、もう30分待っててくれる。はるばる来たんだから、終ったら私と軽く一杯のみに行こうか。どう?」


「あっはい!じゃぁ待ってます」


 

 ここは花子馴染みの居酒屋『とりあえずジョッキーください』という名の店、二人は向かい合わせに席に着きビールを注文した。

珍しくマリは緊張しまくっていた「あの~~う。初対面なのにこうして酒飲んでかまわないのですか」


「私が誘ったんだからそれでいいの。なにか理由必要?」


「あっ、いやっ、そんなことありません。オス」


「オスか…面白いね。武道やってたの?」


「あっ、はい!」


マリは今まで感じたことのない得体の知れないなにかを感じていた。深呼吸して気を落ち着かせ口火を切った。


「高校を卒業して進路を考えていたら。花子さんの事を取り上げたブログを拝見しました。もとホームレスで、今は会話士として吉祥寺で沢山の人と会話をしてる女性花子って書いてありました。それで花子さんに興味を持ち是非会ってみたいと思いとりあえず私も、札幌の狸小路というアーケード街で書の経験があるもので、それを販売して…」


その時、この店の看板娘理彩が「花さん久しぶりで~す。これサービスです。どうぞ」枝豆を差し出した。


「理彩ちゃんありがとう」花子が礼を言った。


改めて向き直った花子は「それで?」


「お客さんの顔を見てインスピレーションで色紙に書を書いてお金を貰うという方法で、場慣らしというか何というか、そして今ここにおります。オス」


「そうなの…じゃあ明日から、私の横で敷物でも敷いて座ったら。勝手は馴れてるんでしょ」


「あっ、はい、宜しくお願いします」


「宜しくと言われても弟子でないから適当にやって下さい。私も、特別教えることないから、適当に私のこと観察して下さい」


改めて二人は乾杯した。


「花子さんはどうしてホームレスになったんですか?」


「うん、これからは花さんでいいよ。みんなそう呼んでる。私は卒業してもやりたいことがなかったの。みんなと同じような道に興味がなかったのね。それでどういう訳かホームレスやったのよ。今となれば次郎さんというホームレスと縁があって、会うための当然の成り行きなんだけどね」


「その次郎さんが花さんの、お師匠さんなんですか?」


「そう、私が花開く切っ掛けを与えてくれた人」


そこに理彩がやってきた。


花子が「理彩ちゃん、この子名前え~と?」


「あっ、麻理枝です、マリと呼んで下さい」


「そう、マリさん、小樽から来たばかりなの、いろいろ東京の事とか教えてあげてちょうだい」


「理彩です宜しくお願いします」


「理彩ちゃんも一緒に飲まない?」


花子が「それじゃあ乾杯!」


こうしてマリの東京での生活が始まった。


麻理枝若干二一歳の春の東京      

     

  


END






6「私はマリ、花子と3年間過ごしたけどなにか?」


マリが東京に来て1年が過ぎたある日のこと、いつものようにサンロードで座っていた。


突然声がした「マリ」男性の声。


下を向いて筆を走らせていたマリが見上げるとそこに立っていたのは高校の恩師ジッタ。


「あんた誰?」


「えっ?俺だよ、ジッタだけど?」


「ジッタって何処の?ジッタですか?」


みるみる間に顔が青ざめてきた。「やだなぁ、冗談やめようよ!」


「プッ!バ~カ。ジッタの顔忘れるわけないだろうが。どうしたの急に?誰かと思った…」


「連絡しないで突然顔出したら喜ぶかと思って」


「喜ぶって誰が?」


「マリが…」


「私が?なんで?どうして? 喜ぶわけないでしょうが!私が喜ぶのは、小栗旬様に声をかけられた時だけ。なんだい下向いていたら、急に田舎臭いカッペの臭いがすると思ったら、ジッタなんだもの元気にしてたのかい?」


「元気にしてたのかいは、こっちの言う台詞だろうが。この1年メールの一通もよこさないで、ジッタ元気ですか?とかなんとか、普通あるだろ!」


「なんで?私がジッタに?どうして・?」


「俺は淋しいよ!二年間も世話になった先生にその態度」


「『きゃ~!ジッタ先生~久しぶり~』とかいって泣けばいいの?」


「もういい、先生帰る。邪魔したな!元気でなマリじゃぁ・・・」肩を落として歩き出した。


「うっそ!ジッタごめん、つい懐かしくって。マリ言い過ぎました!すみませんでした…」


ジッタは振り向いて「バ~カ。ひっかかった。せっかくここまで来てそう簡単に帰るか。バ~~カ。さすがのマリも先生の演技にひっかかった!やった!」


「ばっかじゃないの、ハゲ!一年前より、いちだんと薄くなったね、可哀想に、私がズラ買ってやろうか?」マリの目に涙が潤んでいた。


ジッタはそんなマリの目を初めて見た。強がり云うけど結構マリなりに苦労してるんだと感じた。


「ここに何時まで座ってるの?」


「うん、十一時頃までだけどその時によって違う」


「そっか、終ったらその辺で一杯どうかなっ」


「嬉しい、せっかくだからこれからでもいいよ」


二人は居酒屋『とりあえずジョッキーください』に入った。


「いらっしゃいませ~。おや、マリが男性となんて珍しいね」理彩だった。


「このハゲは高校時代に私が面倒見ていたジッタ先生」


「えっ、これが噂のジッタ先生なの!初めまして。私、理彩です。宜しくお願いします」


「あっ、花岡です。マリがお世話になってます」


マリが「先生、この店の鳥軟骨美味しいよ、どう?」


そして二人は久しぶりに乾杯をした。


「マリ、けっこう楽しくやってるみたいだな」


「うん、なんとかやってる・・・」


「少し太ったか?」


「うん、生活が不規則だからね。それより今、何年生受け持ってるの?」


二人の近況話しが続いた。


「ところでお前が云っていた花子さんって、先生会ってみたいな」


「今日来てるかな?花さん不定期なんだよねこれから行ってみる?」


「うん、せっかくだから行ってみようかな。みんなにも、みやげ話してあげたいし」


そして二人は居酒屋を出てサンロードに戻った。


「ジッタあそこに人だかりがあるでしょ。あれでもちゃんと並んでるんだよ。順番待ち。結構遠くから来てる人もいるんだ。札幌は私だけだけどね」


「先生も並ぼうかな?」


「なに、ジッタ相談あるの?」


「いや、挨拶でもと思って・・・」


「なんで?」


「なんでって、お前が世話になってる人だから…」


「あっ、そういう人間的な情は超越してるから必要ないの。花さんはそういう人なんだ。とっても優しいひとだよ」


「先生には理解できないけど…」


「うん、スピリチュアル系を学んでる人なら理解できるかも。私だって一年ずっと横で見てるけどまだまだ理解できないこと沢山あるもん。でも、分かることは誰にでも優しい…そして型にはまらない」



「理解たってマリは二十三歳。社会に出てまだ三年じゃぁ」


「なに言ってるの、花さんは私ぐらいの時悟ったのよ。私達とできが違うのよ、できが…」


「そんなもんかねぇ、悟りねぇ…」


「ジッタ、今日は私のところに泊まりなよ、花さん誘って飲み直さない?その方が絶対解りやすいよ。ねぇそうしなよ」


「じゃぁ今晩世話になろうかな、寝るところは押入れでもかまわないからな」


「あったりまえだろ、タダなんだから、マリは男を初めて部屋に入れるんだから光栄に思いなね…」


「なんで?」


「うっせ……!」



その後、場所を変え、花子を誘って三人で飲み直した。


ジッタが「花さん、悟ったらどんな感じになるんですか?」


マリが「ジッタ、もう少し違う聞き方ないわけ?」


「だって、先生、悟りって言葉しか解らないから」


「いいえ、かまいません。あたりまえの疑問ですから。悟りに定義はありません。花子には花子の悟りがあります。ジッタ先生には先生の悟りがあります。 私が悟る前と後で大きく違ったのは、自分が何処から来て何処に行こうとしてるのかが分かりました。 全ての人は価値満タンということです。ある意味その価値満タンに気付くかどうかということ」


ジッタが「価値満タンですか?なんの?価値ですか?」


「悟る価値、喜ぶための価値、死ぬ価値、生きる価値、人間としての価値、全ての森羅万象の価値。まだ続けますか?」


「あっ、いや結構です。『哲学の花子』ってあだ名が付いてたと聞きましたが悟りはその延長上なんですか?」


「ある意味でそうとも云えますし、別物とも云えます」


「それは悟ったから解ったことなんですか?」


「はい、そうです。全ては繫がってるということです」


ジッタと花子のやり取りは深夜遅くまで続いた。


マリはジッタって、だてに教師やってないな。質問ひとつひとつポイントを的確についてくる。質問に遊びがひとつもない。花子はいつものように淡々と答えていた。


ジッタが「私は今日、花さんにいくつも質問しました。それに対して頭で考えることなく即答で返してくれました。こんなの初めてです。その答えはどこから来るんですか?」


「頭で考えてないからです。先程私が言いましたね、価値満タンって。その意味が解ればおのずと答えが出て来ます」


「マリ、お前ががなんで東京に、そして吉祥寺に来たのか先生は今じめて理解できた。花さんは凄い人だ。先生はこんな人に出会ったことも聞いたこともない。しっかり勉強させて貰いな」


ジッタはそのまま酔いつぶれてしまった。


マリは「花さん、今日はすみませんでした」


「いいえ、とっても楽しかった。久しぶりに真剣に考える人の目をみたの。あなたがはじめて吉祥寺に来た時は特別質問はなかったけど、目はこのジッタ先生と同じだったよ」


「いい先生と巡り会ったね」


「そうですか??」


「今に気が付くよ…」


「なにがですか?」


「……」花子は無言で微笑んだ。


三人が吉祥寺から出たのは朝の四時を過ぎていた。


朝ジッタが目を覚ました「ァ~~よく寝た。マリ?えっ…」部屋からマリが消えていた。三十分程して紙袋を抱えたマリが戻ってきた。


「お帰り、マリ何処行ってたの?」


「パンだよパンを買いに行ってきたの。近くに美味しいパン屋さんがあるから買ってきたの。 なに、起きたら私がいないから不安になったのかい?」


「冗談はよし子さん」


「ジッタそれ古いから、田舎くさいし・・・よしなさいね・・・」


「お前ね、なにかというとすぐ田舎くさいって言うけど、お前だって田舎もんなんだから…たかだか一年ぐらい東京に住んでるからって。都会面しないの」


「ジッタ、うっせ!うっせ!私の家に厄介になってからに偉そうにして!ハゲ…」


二人は食事をして、井の頭公園から吉祥寺を探索し中央線のホームに立っていた。


「マリ、先生ホッとした。元気そうで」


「先生も変わってなくってホッとした。いつまでも先生でいてね。今日は心配してくれてありがとう。で、用事はこれからなの?どこで?」


「用事なんて無いよ。だれも用事で東京に来たって言ってないだろ」


「じゃあなんで?」


「今度話すよ…じゃぁ!」


ジッタはそのまま電車で帰って行った。見送ったマリは部屋に戻り昨夜のことを思い浮かべた。頬に熱いものが幾筋も流れていた。その後マリは事あるごとにジッタにメールしていた。



マリが吉祥寺に来て3年が過ぎたある日。


花が突然「私、少しの間ここを留守にする。のんびりと旅に出る」そう言い残したまま旅立った。


マリも「私も、ここらで北海道に帰る」と言いだした。


吉祥寺仲間の盛大なお別れ会が三日間続き、それぞれに固いハグを交わし、思い出の街を離れた。


久しぶりに小樽に帰ったマリは荷物の整理をして、久しぶりの町に出た。そしてテ~ジの店にやってきた。


「いらっしゃいませ~あなたに合った水晶どうですか」懐かしいシゲミの声だった。


「ひとつ下さい・・・」


「ハイありがとうございます」シゲミが見上げると笑顔のマリの顔が目に入った。


「あれ、マリ・マリじゃない…元気だったの。いつ帰ったの?」


「3日前で~す」


「元気だった?」


「はい、元気です。店長は?」


「ハゲ、裏のショップに油売りに行ってるのよ。最近、裏に入り浸りなの。あのハゲと向こうのオーナーと話しが合って、何時もこの時間になると行くのよ。もう少しで戻るから待ってな… それよりどうだった?東京は?ジッタ吉祥寺に行ったでしょ。あのあと、店に来るたびにマリと花さんは凄いって自分の事みたいに自慢話するのね、すごく感激したみたいだよ。で、もうジッタに会ったのかい?」


「近々連絡してみます。小樽に帰ることはメールしてますから解ってると思います」


そこに、店長が帰ってきた。


「おや・・・誰かと思ったらマリちゃんでしょ。お帰りなさい元気だったのかい?」


シゲミが「店長、マリが帰ること知ってたの?」


「うん、ジッタから聞いてたよ」


「なんで教えてくれなかったのさ・・・」


「言ったでしょ?あれ?僕が言ったのアヤミちゃんだったかな?似てるから忘れた」


シゲミが「店長のエロハゲ・・・」


マリが「店長、今度はエロハゲなんですか?」


「マリちゃんまで・・・勘弁してよ」


店の客をほっといて3人は盛り上がった。シゲミが「そうだアヤミが町に出てきてるはずだからメールしておくから」


十分ほどでアヤミもかけつけた。店長が「誰か足りないと思ったらジッタが足りない。僕がメールしておこうかね。マリちゃん今日はこの後、なにか予定入ってる?」


「いえ、無いです。そうだ私も3人組に連絡します」


8時の閉店と同時に店を閉めて宴会が始まった。


始まってすぐに店長が「あの~う、もうひとり呼びたいけどかまわないかな?」


全員声をそろえて「いいとも~」


準備してたかのように現われたのが裏のスピリチュアルショップの女性オーナー大広積子だった。


「初めまして大広です。お近づきにビールお持ちしました。これどうぞ」


「かんぱ~い」こうして9人がそろった。


大広が「マリさんは吉祥寺の花さんと一緒に店並べてたんですって?」


「はい、いろいろ勉強させて貰いました」


「よかったら花子さんってどんな人か説明願えないでしょうか?あの方はとっても興味あるの」


「簡単にですか?簡単にはチョット難しいですね…なんて言うか空気みたいな…俗に、大きな人とか心の広い人とか、哲人とか色んな表現があると思いますが、そのどれもが当てはまるし外れてます。私は花子さんは純粋な人そのものだと思います」


テ~ジが「純粋って?」


「はい、普通世間の人は外に出たら、誰かに会わせようとしますよね、それが社会だったり、組織だったり。でも、花さんはそのどれにも影響を受けないの。でいてしっかりとと属してるんです。空集合みたいな、分かりやすくいうと、世間に影響されず世間の仲間入りが自然と出来る女性かな…」


ジッタが「僕も吉祥寺で朝まで花子さんに質問攻めしたけど、どんな質問にも僕に分かりやすく淡々と応えてくれたよ。

普通質問されたら答えるのに多少の考えるタイムラグがあるよね、彼女はどんな質問にも即答っていうか。こっちが質問する前に察知して答えを云ってくれるんだ。本当に悟りってあるんだよ。花子さんをみたらわかるよ」


アヤミが「やっぱ噂は本当だったんだね、もっと聞かせてよ」


マリが「花子さんは大学を出てそのまま横浜でホームレスになったらしいの、同じホームレス中間に横浜の次郎さんという人に師事していて、その次郎さんが亡くなる前に花子さんに『なにが不安なんだね?その不安を出してごらん』と云ったらしいの。それを考えてる最中。次郎さんが不良達に絡まれていた人を助けようとして逆に暴行に遭い亡くなったの。

そのショックで鬱状態にあった花こさんが、小屋に籠もりっぱなしで、ある朝カモメが飛んでる姿を見て忽然と悟ったらしいの。その後、実家に戻り近くの吉祥寺で椅子とテーブルを置いて色んな人の話し相手や相談に乗ってるの。そこの横で私が3年間世話になってたの。半分は花さんのぱしりみたいなことやってたの。ある時、花さんが急にひとりで旅出ると云って姿を消したの。で、私も小樽に帰ることにしたって言うわけ」


シゲミが「どんな相談が多かったの?」


「なんでもなの、老若男女やジャンルを選ばないの。来る人は誰でも対応するの。ただ、ミュージシャンや芸術家が比較的多かったかも」


大広が「3年も一緒にいたらマリさんもなんか影響受けました?」


「影響かどうか分からないけど。相談者の顔を見たらなんの相談事か分かるようになりました」


大広が「ああいうバイブレーションって同調するっていうから、それかもしれないね?」


マリが「私もそれ感じたことあります」


ジッタが「話し変わるけどマリは今後どうするの?」


「うん、ふた月ぐらいのんびりして考える」


店長が「またマリちゃんの書を店に置かない?結構評判よくてさ。あの後問い合わせが立て続けにあったんだよ。どう?」


その日は終始花子の話題で終った。



      END






7「私はマリ、時間が変だけどなにか?」


 マリが小樽に帰省してふた月が過ぎた。朝食を済ませのんびりソファーに横になってると携帯が鳴った。着信は花子だった。


「もしもし花さん。突然どうしたの?」


「マリ元気してたかい?」


「はい」


「先週吉祥寺に寄ったら、マリが小樽に帰ったって聞いて今電話した」


「花さん元気してました?」


「うん、私は元気。今小樽かい?」


「はい、小樽です」


「じゃぁ、早速なんだけど小樽駅に迎えに来てくんない?」


「えっ、花さん小樽なんですか?」


「そう、小樽」


「分かりました20分ぐらいで着きますから。正面のビル地下にConaコーヒーがありますから、そこで少し待っててもらえますか?」


マリはまさか花さんが小樽に来るとは思ってもみなかった。Conaコーヒーでは花子が笑顔で座っていた。


「花さん・・・ビックリしました。どうしたんですか?小樽に来ると思ってなかったです」


「うん、気が向いたから北海道でも散歩しようかと思ってね」


「そうですか散歩ですか・・・・」


「そう、散歩」


「あの後何処に行ったんですか?」


「沖縄から九州、四国、中国、関西、そして北海道」


「もう昼ですし、せっかく小樽に来たんですから寿司でも食べませんか?ご馳走させて下さい」


「うん、まかせる」


それから二人は都通を歩き寿司屋通りに入った。


「ここの店を出てすぐに、スピリチュアルショップがあって、そこでパートしてたんです。チョット寄ってきません?私が小樽に戻った時、花さんの話で盛り上がったんですよ。突然花さんが顔出したら店長はひっくり返りますよ」


「じゃぁ、食べたら行こうか」


そうして二人はショップに立ち寄った。


「店長、シゲミさんこんにちわは」


「おや、マリちゃんいらっしゃい?」


「お友達?」


「はい、花子さんっていいます」


「うそっ、またまたマリちゃん僕を騙そうとして」


「初めまして、花子です」


「えっ!マジで、小樽に花子さんが」そのままテ~ジは固まってしまった。


「おう、マリ来たのかい、あんたはもしかして?」


マリが「そう、噂の花さんです」


「え~!あっ、私はシゲミです。初めまして」


「花子です初めまして」


「いつ小樽に来られたのですか?」


「今日北海道に来て千歳空港で電車の時間を見てたら、小樽行の快速があったので乗りました」


店長が「こんな事なら、聞きたい話し用意しておけばよかったさぁ~」


シゲミが「店長また沖縄人になってるべ」


マリが「花さん、今日は私の部屋に泊まってって下さいよ。何日でも構いませんから、のんびりしてって下さい」


「マリ、ありがとう」


「どういたしまして。私が東京ではさんざんお世話になったのだから、小樽に来た時は私に任せて下さい」


花子が小樽に来た事が一気に知れ渡り、閉店前からショップにいつものみんなが駆けつけ閉店を待った。


そんな中にジッタの顔があった。


「花子さん久しぶりです。本当に来てたんですね。ようこそ小樽へ」


「ジッタさんお久しぶりです。先日はご馳走様でした。楽しかったです」


アヤミも「花子さんの噂は聞いております。お会いできて光栄です」


裏のショップの大広店長も顔を出した。こうして花子を囲んで宴会が行われた。宴会は深夜まで行われた。宴会というよりは終始みんなの質疑応答というかんじになっていた。


店長は「本当に質問に対して淀みなく答えが返ってきますね。どこで学んだんですか?」


「学んだんではなく、正確にいうと思い出した。これは誰でもそうですけど。人間はこの世では思い出せないだけなんです。もっと正確に言うと、この世に生を受け、この世で生活をしてるうちに、魂の記憶の大半を忘れるようにできてるの。私はある切っ掛けで目覚めた状態にあるの。ただそれだけの違いです。皆さんも今日、質問されたことは既に知ってることなんです。いっとき忘れてるだけ。ただそれだけです。悟ったら分かりますが特別なものなんてありません。もし特別というものが存在するなら、全てが特別です。私は、起きてる状態でそのことに気が付いた。ただ、そんだけです」


マリとジッタ以外、個々に質問を投げかけていた。


ジッタが「花さんは今後どうなさるんですか?」


「また吉祥寺に戻ります。質問がある限り答えなくては。それが私の役目であり、生まれる前からの定めだから」


店長が「組織は作らないの?」


「地球もここまで来たらもう組織の時代でないの、組織を作らなくてもちゃんと繫がってるの。このように」


こうして小樽での夜は終わった。それから数日花子はマリの家で世話になり東京に帰っていった。マリは花子が帰ったことで、なにかが終わったと思った。言葉には出来ないが確実に心の中でなにかが消え失せた。


花子が帰って4日目の朝だった。


「お母さん、これから余市に行ってくるから。ニッカウイスキー工場を見学してくる・・・」


「分かったよ、で、なんでニッカなの?」


「私にも分からない、今朝夢でニッカを見学してたら誰かに声を掛けられて目が醒めたの。なにか分からないけどリアルな夢だったからとりあえず行ってみるの。そんなに遅くならないと思う」


「はいよ、行ってらっしゃい」


小樽駅からバスで30分。余市に到着したマリは、そのまま駅の近くにあるニッカ工場に入っていった。大勢の観光客に混ざり一通り工場を見学し、最後の試飲コーナーでひと息ついていた。


今日のリアルなあの夢はなに?あの女の人は誰?マリの夢の舞台はニッカウイスキーの余市工場。見知らぬ笑顔の女の人から箱を渡された。その箱には鍵が掛かっていて『鍵は自分で探しなさい』と渡された。そんな夢で目覚めたのだった。


あの夢はいったいなんだろう?ガラス越しに見える遠くの山々を眺めながらウイスキーを口に含ませいた。


「なんでニッカ?」


景色を眺め1時間ほど経過した。


「わけ解らない、もう帰ろうかな」そう呟きながら席を立とうとしたその時後ろから女性の声がした。


「マリちゃん」


振り向いた。そこに立っていたのはシリパだった。


「シリパ姉さん、こんなところでどうしたんですか?」


「あんね、ここ余市は私の田舎なの。ところであんた帰ってきたなら、みやげ話でも聞かせなさいよね」


「すいませんでした。近々伺います」


「待ってるよ。で?今日はマリひとりかい?」


「はい、ニッカを見学しに・・・」


「嘘言いなさい、なにしにきた?」


「さすがシリパ姉さん」


マリは夢のことを話して聞かせた。


「うっそ、私も同じ夢見てそれで来たんだよ、なんだろね?」


「姉さんもそうなんですか」マリは雑夢でないことだけは確信した。


「もう少し私に付き合いなよ。帰りは私の車に乗っていこうよ。小樽で降ろすから、東京の話し聞かせてよ?」


マリは東京というよりも花子のことを中心に話した。先週その花子が小樽に遊びに来たことも話した。


「そうかい、この3年間で好い経験させてもらったね。なかなか普通の女の子に経験できることじゃないよ」


「はい、好い経験しました。みんなのおかげです」


「で、今後どうするのさ?」


「まだ、決めてません」


「そっか、で書はまだ書いてるのかい?」


「はい、小樽に戻ってからアヤミさんのパート先に置いてもらってます」


「アヤミか、彼女元気かい?」


「相変らずです。双子して元気です」


「え?アヤミは双子なの?」


「えっ、知りませんでした?そっくりでシゲミさんって言いますけど、もっと強烈な人です」


「そうなんだ」


「そうだ、帰りにショップ寄ってきませんか?今日、シゲミさんの出番の日なんですよ」


「そうしようか。面白そう」


余市をあとにした二人はショップTGに向った。


車の中でシリパは「いったいあの夢は何だったんだろうね、二人同時に同じ夢見るなんて」


「そうですよね?」


余市を出て三〇分ほどで二人はショップに着いた。


シゲミから「マリいらっしゃい」


マリが「こんにちは、店長は?」


「さっき札幌に仕入れに行くって出て行ったけど」


「シゲミさん、こちらがシリパ姉さん」


「シリパさん?あのアヤミがよく言うシリパさん」


「シリパです。初めまして」


シリパはマリに視線を向け「ソックリだね・・・」


「私も今だにどっちがどっちだか分からないです・・・」


シゲミは「マリ、ぶっ飛ばすよ! 上品で美人なのが私シゲミ。下品でブリッコで歪な性格がアヤミですから」


3人は客をほったらかしに笑いまくっていた。そこにアヤミがスクーターで駆けつけた。


「シリパ姉さん、どうしたんですか、小樽に用事でも?」


シリパが「こっちが、下品でブリッコで性格が歪なアヤミね」


アヤミは「マリ、あんたかい私のいないところで姉さんになに言ったのさ?」


4人は、またも客そっちのけで話し始め店の外にまで、笑い声が響きわたっていた。

帰宅したマリは今日はいったい何だったの?私達が見たあの夢は?自問自答しながら布団に入った。


翌朝「6に源せよ」金色の綺麗な文字が目の前に現われた瞬間マリは目が醒めた。


「?…又夢?…全然意味分からない」


とりあえず筆と紙を出して忘れないように書にして残した。こんなことしてても時間の無駄か・・・就職口でも探そうか。そう思い立ち、いくつか面接に行ったが断られた。う~ん、寒くなるまでアーケードに座って書を販売しようか。


そして、マリは書道用具店の営業が終わったあと、店の前を借りて座った。見本の文字には「6に源せよ」と書かれた書を飾っていた。

このスタイルは吉祥寺で3年の経験から、座ってすぐに感覚が蘇った。吉祥寺と違うのはアジアから来た観光客の多さを感じた。その中でも中国人は書に対して寛大で、言葉は解らないが誉めてくれている事は理解できた。秋までの間ショップTGへの出品収入と路上販売の収入でしのいでいた。


路上の出店も段々寒く感じてきた。あの二つの夢のことも忘れかけていた頃ひとりの男性がやってきた。腕組みをしながらじっと作品を見て口を開いた。


「僕にもひとつ書いて欲しいな」


「はい、ありがとうございます。好きな字と書体ありますか?」


「字は『源』で書体は問いません。かすれた感じが好きです」


マリは男性を軽く凝視し色紙に一気に「源」という一文字を書いた。


「どうですか?」色紙をみせた。


「うん、ありがとう。これどう使ってもいいのかい?」


「はい、購入されたお客様の物ですから」


「暖簾にしようと思ってるんです」


「なにかご商売でも?」


「はい、ラーメン屋なんです」


「そうですか。どちらで?」


「あれです」


マリの座っている斜め向かいで改装工事中の店を指さした。


「あっ、一週間ほど前から工事してる店はお客さんのお店なんですか」


「うん、やっと念願の店がもてたんです」


「そうですか、おめでとうございます。食べに行きます。頑張ってください」


その後、その書体は暖簾や看板等に採用された。その店から書のことを聞いた客がパッケージなどマリの下に仕事の依頼も徐々に増えてきた。


END






8「私はマリ、ジッタが一大事だけどなにか?」完結編


マリは部屋で一日が過ぎるのをじっと待っていた。明日起床して、また日付けが変わっていないようだったら、とりあえず同じ夢を視たシリパさんに連絡を取ってみよう…

落ち着かないまま翌朝を迎えた。布団から飛び起きたマリは居間に下りて朝刊の日付を見た。余市に行ってから2日が過ぎていた。正常に戻っていた。大きく安堵のため息をついてソファーに座り込んだ。昨日の空白の一日、あれはいったいなに…?そうだ、あとでシリパ姉さんに電話しよう。朝食を終え、9時を待って電話をした。


「シリパ姉さん?」


「マリ…そろそろ電話くる頃だと思ったよ」


「もしかして、シリパ姉さんも時間が変になったの?」


「そう、私も一昨日を2回繰り返した。ガイドに聞いても教えてくれないから自分で解決しなってことだよ。昨日のことと余市の夢と必ず関係してるはずなんだ。

それが解けたら全体像が見えると思う。私とあんたは同じ事を学んでいる気がするんだ。ポイントはそこだよ…」


「うん、分かりました。でも、シリパさんは分かるけど何で私が?さっぱり分かりません」


「とにかく同じなにかを学ぼうとしてるの、だから目を背けたら駄目…」


「ハイ、分かりました」そう言って電話を切った。


マリは机に向いメモをとった。余市・ニッカ・箱・封印・六に源せよ…なんだろう?マリは皆目見当がつかなかった。



 それから数日が過ぎ、マリは街に墨を買いにやってきた。いつもの書道具店に入った。


「この墨下さい」


「はい、二千円です」


「はい」


「ありがとうございます。あっ、そうだマリちゃん、花岡先生入院したって知ってる?」


「えっ、ジッタが…なんでですか?」


「それが原因は知らないんだ…なんでも書道部の生徒の話だと、一ヶ月前に札幌医大に緊急入院したって聞いたけど、病名は詳しく知らないって」


「そうですか・…ジッタが入院…?」


マリはその足でショップTGに寄った。


「店長、ジッタ先生が入院したって知ってます?」


「いや、ジッタ入院したのかい……?なんで?」


「私も今、書道具店の店主に聞いたとこなの」


「僕も全然聞いてないよ、どうしたんだろね?」


「分かりました。学校に問い合わせてみます。分かったら店長に連絡します」


「マリちゃん頼むね」


マリは足早に駆けだしていった。


「こんにちは、すみませ~ん」職員室の引戸を開けた。


遠くから声がした「あれ?マリ…?マリじゃないか」


英語教師の三宅だった。


「三宅先生、お久しぶりです」


「マリ、どうした?珍しいじゃないか。元気だったのか?」


「はい、元気です三宅先生もお元気そうで」


「うん、僕はこのとおり元気だ。で、今日はどうした?」


「花岡先生が入院したって噂を聞いたから確かめに来ました」


「そっか・・・でも、ジッタ先生には他言するなって言われてるから」


「じゃあ、医大に入院って本当なんですね?」


「実はそうなんだ。もうひとつき前になるかな。突然、頭が痛いから、学校を休んで病院に行くって休暇とったんだ。病院の待合室で待っててその場で倒れたらしい。そのまま小樽の病院から札幌医大に急搬送されたんだ。脳梗塞だったらしい」


「脳梗塞って何ですか?」


「血栓つまり血の固まりが脳の血管を詰まらせるんだ。詰まった血管の箇所から後ろに血が流れないから、その先の脳が死んでしまうという怖い病気なんだ。 生き残っても半身麻痺とか言語障害や記憶障害などの後遺障害が出る場合も多いらしい。 重い場合は寝たきりもあるんだ。ジッタは右半身に軽い麻痺が残ってるみたいで、今はリハビリ中ということだ」


マリはじっと下を向いたまま三宅の話を聞いていた。


「三宅先生、話していただいてありがとうございます。わたし医大に行ってきます」


「うん、励ましてやってくれ。学校は先生の復帰を待ってるからって。宜しく伝えてくれ」


マリはその足で小樽駅から札幌行の電車に飛び乗った。


私…ジッタの一大事を全然知らなかった。吉祥寺までわざわざ私のこと心配で見に来てくれたジッタの一大事を…


地下鉄に乗り換えて病院へ駆けつけた。一〇三八号室、ここか。どんな顔したら好いの?病室の前でもじもじしていた。

その時だった。


後ろから「マリ…」蚊の鳴くようなか細い声だった。


マリは声のする方を振り返ると、目はおちくぼみ頬もこけて青白い顔の男が立っていた。 そう、そこにいたのは精気の弱々しいジッタだった。


マリは力なく「ジッタ、なんで?なんで黙ってたのさ…調子はどうなの?」言い終えたマリはそのまま顔を下に向けてしまった。


「マリ、見舞いに来てくれたのか……すまないな」


「どうなの?」


「なにが?」


「身体の具合・・・」


「ああ、今は体力無いけど、すぐ回復してまた学校に復帰するよ」


「今後じゃなくて、今はどうなの?」


「うん、ハッキリいっていまいちかな…」


「私に出来ること無いの?」


「今はないけど、退院したらテージの店でまたみんなで騒ぎたいな…」


「そんなんじゃなく今、今私の出来ること!」


「どうしたマリ、いつもの元気が無いじゃないか?」


「こんな状況で元気出せないよ…」


「そっか、マリもいっちょまえに気を遣うんだ…」


「うん使うよ……いっぱい使う。ジッタが……」


「ジッタがどうした?」


「なんでもない…そうだ、なにか食べたい物や、読みたい本とか無いの?」


「…なんにも無い…早く娑婆に戻りたいよ」


「うん、待ってる…必ず戻ってね!約束だからね…」


「うん、約束する。待っててくれ」


「ジッタわたし…」


「なに?」


「さっき三宅先生に話聞いて、そのまま急いで来たからなにもお見舞いを持ってこなかった。これから街でなんか買ってくる、食べたいものとかある?」


「いい、遠慮するよ…退院したらご馳走してくれ」


「今がいいの、今してあげたい…今させて…」


「……マリ、ありがとう…じゃあ、新倉屋のごま団子食べたいかな」


「うん、狸小路に新倉屋あるから買ってくる…」


マリはそのまま病室から出て行った。


遠くから様子を伺っていた看護師が「教え子さんですか?」


「はい、教え子です」


「なんか凄く気落ちして淋しそう…花岡さんのこと凄く慕ってるんですね。遠くから見ていてもよく分かります」


「そうですかね?ぼくにはいつもため口効いてますけどね…」ジッタの表情は憂いを含んでいた。


「気のゆるせない人には、ため口なんて使えません。慕ってるんですね、とっても好い間柄です」



 1時間ほどしてマリが病室を訪れた。


「買ってきたよ」包みを差し出した。


「ありがとうな、マリも一緒に食べよう、一緒にどうだ?」


「うん」


「それにしても今日は、何時になくおとなしいな?」


「だって、ジッタの一大事だから…」


「なんだマリ…先生のこと心配してけれるのか……?」


「だって、私を貰ってくれるんでしょ」


「貰うって…嫁さんってことか…?」


「うん」


「馬鹿だね……お前、本気にしてたのか?」


「なんで?ジッタがそう言ったじゃん。高校の時も卒業してからも…何回も…何回も云ったジャン…」


「マリ本気にしてたの?」


「してたもん…したら悪いの?」


「そっか、悪いけど忘れてくれ。先生馬鹿だった」


「どういうことさ?」


「うん、先生な…たぶん長く生きられないと思うんだ」


「なにが?小脳梗塞って運動機能で生き死に関係ないって聞いたけど」


「うん、調べて分かったんだけど、他に悪性の腫瘍が発見されて手術ができない所にあるんだ。それがたったひと月で大きくなったんだ。このまま大きくなったら身体に麻痺がおこる可能性あるんだって」


「なにそれ?なんか好い薬とか治療方法は無いの?」


「うん、今のところ無いらしい」


いきなり「私帰るから」


「ああ、そっか、今日はありがとうな、マリ」


「また来るから。私、諦め…な…い…から!」


そのまま病室をあとにした。病院を出る前に受け付けロビー横のトイレに入った。瞬間必死でこらえていた涙が溢れてきた。マリは声を殺してただ、ただ、泣いた。



JR南小樽駅で下車し、そのままショップTGに顔を出した。アヤミは見せに入ってきたマリの様子から、普段と違う何かを感じ「マリ!どうした?なにあったのさ言ってごらん・?」


アヤミの言葉に、こらえていた涙がまた溢れ、同時に自分をここまで支えてきた緊張が一気に緩んだ。そしてその場に座り込んだ。


アヤミが肩に手を添え「マリ、なにがなにあった?」


「ジッタが……ジッタが死にそうなんです」


「えっ、なんで?……」


「頭に悪性の腫瘍があって、手術出来ないって」


「そっか、とりあえずここは、人目につくからバックヤードに入って。店長には私から報告しておくから、分かった?」 


「ハイ」


アヤミが店長に簡単に説明した。店長も眼を赤くして「なんだろね?最近顔出さないなって思ったら入院してたとは…」


目を赤くしたマリが出て来た「ジッタが退院したら、ここでまたみんなで飲みたいって言ってました…」


ジッタは「そっか…僕もみんなで飲みたいよ。とっておきの水晶をお見舞いに持っていこうかね」


アヤミが「そうだよ、絶対治すよ。なんのためにこの商売やってるのか分からないからね。ここで力を発揮しないとね」


「そうだね、で、とりあえずどの水晶にする?」店長の一言に2人はこけた。



 マリは3日間ネットの前にいた。当然癌の克服方法。たくさん考え方や方法があるけど……免疫治療に惹かれる…人間の本来持ってる治癒力。マリは早速病院に向った。


「ジッタいる~」


「おや、マリ来たのか?」


「うん、来た。私、勉強したから」


「な、なんだよいきなり」


「癌の勉強したんだ。そして癌は熱に弱いことも分かった。それで、温熱療法も併用してやってみようよと思うの……

っていうか私がやるから。決めたの、いいでしょ」


マリの顔からその意志の固さを感じた「マリ、ありがとうな。先生とっても嬉しいよ。本当にありがとう。でも、こんなところでマリの大切な時間を使わないでほしい。他の同年代の女の子と同じようにしてほしい。先生はそっちのほうがありがたい…」


「なにが、私が好きですることに文句あるわけ?」


「もう、先生のことほっといて、マリはマリらしくしてほしい」


「バッカじゃないの、これが私の選んだ道なの、マリのやりたいことなの、なんかもんくあるわけ?ジッタのば~~か」


「……ありがとうな…マリ」


それからマリは温熱治療器を購入しジッタに買い与え、病院に隠れて独自の温熱治療を併用した。初めは違和感を感じたが日を追うごとに痛みが和らいで、ひと月が過ぎた頃には痛みは治まり顔色もよくなった。そして週に一度のMRI検査が実施された。


医師は「花岡さん、腫瘍が半分以下になってます。奇跡的効果です。もう少し薬を投与してみましょう」


結果にマリとジッタは喜んだ。


「マリ、ありがとうな、お前のおかげだよ。退院したらもう一度吉祥寺行きたいな。先生がマリにお礼として旅行をプレゼントするよ。吉祥寺と横浜や京都・大阪も先生行きたいな」


「うん、分かった。明日来る時は旅行のパンフレット持ってくるからね、全額ジッタ持ちだから。忘れんなよ」


「おう、ジッタに任せなさい」


この頃の二人は夫婦のようだった。



それからまたひと月が過ぎ検査日を迎えた。


「先生どうですか?」


「う~~~ん、花岡さん、最近首の辺りに違和感を感じないですか?」


「いいえ?感じませんけど……なにかありましたか?」


「脳の腫瘍は奇跡的に確実に小さくなってます」


「はあ…」ジッタに笑みがこぼれた。


「ただし」


次の瞬間、ジッタはいや~な感じがした。


「リンパに新たな腫瘍が発見されました。間違いなく転移と思われます」


ジッタは崖登りの頂上目前で、下に突き落とされた気分だった。病室に戻ったジッタを見てマリはなにかを悟った。


「ねぇ、ジッタ聞かせて。ジッタの顔色を見たら察しがついた。でも、ジッタの言葉で聞きたい」


「マリ、先生……死にたくないよ。まだ、マリとディズニーランド行ってないし。横浜も京都も、大阪ユニバーサルだって行ってない」


「ジッタ、ちゃんと言葉にして話して」


「うん、脳の腫瘍は小さくなってるけど、首のリンパに転移してるって。やはり手術出来ないらしい」


「なんで?一生懸命頑張ったのに……」それ以上マリは言葉に出来なかった。部屋には重く暗い空気が居座った。


「マリ、先生退院する。そして旅に出よう。もう一度吉祥寺や横浜などふたりで旅をしよう。旅費や全てを先生がもつ。

一緒に行ってくれないか…

いや、行こう…

一緒に行こう…

いや、おれと一緒にくるんだマリ!」


マリは首を縦に振った。その肩は小刻みにゆれていた。



 そして半月後、二人は羽田空港に降りたった。ひと月間ゆっくりと時間を掛け、関東・関西をくまなく周り抱えきれないお土産と、たくさんの想い出をつくり帰路に着いた。

その後、半月ほどでジッタは眠るように息を引き取った。マリは、ジッタの葬儀後、絶望感からか心臓に病を患った。

ジッタが死んで49日目にマリも心不全で追うようにこの世を去った。ジッタの墓の横に小さいマリの墓が建てられた。


日本海の見える小高い墓地。二人は眠りについた。

いち教師と教え子の短い人生の幕は下りた。


 

THE END


特別編 シゲミとアヤミ



9「私はシゲミだけどなにか?」



 観光の町小樽に中高校生相手の小物店があった。


店の名はスピリチュアルショップ・TG。ここはメイン通りから少し奥に入った、間口三.六メートルの小さなショップ。知る人ぞ知るスピリチュアル小物専門店。

スピリチュアルに関する物なら一通り扱っていた。水晶・占い各種カード・仏像・ロザリオ・本・お香など、手ごろな価格が学生には買いやすく、店はそれなりに繁盛していた。


「いらっしゃいませ。ご自由に見て下さい」


今日も修学旅行で小樽観光に来た女子学生がやってきた。


「あの~う、こちらでお客の相性にあった水晶を選んでもらえると聞いて来たんですけど……?」


「はい、あなた用ですか?」


「いえ、彼なんですけど…」


「結構ですよ。彼の写真持ってたら見せてもらえますか?」


「どうぞ、彼です」


「おっ、好い顔してるねぇ…ハイ、解りました」


店主のテ~ジはその写真に手をかざし眼をとじた。次の瞬間、数ある水晶の中から、ひとつの石を選び「これですね!」と言いながらそっと女の子の手に渡した。


「これが彼のエナジーと、あなたのエナジーの調和を司る水晶ですね。あなたも購入されるとより良い効果が生まれるかもしれません」


「じゃあ、私のも選んで下さい」


「はい、ありがとうございます。ひとつ一五〇〇円ですけどふたつだとおまけして二五〇〇円になります」


そばで見ていた女の子も「あの~、私もお願いします」その子も携帯の写真を見せた。


ひととおり客が帰った。昨日から店で働くことになったパートのシゲミが「テ~ジ店長さん、凄いですね!私、そんな能力全然ありませんけど……」


「僕もそんな能力ないよ」笑顔で答えた。


「えっ?でもさっき…エッ?」


「あっ、あれね。あれデタラメ」


シゲミは我が耳を疑った。


「嘘なんですか?」


「嘘じゃないよ、デタラメだよ」


「…?どう違うんですか?」


「嘘は故意的につくもの。デタラメは、かも知れないということ。もしかしたら当たってるかも知れないでしょうが?鰯の頭も信心からって言うでしょう?当のお客も半信半疑だからいいの。今までクレームも無いし!」


瞬間、シゲミは就職先を間違ったと後悔した。その日の夕方、同じように水晶を求める女子学生の団体が来た。シゲミが応対していた。


「すみません」と云いながらスマホの写真を見せた。


シゲミは躊躇せずに手のひらを水晶にかざし眼を閉じた。とっても順応しやすい性格である。テ~ジはしっかりとその様子を見ていた。


今日も店が開いた。


「いらっしゃいませ~あなたに合った石探しませんか?当店がお手伝いさせてもらいますよ…」


テ~ジが指示していないのに勝手に呼び込みをやってるシゲミがいた。この娘に天性の素質を感じた。久々のヒット!と思った。


「オネェさん、すいません」


「はい、なんですか?」


「あの~、手相占いの好い本ありませんか?」


「ありますよ、この辺の本が初心者にお勧めですよ」


「じゃあ、これ下さい」


客が帰った後テ~ジが聞いた。


「手相占い、詳しいのかい?」


「いいえ、知りません」


「だって、さっき客に…」


「あっ、あれはデ、タ、ラ、メ、です」


テ~ジはまたまたシゲミに天性の才能を感じた。ある時、店に手紙が届いた。


「先日、水晶をふたつ購入した学生ですが、おかげさまで彼との間が深まりました。水晶の効果に驚いています。ありがとうございました」


テ~ジはシゲミに手紙を渡し「デタラメとはこういう事を云うんだよ!」得意げな顔で訳の解らない理屈を力説した。


「お姉さん、私のお母さんが体調を崩して入院してるんです。御守りに渡したいので、どれか効く石ありませんか?」


「ありますよ」なにも考えずシゲミは即答した。


「このムラサキ水晶なんか病気が癒えそうですよ!」


「じゃぁ、これ下さい」


「はい、二〇〇〇円です」


客が帰って頃合いをみてテ~ジは「大事なこと云うの忘れてたけど、身体に関することはコメントしないでね。当事者にとっては大事なことなんだ。責任が負えないコメントはくれぐれも避けてね」


「は~い」シゲミは案外軽かった。


それからひと月後、店に一通の手紙が届いた。


「ひと月程前、母の病気が癒えるようにと、紫水晶を購入した女子学生です。あの石を選んでいただいた綺麗なお姉さん、ありがとうございました。お姉さんに選んでいただいた石を母親に渡してから体調が日に日に良くなり、先日無事退院できました。後から聞かされたんですけど、母親は癌だったようです。母親の回復を医者も不思議だと云ってたそうです。

それだけではありません。昨日、私が学校行くのに家を出て直後、急に紫水晶が気になったので、家に戻り母親から石を借りて家を出たんです。いつも乗るバスに間に合わず、ひとバス遅れて乗りました。そして次のバス停の前で悲惨な光景を目撃しました。私が乗る予定だったバスがダンプカーと激突し横転してたんです。あのバスに乗ってたら災難に遭っていたと思います。私が無事だったのは、この紫水晶のおかげだと思っております。この石を勧めてくれたお姉さんに感謝します。スピリチュアルショップ・TG 素敵なお姉様へ  

山口ミオ」


それを読んだシゲミは「あっそう」と、そのまま手紙を丸めてゴミ箱に棄ててしまった。シゲミにはどうでもいいことだった。


それを物陰から見ていたテ~ジは、この女ただ者でないと思った。


「今日から世の中4連休。忙しくなるから頼むね、シゲミちゃん」


シゲミは4連休か…ちぇっ、めんどうくせ~と心で思っていた。


「いらっしゃいませ~。あなたの意識を波動チューニングしませんか~」


「この娘は、どこでそんな言葉を覚えてきたんだ?」テ~ジは思った。この仕事が天職のようだ。久々のホームランか?盆と正月が一度にきたようだ。


3人の女子高生が入ってきた。


「いらっしゃいませ」


3人は店内を見渡していた。


「このタロットって本当に当たるの?」


シゲミが答えた「当たりますよ、タロットの歴史は古いですから。今でも存在するっていうことは、当たるからだと思いませんか?」


見本用のタロットを手にしたシゲミは「1回やってみます?」


「えっ、いいですか?」


タロット用のフェールトを取り出しテーブルに広げた。


「で、なにを占いたいの?」


「私は大学受験と看護師と進路で迷ってます。私に向いてるのはどちらかタロットで解りますか?」


側で聞いていたテ~ジは、シゲミでもタロットは無理だろう…と思った。


「解りますよ」カードをシャッフルし作業に入った。


一枚のカードを取り出し「はい、このカードがあなたの未来を暗示してるの。よくみるのよ。いくよ」


シゲミは、これ見よがしにカードを開いた。


「はい、結論から言うと看護師ね。あなたは勉強はあまり好きでない。あなたの持って生まれた武器はズバリ!母性愛。看護師は天職かも。考えた事無い?」


「あります、あります」


「ありますは1回でいいの」


みんな爆笑すると同時に驚いていた。残り二人も占ってもらった。


「いいかい、タロットは誰でも出来るの。カードに大まかな意味があるから、まずそれを覚えること。それを元にインスピレーションを働かせるの。 世の中には偶然がないの。どんな占いにも偶然は無い。 ただし、同じ内容で何回も引かないこと。たとえそれが意に反するカードでもね。どうしても再び占いしたい場合は期間をおいて半年後にすること。 未来はたえず変化するの。決まった未来は無いからよ。 あなた達にも簡単にできるわ…どう、買わない? たったの三五〇〇円。3セットまとめたら三〇〇円引きの三二〇〇円でどう? ただし、あのハゲ店長に内緒よ」


3人は口を揃えて「頂きます」


「ハイ、ありがとうございました!」


3人が帰った後テ~ジがやって来た。


「シゲミちゃん、タロット出来るの?」


「出来ない」


「?えっ……だって今の彼女たちに……?」


「あれ全部デタラメです。わたし一度だけ、姉が持ってたタロットの本読んだことあって、たまたまそのカードの内容を覚えてたの。でも、3人目の髪の長い娘のカードは解らないから直感です。テ~ジさんも占いましょうか?」


「いや、僕はけっこうです・・・」


テ~ジは、この女・・・完全に俺を上回ってると思った。



 ある時、店に少し派手目の女性が入ってきた。


シゲミは「いらっしゃいま……なにしに来た!」急に言葉を荒げた。


「あんた、お客にその態度はどういうことよ?」


「ひやかしはお断りしま~す」


「バッカじゃないの?小樽の客は観光客が多いの。観光客の多くは冷やかし。小樽の店員ならよく覚えておきな」


「ふん、なに偉そうに、なにがひやかしよ、ひやかしみたいな顔してさ!バ~~カ!」


「ひやかしみたいな顔ってどんな顔よ?」


「そんな顔よ!バッカじゃねぇの?」


それを聞きつけたテ~ジがやってきた。


「どうもすみません………?プッ……」その客の顔を見た瞬間吹き出した。同じ顔の二人のシゲミが言い合いしていたからだった。


客のシゲミが言った「お宅が店主のテ~ジさん?いつもこのお馬鹿な妹がお世話になっております。双子の姉のアヤミです。どうも」


「お姉さんですか?シゲミさんにはお世話になってます。私が店主のテージです。初めまして」


「あなたがデタラメに石を売ってらっしゃる、テ~ジさんですか?」


テ~ジはシゲミの顔を睨んだ。


シゲミが「で、今日はなに?」


「用事でそこまで来たからチョット寄ってみたの」


「買わないなら、商売の邪魔だから帰ってくれますか…」


「なによ、水晶でも買おうかなって思ってるのに、その態度は?テ~ジさん、私に合った石ありますか?」


「勘弁して下さいよ…」テ~ジが頭をかきながら言った。


それを見ていたシゲミが「お客様、私が選んであげましょうか?」


「あなたに解るの?」


「商売ですから・・・」


無作為に石を選び「これなんてピッタリですよ、失恋の痛みを忘れさせてくれますよ!」


「な~に!てめ~、シゲミ……こら!」


アヤミは最近、彼に振られたばかりだった。


「まあまあ冷静に、二人とも。喧嘩は家に帰ってからご自由に」


「この店、気分悪いから帰る!」アヤミはそう言い残して店を出た。


「テ~ジさん、塩撒いて!塩!」


「シゲミちゃん、折角様子を見に来てくれたんだからさ…」


「すいませんでした」


お客が入ってきた。


「いらっしゃいませ」満面の笑みを浮かばせたシゲミだった。


女は怖い・・・テ~ジは思った。


仕事を終え、シゲミは自宅に帰った「ただいま~!」


アヤミが近寄ってきた。


「お帰り!楽しかったねぇ!あの店主の顔見た?」


「見た、見た。あのビックリした顔。面白かった最高!」


母親の京子が近寄ってきた「あんた達、またやったのね!で、どうだったの?母さんにも教えてちょうだ~い」


「ガ、ハ、ハ、ハ」3人の笑い声が家中に響いた。   


「おはようございます」シゲミは出社した。


「おはようシゲミちゃん。昨日帰ってからまたお姉ちゃんと喧嘩したのかい?」


「いえ、普通ですけど」


「あっそう?」昨日のあれはなに?


「いらっしゃいませ~」


今日もショップTGの1日が始まった。



「店長、水晶の在庫少なくなって来ましたよ」


シゲミが入社してから水晶とタロットカードは以前の3倍売れていた。今では、そのふたつを求める客が増えた。中には小樽に来られない友達の分まで購入する旅行客も多くいた。

小樽のショップTGの水晶とタロットが中高生女子の間で人気があった。特にシゲミという店員が触れた水晶はご利益があると噂された。



「ごめんください」


「いらっしゃいませ」テ~ジが接客した。


「 私、ショッピング北海道、記者の小黒タカコと申します。実はこちらの店員さんの触れた水晶に、なにか不思議なパワーが秘められていると聞いて取材に来ました。どなたか責任者の方にお話しを聞きたいのですが?」


「僕が店主でオーナーの村井と申します。そんな話し聞いたことありませんけど?」内心マズイのが来たと思った。


「えっ?今、若い子の間では噂ですよ。小樽のパワースポットと言ってる人もいるんですよ」


「いや、僕は初めて聞きましたけど?」


「こちらにシゲミさんという従業員の方おられますか?」


「はい、彼女ですけど」テ~ジはシゲミを指さした。


「オーナーさん、彼女にお話ししてもよろしいですか?」


「彼女に聞かないと解りませんし、店内は狭いので他のお客さんに迷惑かと…」


「じゃあ、スタッフは表で待ってます。私が彼女に取材の許可を取ってもかまいませんか?」


「あっ、それでしたらどうぞ」断る理由が無くなった。


心の中では「シゲミちゃん、拒否しろ」と念じていた。


「あのう、シゲミさん。取材の件で、お時間宜しいでしょうか?店長さんの許可はもらってますけど…」


「店長はなんて?」


「シゲミさんが許可したら、かまわないと言われました」


「そうですか。じゃあ、手短にどうぞ」


「では、表で店をバックに写真を一枚撮って、それから簡単なインタビューお願いします」


「あいつインタビュー受けやがった・・変なこと言うなよ!」テ~ジは心の中で祈った。


「では質問しますから答えて下さい」


「どうぞ」


「この店は中高生の間で有名になってることはご存じですか?」


「いいえ、知りません」


「小樽のスピリチュアルショップ・TGのシゲミさんは、お客様の顔とバイブレーションを視てその客に相応しい水晶や小物を選んでくれるって、そして選んでくれた水晶に特別のパワーがあるとう評判ですけど…それについてどう思われますか?」


「そうですか、そんな噂が立ってるんですか?知りませんでした。私がやってることは宝石や服を、お客様にお奨めするのと同じですけど。あなたは宝石や服を買いに行きますか?」


「ハイ行きますけど・・・?」


「似たような指輪があった時、どれにしようかと悩んでいるところに、それを察知した店員さんが来て『こちらの方がお似合いですよ…』って話しかけてきたら?私のやってることは、ただそれだけのことです。あとは、買った人が勝手に解釈してるだけだと思います。そんな効果のある石があったら私が買います。そして高く売りつけますよ。そんな中高生の噂で、小樽までわざわざ取材しにご苦労さまでした。以上」


シゲミは何事もなかったように店に入っていった。小黒タカコが視線を落として言った。


「今日は取材になりませんね、撤収しましょう。彼女の云うとおりよね。噂に惑わされるとこだった。まったく…撤収、撤収」


難を逃れたテ~ジは、シゲミは本当に素晴らしいと思った。敵に回したら怖いタイプとは彼女のこと……


石の売り場ではシゲミが「オネェちゃん、この石の効果知ってる?普通の水晶と少し違うのよ!私が選んであげる。今も札幌の雑誌社が噂を聞きつけ、取材に来たとこなのよ」


シゲミの神経は図太かった。



THE END






10「私はアヤミだけどなにか?」



「いらっしゃいませ~~」ショップの1日はシゲミの一声から始まった。


「テ~ジ店長、最近は石もカードも売上悪いですね。同時に客も少ないと思いませんか?なんか客引きの新商品考えましょうよ…」


「うん、解るんだけどね、シゲミちゃんもなんか考えてくんない? そうだ、考えてくれたらその商品の利益の10%を謝礼として給与に加算するよ!どう?」


シゲミは、俄然やる気に火が付いた。


「いらっしゃいませ~」


女子高生が入ってきた。


「あっ、シゲミさんですよね」


「はい、シゲミですが……」


「私に合う水晶を選んでもらえますか?」


「はい、承知しました」


シゲミはいつものように無作為に石を選んで渡した。


「えっ、もっと小さいの無いでしょうか?出来ればストラップの様なのが希望なんですけど…」


「当店には無いのね、ごめんね」


結局、客はなにも買わずに帰っていった。それからのシゲミは店の空いた時間や帰宅後も真剣になにか書いていた。数日後、テ~ジにノートを無造作に渡した。


「どうしたの、これ?」新商品原案と書いてあった。


テ~ジはノートを開き真剣に見つめた。


(シゲミ手作り水晶アクセサリー)


シゲミの水晶ストラップ・水晶ヘアーゴム・水晶バレッタ・水晶リング・ペンダント・ブレスレット・etc


「これ面白いね、でも発注は?製造は?」


「アヤミ姉ちゃんなら出来ると思います。以前、全国を旅しながら路上で売ってたことあるみたい」


「よく路上で商売してる、あの手作りアクセサリー?」


「そう、あれです」


「以前ここでシゲミちゃんと大げんかした、あのアヤミさん?」


「そう、あのアヤミ姉ちゃん。あっ、でもそれはもう大丈夫です」


「そう、よかった」


それから数日して各2個づつサンプルが出来てきた。


「テ~ジ店長、見て下さい」


テ~ジはいつになく鋭い目で一つ一つ丁寧に眺めた。


「凄いよ、これは思った以上の出来だよ! で、仕入れ原価はどの位になるの?」


「高くても2二三〇〇円です。ストラップだと八〇〇円」


「じゃあ、仕入れの一.五倍ぐらいで店に置いてみようか?」



 早速、特設コーナーを設置し商品を並べた。 結果、その日の夕方には全二〇品すべて完売した。


テ~ジは気よくし「シゲミちゃん、早速お姉ちゃんと契約したいので、すぐにでも店に来てもらえないかなぁ?」


「はい、連絡します」


早速、アヤミが店にやってきた。テ~ジは不思議な感覚だった。どこが違うんだ?この二人は?


商談はすぐ成立した。店を、見渡していたアヤミは畳一枚ほどの空きスペースを指して呟いた。


「シゲミ、ここで週2回、実演させてもらえない?あんたが休みの時でいいからさ。どう?」


テ~ジは快諾した。シゲミの休みの時アヤミが公開作業することになった。 だが、ただの公開作業ではなく、見学に来た中高生相手に「貴女にあったアクセサリーを作りませんか?」という触れ込みで作成するというもの。



初日から客がきた「じゃあ、この石でネックレスお願いします」


「この石、持ってみて!」アヤミはもっともらしく石を手のひらで転がした。


「う~ん?これ駄目ね。こっちの石持ってみて~~。うん、これピッタリよ!これどう?」


「じゃあ、お願いします」


「じゃっ、これでね。で、デザインはどれにする?デザインに相性はないから、お好みのを選んでね」


「じゃあ、これでお願いします」


「はい三〇分位待ってね、急いで作るから店内見てて!」こんな具合にオーダーに答えていた。


近くで見ていたテ~ジがアヤミに聞いた。


「もしかしてアヤミちゃんも石と客の相性解るの?」


「やだ~店長、私も解りませんよ。シゲミがそういう言い方すると中高生は喜ぶよって。まっ、リップサービスです…」


テ~ジは思った。この姉妹は恐るべし、店の方向性が変わってきたぞ。


アヤミが来てから3ヶ月が過ぎた。


「シゲミちゃん家族って凄いね」


「なにがですか?」


「だって、まずシゲミちゃんが来て売上が上がって、アヤミちゃんへのオーダーも多くて店は大繁盛だよ!助かるよ」


「良かったですね、店長」


「どうだろう、今晩アヤミちゃん誘って閉店後に食事行かない?好きな物ご馳走するよ。どう?」


アヤミと連絡を取ったシゲミはテ~ジにOKサインを出した。 3人は繁華街にやってきた。


「いやあ、3人での食事初めてだね。なに食べる?」


二人は口を揃えて「寿司!」


その頃、母京子は「あの子達、まさか『寿司』って言わないでしょうね?」京子に悪寒が走った。


「へい、らっしゃい!どうぞ!」小樽でも老舗のみどり寿司。


「まずは、乾杯!好きな物食べていいからね」


シゲミとアヤミは顔を合わせてニヤッとした。


シゲミが「とりあえず、ウニとイクラとトロとアワビ6人前」


テ~ジは一瞬ドキッとしたが「どうぞ、どうぞ」


アヤミが「私も同じのでいいで~~す」


同じのでいい?ってことは?もしかして、僕の分は入ってないって事?


シゲミが「店長は食べないの?」


「いっ、いや、僕は青肌が好きだから……」


「やだ、うちのお母さんと一緒」


テ~ジには彼女らの母親の気持ちが痛いほど解った。


「店長、このあとカラオケ行きませんか?」


「いいね、いいね、カラオケならいいね!」


「私達、ザ・ピーナッツ歌います」


さすが双子!いい選曲だ。 でも、二人は異常に音痴だった。 マイクは二人が占領し、結局テ~ジにマイクは一度も廻ってこなかった。


テ~ジは「もう、そろそろ帰ろうかね?」


アヤミが言った「店長ったら、まだ一時ですよ。こんなに早く帰ったら、神様のバチがあたりますよ…」


テ~ジはもうバチは当たってると思った。



翌朝、母親がシゲミを起こしにきた。


「今日はシゲミの出番でしょ!早く支度しなさい」


起きてきたシゲミに母は言った「昨日は遅かったの?」


「一時半頃だよ、おぇっ、おえっ……」


「なんだい二日酔いかい?」


「チョッチね」


「ところでお前達、寿司屋は行かなかっただろうね?」


「寿司屋だよ。久しぶりに高いの食った食った」


「ああっ。店長さん、今頃死んでるよ、きっと」


「大丈夫だよ。私達食べ方セーブしたし、店長は青肌とイカやタコばっかりだったから」


台所の影で「店長さん、ごめんなさい」と合掌する母だった。


「店長、おはようございます」


「おはよう」小さな声だった。


「昨日は楽しかったです!ごちそうさまでした。また、ご馳走して下さい」


「………」テ~ジは無言だった。


「たぶん今度は無いと思うけど」小声で呟いていた。


「あなたに合った水晶、見つけませんか?オリジナルもお作りしますよ~」シゲミは今日も絶好調。


「ごめん下さい」


PTA風の女性が入ってきた。見るからにクレームを言いたそうな雰囲気。


「この店の責任者の方おられて……!」


「はい、店長!お客様ですよ」


「……?店長の村井ですが」


「あなたにお聞きしますけど、この石を言葉巧みに理屈の解らない若い子相手に、売りつけているって聞いて、私、抗議に来ましたの」


「失礼ですけど、どちら様でしょうか?」


「誰でもいいでしょ!」


「そうはいきません。私どもが法に触れる売り方をしたんであれば、まずその内容をお聞かせ下さい。お宅様のお名前も!」


婦人は店長の言葉を無視して「この石のバイブレーションが合うとか合わないとか、子供達に巧みに嘘をついて売りつけていいものでしょうか?」


「私どもは売りつけておりません。どれを買うのかは、お客様の自由意思です」


「ここにシゲミっていう店員さんおられます?」


そばで聞いていたシゲミが「はい、私がシゲミと申しますがなにか?」


「あなたね、あなたの販売の仕方に問題があると言ってるの」


「はあ?具体的に云ってもらえますか?」


「今、云ったでしょ!何度も云わせないでよ」


「私は聞いてません。あなたが店長に勝手になにか話したんでしょ?私に言いましたか?」


「わかったわ。あなたの水晶の売り方に問題があるって云ってるんです。」


「なんで?」


「なんでって?こんな水晶の波長が人間の波長となんの関係があるっていうの?」


「はぁ?私にもなんの関係があるか解りませんけど」


出た!シゲミの、いつものおとぼけトークが出た~!とテ~ジは思った。


「なにを今更、言い逃れをしてるの?ったく!子供達がそう言ってますの」


「じゃあ、お聞きします。さっきあなたは理屈の解らない子供に売りつけたような言い方しましたよね?」


「ええ、言ったわ。それがなにか?」


「いいですか、その理屈の解らない子供のいう事を一方的に真に受け、判断しているあなたはどうなの?」


「どうなのってなによ・・・」


「そう言うのを偏見って言うのよ。ハッキリ言ってその様な、いかがわしい販売は当店ではしておりません。オープン以来ひとつもその類のクレームを受けたこともありません。 例えば、お正月にみなさん神社に行って商売繁盛のお札や御守り、破魔矢を買われますがあれはどうなのよ? あんなお札で商売繁盛に繋がると思いますか? 御守りで災難から逃れること出来ますか? あれこそ本当のまやかしじゃあないですか?あの売り方こそ異常じゃないですか? あっちは合法でこっちの売り方は違法ですか? 私に解るように教えて下さいませんか?」


明らかに形勢は逆転した。


テ~ジは「シゲミは天才だ!俺、彼女に付いていこう」


「今日は帰るわよ。必ずシッポ掴むからね」


そのPTAは捨て台詞を吐き帰って行った。シゲミはいつものように表に出て


「いらっしゃいませ~あなたに合う水晶どうですか?お手伝いしますよ」


テ~ジの心は完全にシゲミ依存症になっていた。 

数日後、アヤミが出番の日、あのPTA風の女性がまたやってきた。今度は他に3人の助っ人が加わっている。


「先日はどうも、この方達は同じ会の同士です」


「はあ?誰?」


アヤミはシゲミからはなんの説明も受けていなかった。


「どちら様ですか?」


「あなた、人を馬鹿にするのもいい加減におし!」


「はあ?あなた誰?そしてなに?」


「奥様達この方よ。インチキ石を高値で売りつけてる店員は」


一緒に来た助っ人が「まぁ!ふてぶてしい面構えだこと」


即、アヤミはぶち切れた。


「オバサン方、誰に物言ってんの?」


「あなたよ、他に誰かおられて?貴女も面白いこというのね、ほっほっほ…」


「喧嘩ならいくらでも受けて立つけど、その前に聞かせな。あんた達は誰で、なんで私に喧嘩売るの?まずそこからハッキリさせな」


「なに偉そうに、この前の威勢はどうしたのよ?」


「チョット待ちな」


アヤミは携帯でシゲミから話を聞いた。なるほどね、勘違いか……


「オバハン方、ちょっと待ってな、もう少しで面白いもの見せてあげる」


一五分後、スクーターに乗ったシゲミが現われた。


「お待ちどうさん」


シゲミを見た4人は言葉を失った。


シゲミが「なんだ、またあんたなの?今度はなに?」


アヤミが割って入った。


「チョット待てや、その前に私に謝れ! おい、そこの二人!それが礼儀だろうが?いきなり人を捕まえて、『なに偉そうにこの前の威勢はどうしたのよ』って言ったね、えっ!常識を語りたいなら、最低限の常識を守りな、そこの二人」


二人は小声で「ごめんなさい」


「声が小さい!聞こえない!」


「ごめんなさい」


「はい。シゲミ、バトンタッチ」


「今度はわたしね。今日はどうしたって?」


アヤミに出鼻を挫かれた4人だった。


「もういい、今日は帰る…」


シゲミが「どうしたの?言いたいことあってここに来たんじゃないの?」


「だから、もういいって言ってるの」


「良くないよ。ここに来たって事はだよ、自分達は間違ってないって思うから来たんでしょ?だったら言いなよ。私、聞くから」


アヤミは思った。シゲミのこのパターンは超しつこいよフフッ。


シゲミが「私が言おうか?中高生相手にくだらん石を売ってからに、少し懲らしめてやろうか!てか?4人もいたらびびるだろうってね……」


「いや、そこまでは言ってませんけど」


「だったら、なにが言いたいの?えっ!」


「だからもうよろしいのよ」


「いい、もう一度言うよ、私は石を売りつけてません。向こうが自分の意思で店に来て買っていくの、前にも言ったように買う側の問題。こちらからは何も云ってないの。神社でも安産のお札なんかは、このお札は安産に効きますなんて神主さん絶対言わないの、そんなこと言っちゃいけないのよ。買う側の問題だから。解った?解ったら商売の邪魔になるからお引き取り下さい」


側で聞いていたアヤミは、あいつ、いつも言ってるくせによく言うよ、たく……


4人は返り討ちにあい無惨に退散した。その後テ~ジが店に帰ってきた。


「あら、シゲミちゃん休みなのにどうかしたの?」


「店長の顔が見たくてきました。なんか店長のその間の抜けた顔、毎日見ないと不安なんで~す」


「いやぁそんなぁ~」


「店長なに照れてるの?シゲミにからかわれてるの解らないの?」


「シゲミちゃん本当に僕のことからかってるの?」


シゲミは「いえ、からかってませ~ん!」


テ~ジはアヤミの方を振り返って「ほらっ…」


「シゲミいいかげんにしな」


シゲミは「そんなことないですよ、店長また寿司食べに行きましょう。私と、ふ、た、り、で、ねっ!」


瞬間、テ~ジはみどり寿司を思い出し顔が青くなった。


「さっ仕事だ仕事、アヤミちゃん仕事しよう。あなたに合った水晶見つけませんか~~水晶で作るオリジナルストラップもお作りしますよ~」


騒動を何も知らないテ~ジだった。



「ごめんください」


「はい、いらっしゃいませ」


「私、札幌の消費者保護の部屋の久慈和子と申します。こちらの店の代表の方おられますか?」


「ハイ、僕ですがなにか?」


「こちらの商品の売り方でお聞きしたいことがありまして訪問させていただきました」


「どういう事ですか?」


「こちらで水晶石の販売をなさってますね」


「はい」


「その売り方についてお聞きしたいのですが?」


「はい、どうぞ」


「こちらでは水晶に何かしらの、パワーまたは御利益があると言って販売なさっているとか聞きましたが、事実なんでしょうか?」


「い~えその様な売り方はしておりませんが」


「そうですか?私どもに苦情が寄せられておりますけど」


「もし苦情であれば直接その水晶をお持ち下さい。事実関係を調べた上で私が責任を持って返品させていただきますけど」


「こちらにシゲミさんという店員さんおられますか?」


「はい、あの娘ですけど」


「シゲミさんお仕事中すみませんが?」


「はい、なにか?」


「今店長さんにお話ししたんですけど」


「あなたの販売の仕方に・・・」


最後まで聞かないうちにシゲミが「あの~う、今仕事中なんですが行政指導か何かですか?消費者保護の部屋って公設ですか私設ですか?」


「私設ですけど何か?」


「名刺はあります?」


「いいえ、必要ありませんの」


「じゃああなたを証明するもの何かあります?」


「いいえ、私が言ってることはそうじゃありませんの」


「ちょっと待ってね『そうじゃありません』って、そのそうはなにを意味してるの?」


「いえ、その」


「公でもない、名刺も無いって、私はいったい何処の誰と話してるのかしら。ただのいちゃもんなら業務妨害で警察呼ぶよ!どうなの?」


「話しても無駄なようね!」捨て台詞を吐いて帰って行った。


シゲミの3連勝目であった。


「シゲミちゃんまたうるさいのが来たら頼むね。僕シゲミちゃんの言い方聞いたらホッとするんだ」


シゲミは店長の顔を見て「おめえがしっかりしろっ!」


「はいっ!」


瞬間二人は大声で笑った。



 それから数ヶ月なにもなく経過した。非番のアヤミが突然店を訪れた。


「シゲミ、うちの店の丁度裏手にスピリチュアルショップがオープンするらしいよ」


店長が「えっ、今改装中の店はスピリチュアルショップなの?シゲミちゃんどう思う?」


「結構なことじゃないですか」


「観光客は半数がひやかしなんだし、向こうに来る客はこっちにも顔出しますよ。どうせならスピリチュアルエリアとして知名度が上がれば楽しいのに」


テ~ジはシゲミのこういうポジテブな発想を尊敬していた。


そんな時「あのうすいません」


テ~ジが「はい、なんでしょうか」


「この度、裏にオープンするスピリチュアルショップの大広と申します。開店の挨拶に伺いました。どうぞ宜しくお願いいたします」


上品そうな女性だった。


「それはご丁寧にどうも初めまして。僕が店主の村井です。頑張って下さい。解らないことあったらいつでも気兼ねなく聞いて下さい」


「助かります、宜しくお願いいたします」


帰ったあとを潤んだ目線で彼女を追うテ~ジがいた。


「店長!」


「なに?」


「目が星になってんぞ」シゲミが言った。


「そんなことないサ~」


「あんたは沖縄人か?」


THE END

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