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凍てついた棺桶  作者: ヒカル
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1月18日

次の日、和樹は朝早くから格納庫にきていた。午前5時、まだ日は昇っておらず、外は真っ暗だろう。


格納庫には主に外で作業するための機材が保管されており、スコップからショベルまでの土木機材一式、防護服、装甲車に武器まである。


外作業用ロボットもある。大きさは人の子供ほどで胴体から四本の足と三本のアームが伸びており、昔の地球に生息していた蜘蛛に似ている。アームにはいろんなアタッチメントを付けることができ、それが五十体ところ狭しに並べられている。


資材運搬用に大型トラックは10台あり、和樹は今からこの大型トラックを使って資材集めに行くつもりだった。


和樹はトラックに乗り込み、システムと車体のチェックを始めた。フロントガラスの前に立体映像が現れ車体の状態が表示されていく。


異常がないことを確かめるとトラックから降り、次のトラックに乗り込んで、またチェックを始めた。その作業を三回繰り返した。


トラックのチェックが終わると、和樹はアイに声をかけた。


「アイ」

「イエス、ファザー」


アイはすぐさま応えた。


「外作業用ロボットを五体連れていく装甲車の上にのせろ」

「イエス、ファザー」


和樹が命令すると外作業用ロボットが五体、ガチャガチャと動き出し装甲車までいくと少し傾斜している箇所から器用に登り始めた。無骨な見た目のくせに動きはなめらかだ。

そして、お互いのアームをつなげたり装甲車のかどに引っかけたりしながら、落ちないようしっかりと固定した。


和樹はというと一日分の食料に防護服、あと必要ないかもしれないが武器を装甲車に積んでいた。口径が大きく、威力が高い銃で厚い鉄板も貫通できるようなしろものだ。人間に向けて撃つようなものではない。


必要なものを積み終え、装甲車のうしろの扉を閉めたところで、突然声をかけられた。 


「何してるの?」


和樹は振り返らずに、眉間にしわを寄せた。


「何してるのよ」


女の声は少しいら立っているように聞こえた。和樹は振り返らずに、眉間にしわを寄せた。


「何してるのよ」


女の声は少しいら立っているように聞こえた。和樹は気だるそうに、ゆっくりと振り向いた。

そこには、困ったような顔をした中年の女が立っていた。


「文江・・・おれのやることに、いちいち口をだすな」


女は文江という名だった。この施設にいる、もう一人の人間だ。和樹のかつてのパートナーだった女でもある。


「いちいちって何よ、私は・・・」


文江はうつむきながら言った。


「もういい」


和樹は強引に会話を終わらせて、装甲車に乗り込もうとしたが、すぐに右手をとられ引き留められた。


「まって、お願い行かないで。資材回収はアイにまかせて」


文江は不安そうな顔で追いすがってきた。

和樹はうんざりした。もう何回目だ、この会話は。


「離せ」


和樹は文江の手を乱暴に振り払うと、素早く装甲車に乗り込みドアを閉めた。

窓の向こうでは、文江がまだ訴えている。


「危険なことはしないで。お願い」


和樹は文江の顔を見ようとはしなかった。


「アイ、出せ」

「よろしいのですか?」


アイはこういうときだけ反抗してくる。


「人工知能のくせに口ごたえするな、出せ」

「イエス、ファザー」


ウーンとモーター音がして装甲車は走り出し、外へと続く通路へと向かう。装甲車に続いてトラックも三台、一列になってついてきた。


和樹はバックモニターを見た。しかし、トラックのかげに隠れて、文江の姿は見えなかった。


施設から一歩でると、外の世界は荒涼としていた。草や木は一本も生えておらず、むき出しの岩肌が、見渡すかぎり続いている。ここは本当に地球なのか?月や火星と言われても信じてしまうかもしれない。


そんな荒れ果てた世界を装甲車とトラックは砂ぼこりを巻き上げながら走っていた。いまは乾いているからいいが、むき出しの地面はいったん雨が降るとぬかるんで走行するのが難しくなる。


とくに川が問題だった。雨が降るとすぐに氾濫して危険だ。大きい河川には橋はかけられているが、濁流のなか渡るのはあぶない。小さい河川などは少しの雨でも通るのが難しくなる。


よって、外に出るときはタイミングが重要になる。


ここ最近は二日ほど雨が降っていないので、走行するのは問題ない。しかし、急がなければいけない。次にいつ雨が降るのか分からないからだ。

かつて打ち上げられた人工衛星はすべて活動を停止し、雨雲の動きがわからない。そして、気候変動により天気は変わりやすく、全く予想することができなかった。


なので、資材回収には何日もかけることができない。いまは雲ひとつない快晴なので、しばらくは大丈夫だろう。 


和樹は流れていく単調な風景をみながら、手に取った酒ビンを開けた。中の酒をゆっくりと口のなかに含み、その刺激を楽しんだ。目的地までは、まだ時間がかかる。すぐに飲み干してしまってはもったいない。和樹はちびちび飲むと決めていた。


目的地までは自動運転なので、到着するまでは和樹のすることはない。


ときおり酒を口に運び、ほどよく酒がまわってきたところで、目を閉じた。シートに深くもたれかかり、そのまま寝てしまいたかったが悪路を走っている車の揺れはひどく眠ることなどできない。


和樹は酒のせいか、車の揺れのせいかは分からないが頭がぐらぐらした感覚のまま時間が過ぎるのを待った。


二時間ほどで目的の場所に着いた。ここは、かつて県庁所在地だった大きな街で、いまはその郊外にほうに来ている。


崩れかけの家や建物がいくつかある。以前は住宅街だったのだろうが、現在は人の住んでいた時代もあったのか想像すら難しいほど風化している。


「アイ、探査用のドローンを飛ばせ」

「イエス、ファザー」


和樹が命令すると、装甲車の上部から四機のドローンが飛び立ち周囲の探索をはじめた。


しばらくするとドローンに反応があった。


「ここから北西の方向、約八百メートル付近に鉄筋コンクリートの建物だったと思われる残骸があります。また、ここから北東の方向性、約三百メートル付近に車の残害があります」


アイが報告をすると和樹は一瞬考えたが、すぐに指示をだした。


「車のほうから向かう」

「イエス、ファザー」


車のところへは、すぐに着いた。そこには確かに車はあったが、ほこりが厚く積もり、さびに覆われ、いまにも崩れてしまいそうな代物だった。


こんな状態でも貴重な金属が使われていることもあり回収の優先度は高い。


資材運搬用トラックが車の横に停まると、トラックの荷台から折りたたまれていたクレーンが伸びてきた。クレーンの先には四つの爪がついており、これで物をつかむことができた。


装甲車からも外作業用ロボットが降りると、車に近寄っていった。そして車を取り囲むと、作業アームの先からバーナーを出し、またたく間に車をバラバラにした。


そしてバラバラにしたものをトラックのクレーンが掴み荷台にのせていった。 


手際よく、わずかな時間で車を積み込むと、一行は次の場所へ向かって走り出した。和樹はというと、指示することもなく、ロボットたちが作業している間に新しい酒瓶を開けていた。


鉄筋コンクリートの残骸がある場所に着くと、ロボットたちは指示されるまでもなく残骸を積み込み始めた。


和樹のすることなど特にはないが、一つだけ命令をした。


「アイ、探査用ドローンを広範囲で探索させろ。とくにシェルターなどは見逃すな」

「イエス、ファザー」


あとはもう待つだけだと、和樹は運転席を立った。装甲車の後ろのほうは広めのスペースがあり、そこで横になることもできた。すでに視界が揺れている和樹は、そのまま硬く冷たい金属の床に寝転んだ。折り畳まれている簡易ベッドを組み立てればいいのだが、それすら億劫だった。背中にじわりとくる冷たさを感じならがら、和樹は目を閉じた。


次に目を開けたのは、アイの呼ぶ声がしたからだった。


「ファザー、起きてください。ファザー」


和樹はぼんやりしながら、ゆっくり身体を起こした。どれくらい寝ていたのだろうか?時間の感覚がない。


「どうした?」


和樹は聞いた。


「探索用ドローン一機が、ここより南東五キロ地点で消息を絶ちました」

「なに!」


アイの報告を聞いて、和樹は一気に目が覚めた。


「消息を絶つ前の映像はあるか?」

「あります。映像を再生しますか?」

「ああ」


和樹は運転席のほうへ向かうと、フロントガラスの前に写し出された映像を見た。

映像には、ドローンが廃墟を探索する様子が映っていったが、一軒の家に入ったところで、映像が途切れた。


「最後の映像を分析しろ」

「イエス、ファザー」


映像が途切れる直線の場面が映し出され、解析がおこなわれた。暗い映像だったが、家の奥の影のなかに動くものがあった。


「分析の結果、2685年に開発された護衛用ロボットpvr20だと思われます」


アイが言った。


「500年前に作られたロボットか、まだまだ使えそうだな。それに、護衛用なら何かを護っているのか?」


和樹は良いものが手に入るかもしれないと思い興奮してきた。


「よし、この場所にいくぞ」

「イエス、ファザー」


和樹は運転席に座ると、みずからハンドルを握った。


「目的地まではおれが運転する」

「目的地まではガレキで進めない場所もあります。四脚形態での前進も予想されます。ご注意ください」

「チッ、ライフルは持ってきていたか?」

「イエス」

「よし!」


和樹はエンジンを作動させ、車を進めはじめた。すっかり酔いも覚め、頭も冴えてきた。

この終わっている、どうしようもない人生にちょっとしたイベントだ、楽しまないわけにはいかない。 


探索ドローンの反応が消えた場所は、以前はちょっとした住宅街だったのだろう、高級で頑丈そうな建物が並んでいるところだった。

終末大戦前の建物は、デザインよりも頑丈さや、機能性が求められ趣向を凝らした建物は、ほとんどなくなっていった。

だが、いつの時代も金を持っている人間は見栄をはりたがる。ここには他よりも豪華で無駄な装飾が施されている建物が多かった。


和樹は、目的の場所から少し離れた場所に車を停め、建物を観察した。

こういった金持ちの家は、真っ先に狙われ物資も強奪され尽くしているのが普通だ。もし、まだ残っているものがあるなら何か理由があるのだろう。


「アイ、偵察ドローンを飛ばして建物の構造を調べろ」

「イエス、ファザー」


偵察ドローンが建物の周囲を飛び、スキャンすると、内部の構造がわかってきた。

どうやら地下に空間があるらしい。長年の風化によって、建物の床が崩れ地下へと続く階段があらわれたようだ。

消息を絶ったドローンは、この階段を降りていったところで撃墜されたと考えられる。


和樹は思いもよらなかった発見に期待をふくらませた。

和樹は車の後方へ行くと、防護服を手に取った。


「アイ、車外の汚染の状況はどうだ」

「短時間ならさほど問題はありませんが、長時間の活動の場合、癌や生殖機能への影響が考えられます」


和樹は病気のことなど、どうでもいいと考えながらも汚染物質が目や肺にはいると、激痛と呼吸困難になり動けなくなるので防護服はしっかり着込んだ。

そして車内の側面に取り付けてあったライフルを手に取ると、車の外にでた。

外の世界は相変わらず殺伐としていた。草の一本も生えておらず、むき出しの土とガレキの山、砂ぼこりがまっている。

和樹は荒れ果てた地面を踏みしめ、歩き出した。


和樹は目的の建物の中へ入ると、地下へと続く階段の手前まで来た。

以前はさぞかし立派な家だったのだろうが、今となっては朽ち果て埃が分厚く積もっている。まあ、何百年も経って、いまだに建物があるだけでもいいほうだった。


「アイ、ドローンを先行させて護衛ロボットを上までおびきだせるか?」

「了解、やってみます」


アイは命令を受けると小さいドローンを2機、地下に飛ばした。

和樹は家具の後ろに隠れライフルに弾を込めた。特別製の弾で反動もすごいが、護衛ロボットの装甲なら簡単に撃ち抜くだろう。


地下からはドンドンと銃を発砲した音と、何かが壁にぶつかるような音がした。

そして、ドローンが1機だけ地下から飛び出るとギシギシと音を立てながら護衛ロボットが階段を上がってくる音がした。

和樹はライフルをかまえた。


「アイ、どこを狙えばいい?」

「胴体の真ん中あたりに回路が集中しています。そこを撃ち抜けば機能は停止すると考えられます」

「わかった」


護衛ロボットは階段の上まで上がってきて、もう少しで胴体が見えるところまできた。和樹は息を吐いて、よく狙いをさだめようとしたが、急に護衛ロボットの止まり頭だけがこちらを向いた。


気付かれた。


和樹はそう悟ると、まだ胴体は見えていなかったが引き金をひいた。弾は護衛ロボットの胸あたりにあたり、その衝撃で護衛ロボットはのけぞった。

弾は貫通してるはずだが護衛ロボットは停止せず階段から上がると、こちらに向かって発砲してきた。

だが和樹は動じず避けようとはしなかった。さっき和樹の撃った弾の影響か護衛ロボットの動きはおかしくなっていたし、なんなら別にあたってもいいと和樹は思っていた。


護衛ロボットの撃った弾がかすめていくなか、和樹はよく狙いをさだめて撃った。

今度は胴体の真ん中にあたり護衛ロボットは動きを止めた。


完全に停止したのを確認すると和樹は立ちあがった。

なかなか刺激的で楽しかったな、と和樹は思った。


護衛ロボットに近づくと破損したところを確認した。撃ち抜いたところは酷い状態だが、まだ使える部品はありそうだ。

和樹はアイに連絡をした。


「アイ、こいつを回収しろ」

「イエス、ファザー」


回収はアイに任せ、和樹は護衛ロボットが護っていた地下に向かった。

まだ危険があるかもしれないので慎重に階段を降りていったが、とくに何事もなく下までいくことができた。

地下には金属製の大きな扉があった。開けるにはパスワードが必要みたいだが、もちろんわからないし電力もきていないので強引にやるしかない。かなり頑丈そうで、ちょっとやそっとじゃ開かなそうだった。


「アイ、この扉を開けるための道具をもってこい」


しばらく待っていると外作業用のロボットが、いろいろ道具を持ってやったきた。ロボットが地下まで来れると簡単なのだが通路が狭く無理なので、和樹が作業するしかなかった。

爆破することも考えたが中の物資をできるだけ壊したくなかったので地道に作業することになった。


レーザー切断機で分厚い金属を少しづつ切っていき、時間はかかったが扉を開けることができた。

切った扉を押し倒すと大きな音とともにホコリが舞い上がった。

和樹は銃をかまえながら中に足を踏み入れた。ライトで照らしてみると危険なものはなさそうだった。

地下室は広く、いくつもの棚があり物資が積まれていた。

和樹は歓喜した。隠されていた宝物を見つけた子供になった気分になった。

食料、部品、素材、それに酒まで!

和樹は酒を手に取った。見たことない銘柄で、おそらくは年代ものだろう。和樹は防護服を脱いで今すぐ飲みたい衝動に駆られたが、ぐっと我慢した。

和樹が夢中になって見てまわっていると奥にいくにしたがって棚の空きが目立ち床が汚れていることに気がついた。

和樹は我に返ると汚れがひどくなっているほうに歩きだした。そして奥のほう、よごれの中心には白骨化した遺体があった。

和樹は別に驚きはしなかった。むしろ無いほうがおかしい。

和樹は膝をついて遺体を調べた。黒ずんだ包帯がお腹のあたりに落ちていたので、おそらくは怪我をしたのだろう。怪我から汚染物質が体内に入ったら助かるのは難しい。しかも、ここには大した医療設備も無さそうだ。良くなることはなかったのだろう。


和樹はこの遺体の人物をかわいそうだとか同情したりなどはしなかった。べつに普通のことだった。この世界ではよくあること。


和樹は立ち上がると、もう遺体には興味をなくし物資の調査に戻った。

一回で運び出すのは無理そうなので何回かに分けて運びだそう。ただ酒だけは今回絶対に持って帰ろうなどと考えていた。




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