表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放浪行商記  作者: 刀の切れ味
12/13

国境沿いの『コモド村』②

火の国『アルジャーノン』②

アルジャーノンの広い国土内には、乾燥した荒地と火山が広がり、各所に古代遺跡が点在している。凶暴な魔物が闊歩する夜の荒野は、非常に危険。

「もし、そこのご老人。よろしければ、少し聞きたいことが……」


「……」


 コモド村の村人の一人である老人に尋ねるホムラ。しかし、老人は見向きもせずにフラフラと小屋の中に戻っていく。その無愛想な様に、ホムラはやれやれといったように呆れて肩を竦める。


(随分と閉鎖的な村だな。こりゃ聞き取りは無理がありそうだ)


 辺鄙な場所にある村ほどよそ者に排他的、というのはさして珍しい話でもない。ただ、村人から話を聞けないとなると、切り口を変える必要が出てくる。

 まだ陽は高いが、慣れていない森に一人で足を踏み入れるには少し準備がいる。一度テントに戻ろう、そう思ってホムラは踵を返す。


「この村に何か御用か、若いの」


「……!」


 テントに戻ろうとしたホムラの背中に投げかけられる声。ホムラが振り向くと、そこには淡い緑の髪をした褐色肌の女性が、懐疑的な目をホムラに向けていた。

 女性としてはよく鍛えられた体に、背中に背負う弓と矢。そして、毛皮のマントと腰のベルトから吊り下げた小ぶりの斧と鉈。その様は、まさに狩人といった風貌である。


「あんた、もしかしてこの村の狩人か?」


「いかにも……すまないな、トム爺さんはよそ者が嫌いでね。先の無礼は私が謝罪しよう」


 そう言ってぺこりと頭を下げる狩人の女。ただ、頭を上げると、また疑うような目つきをホムラに向ける。


「しかしあんた、この村に何の用が?見ての通り、何もない辺鄙な村だ。企み事なら、よそでやって欲しいんだがな」


「あー……すまん、紛らわしかったか。とりあえず、これを見てくれ」


 ホムラは懐からプーレに書いてもらった、神印入りの紹介状を見せる。その神印が本物であると分かった狩人の女は、驚きで目を見開いた。


「これは……!あんたは……いや、貴方はアートホルンからいらしたのか!」


「そんな畏らんでくれ。俺はただ、頼まれごとをされてここに来ただけだからな。俺はホムラ、あんたは?」


「……私はフルル、この村で狩人をしている」


 そう言って狩人の女、フルルはホムラに手を差し出す。ホムラもそれに握り返して答えると、フルルは少し嬉しそうに頰を緩める。


「アートホルンの騎士様には、先日のオークの件で大変世話になった。礼をしても仕切れないほどに、な」


「ふぅん。まあ、俺が来たのもそれに関してでな」


「……!まさか、またオークどもが⁉︎」


「いや、そういう訳じゃないが……とにかく、あんたには色々と話を聞かせて欲しい」


「ふむ……私でよければ、何でも協力しよう」


 とりあえず、話の通じる相手が見つかったことで、ホムラはホッと胸をなでおろす。しかし、このフルルと名乗った狩人の女。なんとも不思議な雰囲気があった。

 先ほどまで無視されていた村人たちとは、何かが根本的に異なる。それが何なのかは分からないが、取り敢えずそれは頭の隅に追いやって、ホムラは質問を話を始める。


「聞いたところによると、あんたは聖堂騎士たちがオークの征伐に向かう前に、一度奴らを追い払ったらしいな」


「ああ。私がちょうど森で狩りをしていた時に、オークの群れの斥候が現れてな。何匹か頭を射抜いて、斧でカチ割ってやった」


「……」


 思っていた以上にパワフルな撃退方法に、ホムラは少し驚く。そして、腰に吊り下げてある手斧を見ると、こびり付いた血の跡が薄っすらと残っていたのだった。


「ごほん……その時、オーク共に変わった事はなかったか?オークの事じゃなくても、森に異変があったとか……」


「うーむ、変わった事か……確かに、オークにしてはやけに上等な武器を持っていたような……」


 顎に手をやって考え込むフルルの言葉に、ホムラはぴくりと片眉をあげる。早速求めていた情報が出てきたことに、内心ガッツポーズをしていたのだ。


「なるほど、上等な武器ね……他には?」


「そういえば、オーク共が現れる数日前。アルジャーノンの兵士が村にやって来たな」


「アルジャーノンの兵士が?」


「ああ、やけに重装備の兵士の一団が、村を通り抜けていった。ただ、それだけだ」


「ふむ……」


 こんな国境近くの辺鄙な村で、アルジャーノンの兵士の一団がウロついている。それをただのパトロールか何かと断定するには、色々と怪しい。

 もしかすれば、オークどもが手にしていたというその『上等な武器』の出所とも関係しているのかもしれない。そう考えたホムラは、早々に森の探索に出ることを決める。


「……やはり、この近辺に何か異変が?」


「どうだかな。異変がおきてるのかもしれないし、起きていないのかもしれない。それを確かめるのが、俺の頼まれごとなのさ。とりあえず、森に入ってみないことには、何とも言えない」


「そうか……ならば、私が森を案内しよう。この村を、この土地を守るのは、私の役割でもある」


「そいつは助かる。駄賃は幾らほどがお望みで?」


「金は貰っても困る。だが、何かくれるのなら酒がいいね」


「よし、じゃあ俺お手製の果実酒を贈呈しよう」


「ほう……」


 酒が貰えると聞いて、目の色を変えるフルル。どうやら、彼女は中々に酒好きのようだ。ともかく、これで不慣れな森の案内役ができたのだ、調査は順調な滑り出しというところである。

 今すぐ森へ出かけたいところだが、サラをテントに置きっ放しにしておくわけにもいかないので、ホムラはやはり一度野営地へと戻ることにする。


「すまんが、連れがいてね。ちょいと、そいつに一声かけてから森に入ろう」


「ああ、構わないよ」


 フルルを連れて野営地に戻ると、そこには焚き火と、きちんと組まれた石の上に置かれたヤカンがあった。サラには湯を沸かすように言っていたホムラだが、ここまできっちりやってあるとは思ってなかったのだ。

 魔法が使えるとはいえ、いいとこのお嬢様にしては中々の手際である。少しドジなところが目立つが、実は器用なのかもしれない。


「あ、お帰りなさいです……そちらの女性の方は?」


 倒木に腰をかけて、プーレから譲り受けた『(るい)()を司る神』の物語が綴られた本を読んでいたサラは、一緒に戻ってきたフルルの事を尋ねる。

 しかし、自分がその尖った耳先を晒していることに気づくと、急いでフードを被り直す。それを見たフルルは、すぐにサラがエルフの血を引いていることに気づくのだった。


「珍しいね、こんなところで古き血脈に出会うなんて。でも純血じゃないな、人との混血かい?」


「え、えと……私は……」


「安心してくれ、私は火の国の頭でっかちな連中とは違うよ。差別したりなんてしない。私はフルル、彼の手伝いをするこになったんだ。よろしく頼むよ」


「そう、なんですか……私はサラです。ホムラさんには……その、訳あって同行させてもらってます。


 柔らかく笑みを見せるフルルに、ホッとしたように胸をなでおろすサラ。ただ、ホムラがフルルに出会った時に違和感を感じたように、サラもまた、同じような何かを感じ取っていた。


(何だろう、この人……不思議な気配を感じる)


「……何だい、私の顔に何かついているのか?」


「いえっ、何でもないです!」


 フルルの顔をじっと見つめていたサラは、フルルに声をかけられると、手を振ってそれを誤魔化す。そんなサラの様子に、フルルは首を傾げるのだった。


「いいか。俺は彼女と森の様子を見に行く、お前はここにいるんだ。誰か来たら……ん?マカミはどこに行った?」


「あれ……?マカミちゃん、さっきまで焚き火の横で寝ていたんですけど……」


「……マカミってのは、君の連れかい?」


「ああ、雌の狼なんだが……」


 それを聞いたフルルは焚き火の横で屈むと、何かを摘まみ上げる。それは、黒と灰色が混じった毛。それからフルルは辺りを見回して、マカミが踏んづけたであろう、少しばかり折れた草を見つける。


「どうやら、私が驚かせてしまったかもしれないな。だが、そう遠くには行っていない」


「分かるのか?」


「これでも私は狩人。ある程度は痕跡を読めるさ」


「そりゃ心強いな……おっと、出かける前に、こいつを渡しておこう」


 そう言ってホムラは、フルルに小ぶりの樽を渡す。フルルはその樽に付けられていた栓を外して、中に入っている液体の匂いを嗅ぐと、嬉しそうに頰を緩ませる。


「良い香りだ。飲んでみても?」


「それはあんたにやった物だ。遠慮する必要はない」


 それなら、とフルルは樽の酒を少しだけ口に含む。そして、それを味わうように目を閉じて舌の上で転がす。

 しばらく余韻を楽しむように目を閉じていたフルル。やがて、納得するように小さく頷き、美味い、と呟くのだった。


「コケモモの果実酒だ。口に合うか?」


「ああ、私好みの味だ。ありがたく受け取っておくよ」


「……お酒って美味しいんですか?」


「おや、飲んだことないのかい。私からすれば、酒を知らないのは人生の半分は損してるよ」


「半分も……!ちょっと飲んでみたいかも、です……」


 何やらお酒の話で盛り上がり始めるサラとフルル。お互い初対面ではあるものの、女性同士気が合うのか、二人はすっかり意気投合していた。

 お喋りは後にしてくれないか、と口出ししかけたところで、ホムラはその言葉を喉元で飲み込む。自分よりサラに心を許しているのなら、それはそれで構わない。


(フルル……彼女は何か隠している。その断片でも聞き出せれば御の字だ。酒で口元も緩くなっているみたいだし、な……)


 今日会ったばかりで、たまたま協力してくれるだけの関係だ。隠し事の一つや二つもあるだろう。ただ、その隠し事に、ホムラはどうにも嫌な予感を感じているのだった。



『銃』

とある火の国が作り上げた武器。火薬と複雑な機構を用いた技術の結晶であり、火の国を表す新たな象徴となりつつある。

現在はまだ非常に高価な代物であり、一般に出回ることは殆ど無い。その為、裏では高額で取引されている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ