1 問題児は異世界へと転生する
こちらは『異世界最強種〜神龍より生まれし存在〜』の息抜き(リフレッシュ用)として投稿しているので、更新頻度がかなり遅く完結するかも分からないので、モヤモヤしたくない人はバックお願いします。
更新催促や文句は受け付けてないのでよろしく。
あえて送ってくる人はネタとして扱います。
白い世界にポツンと一人、片膝を立てて座っている男がいた。男に意識はなく、安らかな顔をして眠っているが姿勢に不安定さは微塵も感じられない。
少し時が経ち、男は目覚め始める。ゆっくりと目を開け、座ったまま静かに周りの状況を確認して呟いた。
「どこだ?……ここは」
声は非常に落ち着いており、慌てているそぶりは感じられない。だが、経験したことのない状況と白い世界に自分が座っている時より前の記憶が抜け落ちていたため、若干警戒しているようではあった。
見渡せど地平の果てまで続くような白い地面、そして白い空によって境界線どこにあるのかも確認出来ない。ただ自分だけが白の世界で色を持っている。
男は一通り考え込んだ後に、こう呟いた。
「さっぱりだな。記憶も無く状況も読めん……」
すると何処からかクスクスと声を潜めて笑っているような声が聞こえてくる。声は男とも女とも取れるもので、両性具有の存在にも感じる。
一通り笑って気が済んだのか、男に語りかけてきた。
―― やあ。初めまして、私は神様です ――
神は突然そんなことを言い出した。男は冷静に頷きを返すだけだ。
―― あれ、驚かないんだね? ――
「不思議な世界に不思議な存在。記憶は無く、話している現在でも状況は把握出来ない。ならば情報を聞き流すのは愚策だ」
男は何ともないようにそう言った。
―― へぇ〜、流石だなぁ。世界の頂点に立った人物はやっぱり他と大分違うね ――
神様は感心したような声を出した。
―― あ、それでね?君をここに呼んだ理由なんだけれど、ちょっと異世界に行って欲しいんだよね〜 ――
男が黙って聞いている間も話しはどんどんと進んでいく。神様は理由などを話していたが、要点をまとめて整理する。
・最も武力に優れた人物を選び、その結果が自分だった。
・ついでに自我も強く、異世界を渡っても壊れにくそうであり寿命も終わりに近かったので即決した。
・自分の行き先である異世界には一月後に自分と同じ状況になる者が多数いること。
・その多数の中から無作為に選ばれた者と協力すること。
・選ばれた者と自分の活躍に神々は期待しており、不確定要素として頑張れと。
内容は以上だった。男としても不満は無く、むしろ死んで終わりでなかっただけマシだとも感じた。
しかし、神様の言葉通りであれば自分はかなりの強者であり、その知識や経験を引き継げないのはどうにも腑に落ちなかった。
「神よ。内容は把握し理解した、拒否権は無いと思うが私は全てを受け入れるつもりだ。だが、その役割を果たすためにも過去は必要だ」
―― 良く分かってるね♪その通り、拒否権は無いよ。そして安心していいよ、記憶が無くなるのはこの空間だけだからね ――
神は自分が素直に受け入れたことに気を良くして記憶を消す理由についても語った。
単純なことだが、『性格はあまり変わらずとも過去を持っているかどうかで話の潤滑具合が変わり、未練やしがらみに縛られることが無くなるから』だそうだ。
ある時からこの方法を考え付き、七割方は成功することが検証結果として出たため、以降はこの方法を長く採用しているとも。
―― それじゃあ、そろそろお別れだね。もう会うことはないだろうけど、私も楽しませてもらうつもりだからそのつもりでね♪ ――
「最後に一つ。名を教えて欲しい」
―― 私かい?私はオシリス。死んだ君の魂を異世界に渡らせる神の名さ。
満足したかい?龍王:ドラグノフ。いや、龍人:ヴォルド・アルメナスよ ――
その言葉を最後に、白い世界から男の意識と共に姿も搔き消える。
─ その日、とある世界の最強の"死"が確定した ─
─ そして、地球に住む青年に最強の魂が宿る ─
─ 三世界と神の思惑が絡み運命は捻じ曲がる ─
△▼△ これは、"魂に刻まれた"そんな物語 △▼△
朝の教室は非常に煩い。昨日にはなかった情報や話題が溢れ、様々な人間の考え方や感想が入り混じり言葉として飛び交っているからだ。
既に予鈴が鳴り終わり、数分もしないうちに本鈴が鳴るというのに騒がしさは落ち着く気配がない。
本鈴が鳴るというギリギリのタイミングで、他のクラスへと遊びに行っていた者達が帰ってくる。これで全員が揃ったことになる訳だが、先生はまだ来ない。
少ししてから教室の扉が開かれ、担任である男の教師が入ってきて挨拶をする。
「おう、全員揃ってんな〜?点呼するから、返事しないものは欠席扱いにすんぞ〜」
耳の穴を小指でほじくりながら、面倒臭さそうに教室を眺める中年の島田先生。高校三年生になり美人女教師の中本先生から、島田先生に変わってから五ヶ月が過ぎた。
やる気のない島田先生と中本先生を比べて僕以外の全員が溜息を吐く。だが、不良かぶれであり口煩い鬼塚くんでも口答えはしない。
一度、 島田先生を外して中本先生に変えろと抗議した所、退学にするぞと脅されてからは盛大な溜息で皆は我慢している。
それからは普段と変わらない日常が続いた。
そして、今日最後の授業が終わろうとする頃に僕の身体に異変が起きた。
急に身体を内側から燃やされたかのような熱を感じ、それと同時に鈍器で殴られたかのように脳が揺れた。
僕は胸の中心を握りしめ、何かを掴もうとしたが右手は空を切り、そのまま椅子から崩れ落ちて気を失う。
気が付くとどこか見覚えのある天井が見えた。僕は起き上がろうと身体を起こすが、痛みに呻き直ぐに元の体勢になる。
すると、聞き覚えのある優しい声がかかる。
「大丈夫?急に倒れたって聞いたから心配してたのよ。自分の名前や学年は思い出せる?」
保健室の張本先生がカーテンを開けて立っていた。
「……はい。不動竜魅、三年生です。体調は何とか大丈夫そうです」
「そう。かなり魘されているみたいだったから安心したわ」
その後、張本先生に幾つか質問されて問題ないと判断されると帰宅を促された。窓の外を見ると既に太陽が山の向こうへと沈みかけている所だった。
知らぬ間に数時間も気絶していたようだ。
「ご心配をおかけしました」
荷物を纏め張本先生にそうお礼を言って保健室を出る。昼間より気温が下がり、寒さすら覚える廊下を歩いて学校を後にする。
すっかり陽は沈み、ぼんやりとした明るさしかない道を歩き帰宅する。……が、近所にあるコンビニを通る時に屯している鬼塚くん達と目が合ってしまう。
「良かったな。カモが来たぜ」
「お?授業中にぶっ倒れた不動くんじゃ〜ん!」
「どれどれ?マジかよ、俺たち付いてんなぁ〜!」
「……」
態とらしく声を上げて近づいてくる鬼塚くんを含めた四人組。
鬼塚嵐くん。不良グループのリーダー的存在で権力と力を一番持っている。自分より立場が強い大人達には素直に従ったり、仲間を庇ったりしてる所も見たことがあるけれど弱い者イジメは容赦がない。
基本的に傍観している。
打田正治くん。鬼塚くんに次いで力が強く、狡猾な部分がある。鬼塚くんを隠れ蓑にしている節があり、安全地帯を常に確保して立ち回る。
石崎と笑いながら脅してくる。
石崎暁人くん。グループの中で特に卑劣で基本的に殴ってくるのはコイツだったりする。地味に頭が良いせいで殴る場所を工夫してくるので、痣が見えずイジメが発覚し難い。
無駄によく喋る。
川島宏一くん。イジメは基本的に傍観主義だが、美味い所はしっかりと貰っていく。体育などでサッカーをしている時以外は全てに興味がなさそうな顔をしている。
常に傍観している。
四人は直ぐに僕を囲み肩や背中に手を置いて、逃げられないようにしてからコンビニ横の死角へと誘導させられる。
最初は裏がある笑みで語気も優しく語りかけてくるのだが、死角に入った途端に頭を肘おきにして荒くなった口調で捲し立ててくる。声は周囲に響かない程度の声量だというのに、聞き逃しがありえないほど鮮明なドスの効いた声だ。
「なあ……いつもの様に財布貸してくれよぉ?俺たちま〜た家に置いてきちまったんだよなぁ」
打田くんがそう言うが、嘘だ。尻ポケットに長財布が入ってて上着で隠している。
「早よ、財布出せや。俺たちが有り難〜く有効活用してやるからよ」
これも嘘だ。コンビニの店員を脅して未成年なのにタバコや酒を飲むために消費される。
「殴っちまう前に財布出せよ。痛いのは嫌だろ?」
石崎くんからの二度目の警告が飛ぶが、どうせ渡した所で殴られる結果は変わらない。殴られたくなければ財布を投げつけて走り去るのが適切だ。
実際に僕以外のいじめられっ子は殴られるのが嫌で、視界に四人組が目に入り近付いてきた段階で不良の足元目掛けて財布を投げつけ、苦い表情で走り去る。
最後まで抵抗しているのは僕くらいだ。
「断る」
『あ゛?』
僕の意思とは関係なくそんな言葉が漏れる。普段は終始沈黙して時間稼ぎをするのだが、今回は特別殴られるのが早くなりそうだ。
「聞こえなかったか?"断る"と言ったんだ。それとも耳がボケたか、元々スカスカの脳みそが腐り溶けたのかもしれんな。医者でも読んでやろうか?」
僕が発さないような声音で相手をバカにする。相手からは当然、表情が抜け落ちて拳が飛んでくる。
「温いな。もう一度赤ん坊からやり直したらどうだ?」
僕でも認識出来ていないうちに拳を受け止めていて、呆れて言葉を返した。
いつの間にか僕の意思で身体が動かせなくなっており、どこか夢を見ているようにフワフワとしている。だが、意識すれば起きていると自覚できるのですごく不思議な感覚だ。
取り敢えず鬱陶しかったので、掴んでいる拳を軽く握ってメキメキと骨を折ってやる。
石崎くんの拳を離してあげると、数歩後ろによろめいた後に尻餅をついた。
「情け無い……」
「急に元気になったな?」
僕が溜息を吐いていると、そんな石崎を横目で見ながら恐れることなく僕の胸ぐらを掴んで持ち上げる打田くん。
「弱い者を四人で囲って吠えるだけしか能のない雑魚に心底呆れているだけだ、気にするな」
「そうかよっ!!」
下から腹を狙ったアッパーカットが飛んでくる。だが、その前に相手の腹を蹴り抜いてやる。
「……ガッはっ!?」
重力に引かれて落ちる身体を安定させ、着地と同時に未だに胸ぐらを掴んでいる打田の手首を軽く握って、コンビニの壁に向かって放り投げてやる。
「…………!」
何が起きたかも分からない様子で、頭を下に向けた斜めの状態で数秒壁に張り付くと、気絶してうつ伏せ状態で地面に落ちる。
「期待外れだな」
「……ッ」
静かに石崎と打田の成り行きを見ていた川島は、興味もなさそうに一つ鼻で笑うとこの場を立ち去った。
「ちと弱すぎやしねぇかぁ?」
「チッ」
舌打ちを漏らした鬼塚は僕と争うこともせず、去り際に一言「覚悟しとけよ」と捨て台詞を吐いて帰って行った。
残された打田はまだ気絶しており、石崎は握り潰された手の痛みでその場から動けないようだった。
「グブッ……」
「ふん。これでは先が思いやられるな」
無事な左手で右手を抑え、俯きながら唸っていた石崎の顔面を蹴り飛ばして黙らせた僕は、静かに空を見上げて輝く月を眺めながらそう言葉を零した。
次の更新はいつになるやろなぁ…