6:異世界生活二日目。
遅くなりました。待っていてくださった人がいらっしゃったら、ごめんなさい。
メイドの仕事と、ステータス発表の回です。
では、どうぞ!!
「んっ、」
目を覚ますと朝日が見えた。一瞬、見慣れない部屋に驚き、すぐ思い出す。ここは異世界。リャロン王国きっての貴族、ルノーク家の一室。
異世界。なぜ、来たのか自分にもよくわからない。なぜかそうしなきゃ、と思ったのは覚えているのだけれど・・・
ベットから降りた藍衣は、手を組んでぐーと伸びた。昨日宛がわれた制服、もといメイド服を手に取る。
ふぅ。やっぱり、メイド服には抵抗があるな。向こうの常識を持ち出しちゃいけないのだろうけど。はぁまあ、確かに働いている人はみんなメイド服か燕尾服だった。・・・昨夜見た限りは。
もう一度、ため息をついた藍衣はそっと部屋着を脱ぎ始めた。
数分後
・・・・・
藍衣はドレッサーの前で固まっていた。
貰った時は、袋に入っていたし、サイズも「合うはずだ」と言っていたので、広げてみなかったのだ。
しかし、広げたメイド服はサイズが合っていなかった。主に、スカートの丈が・・・・。
昨日見たメイドの方々が、皆ロングスカートだったので、完全に油断していた。そうだ、ここのご夫人にはそういう趣味があるのだった。
はぁ、あきらめるしかないか。
「はぁ・・・」
藍衣はもう一度ため息をついて、切り替えることにした。
「もう起きているのですね。感心です」
「ひうぐおあうが」
突然、後ろから声が降ってきたことに驚いた藍衣は、悲鳴を出そうとしたがすぐに口を押さえられてしまった。
よくその人を見れば、昨日この部屋を案内してくれたメイド長 兼 レースさんの従者の人だった。
「すみません。つい、くせで・・・朝食の時間です。付いてきてください」
「は、はい・・・」
いや、まずいつ入ってきた?あと、くせってなんだよ・・・・
昨日夕食をいただいた部屋へ入ると、良い香りがした。部屋の中には、みんなが揃っており私が最後だったようだ。急いで椅子に座ると、レースさんの号令で朝食が始まった。
「藍衣おはよう。藍衣は今日どうする?私は学校だけど」
「おはようリィーノ。うーん、どういう選択肢があるの?」
隣に座るのはリィーノ。白の半そでセーラー服のような、ワンピース。セーラー服の袖に紋章が付いているので、これがあの校長先生の経営する学校の制服なのだろう。
「お嬢様、藍衣さんはきょう一日メイドの仕事を教えたいのでお借りします」
前に座るメイド長さんが言った。
「だ、そうだよ。藍衣がんばれ!」
朝、7時15分。
「行ってきますっ」
「「「いってらっしゃいリィーノ(お嬢様)」」」
異世界生活二日目が始まった。
「それでは、藍衣さん。メイドの仕事を始めます。説明するよりも、見て、して、覚えたほうがいいので仕事を一通りしながら説明します。付いて来てください」
「はい。あっ呼び捨てでいいです。私のほうが年下なので敬語もやめてください」
「そう。では、まず部屋の掃除から」
そうして、私は広大な屋敷の清掃を始めた。掃除は孤児院でもよくやっていたので、慣れている。
「なかなかもの覚えがいいですね。では、掃除はこのくらいにしてパーティーなどの社交的な場の練習をしましょう」
「はい」
家事は得意だけれど、社交的なことはこれっぽっちも分からない。
「まずは、立ち位置。あなたは、リィーカティーノお嬢様の従者。私が、お嬢様だとしたらどこに立ちますか?」
私は迷わず右斜め後ろに立った。
「なぜそこに?」
メイド長こと、凜子さんの教育法はこうだ。考えさせ、なぜそうなるのかまで理解させる。人によっては、まどろっこしいと感じるかもしれないけれど、私は次につながる良いやり方だと思う。
「はい。リィーカティーノ様の利き手が右手だからです。また、私の利き手も右手だからです」
「すばらしい。その通り。後々、あなたには戦闘も教えて行きます。そうなると、有事の際前にいる主人が邪魔で攻撃できなくなってはいけませんからね」
「ありがとうございます」
そして、未知の分野の練習は日が暮れるまで続いた。
「それでは、まとめです。一から今日やったことを順にやっていきましょう。主人役はいませんが、想像して最適な行動をしてください」
「はい」
ふぅ。深呼吸をして気持ちを整える。
「なにしてるの?」
「ひゃっ」
音もなく、レースさんが入ってきた。
「レース様。藍衣のメイド練習でございます。どうかなさいましたか」
凜子さんが一瞬で、メイド長から従者になった。すごい。
「うんん。用があるわけじゃないのよ。ただ、様子を見に来ただけ。邪魔だった?」
「いいえ。そんな事はありませんが、そうですね、もし暇なら少し付き合ってください。先輩」
「うっ・・・そう言うのはよくないと思うよ。でも仕方ない。後輩に頼られて、答えないなんて私じゃないもの!!」
なんか、いろいろと見えてきた気がする。二人の関係とか、レースさんの性格とか・・・
「で、何すればいいの?」
「では、レース様は他の貴族の屋敷で開かれるお食事会に呼ばれた設定で、いつも通りふるまってください。従者を藍衣がします」
「わかったわ。でも、メイドの練習じゃなかったの?」
「ええ初めはそうだったのですが、何しろ飲み込みが良いものでつい、いろいろ教えてしまったのです」
クールな凜子さんの顔がほんの少しだけ緩んだ。
「いいわ。藍衣よろしく。ルノーク家が侮られないよう立ちふるまいなさい」
「はい。レース様」
設定は食事会。最も難しい。
まず、ドアを開けて扉を押さえる。このとき、頭の高さに注意だ。
続いて、あいさつ。主賓なのかそうでないのかにもよるが、主人にあわせる。お辞儀一つとっても、意味があり、その組み合わせによって自分の立場や考えを示すらしい。
座るタイミングも大切だ。主人が気付かないようだったら、着席を促さなくてはならない。しかし、話の途中で従者が横から口を出すのは失礼だ。相手の地位や、話の内容を見極めなければならない。
着席も、私が椅子を引く。タイミングを合わせないと、主人が恥をかく。
その後は、主人の指示どうり動く。要望があれば極力聞くし、主人が欲しがっているものを的確に出したりするのも仕事だ。
「いや~藍衣ちゃん完璧だよ。もうどんな貴族におよばれしても心配ないね。後は実践あるのみかな~」
「そうでしょう。この娘は育てがいのある子です」
いや、そんなに褒められると照れるのですが・・・。
ガチャ
「ここにおられましたか、レース様お嬢様がお帰りです。それと、手紙が来ております」
「分かったわ。ありがとう」
扉が開き、メイドさんがリィーノが帰ってきたことを知らせた。そして、メイドさんが退出した後レースさんはくるりと振り返り、口元に悪い笑みを浮かべて
「さあ、藍衣ちゃん。今日学んだことを生かしてリィーノを驚かせなさい!!」
そう言った。本当に、楽しい人だと思う。
コンコン
「藍衣、入っていい?」
夕食が終わり、部屋に戻ってしばらくリィーノが訪ねてきた。
「うん。開いてるよ」
ドアを鳴らすことなく開けたリィーノは、そのまま私の隣、ベットの上に座った。
「藍衣この部屋何もないじゃない。欲しいものがあったら言ってね。いや、なくても言っていいから」
「あはは、大丈夫。今のところは、ほかに必要なものはないよ」
実際、部屋にはベッド、クローゼット、ドレッサーがありどれも新品同然。また、統一性があって落ち着く空間だった。
「それで、どうしたのリィーノ」
「えっ!!どうかしなきゃ藍衣のところに来てはだめなの?」
じぃー。私は、無言でリィーノをみつめた。
「ごめんてば。でも、ほんとに大したことないんだけど、藍衣のステータスが知りたいなって」
「ステータス?ギルドカードのこと?」
「そうそう。あっギルドカードの使いかたわかる?」
「分かんない。リィーノ教えて」
「もちろん!じゃあ、まずギルドカードを出して」
そう言いつつリィーノ自身もギルドカードを出す。
銀色に赤ラインが入っていた。
わたしのギルドカードは、銀色に紫のライン。たしか、level 0(紫)と書いてあったのでその色だろう。
「んと、まずこの色がレベルを表すの。下から、0が紫、1が紺、2が青、緑、黄、橙、赤ってね。で、ここまでが一般的なレベルで、さらにその上に 銀 金 白 があるんだけど、銀でもせいぜい国に数人で金は、一人しか知らない。白は、長い歴史の中でも数人しか書物に載っていないような存在なの」
なるほど、じゃあリィーノは赤だからlevel 6 か。色は、虹+3つということか。
「リィーノ、そもそもレベルってなに?」
「あっそっか、レベルっていうのは、魔法の才能と熟練度を数値化したもの。この世界の、冒険者や魔法師にとってとても大切な、強さを表す数字。でも、例えば亜莉紗さんの様に魔法が使えずとも強い人もいるんだ」
「なるほど。じゃあ、Rankってのは?」
「ランクは、ギルド登録をしている人の中でどれだけ成績がいいか。これは、才能には関係ない数値が出るけど、魔物を倒した数とか依頼達成率とかだから、ランクが高い=強いとは限らないんだ」
「ふーん。ちなみにさ、リィーノはランクどのくらいなの?」
「えっと、9万5千くらいだけど・・・」
桁が違った・・・・。
「ああ、それでステータスっていうのは、魔力・体力・知力・五感・技量の五つの事で、こうすると」
リィーノは、自分のギルドカードの下のほうに親指を当てた。すると、なんと!!LevelとRankしか書かれていなかったギルドカードに、無数のアイコン(!?)が現れた!!!
スマホかよ。と叫ばなかった私を誰か褒めてほしい・・・。
「藍衣、先に言わなかった私も悪いけれど、人のギルドカードを覗くのは禁止。悪い時は捕まるからね。それで、ステータスは一番上の四角を押すと出てくるよ」
「分かった。あっこれか。えっとね
「藍衣これも言わなかった私が悪いけど、自分の情報を安易に流してはだめよ」
私が、自分のステータスを読み上げようとすると、リィーノからストップがかけられた。でも、さすがに私もそこまで馬鹿じゃない。
「大丈夫。分かってる。リィーノはそんなひどいことしないでしょ。それに、上の人はリィーノが止めないって事は、聞かれてもいい人ってことでしょ?」
・・・・・・・。
リィーノは黙ってしまった。私、何か変なこと言ったかな?
「だって・・・」
リィーノは、あきれたような声で天井に向かって言った。
すると、1枚の板が外されて中から人が出てきた。
「うふふっ。魔法を使っていなかったからと言ってもまさかばれるとはね?藍衣ちゃん」
「レースさん?何をしていたのですか!」
そう、天井から出てきたのはまさかのレースさん。Tシャツに長ズボンというラフな格好だった。
「何って、夜の散歩だよ!!まあまあ、そんなことより藍衣ちゃんのステータス発表!!まずは、魔力から。ジャジャン!!」
なんて嘘が下手なんだ。というか、隠す気がないのか。まあいいか、えっと魔力は
「魔力は150、体力30、知力100、五感160、技量9、ですね」
・ ・ ・ ・ ・ 。
「藍衣ちゃん、ごめんね、親指を当てながら ‘‘ステータス・オープン’’ って言ってみて」
「えっと、 ‘‘ステータス・オープン’’ !!」
シャラン。音と共に、目の前に半透明のスクリーンが現れた。
スクリーンを覗きこむリィーノと、レースさん。
「ほんとだ・・・」
「ほんとね」
あー、やっぱバグってるのか。転生モノの小説のお決まりですもんね。私がしたのは転移だから大丈夫だと思ったのにな。
「普通の人はどのくらいのステータスなんですか?」
「そうね、100が平均値と言われているわ。ただ、体力とかは、年齢によるから一概には言えないけれどね。藍衣ちゃんはいま何歳?」
「いまは11、今年で12です」
「そう、11歳なら魔力100、体力60、知力50、五感100、技量50ってところね」
体力と技量以外は、倍まではいかずとも大きく上回っている。体力は、無いな、確かに。マラソン大会とか無くなれと毎年思ってたし。
すっ
レースさんが、私の右手を手に取り覗き込むように目を合わせる。そして、やさしく、そして強く、言い聞かせるように、言った。
「でもね藍衣ちゃん。あなたは、従者だから常人の倍くらいは身につけなさい。そのための、お金やコネなんかは私に任せなさい。何があっても、死なせないし、間違っていたら全力で止める。だから、安心して無茶しなさい。ルノーク家大奥からは、以上。おやすみ、娘たち」
レースさんは、颯爽と部屋を出て行った。きちんとドアから。
「藍衣、私もできることは何でもするから言ってね。そうだ、新人メイドさん。お出迎えありがとう。おやすみ」
「おやすみ。リィーノ、いや、新人ご主人様」
リィーノは、ふてくされたような顔をして出て行った。しかし、廊下からくすくすと笑う声が聞こえた。
窓の外を見ると、月や星がまたたいていた。
明日はどんな日になるだろう。
未来視など無いから分からない。
でもまあ、きっと悪くはないだろう・・・。
皆さんこんにちは!!ルノーク・リィーカティーノと、サン・ルーンです。
S)今回は、ちょっと真面目にちらっと話に出た、学園について説明していきたいと思います。
R)学園、正式名称を「リャロン王国国立魔法学園リャロン校」といい
S)国内に、全六校ある国立魔法学園の一校です。そして、私が経営する学校!!
R)他の国法(‘‘国’’立魔‘‘法’’学園の略称)と同じく、12歳~18歳が対象で、飛び級制度があり ます。実は、入学試験を受けるのに年齢制限はなく私のように11歳で入学する子も稀にいるんです。
S)リャロン校は、実力主義。ただ、やる気さえあれば実力は入学してからでも十分に伸びるので、目標 の高い生徒は大歓迎です!!この機会にぜひ、お受験してみてはいかがでしょうか?
R)それでは、今回はこのくらいにして
「「長らくお付き合い、ありがとうございました~」」
著)著からも、ありがとうございました。次話は、藍衣のかっこいいところが・・・
気長にお待ちください!!!