3:ギルド
カランカラン
レースさんが扉を開けると、扉に取り付けられた鈴がきれいな音色をたてた。しかし、同時に中から、強い酒のにおいと無秩序な喋り声がその音をかき消す。
カウンターへ着くと、女性のギルド員の方が対応してくれた。
しかし、ここで問題が発生した。成人男性が肘をつくことを想定したカウンターは、私には高すぎたのだ。12歳にして、156センチもある(注:日本の12歳の平均身長は152センチメートルである)リィーノでさえ胸元まで来ている。
比べて私は、小学校に入ってからほとんど伸びず、来月には12歳になるというのに、
現在身長、一メートル二十と九センチ。(注:十二歳女子平均身長、152)
つま先立ちで、ようやく顎がカウンターに乗った。
そして、この体勢は地味にきつい。
「君が、藍衣ちゃんだね。あっ、このカウンター高いよね?ちょっと待ってて」
ギルド員のお姉さんはそう言うと、奥へ走って行ってしまった。
数分後、カウンターわきの扉から木箱を持ったお姉さんが出てきた。
「はい。これでどうかな?」
木箱に乗ることで、リィーノよりもほんの少し高くなった私は、自由になった!!
「それじゃあ、まずはギルド登録を。ギルド登録は、この水晶に触れていただければすぐにできます。藍衣さん、藍衣さんのギルド登録は私、亜莉紗が担当させていただきます。この水晶を包むように両手で触れてください」
そう言った、亜莉紗さんの手にはメロンくらいの大きな水晶があった。私の目の前にその水晶を置くとそこに二枚の小さな金属プレートを差し込んだ。
「どうぞ」
私は、水晶にそっと触れる。
ひんやりとした手触り。そして、淡い光が水晶の中にともった。光は、差し込まれた金属プレートに吸い取られるように消えて行った。
完全に光がなくなると、亜莉紗さんが金属プレートを取りだす。
「あら、これは・・・」
金属プレートを見た、亜莉紗さんは困ったような顔をした。何か問題が起きたのだろうか?
「藍衣ちゃん。それに、みなさんも、大変言いにくいのですが・・・」
亜莉紗さんは私、レースさん、リィーノと目を合わせてから、手に持つ私のギルドプレートを差し出した。
「え?」
「あらぁ」
差し出された、ギルドカードは紫色だった。
「これは?」
「このカードは『ギルドカード』と言って、冒険者である証であると共に技量なんかが詳しくわかる、魔道具マジックアイテム。ギルドでは、冒険者の位を『ランク』で表しているわ。ランクは『イーチレベル』ていう、項目別のレベルを総合した、『レベル』とギルドの『依頼達成率』で決まるの。イーチレベルはある程度までは努力でどうにかなるけれど、最終的には才能よ。けれど、依頼達成率は完全に努力。どんなに才能のある人でも、初めはレベル1からのスタートなの。レベル1~9は、カードの色が藍。そんな感じで、九個ごとに色が変わるの。下から、藍・青・緑・黄・橙・赤・銅・銀・金・白金・金剛の11色」
つまり最高はレベル100ということか。ただ、亜莉紗さんの上げた色の中に紫は入っていなかった。
亜莉紗さんは、ギルドカードの穴にひもを通して首から下げてくれた。
「はい。藍衣ちゃん、『ステータス』と言ってみて?」
「す、ステータス?」
私は、亜莉紗さんの指示通りステータスとつぶやく。すると、目の前に半透明のウインドウのようなものが現われた。
「うわぁ・・・何これ?」
私はそれに手を伸ばす。しかし、何の感覚もないまますり抜けてしまった。
よく見たら、それには文字も書かれていた。
「藍衣ちゃん、半透明な四角いものが見えるかな?」
「はい」
「良かった。それは、『ステータス・ウインドウ』というもので、本人が自分のギルドカードを持っている時だけ見えるものよ。大概の個人情報はここに載っているわ。それで、藍衣ちゃん。その中に、数字が0になっている項目はあるかな?」
私は、目の前に出続けているステータスウインドウなるものを見る。
怜家 藍衣 <レイカ アオイ>
11歳
女
種族: 人族
身長:129.2
体重:28
体力:15
知力:50
攻撃力:10
防御力:15
魔力量:0
魔力操作:40
魔法適正:120
加護:水神の祝福
水の女王の寵愛
六精霊の祝福
あった。
「えっと、魔力量が0ですね」
「「「藍衣、」ちゃん」」
「え、?」
なんか見事にハモった三人が、ひどい目で見てくる。なんだその、あきれたような眼は?
「え?じゃないんだよ?藍衣。ステータスはむやみに人に教えてはいけません」
なんかリィーノに、言われるとムカツク。
「そういうこと。私の言い方も悪かったけど、藍衣ちゃんはこれから気をつけようね?」
「はい!亜莉紗さん!」
「なんか、差を感じるよ!」
リィーノが何か言っている気もしないことはないけど、聞こえないや。
「それで、亜莉紗さん。紫は、何かの項目が0の時に現れるとか、そんな感じですか?」
だれも話を戻さないので、仕方なく私が戻す。本来なら、レースさんか亜莉紗さんの役割だと思う。
「そうそう、そういうこと。それにしても、魔力量かぁ。不幸中の幸いかな?」
なにが?と聞く前に、レースさんが説明してくれた。
「魔法を使うにはまず、自分の中にある『魔力』で『魔法陣』を描くの。この精密さが『魔力操作』。次に、できた魔法陣に自分の魔力を注ぐ。この時『魔法適正』が高いほど使う魔力が少なくて済むの。と、ここまで大丈夫?」
レースさんの説明は、順序が立っていて、聞き取りやすい声なのでよくわかる。
こくり、と頷いてみせるとレースさんは続きを始めた。
「というわけで、魔法を使うには魔力が必要不可欠。だから、藍衣ちゃんは自力では魔法を使えない。けれどね、この世界には魔力と同じ『マテリアル』って言う物質があるの。詳しく言うと、マテリアルという物質を生物が取り込んだものが魔力なんだけど、まあそういうわけだから魔力はなくても、マテリアルをちょっと機械に通せば魔力の完成だから、何とか魔法が使えるってわけよ」
だから、不幸中の幸いか・・・。
「まあ、だから藍衣が気にしなきゃならないのはランク重視の屑どもだね~」
なんか、リィーノの口が・・・。リィーノはお嬢様だから、屑とか言わない。(願望)
「そう。冒険者だけじゃなくて、この世界の人はみんなレベル0を軽蔑する。覚悟は、しておきなさい」
「はい。レースさん」
カランカラン
ギルドの扉に付けられた鈴が鳴り、外から男3人女2人の一団が入ってきた。
丁度、全ての手続きが終わった私たちはその一団とすれ違う形で店を出た。しかし、
「おい、そこの餓鬼。ちょっとつら貸せよ」
リィーノに付いてギルドを出ようとした。私の襟首を掴み、一番大きな剣を持っている人が言った。
拒否権は無いのかよ。と言いかけてやめた。男は、私の胸元つまり、ギルドカードを見ていたからだ。多分こういうやつが、リィーノとレースさんの言う人なのだろう。
「おい、聞いてんのか?ちび、レベル0で冒険者やるつもりか?レベル50のフィート様が鍛えてやるよ。付いてきな」
うーわ。めっちゃめんどい。どうしよう?
と、レースさんの顔を窺うと
うーん、という感じで首をひねっていた。
リィーノは言うまでもなく、キレてた。
「餓鬼、自分じゃ判断もできないのでちゅか~」
ちょっといらっときた。でも、私は相手を傷つける技術を知らないんだよな。このまま、ついていっても確実に良い事は無い。
「そうね。藍衣ちゃんやっちゃいなさい」
と、レースさん。
・ ・ ・ ・ ・ 。
えっ?レースさん何言ってんの?
「いやいや、私何も出来ないんですけど?」
「大丈夫。藍衣ちゃんは、センスがありそうだから。きっと何とかなるわよ!」
なんて、無責任な・・・。
「ふんっ、決まったようだな。じゃあ来い。下で、10分後に始める。ハンデとして、俺は素手だ」
そう言った男の人は、ギルドの反対奥にある扉を開け出て行った。
「そうときまったら、藍衣ちゃんも準備しなきゃね?」
えっ?いやいやいや、私はオーケーしてないし?というか、普通「私闘」って駄目じゃないの?亜莉紗さ~ん!どうなっているんですか~!!!
「あー、ギルド規定によりただいまより10分後、ギルド地下闘技場にて上級冒険者、フィートと駆け出し冒険者、藍衣の決闘を行います。立会人は私、亜莉紗が担当します」
大幅改稿中でございます。ご迷惑をおかけしております。