1:孤児院の少女、旅立ち
長くなってしまいました。
「ごちそうさまでした」
私は一人先に食べ終わり、立ち上がる。
「あら、藍衣ちゃん、早出?」
向かいに座るマザーが、たずねた。
「はい、今日は日直なので早く出ます」
「そう、気を付けてね」
「はい」
私は返事をして食堂から出た。正直学校へ行くのは面倒だ。貴族のいない日本とはいえ、大企業のお坊ちゃん、お嬢様の通う学校。クラス内カースト制度ははっきりではないが存在する。また、孤児というのは、ただそれだけでいじめられたりする。クラスでただ一人の孤児だと特に・・・
部屋に着き、木の扉を開けるとそこに、少女がいた。
・・・・
私は、そっと扉を閉める。金髪でツインテールをした子などこの孤児院にはいない。まして、黒いローブを来た痛い子なんて!!!
大丈夫、窓の外を見ていた少女にはまだ見つかっていないはずだ。どこから侵入したのか分からないけどとりあえず警察に連絡をっ
「ね、きみなんで閉めたの?私は、君に話があって待っていたんだけど?」
きゃぁぁぁ
私は、心の中で悲鳴を上げた。扉を開け、そういう少女は赤い瞳をしていて、明らかに日本人ではなかった。
「ね、きみ?話がしたいから入ってよ」
正直、今すぐに逃げ出したい状況だが逆に逃げれば逃げたでひどい目に会いそうだ。ここはおとなしく従うべきだ。時間を稼げば、そのうちマザーたちが気付いてくれる。はず・・・
「わかった」
私は、正体不明の怪しい少女と二人、向かい合って椅子に座る。
少女は、ローブの中から怪しげな模様の描かれた白いコインの様なものを取りだした。
そして、彼女が「時よ止まれ、タイム」とつぶやくと模様が白く光った。
やばい、かなり痛い子のようだ。
彼女は、コインをローブの中にしまうと立ち上がった。
「はじめまして、こんにちは。ルノーク・リィーカティーノと申します。ねぇ君、私の従者になる気ない?」
「はい?」
「まあ、突然言われても困るよね。えっと、まずは私はこことは別の世界、いわゆる『異世界』から来ました」
「はあ、そうなんですか」
少女が語り始めた。どこかの、宗教だろうか。ちょっと、いやかなり怖い。
「信じていませんね。そうですね、私の住む世界には魔法があります。でもこの世界には魔法は無い。私が魔法を使えば、信じてもらえるでしょうか?」
「えっ、まあ使えれば・・・」
少女がすごいことを言い出した。
「私は先ほど、この魔道具を使い、時間を止めました。これが魔法です」
そう言って、彼女は先ほどのコインを取りだす。
「えっと、じゃあなぜ私は動けているのですか?」
わたしが、そう問うと
「私ときみは、指定範囲外です。私は、君と話がしたくて来たのに動けなくしては、意味がないで
しょう?」
割とまともな言い訳をしてきた。
「では、時が止まっている証拠は無いのですか?」
さらに追求してみる。
「例えば、この時計を見てください。針が止まっている」
確かに部屋にある時計の針は止まっていた。ただ、そのくらいは電池を抜けばできる。べつに、食堂を出るときにしっかりと時間を確認するわけでもないので1・2分の違いはわからない。
「証拠としては弱くないですか?」
私の言葉に、嫌な顔をする少女。ああ、早くぼろを出して勝手に出て行ってくれないかな?いや、むしろ、嘘だとばれたら口封じに殺される可能性もある。
「あっ、いえ。本当に魔法何て素晴らしいものがあったのですね!!驚きました」
大げさに驚く。とりあえず時間稼ぎだ。マザー早く気付いて。
「はぁ、信じられませんか。では、付いて来てください」
少女は、そう言って立ち上がり廊下へと出て行ってしまった。
どうしよう、付いていくべきか?外に出たら誘拐とかないよね?
「どうしたの?付いてきて」
いったん外に出た彼女がもどってき、催促して、再び出て行く。付いていくしかないのか・・・。
少女はまるで地図を見ているかのようにすいすいと進んでいく。私はその背中を一定の距離を保ちつつ追いかける。この廊下の先にあるのは、玄関と食堂だけ。やはり、外に仲間が待機していて、誘拐するのが目的か?
しかし、少女は食堂の前で立ち止まった。そして、こちらを向いて手招きをした。ちなみに、指は下を向いていたので、彼女はハーフの可能性が高まった。日本語も流暢だし。
警戒しつつ私が近付くと、彼女は食堂の扉を開けた。そこは、
時間が止まっていた。
「時間が止まっている」
思わずつぶやく。目をこすって見るも、変わらない。腕をつねれば、痛みが走る。現実か。
「どうかな?魔法を信じてくれると助かるのだけど・・・」
彼女は、首を傾けながらそういう。そのしぐさが、少々あざとい。
私は、食堂の中へと入る。賑やかな笑い声が絶えない食堂は不気味なほど静まり返り、誰も動かない。まるで、精巧なマネキンと食品サンプルのようだ。
しかし、スープ皿を触れば温かいし、絵里ちゃんのほっぺたはぷにぷにとする。
「本当に、魔法なんだ・・・」
そう呟くと、いつの間にか隣に彼女がいた。
「じゃあ、私が異世界から来たという事も信じてくれるかな?」
「うん。それで、あなたは何を話しに来たの?」
それから、部屋にもどって話を聞いた。要約すると、従者になってほしいのだそうだ。なぜ私に?と聞くと「勘」と即答された。しかし、彼女にはそういう能力、「第六感強化」というのがあるらしい。
正直、魔法には興味がある。誰だって、魔法が使える世界には行ってみたいだろう。
しかし、彼女、リィーカティーノさんはデメリットを多く言った。まず、魔法はごくまれに使えない人がいる。次に、その世界は日本よりもはるかに危険な世界だ。この世界で言うならば、街ゆく人が皆、銃や剣を装備しているようなもの。そして、魔法の習得はもちろんリィーカティーノさんの従者になれば、やったこともないような敵を殺すための訓練をしなければならない。
日本人の私からすれば、例え動物であっても殺すことなどできない。しかし、従者となればしなければならない。
「ハードだし、ここにいるのとは死亡率が桁違いで上がるから、断ってくれてもいいし、考える時間が必要なら、一週間ぐらいは待つし・・・」
リィーカティーノさんはそういう。でも、心は決まっていた。
「わかった。リィーカティーノさん。私はあなたの従者になります」
「ほんとに?いい、の?」
「ええ、あのクラスから逃げられますし、魔法にも興味ありますし、なによりリィーカティーノさん、いい人そうなので」
なにしろ、あと数日で契約しなければテキトーに残っている人を従者にしなければならないギリギリの状況においても、私がきちんと判断できるよう、自分に不利となるデメリットも言ってくれた。悪い人のはずがない。
「あ、ありがとう。藍衣さん。私の事はリィーノでいいよ。これからよろしくお願いします」
リィーカティーノさんは、少しうるんだ目でそう言った。
「こちらこそ、よろしくお願いします。私の事も、藍衣でいいですよ」
「うん、藍衣。えっと、そしたら私の世界へ転移したいんだけど、すぐ準備できる?」
「あー、リィーノ。今すぐじゃなきゃダメ?」
「いや、そんなことは無いよ。後一週間くらいは、いれるよ。ただ、時間を止めていられるのは後5時間くらいかな?」
「そっか、じゃあさ、自己紹介しよ。私たち、まだお互いの名前しか知らないよ?」
「そうだね、っふふ、あはははっ。私たち、名前しか知らないのに従者になってとか、なりますとか言ってたのか」
リィーノが笑い出した。つられて私も笑いだす。
なんだか、肩の力が抜けた気がした。
「ふー、落ち着いた。では、私から。ルノーク・リィーカティーノ。性別は女。年は12歳。今年で13歳。身長は156センチ。金髪はお父さん譲りで、目の色は先祖がえり。得意なことは、範囲系攻撃魔法。嫌いなのは、勉強と細かい作業。家族構成は母、父、姉、兄、兄。私は末っ子です。国立魔法学園の3年生で、成績は優秀な方。こう見えても、国軍特別魔法師隊准尉で何かあった時は出動部隊に組み込まれるの。今のとこ、最年少だね。あとは、甘いものとかわいいものは好きだよ」
まて、まて、今なんてった?国軍特別魔法師団准尉?13歳で軍人とかどういう事?
「国軍って、普通は何歳くらいで入るの?」
「うーん、人によるけど、学園卒業して、志願して、一年くらい新人教育があって、正規隊員になるのは、早くても20かな?」
「つまり、リィーノは天才?」
「まあ、普通の天才だったらこの年では国軍には入らないよ。私の場合は、家がすごくて。私の実家、ルノーク家は代々王族の近衛部隊員を排出する名門貴族。実際そのおかげで侯爵家まで上り詰めたようなものだから。で、お母さんの勧めで入隊試験受けて。合格したのが8歳の時。まだまだ新人だけど。そこそこ強い人には負けないよ」
うん。天才だ。まがう事無き天才。私はこれからこの人に使えるのか。心配になってきた。
「そっか。次は私だね。怜家藍衣。11歳。今年で12歳。リィーノとは1つ違いだね。孤児だから血縁者はいないよ。しいて言えば、マザーがお母さんでみんなが兄弟。寮で生活しているみんなを除くと、長女かな?得意なことは、家事と勉強。努力家なのが売りかな?あっ、11歳って言ったけどほんとのところはわからないんだよね。私、5歳くらいの頃孤児院の前に置かれていたらしくて、
一応、捜索願が出されてないか調べてもらったんだけど、該当する子供はいなくて、一緒に置かれてたカバンの中にメモ用紙が入っていてそこに、「あおい」って書いてあったから、何かしらの理由で育てられなくなったのだろうと判断されたの。だから本当の年齢も、名前も、誕生日も分からないんだ」
「そうなんだ。だいじょうぶ。今日からは、藍衣もルノーク家の一員だよ。従者になるって事はそういう事でもあるんだ!!」
「うん。ありがと」
明るく言う、リィーノに慰められた。本当にいい人だ。もしかしたらこの話を聞いて嫌がるかもしれないと、試したのだ。いきなり言われるには重い話も、リィーノは受け止めてくれた。
「さて、藍衣この世界に未練は無い?一度向こうに行くと、戻ってくることはほぼ不可能。転移結晶は希少だから」
「うーん、時間があるなら、掃除がしたい。五年間お世話になった孤児院にお別れ」
リィーノは、ここで待ってて。と言おうとして、リィーノに遮られた。
「じゃあ手伝うよ!!何すればいい?掃除はあんまりしないから、指示出して」
「ありがとう。じゃあ、まずは外掃除から」
本当にいい人だと思う。やっぱり、この人に使えられるのであればどんな環境下でも幸せな気がする。
そうして、約四時間をかけて孤児院内外をみっちり掃除した。いろいろなことを話しながら掃除をし、二人の仲は一気に縮まったのだった。
「藍衣、荷物それだけ?」
「うん。もともと、物が少ないんだ。」
孤児院では、物はたいてい支給品かクリスマスや誕生日などでしか手に入らない。そのため、物自体少ないのだ。さらに、学校の教科書や布団などといったものはかさばるうえ必要ない。服ぐらいは持っていってもいいと思ったが、リィーノが繊維が違うみたいだから、珍しいし「めんどくさいことになりかねないからやめた方がいい」と言われたので置いていく。すると、私の荷物はかつて一緒に置き去りにされたカバンのみになる。カバンの中は空っぽでたった一枚のメモ用紙が入っているのみだ。
「そう言えば、そのネックレスは外さないんだね」
どうせならと、自分の机やベットを綺麗に整えて行く私を見たリィーノが言った。
「うん。形見、っていうとちょっと違うんだけど・・・」
首から下げたこの雫形のロケットペンダントが動くたびにどこかに当たるのに、一向に外さないので気になったのだろう。
「これは、唯一覚えている孤児院に来る前の記憶なの」
私は、孤児院に置いて行かれたその日からしか記憶がない。お医者さんいわく逆行性健忘症か幼児期健忘。つまり、記憶喪失である可能性が高いのだそうだ。
なぜ、断言できないのかというと、「お母さんに、ロケットペンダントを貰う」という記憶が鮮明すぎるほど鮮明に覚えているから。
そして、その唯一の記憶の中でお母さんが言うの「このペンダントは中が開けられなくても、決して外してはだめ。このペンダントは藍衣を守るお守りなの。お風呂の時も寝る時も絶対に首にかけていなさい。他の人に渡すのもだめよ。むやみに見せないこと。いい?」
だから、私は外さないの。いかなる時も、ね?
まあ、正直なことを言うと「私を守るお守り」なんて信じていないんだけど、このペンダントを外してしまうと、この記憶も無くなる気がして。そしたら、止めるモノがなくなって、もしかしたら全ての記憶が無くなってしまうかもしれない。とか考えて、怖いの。自分が自分じゃなくなるようで。
「そうなんだ。じゃあ、大切にしなきゃだね!藍衣のお母さんなら、きっと美人なんだろうな~」
「なぜそうなる」
「だって~藍衣、激カワだし。その生みの親が別嬪さんでないはずがないっ!!!」
「そんな事無いし。リィーノのほうが美人だし」
私たちは、もうずっと前から一緒にいたような感覚だった。
ぱんっ
ふと、どこかで何かがはじけたような音がした。
「リィーノ、今の音なに?」
私がたずねると、リィーノはあわてた様子でローブの中からコインを出した。しかし、そのコインは真っ黒だった。
「ああぁ、タイムの魔法が解けた!!時間切れ。他の人が来ないうちに早く転移陣に乗って!!」
リィーノは、あわてて肩から掛けたカバンの中から拳大の水晶の様な結晶を取り出し床につきたてた。
すると、その水晶を中心に大きな光る円が生まれ、中に文字やら数字やらが刻まれていく。これがいわゆる魔法陣なのだろう。私がその円の中に入ると、リィーノはしっかりつかまるように言った。私は、リィーノに抱きつき、準備ができるのを待つ。
「行くよ。転移っ!!!」
「あれっ?なんかまぶしい。あおねえ、何してるの?」
私は、色羽ちゃんの声を最後に、大量の光に包まれて、
暗闇に落ちた。
現在、大幅改稿中です。今のところ、一話までしかつながっていません。ご注意ください。
なるべく早く、直し終えるつもりです。
気長に待っていただけると、ありがたいです。
ごめんなさい。