9:午後のトレーニングタイム
サブタイトルは「午後のティータイム」的な感じです。
これから、毎日の習慣になるわけですからあながち間違っていないと思います。
入学するには筆記と実技面接をほぼ満点でなければならないと発覚し衝撃を受けたその日の午後、私はとりあえず国軍訓練施設に来ていた。
しかし昨日と違い、今日はギルドカードを見せるだけで入れてもらう事が出来た。そんな事がちょっと嬉しかったりする。
「それじゃ、藍衣頑張ってね。5時には私も終わるはずだから、終わったら迎えに行くね」
「リィーノこそ頑張って。じゃ、」
といってもリィーノの所属する後衛魔法師団の訓練場は隣なので訓練中でもフェンスの向こうに見えるのだが。
「おう来たか、とりあえずあの端っこで集まっとるとこへ行け」
「はい」
この機械魔法師団副団長のフィラクス中尉の指示を受ける。木沢中尉は見た目に反して、精密な射撃をするそうだ。その命中率は団長をもしのぐという。
さて、てくてくと歩き端のほうで集まっていた一団に近づくと、中心に立っている人と目が合った。
水色の髪を七三分けにしたその人は男にしてはひょろっとしており、まとう雰囲気は悪役貴族のそれだった。
「きみが新入りかい?こんな時期に入ってくるからどんな実力者かと思いきや・・・」
男は、藍衣の全身を商品でも見るようにじっとりと見回し
「頭の足りない、ラッキーなおちびちゃんだったとはねぇ」
さげすむような眼と、片方だけがクイッと持ちあがった口。藍衣は悟った。
面倒な奴に見つかったぞ、と。
しかし、不幸か幸いか言い返す間もなく教官の登場となった。
「始めるぞ、全員整列!」
よく通る声の持ち主、エドワス訓練教官。10年以上、国軍新人訓練教官を務めておりもう年は50近いそうだが、そこらの10代よりもよっぽどパワフルである。
「おう、きみが新入り君かい?」
「はい。初めましてエドワス訓練教官殿。ルルーク・藍衣と申します。今日からよろしくお願いします」
「そうかい、よろしく。じゃ、訓練着が入ってるからあそこにある女性用更衣室で着替えてきな」
そう言って、迷彩柄のバックパックを渡された。
なんだか、温かい言葉に冷たさが感じられた。
女性用更衣室というものの、中に入るとまずロッカールームがあった。さらに奥に進むと更衣室の文字。更衣室の右には仮眠室、左にはシャワールームがあるようだ。
ちょっとした、宿である。
更衣室の棚の一つに受け取ったバックパックを下ろし、中を見てみる。
「うわー、軍隊ってかんじ」
中身は、すぐにでも遠征に行けるのではというような装備だった。
「ああ、これか」
奥のほうに畳まれた服を発見した。全部で4着。真っ黒なタイツと真っ黒なヒートテックもどき。迷彩柄のトップスに同じく迷彩のキュロット。サイズはぴったりだった。
中に黒のタイツとヒートテックを着、その上からノースリーブのダウンジャケットの様なトップスを羽織り、キュロットをはく。キュロットのベルトループに黒のベルト(中に入っていた)を通し、黒のショートブーツ(同じく、中に入っていた)を出した。
今まで着ていた物を中に入れ、ロッカールームのロッカーに放り込む。鍵をかけ、鍵はポケットにしまった。
座って、きつめにショートブーツのひもを縛る。
「できた」
訓練場にもどると、ほかの人はすでにランニングを始めていた。
「来たか、今日はほかのやつらと同じメニューだ。とりあえず、君の身体能力が知りたい。限界に挑んでは欲しいが、年が違うんだ、ついていけなくても仕方がない。倒れる前に休め」
「はい」
そして始まった訓練。確かにそれは、とてもハードで初めの一カ月で三分の一が辞めるといううわさにふさわしかった。
30分間走にはじまり、筋トレ(腹筋、背筋、スクワット、懸垂)➔ダッシュ➔体幹。走りこみ、柔軟。ここまでがワンセット。一人5セットがノルマだった。
毎日鍛えてはいたのだが、私は3セット目でダウンした。
続いて、その日のメニュー。木沢中尉が自ら考えた、実践的なトレーニングになる。
今日は、銃を持っての走りこみ。
初めは、整備された訓練場を銃を装備して走り、続いて構えて走る。最後に笛の音と同時に走りながら構える練習をした。
続いて、同じことを足場の悪い森の中で行う。孤児院にいたころ、裏の森でいつも遊んでいたからか、私は、町の様な整備されたところよりも森の様な所のほうが、動けることが分かった。
それでも、銃は割と重く、その時までにたまった疲労で歩くのがやっとだった。
とんっ、がさがさっ
「ふんっ」
がちゃ、ぱぁん、銃声が森に響く。
とん。私は、銃の反動を利用して大きく飛ぶ。が、
「お粗末だっと、ちょろちょろとすばしっこい」
いつの間にか後ろに回った教官。しかしそれは想定済みだ。捕まえようと差し出された手に、投擲用のナイフを突き立てる。さすがに、よけられたものの体勢を崩した。チャンス。
全力のけりを入れ、そのまま逃げる。
終了時間まで、5
ちっ、さすがに訓練教官をしているだけあってもう追いかけてきた。4
追いつかれる!!3
目の前には木、逃げ場は無い。2
だったら、私は全速力で木に突進し、
木の側面を蹴り、
空中へ躍り出た。1
とんっ。着地点は訓練教官の後ろ、予定だったが、先に後ろに回られていた。
しかし、0。
ぴぃー
すぐ後ろで笛が鳴った。
「はあ、はあ、はあ、おわったぁ、はあ、はあはあはあ」
フル稼働していた全身、特に足はかるく痙攣していて、力が入らずストンと地べたに座り込む。
息をするのがつらいと、肺が悲鳴を上げているようにきしんだ。
今日最後のトレーニングだと言われたのは30分前。トレーニング内容は、「鬼ごっこ」。
どうやら、ほかの新人訓練生は馴染みのようで、「うわー」とか「終わった」とか言っていた。
詳しく説明すると、ルールはこうだ。
1.鬼は訓練教官。
2.逃げる範囲は訓練場全て。
3.基本的には単独行動だが、チームの編成も許可する。
4.武器は使ってもよい。
5.同じく逃げている奴をおとしいれてもよい。
6.制限時間は30分。それまで、自由に逃げること。
7.30分以前に捕まったものはグランド中央にて、特別強化訓練を時間いっぱいまで受ける
8.終了は笛の合図を出す
「よく逃げ切ったな。藍衣、君を機械魔法師団新人訓練生としてみとめよう。心から歓迎するよ」
そうか、と気づく。さっき、冷たく感じたのはまだ認められていなかったからだ。今の声には冷たさがなく、優しさ、温かさで満ちていた。
認められたという、嬉しさがわきあがってくる。
「立てるか?」
教官が手を差し出してくれた。
「はい。ありがとうございます。」
私はその手を借りて、立ち上がった。
「さて、今日は何人残っているかな」
教官に連れられて、グランドに戻ると中央付近でへたり込む15・6の人と、グランドと森の境界線辺りで、座る5人がいた。
「今日は五人か、上々だな」
教官さんは、ぼそりとつぶやくと中央に向かって歩いて行った。
「整列」
「「「「「「「「はいっ!!!!」」」」」」」」
座り込んでいた人たちが、さっと二列になる。
私もそれにならい二列目の端につく。
「今日の生き残りを発表する。アージ、青葉、リア、カイト、証、ホート、そして、新入りの藍衣!!」
「「「「「「おおおおおおお」」」」」」
「今日は、いつもより多かったな。リア、証、初勝利おめでとう。他のやつも、後一カ月だ頑張れよ」
「「「「「「「はい!!」」」」」」」
「休め、気を付け、令」
「「「「「「「ありがとうございました」」」」」」」
「解散」
カーンカーンカーン
町の中心にそびえる時計塔の鐘が五時を知らせる。
重い体に鞭打って、荷物を置いた女性用更衣室に向かう。
がちゃ
中に入ると、割と多くの人がいることに驚く。でもまあ、よくよく考えたら午後の訓練は大体どこも五時で終わるそうだし、みんな着替えたいわけだから、自然とこうなるのか。と一人納得し、荷物を取りだした私は更衣室へと向かった。
そこは、ロッカールームよりも混んでいた。まあ、そうか。
奥の奥、端っこのほうにかろうじて空いている棚を見つけた。そこに荷物を下ろし、洗い物を入れるための袋と、新しいタオル、着替えを持って、シャワールームへ向かう。
シャワールームはとても広く、真ん中が脱衣所のようになっていて、壁に沿っていくつものシャワーが設置されている。互いの間は、簡単な仕切りで仕切られていて、出入り口も、真ん中あたりに木の板一枚の開放感あるつくりになっている。
「おおー」
ほわん、と温かい熱気や独特のにおいが温泉のような雰囲気で懐かしく、みんな薄着でいるので訓練中の殺伐とした感じや、張りつめた緊張が溶けて行くようだった。
私は早速、着ているものを脱ぎひとつのシャワーブースへと入って行った。
壁に掛けられたシャワーヘッド。置かれた万能洗剤。ただ、シャワーの水を出すボタンがなかった。
どうやって使うのだろう?とシャワーヘッドを見上げてみる。
まあ、いじっていれば分かるかも!!と、シャワーヘッドを手に取ろう、として気付いた。
重大な問題に・・・
うんん、と、とうっ、がちゃがちゃ・・・
「ふうふう、なかなか手ごわい」
そう、身長130センチ足らずの私には、大人が立って浴びる用のシャワーヘッドは高すぎたのだ!!!
もう一回、思いっきり背伸びをする。
と、ひょいっと後ろから手が伸びて、シャワーヘッドが手元に来る。
「ひゃあ」
驚いて、後ろを向くと、身長180以上はあるお姉さんが立っていた。この顔は見たことがある。たしか、
「アオイ、ちゃんだっけ?はい、どうぞ。戻すときはまた声かけて。隣にいるから」
そう言ってさっそうと出て行こうとする、お姉さん。
「あ、ありがとうございます!!えっと、リアさん、でしたよね?」
「あら、覚えていてくれたの。そう、私は紅麗リア。去年、国法を卒業した新人よ。これからよろしく」
やっぱり、機械で一緒で鬼ごっこで逃げ切った人の一人。逃げ切った人の中では、唯一の女性だったのでよく覚えている。
「はいっ!!こちらこそよろしくお願いします。私は、ルルーク・藍衣と言います。藍色の衣と書いて藍衣です」
「藍衣ちゃんね。東方の出身なのかな?私も、実家は東方なのよ。だから名字も紅に綺麗の麗。割と気に入っているけどね、王都だと目立って仕方ないわ」
無事シャワーを浴び終わった後も、少し話した。東方の文化がどことなく日本に似ていて、気になったのだ。詳しく聞くと、東隣にある、と言っても向こうが島国のため海を越えてだが、国の文化によるものらしい。その国、大和国にはぜひ行ってみたいと思う。
シャワールームを出ようとすると、後ろから何かが飛んできた。
「藍衣ぃぃ!!」
むぐふっ
まだ髪が乾いていないリィーノは黄金に輝くストレートロングを下ろしていた。言動にさえ気を付ければぐっと大人っぽい。
「あおい~まっててくれたっていいじゃーん!というか、髪の毛まだ乾いてないじゃない風邪ひいちゃうよ?」
言動にさえ気を付ければ・・・。
「はーい」
生返事を返しておいて、中央にある簡単な鏡の前に向かう。そこに置かれた、ドライヤーもどきを手にする。このドライヤーにもスイッチは無い。ただ、シャワー同様持ち手の部分に変な模様がある。ここに、体を触れさせると、
ブォー
風魔法と火魔法が発現する。
シャワーの場合は、火と水だ。この世界の物は大体こういう組み合わせで日用家電ができている。家電というより、家魔道具と言ったところだが。
それから数時間後、夕食の席。
「藍衣ちゃん、あの鬼ごっこで逃げ切ったんだって?すごいじゃない。早くもうわさになっていたわよ」
レースさんが、にやりと笑った。嫌な予感しかしない。
「機械に現れた‘‘ 妖精姫 ’’って」
よ、ヨ ウ セ イ ヒ メ・・・。
そのあと、私はどうやって部屋へ戻ったか記憶にない。
S)はいはーい!!今回もまた登場しなかった「サン先生」とぉ、
R)いつも通り登場したリィーノでーす!!
S)うん、今回は多くの新しい名前が出たね。
R)確かに。まあ、そのうちの3・4人くらいは本当に名前だけだけどね。
S)それでも、3話以降名前もあがんなくなった人なんて忘れられそうじゃない?
R)ああー(同情)あ、でももっとかわいそうな人知ってます!!
S)えっ!!だれだれ?
(ぎ、ぎくぅっ)(著
R)それは、私のお父さん!!!
読者の皆さま)え?いたんだ。
R)そうなんです。いたのです!!
S)社交界の王子様と呼び声の高い、ルノーク家当主「ルノーク・一樹」まだ出てなかったんだ。
ん?藍衣ちゃんて、たしかルノーク家住み込みだよね。まだ会ってないの?
一樹も子供好きだから、仕事があっても会いに帰ってきそうだけど・・・。
(ひや~)え、あ、うん。あはははは。という訳で10話もよろしくお願いします!!
それではっ!! (著
R・S)おい、逃げるなぁ(キレ)




