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飛び蹴り女の恋物語  作者: 花奈よりこ
33/44

大人になるということ


「おいっ。春姫っ」




ビク。


谷崎の声に、私はパッと顔を上げた。


「え?な、なに……?」


「おいおい、どうした?さっきから呼んでるのにボーッとして。なんかあったのか?」


ダンボールから新商品を取り出している谷崎が、私の顔を見て言った。


「え……ううん。なんでもない。ごめん、ちょっとボーッとしてた」


私は気を引き締め直して仕事を再開した。





蘭太郎があのマザコン男の妹とつき合うと言ったあの日から、数日が経った。


もちろん、蘭太郎からの連絡はなく。


もう、私から蘭太郎に言えることはなにもなかった。


なんだか、大切にしていた宝物がひとつなくなってしまったような、そんな気持ちだった。


店長が出かけて1人になった私は、ぼんやりと雑貨達を眺めていた。




カラン、カラン。


「いらっしゃいませーーーー」


営業スマイルで入り口を見ると。


「やほー」


ピースサインのユリが笑顔で立っていた。




「ーーーどんな暗い顔してレジに立ってるのかなーと思って心配して来てみたけど。大丈夫そうだね」


ユリが私の顔を覗き込んで笑う。


「まぁね……」


と、言いつつも。


ユリの顔を見たら、なんだか一気に力が抜けちゃって。


私は小さくため息をついた。


「あれ。大丈夫……ではないみたいだね、こりゃ。

谷崎さんは?」


「さっき出て行ったとこ」


「そっか。ーーーっていうか、春姫。まだ蘭ちゃんのこと考えて暗くなってんの?」


ユリがカウンターに寄りかかりながら私を見る。


「………なんかさ。蘭太郎、ホントにそれでよかったのかな……と思って」


「そりゃね。春姫が心配する気持ちはよくわかるよ。

私だって、あの女と蘭ちゃんがつき合うってことに関しては正直全然納得いってないし。えーってカンジだけどさ。でも……蘭ちゃんが自分で決めたことだからさ。春姫も思い詰めるのやめなよ。蘭ちゃんには蘭ちゃんの気持ちっていうか、考え方があるんだからさ」


「うん……」


そうなんだけど………。


「自分のせいでーーーなんてもう考えちゃダメだよ。春姫は、蘭ちゃんにもあの女にも正々堂々ちゃんと自分の気持ち言ったんだから。それでもあの2人はつき合い出したんだからさ。しばらくそっと見守ろうよ。

それに、春姫がそんな顔してたら蘭ちゃんだって悲しむよ。あの子は、本気で春姫に幸せになってもらいたいって思ってるんだから。谷崎さんとうまくいってほしいって、真剣に願ってるんだから」


「うん……」


蘭太郎が、私の幸せを願ってくれていることは痛いほどわかってる。


だから余計に苦しいんだ。


「それに。谷崎さんだって心配するよ?春姫が元気なかったら。谷崎さんのこと元気にしてあげたいんでしょ?笑わせてあげたいんでしょ?おりゃおりゃー」


ユリが笑いながら私のほっぺたをぶにぶにつまんだ。


「もぉー」


思わず私も笑ってしまった。


「……ありがとう、ユリ。そうだよね……。蘭太郎だって、もう立派な大人なんだもんね。私が考えたってどうしようもないんだよね……」


「うん。まぁ、ずっと一緒にやってきたあんた達だけどさ。やっぱ男と女だから。いつかはお互い別のパートナーができて。それぞれの道を歩いて行く時が来るんだよ。その時がやってきたのかもね。ちょっと突然だったけどさ」



ユリの言うとおりかもしれない。


いつも一緒に仲良く同じ道を歩いてきた私達だったけど、ずっと一緒にはいられない。


でも、もし私も蘭太郎のことを幼なじみとしてではなく、1人の男の人として見ていたら。


好きだったらーーーーー。


きっとまた違う未来が待っていて。


私と蘭太郎は、これからもずっと一緒に同じ道を歩いていたのかもしれない。


でも、私の気持ちはそうはなれなかった。


これから先もそれは変わらないと思う。


いくら私が男女の性別を超えた親友として大切に想っていたとしても、相手もそうでなければこの関係は成り立たないんだ。


私と蘭太郎は、やっぱり男と女なんだ。



「……そうだね。それぞれの道を歩き出す時がきたのかもしれないね」


手を繋いではしゃいで笑っている、幼い頃の蘭太郎と私の姿が胸の中に蘇る。


あったかいあったかい、優しい記憶。


懐かしいな……。


あれからずいぶん時間が経って。


私達、大人になったんだなぁ………。



「そうだよ。だから、春姫もそろそろ谷崎さんとのこと、真剣に考えてみたら?今の春姫の素直な気持ち、打ち明けちゃえ」


ユリが私の肩をポンッと叩いた。


「……うん。でも、今の私じゃ……なんかまだちょっと自信がない。谷崎と不釣り合いな気がする……。楓さんと私、違い過ぎるからーーー。だから、ちょっとでも近づけるようにがんばる」


「まだそんなこと言ってるぅー。谷崎さんだってあんたのこと好きだって言ってるのに」


「いや、でもさぁ……。私、今までまともに恋愛したことないし。高校の時、一度だけ告白されてつき合ったけど、わずか1ヶ月であっさりフラれちゃったし……。たぶん、つき合ってみたら『あれ?なんか違うぞ?』的なさ。そんなカンジで、スーッと冷められちゃったんだと思うんだ。告白されてつき合ったのに、速攻フラれるってけっこうショックじゃない?」


「うーん。まぁね。で、そのこと今でも引きずってんの?」


「引きずってるってわけじゃないけど。ちょっと胸が痛んだ想い出はある。なんかさ、親しくなると距離を置かれてダメになっちゃうっていうか。今まで好きになった人達もそう。友達でいる分にはすごく仲良くていいカンジだったのに、ちょっとその先に進もうとした途端、なんかうまくいかなくなる。近づいたと思うと遠くなる……っていうか、相手が離れていっちゃうっていうか……」


「ーーーなるほどね。それで谷崎さんとのこともちょっと慎重になってるわけね。楓さんの存在もあるあら、尚のこと躊躇しちゃうのか」


「…。なんていうか。もし仮につき合ったとして。仮にだよ?それで前みたく、また『なんか違った……』って思われてフラれたりして変にきまずくなるくらいなら、今のままでいいかな……って。思ってしまう……んだよね」


だんだんと小さくなる私の声。


「ちょっとちょっとー。そんなことないから!」


むにゅっ。


ユリが私のほっぺたを両手でむぎゅっと押さえた。


「春姫はもっと自分に自信持っていいんだからねっ。私も2人のこと応援してるからさ。楽しく一緒にお店がんばって、そのうちハッピーな報告聞かせてよね。楽しみに待ってるから」


ニカッと笑うユリ。


そんなユリにつられて、私も笑顔でうなずく。


「ーーーうん」




谷崎が戻ってきたら、明るく話しかけよう。


仕事も気合い入れてがんばろう。


アイツのためにも、もっとももっとお客さんが増えるように。


お客さんも喜んでくれるように。


もっともっと楽しくてカワイイお店になるように。


私は大きく深呼吸して、張り切って背筋を伸ばした。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「ありがとうございましたーーーーー」


私の元気な声が店内に響き渡る。


あれから1週間。


蘭太郎のことは頭の片隅で気になりつつも、なんとか気持ちを切り替え、私は今まで以上に仕事に力を注いだ。


あえて忙しくしていることで、深く考え込んでしまう時間を作らないようにした。


そうしているうちに、気持ちもだいぶ落ち着いてきていつもの元気を取り戻せてきたように思う。


かと言って、完全に割り切れたかというとウソになる。


でも、気持ちのどこかで線を引けたような気はする。


蘭太郎が決めたことなんだよなーーー。


私がいろいろ考えたって、しょうがないんだよなーーー・・・って。



相変わら谷崎は忙しい。


一緒にいる時間も少ない。


だけど、その少しの時間がとても楽しくて。


嬉しくてーーー。


日を追うごとにそんな感情が膨らんでいく。


さりげなく、いつも優しく笑いかけてくれる谷崎。


でも、たまにふざけてプロレス技を仕掛けてきたり、私のことを子ども扱いして頭をグシャグシャなでてきたりもする。


それでつい私も男勝りに反撃に出ちゃったりするから、『やまとなでしこ』『やまとなでしこ』……と自分に言い聞かすんだ。


だけど、なかなかそんなおしとやかにできるわけもなく、そんなやりとりを楽しんでる反面、胸がチクンとする。


無意識のうちに、谷崎が心から好きだった楓さんの存在がふと頭に浮かぶんだ。


どんな容姿の人だったのかは知らないけど、きっとすごく綺麗な人だったに違いない。


そして、そんな女性らしい素敵な楓さんとまるで正反対の自分を比較してしまうんだ。


きっと、谷崎だってホントは楓さんのような……外見も中身も女の子らしい人が好きなんだと思う。


ううん……楓さんのような、ではなくて。


楓さんそのものが、谷崎の胸の中にいるんだよね。



私も……少しでも楓さんのような存在になりたい。


少しでも近づきたい。


そう思っていた私だったけど。



やっぱり、楓さんにかなわないーーーーー。



そう思い知らされるある出来事が起きたんだ。



それは、ある日の夕方のこと。


谷崎と私が、2人で一緒に新商品のポップや書きや陳列などの作業をしている時。



ジーンズの後ろのポケットに入れていた、谷崎のケータイが鳴ったんだーーーーーー。









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