仕事もない、お金もない。
ピロロロー。
ガラステーブルの上のケータイが鳴った。
ふかふかのソファに寝転んでいた私は、飛び起きてケータイを取った。
むむっ!
この番号……この前面接を受けたあの会社だ。
面接の結果だっ。
私はゴクンとツバを飲み込んでから大きく深呼吸した。
そして、緊張しながら電話に出た。
「も、もしもしっ」
『もしもし。わたくし、株式会社Sの村上と申しますが……。鳥越春姫さんでいらっしゃいますか?」
「は、はいっ。そうですっ」
なんか受かってそうな気がしないっ?
今度こそ……今度こそっ!
『先日は、当社に面接に来ていただいて誠にありがとうございました』
「は、はいっ!」
『その面接の結果なんですが。残念ながら、今回は他の方に決まりましたので……。そういうわけで、誠に申し訳ないんですが……』
「え」
『それでは失礼いたします』
プツ。
ツーツーツー。
ガ……。
ガーーーーン。
また落ちた……。
これで三度目だ……。
ガックシ。
私は、うなだれながらソファに倒れこんだ。
雑貨屋をクビになってから2週間。
蘭太郎と図書館に行ったあの2日後から、蘭太郎のマンションに転がり込んだ私。
『なるべく早いとこ新しい仕事見つけてここを出る』と約束したからには、のんびりしていられないと、毎日アルバイト情報誌とにらっめこで面接にも積極的に行ってがんばってるのに……。
たった今も断られたよ。
一体なにがダメなわけ?
私はこんなに一生懸命なのにっ。
「……………」
ゴソゴソ。
私は、そばに置いてあるバッグの中からピンクの財布を取り出した。
パカッと開けて、ガラステーブルの上で逆さまにする。
チャリンチャリン……。
寂しい音を立てて、数枚の小銭がテーブルの上に転がった。
げっ。
私の全財産、たったこれだけっ⁉︎
あ、ああ……目眩が……。
私はフラフラとよろけながら、再びソファに倒れこんだ。
ああ………どうしよう。
仕事も決まらないし、お金もないし……。
でも、実家にだけは帰りたくないっ。
今このプー太郎状態で帰ったもんなら、尚更とばかりに無理矢理お見合いさせられるに決まってるもんっ。
ううう、なんか妙に切ない……。
蘭太郎、早く帰ってこないかなぁ。
クッションに顔を埋めていると、ガチャッとドアの開く音。
そして。
「あれ、どうしたの?春姫ちゃん。具合でも悪いの?」
待ちわびていた蘭太郎の声。
「うう……。蘭太郎ーーーーーっ」
ガバッ。
私はクッションをはねのけてソファから飛び降りると、仕事から帰ってきたスーツ姿の蘭太郎の首に抱きついた。
「ーーーーーそっか。またダメだったんだ。でも、まぁしょうがないよ。春姫ちゃん、ちゃんとがんばって仕事探して面接受けてるんだし。そのうちきっといいとこ受かるよ」
ぐずってメソメソしている私の頭を、蘭太郎がポンポンとなでてくれた。
「それよりお腹すいたでしょ?ほら、デパ地下で春姫ちゃんの好きな唐揚げ弁当買ってきたよ。食べよ」
蘭太郎……。
うううっ……なんて優しいの。
「蘭太郎、ありがとうっ」
ああ……。
優しくて、経済力があって、おまけにちょー美男子で。
いっそ、蘭太郎と結婚してしまおうかしら……。
はっ。
いかんいかん、思わず変なことを考えてしまったわ。
仕事も決まらないし、お金もないしで、最近は面接以外出かけたりもしてないから。
蘭太郎のマンションは快適なんだけど、さすがにちょっと気分が落ち気味かも……。
まぁ、自分が悪いんだけどさ……。
でも………。
「おいしーーーー!やっぱここの唐揚げ弁当は最高だねっ」
美味しいものを食べると、たちまち元気になってしまう単純な私なのでした。
「よかった、春姫ちゃんが元気になって。今日はなんか甘い物を食べたい気分で、ケーキも買ってきたんだ。後で食べようね」
「ケーキまで買ってきてくれたのっ?嬉しいー」
でも………。
「………ごめんね、蘭太郎。私、お金がないもんだから、ご飯まで食べさせてもらっちゃって。仕事が決まりしだいすぐに出て行くから。もちろん、至れり尽くせりしてくれたお礼もちゃんと忘れずにするからね」
幼なじみで気心知れてる蘭太郎だけど、イヤな顔ひとつしないで私の面倒見てくれる蘭太郎には、感謝の気持ちでいっぱいだよ。
まぁ、面倒受けても受からないって状態だし、見合いの件もあって実家にも帰れないっていうのもあるから、しょうがないと諦めてくれてるのかもしれないけど。
それでも、しょうがないとは言え、さすがに2回目ともなったら、蘭太郎にもイヤがられるかなーとか思ってたんだけど。
「そんなこと気にしなくていいよ。もちろん、春姫ちゃんも困るだろうから仕事は早く決まればいいけど。春姫ちゃんがいてくれて、僕も楽しいし。ご飯も2人で食べると美味しいよね」
と、笑顔で言ってくれる蘭太郎。
「蘭太郎……。あんたってホントいいヤツだね。しわくちゃのじいさんばあさんになっても仲良くしようね!」
「うんっ。ずっと仲良し。あ、ちなみに今日のケーキは苺のタルトだよ」
「苺のタルト!わーーーーい」
そんなこんなで。
私は蘭太郎の家で居候暮らしを続けていたんだけど。
それから数日後。
5つ目の面倒を受けに行ったその帰り道で、予期せぬ出来事が私を待ち受けていたんだ。