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だから私はパンツをのぞく

作者: 鮎坂カズヤ

 

 6月20日、木曜日、晴れ。

 今日も空は青い。


 いつも思うけど、ズボンのベルトを締め直す空は少しだけかわいい顔になる。

 私たちしかいないんだから恥ずかしがることなんてないのに。

 そう言ったら、ブスッとした顔で「バカか」って言われた。

 彼女にバカって言うな。バカ空。




 6月21日、金曜日、曇り。

 今日も空は青い。


 昼休みに空と二人でどこに行ってるのか、サヤカに問い詰められた。

 でも教えない。いくら親友でもそれだけはダメ。

 秘密は内緒にしてるから秘密なんだ。

 誰かに明かしたらもうそれは秘密じゃない。だからダメ。

 その代わり、二人で何をしてるのかを教えてあげたら「それ、何プレイよ?」なんて変なこと言われた。

 なんでだろ。




 6月22日、土曜日、晴れ。

 今日も空は青い。


 昼休みのプール場の隣にあるベンチ。

 あんまり人が来ない、私と空の二人だけの秘密の場所。

 そこで空のパンツをのぞくのが私の日課。

 ズボンのベルトを外して、チャックを下ろす。

 今日も空のパンツは青だ。

 初めは嫌がっていた空だけど、最近は抵抗なく見せてくれるようになった。

 「お前のそういうとこ、もう慣れた」って言われた。

 そういうとこってどういうとこだろ。

 聞いてみたけど、パンツも空も何も答えてくれなかった。




 6月23日、日曜日、晴れ。

 今日も空は青い。


 空と付き合ってちょうど3ヶ月。

 私は今日も空のパンツをのぞく。

 青のトランクス。

 最近の空のお気に入りのパンツ。

 駅前の高ノ江デパートのバーゲンで5枚セット300円で売られていたパンツ。

 どんなに競争率が激しかったか、空のお母さんはいつも自慢気に語ってくれる。

 話の内容がいつもころころ変わるけど「血のにじむような努力」のフレーズだけは欠かさない。

 空のお母さんは血が好きみたい。

 ホントはきっとパンツも赤を買いたかったはず。

 だけど、青でよかった。

 空は青色が好きだから。

 毎日同じ色のパンツをはく空が、私は好きだから。




 6月24日、月曜日、雨。

 今日も空は青い。


 雨が降ってて秘密の場所に行けなかったから、日課は放課後、空の部屋で。

 空のお母さんはまたいつもの話をしてくれる。

 今日の話は「思い切り足を踏まれたけど、それでもパンツは死守した」という話。

 前に聞いた時は逆に足を踏んでる側だったのに。

 空のお母さんの話はころころ変わっておもしろい。

 だけど空はちっともおもしろくなさそう。

 なんでだろ。

 私がパンツを見ている間も、空はそっぽを向いていて、何か考えごとしているみたいだった。




 6月25日、火曜日、雨。

 今日も空は青い。


 今日も空の部屋で日課。

 だけど空の様子が少し変。

 ボーっとしてると思ってたら、パンツを見ている私を急に抱きしめて「いいよな」って言いながら耳にキスしてきた。

 私だってバカじゃない。空が何を求めてるのかくらいわかる。

 だけど、いつも通りの言葉で断った。

 別にセックスが嫌いなわけでも怖いわけでもない。興味はある。

 でも、そういう気分じゃない。

 空と初めてセックスするのは、そういう気分になった時にしたい。

 空が私と同じところに居るって感じた時。

 そう思える時にしたい。




 6月26日、水曜日、晴れ。

 今日の空は灰色だった。


 久しぶりに晴れたから、二人だけの秘密の場所で、いつも通り空のパンツをのぞく。

 空はなんだかブスッとした顔。

 ベルトを外す時はいつもこんな顔だから、全然気にしなかったけど。

 ズボンの下には、初めて見るパンツがあった。

 灰色のボクサーパンツ。

 なんだかちょっとだけ大人っぽいパンツ。

 空がいきなり大人になってしまったような気がした。

 おもしろくない。

 私と同じところに居てほしいのに。

 おもしろくないから、空をその場に残して一人でさっさと教室へ戻った。

 ズボンを抑えながら慌てて追ってきた空は、ちょっとだけおもしろかった。




 6月27日、木曜日、曇り。

 今日も空は灰色。


 いつもの青のトランクスはどうしたのか聞いたら、変な顔された。

 前に空のうちにいった時みたいな、何か考え事してるような顔。

 何か悩み事でもあるのかな。

 こんな時くらい頼ってくれればいいのに。

 彼氏が何かに悩んでること、パンツを見てからでしか気付けないようなバカな彼女だからダメなのかな。

 それともこの前、空とのセックスを拒んだから怒ってるのかな。

 何を聞いても空は黙ったまま答えてくれない。

 空は一人で悩んで、一人で考えて、一人で解決するつもりなのかもしれない。

 急に、このまま空が大人になってしまうような気がした。

 勝手に先に行かないでよ、空。

 私はまだ大人になれないのに。

 私はまだ境目に居るのに。

 いきなり泣き出した私を、灰色の空がなぐさめてくれた。

 空が余計に大人っぽく見えて、私はまた泣いた。




 6月28日、金曜日、曇り。

 昨日のことでちょっと気まずかったから、今日は空と会ってない。


 三年前、私の身体は突然大人になってしまった。

 お母さんは赤飯を炊いて、お父さんは妙に照れてて、弟は白いごはんが食べたいと駄々をこねてて。

 いきなり大人になったと言われても、まるで現実感がなかった。

 何か変わったわけじゃないのに。

 私は私のままなのに。

 大人になった記念だと言って、お母さんは私に生理用のパンツをくれた。

 ぎゅうぎゅうにきつくて、あまり可愛くないパンツ。

 いきなり大人になってしまった身体と、まだ大人じゃない私の心。

 自分が大人なのか子どもなのか、三年経った今でもわからない。

 きっと私は今、境目に居るんだ。

 子どもと大人を分ける塀の中、その境目に。

 お母さんからもらった生理パンツが、私の居る場所が境目なんだと、何かの印みたいに示してる気がした。

 だから私はパンツをのぞく。

 空がどこに居るのか、私と同じ場所に居るのかを確かめるために。

 だけど、最近ちょっとだけその考えに自信が持てない。

 ちょっと前まで空は子どもだと思ってたけど、最近の空はどこか違う気がする。

 今の空がどちらに居るのか、私にはわからない。

 だけど、私はそれ以外に確かめ方を知らないから。

 だからきっと、明日も私は空のパンツをのぞく。

 きっとのぞく。




 6月29日、土曜日、曇り。

 今日の空はノーパンだった。


 土曜日で学校は休みだから、空の家に遊びに行った。

 いつも通りにパンツをのぞこうとベルトに手をかけると、空が慌てた様子で私の手を止めてきた。

 「今日だけはのぞきは禁止な」なんて意味わかんないことを言ってくる。

 昨日もパンツを見てないのに今日もだなんて。

 私は犬じゃない。

 おあずけって言われて、素直に待つことなんてできない。

 空がテレビを見てる隙に横から素早くチャックを下ろす。

 毎日してる作業だからか、ほとんど一瞬で成功。

 空に止められる前にチャックの隙間からパンツをのぞこうとしたら、アレと目があった。

 一瞬、茶色と黒のしましまパンツかと思った。

 慌ててチャックを閉じる空に、なんでノーパンなのか、ちょっと不機嫌気味に聞いてみた。

 私が見たいのはアレじゃなくて、パンツなのに。

 「わからなくなった」と空は言った。

 全然気付かなかったけど、最近の空はお母さんに対してイライラしてたみたい。

 いつまでも子ども扱いされることが、空には不満だった。

 その当て付けが、あの灰色のボクサーパンツ。

 空のお母さんが苦労して買ったあの青のトランクスは、今はタンスの奥に封印されてるんだとか。

 でも、空はわからなくなったみたい。

 その行動自体が逆に子どもっぽい気がして、でも素直に元のパンツをはくのは悔しくて、それでもうどうすればいいのかわかんなくなって、それでノーパン。

 「だから今日は絶対見るなって言ったのに」とそっぽ向く空。

 そんな空の横顔を見ていたら、急に身体中に電気が走ったような気がした。

 口から音がもれそうなくらいに心臓がドキドキしてるのがわかる。

 何か言いたいのに、ぴったりな言葉が見つからない。

 ずっと探していたものが見つかったのに、それを伝えたいのに。

 この気持ちをどう言えばいいかわからなかったから、それでも何かを伝えなくちゃいけない気がして焦ってたから。

 私はいろんなことをすっ飛ばして、空の顔を両手で正面に持ってきて、顔をぶつけるくらいの勢いで、キスをした。

 その時、空に何て言ったのか覚えてない。

 わけもわかんないくらい、興奮していた。




 6月30日、月曜日、曇り。

 今日の空もノーパンだった。


 空が私の家に遊びに来た。

 今日の空はどこかソワソワしてて落ち着かない様子。

 私の部屋でしばらく二人で話した後、いつもの通り空のパンツをのぞくと、またノーパン。そしてムダに元気。

 空がやる気まんまんなのがイヤってくらいにわかる。

 でも、今日はそんな気分じゃない。

 今日の空は昨日と同じノーパンだけど、昨日と同じ空じゃない。

 今日の空は子どもだ。境目じゃない。

 ノーパンだと私がセックスさせてくれるんだって勘違いしてるのかもしれない。

 そんな空じゃイヤだ。

 昨日と同じ空じゃなきゃ、私はドキドキしない。

 断った後も空は必死に迫ってきたけど、それでも絶対ムリヤリにはしてこない。

 空はいつも私に優しい。だから好き。

 ドキドキする空も、子どもな空も、私は好き。




 7月1日、月曜日、晴れ。

 今日の空は、久しぶりに青だった。


 久しぶりに見る青のトランクスは、前に見た時よりもキレイな青に感じた。

 空が晴れているせいかもしれない。

 三日ぶりにパンツをのぞけて上機嫌な私に、空はまた迫ってきた。

 パンツのことは嬉しいけど、それとこれとは別の話。

 いつもの一言で断ると、空はブスッとした顔で「お前って気まぐれだよな」なんて言ってきた。

 知らなかった。私は気まぐれだったんだ。

 空がそんな風に私を見ていたなんて初めて知った。

 だから思った。

 私たちは恋人同士なのに、まだまだ知らないことの方が多いんだって。

 すごく当たり前のことだけど、私は空が好きだからってそれだけの理由で、空のことを全部知ってる気になってたんだ。

 もしかしたら、パンツは私に何も教えてくれないのかもしれない。

 私の居る場所は教えてくれても、空のことは何にも教えてくれないのかもしれない。

 だけど。

 だけど、それを知るきっかけをくれたのは、間違いなくパンツだから。

 だから、もうちょっとだけ続けてみようって思う。

 これって気まぐれじゃないよね。

 意固地って言うんだ。 




 7月2日、火曜日、雨。

 今日も空は青い。


 突然の大雨。

 今日の放課後は私と空とサヤカとサヤカの彼氏と四人で遊びに行く予定だったのに。

 昨日はあんなに晴れてたくせに。気まぐれなのは空の方だ。

 みんなで近くにあった空の家に避難。

 何時間かしてから雨が少しやんできたのをきっかけにサヤカたちは帰っていってしまった。

 長い時間話したし、さすがにもう外に遊びに行く気にはなれなかったみたい。

 雨のせいで今日の予定が台無し。

 しょうがないから空のパンツをのぞく。

 昨日と同じ青のパンツ。

 お母さんとのことはどうなったのか、パンツをのぞきながら聞いてみる。

 どうでもよくなったと空は言った。

 どうあがいても自分がお母さんの子どもだってことは変えようがないからって。

 そう思ったら、なんかもうどうでもよくなったんだって。

 パンツから目を離して、空の顔を見る。

 その顔を見た瞬間、前と同じ感じがした。

 今の空は境目に居る。

 私と同じ場所に居る。

 背中から誰かに叩かれてるみたいに、身体が揺れるくらいに、ドキドキした。

 初めての時と同じように、私の方から空を押し倒す。

 空はちょっとおどろいていたけど、すぐに私を求めてきた。

 セックスしてる時のことは、前と同じようにあんまり覚えてない。

 だけど、あの光景だけは忘れられない。

 セックスが終わった後、二人でタオルケットにくるまって寝てたら、それが目に入った。

 空のパンツ。

 脱ぎ捨てられて、ベッドのそばにポツンと置かれたパンツ。

 それを見た瞬間、とてもいけないことをしたような気分になった。

 誰に対して、何に対してなのかはわかんないけど。

 空の家から帰る時も、あの光景が頭の中でグルグル回る。

 もう雨は上がっていたのに、私の心にだけ雨が振り始めた。




 7月3日、水曜日、雨。

 今日はパンツを見てない。


 大人になるってどういうことだろ。

 私たちの心はいつまで子どもなんだろ。

 身体だけ先に大人になってしまって、心だけが置いてけぼり。

 脱ぎ捨てられた空のパンツ。

 絡み合うのは身体だけで。

 子どものまんまの心はいつになったら身体に追いつけるんだろ。

 昨日からずっと、そんなことを考えてる。

 今のわたしは大人じゃない。

 でも、空はどうなんだろ。

 たまに大人に感じる時はあるけど、空は基本的には子どもだと思う。そう、思ってた。

 今はその考えに自信がない。

 青いパンツの空も、灰色のパンツの空も、ノーパンの空も。

 どの空にも、私の知らない空が居る。

 空が私のことを気まぐれだと思ってたみたいに。

 私が空の悩みに気付けなかったみたいに。

 私たちはどうなったら大人なんだろ。

 恋人ができたら?

 キスをしたら?

 それともセックスしたら?

 それなら、今の私は大人なの?

 誰に聞かなくてもわかる。私は何にも変わってない。

 私はどうして子どものままなんだろ。

 心はいつになったら身体に追いつけるんだろ。

 脱ぎ捨てられたパンツが、頭の中から離れない。




 7月4日、木曜日、晴れ。

 今日の日記は、多分、今までで一番長くなると思う。


 昼休み、いつもの秘密の場所。

 いつもの日課をしてこない私に戸惑ってる様子の空が、何か悩みでもあるのかって聞いてきた。

 悩みはあるけど、どう言えばいいのかわからない。

 私は頭が悪いから、伝えたい言葉がすぐに出てこないんだ。

 空はこんなに晴れているのに、私の心は曇ったままだ。

 空なら晴らせてくれるかもしれない。

 お母さんとのことで、空は自分が子どもだということをイヤってくらい意識したはず。

 そんな空なら、何かヒントをくれるかもしれない。

 昼休みの時間を全部使って、頭に浮かんだ少ない言葉を必死に使って、私は空に全部打ち明けた。

 パンツをのぞいていた理由も、どうしたら大人になれるのかも、脱ぎ捨てられたパンツはどうすればいいのかも。

 授業の始まりのベルが鳴ってしまっても、空はちゃんと私の話を全部聞いてくれた。最後の質問だけは変な顔しながら聞いてたけど。

 空はずっとだまってた。

 私の話が終わっても、授業の終わりのベルが鳴っても、辺りがうす暗くなってきても、空はずっとだまったままだった。

 思っていることは全部言った。あとは空の答えを待つだけ。

 空なら何かヒントをくれるって信じてたから、余計なことは言わずに、ただだまって答えを待った。

 ベンチの上で、二人して無言のまま、どれくらい時間が経ったのか、覚えてない。

 プールから人の声が聞こえてきて、もう部活が始まる時間だって気付いてから、私たちはようやく立ち上がった。

 二人で並んで帰る間も、やっぱり空はだまったまま。

 今の空が子どもなのか大人なのか境目なのか、私には全然わからなかった。

 私が子どもだからわからないのかな。

 それとも、空が私よりも大人になってしまったからかな。

 そんな不安で心が押しつぶされそうになる。

 何か言ってよ。

 安心させてよ。

 見捨てないで。

 置いてかないで。

 そんな不安でいっぱいで泣きそうになってたら、隣を歩いてた空が急に立ち止まって、言った。


 「境目なんて本当にあんのかな?」


 空の言葉は、心の中の曇りどころか、私の頭の中まで真っ白にしてくれた。

 そんなこと、今まで一度だって考えたこともなかった。

 『大人』と『子ども』の間にはとっても大きくて高い塀があって、その塀の中にほんの少しだけ開いた空間があるんだって、そこが境目なんだって、私はそんなイメージを持っていたんだ。

 だけど空はまったく違うことを考えていたみたい。

 空がイメージしたのは一本の道。

 長くて、でこぼこしてて、下り坂や上り坂、たまに落とし穴とかもあったりする、一本の道。

 そこには大人だとか子どもだとかの境目なんかなくて、先を見ても、振り返っても、果てなく続く道しかなくて。

 多分、自分たちの居る場所は、歩き始めた地点をぎりぎり振り返られる場所なんじゃないか。

 目の前に続く果てない道を見て不安を覚えて。

 だから自分の居場所を知りたがる。

 あの始まりの場所から自分がどこまで来たのかを、確認したいんじゃないか。

 「俺はそう思う」と最後に付け加えて、空の話は終わった。

 話が終わっても、私の頭は相変わらず真っ白のままだった。

 塀なんかない? 境目なんて、本当はない?

 大人と子どもをわける境界線なんて、どこにもないって言うの?


 「じゃあ、私は今どこに居るの?」


 そう聞いたら、空はちょっと困った顔をしたけど、すぐに私の手をとって「俺の隣に居るだろ?」と、笑顔でそう言った。

 その瞬間、心臓がうるさいくらいにドキドキしてきたのがわかった。

 空が私と同じ境目に居るんだと感じた時と、同じドキドキ。

 そう。そうだったんだ。

 私はずっと、空が私と同じ場所に来てくれるのを待っていたけれど。

 それは私の勘違いだった。

 空は最初からずっと、私の隣に居たんだ。

 そう思ったら、また涙が込み上げてきて。

 不安はもうどこかに行ってしまったのに、涙は止まってくれなかった。



 そのまま空の家に遊びに行くと、空のお母さんが新しい戦利品の自慢話をしてくれた。

 駅前の高ノ江デパートで、またパンツのバーゲンをやっていたみたい。

 長い話の後に自慢げに見せてくれたのは、真っ赤なブリーフだった。

 空のお母さんはやっぱり赤が好きみたい。

 笑顔のお母さんとは逆に、とてもイヤそうな顔の空。

 でも、なんだかんだ言っても空はお母さんのことが大好きだから、文句を言いながらも、きっとそのパンツをはくんだ。

 赤いパンツをはいてる空を想像して、私は笑う。

 空の居場所はわかったけれど。

 パンツは空の居場所を教えてはくれなかったけれど。

 それでもやっぱり、だからこそ、私は空のパンツをのぞく。

 いつか私が大人になって、その日課をしなくなるまで、きっと。

 境目なんてどこにもない。

 私たちはいつの間にか生まれてきて、いつの間にか思春期を迎えて、いつの間にか大人になっていくんだって、今はそう思える。

 パンツは脱ぎ捨てられてなんかいなかったんだ。

 私たちは裸のままじゃいられないから。

 パンツを脱いだままじゃいられないから。

 だからきっといつか、心と身体は一緒になれる。

 そう思ったらもう、ガマンできなかった。

 空のお母さんがまだ部屋に居るけど気にしない。

 私は空のパンツをのぞく。

 お母さんの前だから恥ずかしかったのか、空の顔は真っ赤だったけど、ズボンの下にはいつも通り、空の好きな色のパンツがあった。

 やっぱり今日も、空は青い。



  

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