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恋よりさきのその先で  作者: 坂水 雨木
第3章 これまでとこれからと
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82. お買い物 in RIMINEY STORE

「ありがとうございました」

「ごちそうさまですー」


 言いつつ振り返ればぽつんと手持ち無沙汰な郁弥さんが一人。


「あら、おかえりなさい」

「ただいま…お会計は済ませましたか…」


 どこか気まずそうな面持ち。


「ええ、済ませたわ。行きましょ?」

「…はい」


 恋人の手を引いて…はないけどお店を出る。ドアを開けて一歩足を踏み出せば…。


「「う…」」


 …暑い。


「…普通に忘れてたわ。今日暑かったのね」


 今日というか最近ずっとだけど。


「うん。…ねえ日結花ちゃん。お会計のことだけど」

「なに?」

「…どうして払ってくれたの?」


 暑い中の質問とは…そんなに気になるのかしら。


「そんなのあなたが払い過ぎだからよ。覚えてる?4月のデートからあたしがいくら払ってきたのか」


 デートはそれなりにしてきた。お花見したり買い物したり和食レストラン行ったり。

 どれもすっごく楽しかった。素敵な思い出。


「…いくらだろう?」


 ぽけっとした顔しても無駄よ。あたしがどれだけお金使ってきたかなんてあたしが一番よくわかってるんだから。


「ほぼゼロよほぼゼロ」


 プレゼントとかは別として、食事は全部郁弥さん持ち。ちょっとした雑貨もさらっと買ってくれた。

 服は一着くらいしか買ってないし、それはあたしが払ってるわ。さすがに自分用の服はデートとか関係なく自分で買わなくちゃ。あと、交通費も別よ。必要経費だもの。


「あれ、そうだった?」


 目をぱちぱちと瞬かせるキュートな郁弥さん。

 きゅんときた。その勢いであたしにウインクしてくれても…そうじゃない。お金のことよ。


「そうなのっ。別に支払いくらいいいわ。でもね、あれはだめよ。貸切とかするのはアウト」


 あのときだけならまだ許すくらいの気持ちではあったけれど、さすがにこの数か月あたしが払わなすぎるのはだめ。


「う…でも、あのときはいいって言ってくれなかった?」

「そうね。撤回するわ」

「うぐ…」


 弱々しい反論を撃滅してあげた。郁弥さんじゃあたしには勝てないわよ。主に関係性とか相性とか全部合わせてね。


「最初はカフェくらいあたしが払うわよーみたいな話だったでしょ?」

「…はい」

「で、それからあたしがカフェで支払ったことある?」

「…ないです」

「そうよね?ていうか今日だってカフェでご飯食べたじゃない。なのに郁弥さんあたしに払わせる気なかったでしょ」

「…おっしゃる通りで」

「はいなにか言いたいことある?」

「…ええと…ごちそうさまでした」

「ん、よろしい」


 しょんぼり郁弥さんを可愛い可愛いしながら足を進める。お金の話はあたしの完全勝利で終わった。


「これからはあたしも支払いに参加するから、覚悟しておきなさい」

「わかったよ。…はぁ」

「ため息なんてついて、どうかしたの?」


 問いかけたところあたしの目をちら見して口を開く。


「いや、デート相手に支払い任せるってこんな気持ちなんだーって。…嬉しいのと申し訳ないのとがないまぜで複雑だよ。いつも日結花ちゃんにこんな思いさせてたなんて…それこそ申し訳なくなってきてさ…」


 …んん…もう、ばか。そんな嬉しいこと言わないでよ…あぁ、やばい。ほんと嬉しい。


「ばか。あたしのことばかり考えてないで次どうするか考えなきゃだめでしょ?」

「はは、そうだね。今度からそれなりにお金使うときはちゃんと言うよ。支払いは…ふふ、その場の流れに任せるとしようかな」


 柔らかく微笑む恋人とは裏腹に、あたしの内は気持ちがあふれそうになっていて大変。

 …自分の気持ちが複雑なのより、あたしがどんな気持ちでいたのかを一番に考えてくれるなんて……んぅ、わかってたけど郁弥さんってずるいわ。


「…ええ、そうね。それでいいわ。旅行とか行くときもちゃんと払うから。大丈夫よ」

「…僕のしてた話と違う気がするんだけど?」

「そう?同じじゃない?」


 同じよね?


「一歩譲って同じにするとして…」

「近いわね。一歩ってすぐそこよ?」

「それはまあ…支払いのことだしそこまで離れてないかなぁって」

「じゃあ同じでもいいじゃないの…」

「とにかくね、同じにするとしても旅行は行かないからね」


 ふーん…。


「いいわ。その決闘、買った!」

「ええ!?突然すぎないっ!?」

「ふん、あたしに勝てると思ってるなら残念ね。その油断、あとで後悔しても知らないから」

「油断って…別に油断なんてして」

「負けたら一緒にお泊り旅行だから」

「よーし!絶対勝つからねー!!」

「…ふぅ」

「…はぁ」


 …ちょっと声大きくしたら疲れた。


「ねえ郁弥さん。目的地まだ?」

「もうすぐだよ」

「もうすぐって聞いてもう1時間以上歩いてるわよ」

「…まだお店出てから5分も経ってないからね。それにほら、もう着いたよ」

「ん?」


 手を引かれて…はないけど、一緒に歩いて着いたのは大きな通りの途中の建物。

 普通にファッションとかの建物っぽいけど…。


「とりあえず入ろうか?暑いからね」

「ええ、それは賛成」


 再び手を引かれて…はないけど、暑さから逃げるように建物へ足を踏み入れる。冷たい空気が心地いい。


「ここに何しにきたの?服でも買うの?」


 レディース多いし郁弥さんの目的にしては適してないような…ま、まさか。


「女装っ!?」

「いやいや!全然違うからね!?なにをどうやったらそうなるのかな…」

「あ、郁弥さん汗拭いてあげる」

「え?べつにい…いのに…」


 自然な流れで顔やら首やらを拭ってあげる。語尾が薄れて頬が朱に染まった。

 照れ照れする郁弥さんほど愛おしいものはないと思う。今日新しく好きなところを見つけられたわ。


「はーい終わり」

「…ありがとう」


 ぶいっと目をそらした。可愛い。このまま抱きしめたくなる。…いえ、抱きしめてもいいかもしれないわ。


「そ、それじゃあ行こう?下の階だからっ」

「あ、うん」


 …あぶないあぶない。ついついぎゅっとしちゃうところだった。セーフ。


「郁弥さん郁弥さん。結局なにがあるの?」

「ふふ、すぐわかるから待ってて」


 くすりと大人な笑みを浮かべる。

 …ほんの数十秒前に見た照れ弥さんとは思えないわね。まだちょっと顔赤いわよ。いつものあたしみたいにごまかしてるのよねー。わかるわよ、その気持ち。


「…んー……え?」


 …驚いた。普通に驚いて声出ちゃった。


「こんなところにもあったんだ…」

「うん。前に歩いてたら偶然見つけてね」

「へー…そのときはなにしにきてたの?」

「あのとき?あのときはナポリで買い物に来てたよ。そのついでで歩き回ってたら見つけたって感じだね」

「ふーん…そういえばナポリできたんだったわね」


 小町駅前に新しく作ったって聞いた。ナポリは家具とか小物とかの専門店で、冷感シーツみたいな素敵商品を販売している。

 あたしも寝具とか買うときはよく行くわ。


「そうそう。僕の住んでるところの近くにはなくてね。そこそこの距離にできてくれて助かったよ」

「ふふ、それなら今日も寄ってく?」

「そうだねー、時間あったら一緒に見て回ろうか?」

「いいわ。あたしが一緒に見てあげる」

「あはは、ありがとう」


 雑談をしながら歩いて、郁弥さんの言っていた目的地である『RIMINEY Store』に入る。


「ハニーさんハニーさん」

「なんだいダーリ…いやいや、せめて逆だから、それ」

「そんなことはどうでもいいわ。ほら見なさい。あたしがいるわよ」


 久しぶりのRIMINEYストアー。相変わらずRIMINEYのグッズがてんこ盛りで、流れている音楽はかの有名な『まほうひめリルシャのぼうけん』の曲。しかもしかも、入ってすぐのところにある季節ものコーナーにはリルシャのグッズがたくさん置かれていた。


「ん?あぁ…ふふ、日結花ちゃんというよりリルシャ姫だけど、さすがにすごいね。劇場版がもうすぐ公開されるだけのことはあるかな」

「んふふ、やっぱ自分のキャラをこうやって見るのはいいわねー」


 ついつい口角が上がっちゃう。RIMINEYストアーなんて来るの久しぶりだけど、これだけでも来てよかったわ。郁弥さんありがと。大好き。頬にキスとかしてあげても…う、無理。ちょっと考えたら顔熱くなってきたっ。


「ふふ、日結花ちゃん。マグカップだよ。リルシャだけで三種類もあるなんてすご…ん?どうかした?」

「い、いえ。なんでもないわ。なんでもないから普通にお話しててちょうだい」

「え、うん…ええと、マグカップとかどうかなぁって」


 …はぁ、一人で動揺して変な返ししちゃった。ちょっと失敗。


「買いたいの?」

「うーん、そういうわけじゃないけど…。結構種類出てるんだね」

「ん、そうね。シーズン3もちょっと前までやってて、もう映画でしょ?グッズの方も色々売り出してるのよ」

「へー、日結花ちゃんって結構こういうグッズとかも持ってたりするの?」


 置いてあったメモ帳を手に取って問いかけてくる。ふんわりした笑みと相まってRIMINEYストアーにマッチしている。


「そこそこね。あたしも参加した作品だと色々もらったりもしてるし、特にメイン張ってるのはもらうものも多いわ。自分で買うのは…あんまりしないわね」


 正直使い道とかないし。一通りものがうちに揃っているから新しいのはいらないのよ。欲しいとすれば…数があっても困らないタオルとか服とか。あとおしゃれアイテムの鞄とか化粧品とか?他には…日焼け止めとか冷感グッズとかの季節ものかしら。


「そうなんだ…んーどうしようかな」


 むぅっと眉を寄せたかと思えば、困った顔で笑顔を見せる。

 …っう、不意打ちっ。久々にあたしが一番好きな顔してくれた。もうなんていうかほんとに…きゅんきゅんする。


「な、なに?なにか悩み事?」


 くぅ…上手く口が回らない。さすがあたしが一番好きな表情なだけはある。破壊力がすごすぎるわ。


「ううん。…なにかしらプレゼントでもしようかなと思ったんだけどね。もう持ってるならプレゼントもなにもないかなってさ」


 困り笑顔のまますごく嬉しいことを言ってくれた。あたしが予想もしていなかった言葉で、ドキドキに混じって嬉しさがこみ上げてくる。


「…もう。プレゼントだなんて…全然誕生日でもないじゃない」

「あ、あはは。RIMINEYストアまで来たからどうせならと思ってね」

「…ありがと。でも、プレゼントはいらないわ。買うならお揃いのものにしましょ?」


 あたしとしては、郁弥さんの気持ちだけでもう十分以上に満たされてはいる。ただ、どうせなら二人でお揃いのものを買いたいと思う。

 だって、デートだもの。恋人らしくお揃いにしたいでしょ?


「え、それでいいの?」

「…うん。あなたと一緒ならそれでいいわ」

「っ」


 なんとなく、静かに甘え気味で返した。全然そんなつもりはなくて、普段通りのつもりだったのに自然としおらしい声音になってしまっていた。

 …んぅ、なんか変な感じ。


「そ、そっか…」


 郁弥さんの返事も変な感じで、顔を見たらびっくり。頬を赤くしたキュートな顔が目に映る。


「どうかしたの?」

「え?ううん…ちょっと日結花ちゃんが可愛かっただけだから大丈夫だよ」

「っべ、べつに可愛くなんて…あるけど」

「ふふ、そこは肯定するんだ」

「だ、だって郁弥さんが褒めるから…そ、それよりお揃いのものでいいの?だめなの?どっち?」

「いいよ。僕の方こそお願いしたいぐらい」


 そんな嬉し恥ずかしいやり取りをしながら、店内を歩き回る。



「バッグかぁ…」

「ん、トートバッグね。郁弥さんは…使ってるところ見たことないわね」

「うん。一応持ってるけど使わないね。たまにエコバッグとして使うぐらい?かな」

「へー…買う?」

「うーん…遠慮します」


「Tシャツねぇ…」

「おー、割とシンプルなんだね」

「ええ。薄い青と白で…あたしはいいかな」

「僕も服は…買わないでおくよ」

「え、なんで?」

「いや…たぶん着ないと思うから…」


「あらこれ…」

「ん?…ストラップ?」

「みたいね。ほら、リルシャもあるわよ」

「ほんとだ。…この服見たことないな。新作?」

「ふふ、劇場版のやつね。公式で発表はされてるし、HPホームページでも載ってるわよ?」

「あー、そうなんだ。その辺全然見てなかったから知らなかったよ」

「大丈夫。一緒に映画見てあげるから」

「あはは、ありがとう」


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