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恋よりさきのその先で  作者: 坂水 雨木
幕間 DJCD vol.4 石川観光、金沢・加賀山中編
53/123

44. 温玉ソフトクリーム

「美術に対する知見の無さを痛感したところで、次に行くわ」

「ずいぶんと正直に言うわね…」


 お互い微妙な表情で会話をする。

 どちらかが美術とかに詳しかったらよかったのにね…。


「事実だもの…さ、次よ次。気を取り直して次行きましょ」

「そう、ね」



山野草庭園さんやそうていえんだって」

「なんというか…兼六園のようなところね」

「それは言っちゃだめでしょ。ほら、滝とかあるじゃない」

「…これくらいのなら兼六園にもあったでしょう」

「小川もあるわよ?こことか」

「それこそ兼六園にあったわよ」

「ええと…あっちの高い木とか」

「あぁ…あれは兼六園になかったわね。竹、ではないのかしら」

「うん。針葉樹かな。たぶん。低いところに葉っぱがないから見晴らしがいいわ」

「…日結花。ここで少し写真を撮る?」

「あ、いいわねそれ。高凪さん写真撮ってください」

「わかりました」


「方丈庵でしょこれ!」

「あなたが行きたいと言っていたところ?」

「うん。ほら、書いてある。"抹茶処まっちゃどころだって"」

「本当みたいね。後で寄るなら今はいい?」

「ええ。進みましょ」



「え、なにあれ?」

「ん?どれのこと?」

「ほら、あのソフトクリーム」


 さくさくと進む中、最初の下がったテンションも持ち直してきた。その流れでやってきたのがお菓子の館付近。看板にソフトクリームの写真があり、"温玉ソフト"と名前が書かれていた。


「あぁ、温玉ソフトのこと…懐かしいわね」


 なんのことかわかって懐かしげに目を細めて微笑む。あたしには馴染みがなくても、知宵にとっては違うらしい。以前食べたことがある様子。


「その温玉ソフト?知ってたの?」

「ええ。この辺りでは有名よ。私も何度か食べたことがあるわ。結構美味しいのよ。せっかくだわ、食べていきましょう」

「あ、うん…いいですか?」


 乗り気な知宵を横に、後ろへ目を向ければこくりと頷く高凪さん。そしてお金を管理する史藤さんがやってきた。時間も問題ないらしく、みんなで温玉ソフトを購入。

 ちゃっかり自分たちのぶんも買うところがうちのラジオらしい。


「ソフトクリームっていったらコーンとかクッキー生地のやつかと思ってたわ」

「ふふ、コーンじゃ温泉卵は乗せられないでしょう?」

「それはそうなんだけど…ほんとにそのまんまなのね」


 容器はプラスチックの透明なもの。下にはコーンフレークが敷き詰められていて、その上にバニラのソフトクリームがある。これに温泉卵が当たり前のように添えられていて…食べ方がわからないわ。


「これ、どうやって食べるの?」

「少しアイスを食べてから温泉卵を崩したらいいと思うわよ」

「そっか。ありがと」


 教えてくれた知宵は既に食べ進めていた。目の前には囲炉裏いろりと温玉ソフト。今は火がついていないけれど、これが寒い季節だったら囲炉裏にも火が入れられるのかもしれない。そんな囲炉裏から目をそらして、器と同じプラスチックでできたスプーンを口に運ぶ。


「ソフトクリームは普通ね」

「温泉卵は食べた?」

「ちょっと待って、今食べるから」


 その温泉卵を割ってソフトクリームと一緒にすくい取る。すくった感触は普通の温泉卵より固い。黄身がとろけるようなこともなく、簡単にすくい取れた。


「あむ」


 うん…うん……うん?


「どうかしら?」

「んー…美味しいわ。美味しいんだけど…」


 同じく食事をしながら問いかけてきた知宵に答える。


「変な感じ。温泉卵がこれ…凍ってる?」

「ええ。食感珍しいでしょう?」

「うん。初めて食べた感じ。ちょっと固いのにふにゅっとしてて不思議」


 固いのに柔らかくて、こんな不思議な食感になるんだ。味は…そんなにしない?軽く卵の風味がある程度かな。甘味がマイルドになった程度かも。


「美味しいわ、これ」

「ふふ、日結花ならそう言うと思っていたわ。リスナーのみなさんも石川に来たら、是非温玉ソフトを食べてみてください」

「うん。これはあたしもおすすめ。不思議な感じなので味わってみるといいかもしれません」


 温泉卵がこんな新食感を生み出すなんて予想外。あっさり完食しちゃった。ほんとに美味しかったわ。


「ふぅ…美味しいもの食べたし次行く?」

「いいわよ。まだまだ見るところはあるのだし、次はどこ?」

「ええと、次は…」


 席を立つ前にパンフで先を確認する。次に行くとしたら、向かい側の…なにこれ、読めない。


「さてお二人とも、腹ごしらえも済ませたところでクエスチョン」

「誰ですかその真似…あと腹ごしらえって言い方古いですよ」

「高凪さん、その話し方似合っていませんよ」


 二人でパンフレットとにらめっこしていたら唐突に始まった質問コーナー。そのコーナーを始めた高凪さんは、あたしたちの返事に苦笑いを浮かべる。


「僕のことはいいですから。それより問題です」

「はいはいどうぞ」

「今度は何ですか?」


 この質問コーナーは3回目。兼六園、近江町市場、それからここ。無駄にネタは豊富よね。面倒くさいからやらなくてもいいと思うのだけど…。


「今回は漢字クイズです」

「む…」

「なるほど…」


 なんてタイムリーな。ついさっき次に行くところの読み方がわからなかったというのに…これは難しそう。


「さっそく行きましょう。まずはこれです」


 そう言って取り出したのは白いフリップ。書いてある文字は"九谷焼"。

 ちょうどあたしが読めなかったやつを入れてくるなんて…これはほんとに負けるかも。


「今回はお二人が一度ずつの解答でお願いします。問題は複数ありますから」

「ふむ…日結花。先にいいわよ」

「えー…あたしわかんないんだけど。じゃあ"ここのややき"で…」


 なんとなく…合ってない気がする。でも他の読み方思いつかないのよ。


「ふふ、私は"くたにやき"でお願いします」

「はい青美ちゃん正解。正解は九谷焼(くたにやきです」

「むー、知宵知ってたでしょ、これ」

「ええ。以前聞いたことがあったわ」


 さらりと告げる。

 よく考えたらこのクイズってあたしに対して圧倒的に不利なのよね。地元のことなら知宵が知ってるに決まってるし、あたしが読めるわけないのよ。


「はいはい!あたしが不利過ぎると思うのでハンデください!」

「それは考えてありますから大丈夫ですよ」


 あたしの抗議も予想してくれていたみたい。ハンデってどんなものかしら。知宵とあたしで漢字の難易度が違うとか?


「それでは次です」


 取り出したのは複数枚のフリップ。今度は単語も一つじゃなくて、複数あるらしい。


「今回はさっき咲澄ちゃんから言われたようにハンデの問題です。咲澄ちゃんはいいですが、青美ちゃんは間違えたら減点ですので頑張ってください」

「私に対するハンデが大きすぎませんか?」

「難しいとはいえ地元の問題も多いので、これくらいがちょうどいいかと」

「…わかりました。とりあえず答えますからフリップ全部出してください」


 フリップカードは複数枚を繋ぎ合わせて大きな紙にしていた。開くとクイズボードのような形になる。漢字は左上から順に"片山津""湯治""大聖寺"橋立""動橋"。

 無駄に多いわね…。


「それじゃあ日結花。前からせーので答えていくわよ」

「うん」


 そっか。紙に答え書いたりするわけでもないから、一緒に答えないとクイズにならないのよね。さっきの問題は知宵が答え知ってたから良かっただけで…よし。今度はあたしも大半はわかるから大丈夫。


「「せーの…"かたやまづ"」」


 そのまま答えていって、"ゆとう""だいしょうじ""まであっさり通過。


「「"はしだて"」」

「残念ですがお二人とも不正解です」

「なっ…」

「え、うそ?」


 予想外の結果が出てきた。はしだてだと思ったのに…ここで間違えるなんて。


「正解は"橋立はしたて"です」

橋立はしたてかー。知らなかったわ。知宵も知らなかったんでしょ?この問題」

「ええ。初めて聞いたわ。高凪さん、橋立ってなんですか?」


 たしかに気になる。あたしが考えたのは天橋立あまのはしだてからだったし、だからこそはしだてだと思ったのよ。実際は橋立はしたてだし、もしかしてどっかの地名だったりする?


「加賀市の町名ですね。橋立町というそうです。江戸時代には北前船きたまえぶねが活躍して、港として栄えていたみたいですよ」

「…はぁ、私が知るわけないじゃないですか」

「残念。クイズですから」

「それで?今ポイントどうなってます?」


 面倒くさそうにため息をつく知宵を他所に、高凪さんへ質問をする。ここまでで正解数は知宵が3つであたしが2つ。

 知宵の減点が1点なら今同点なんだけど…。


「青美ちゃん1点減点なので同点ですかね。今回はクイズすべて合わせて勝った方がポイント獲得ですので、まだまだどちらが勝つかはわかりませんよ」


 そういう方式か。減点も1点なのね。これならあたしにも勝ち目がありそう。このクイズで最終的にあたしが勝てば、兼六園で知宵が取った1点に並べるわ。近江町市場のやつはノーカウントだもの。


「それでは次の答えをどうぞ」

「日結花、もう思いついた?」

「んー…うん、大丈夫」

「そう…じゃあいくわよ」


 考える時間はそこそこあったから答えはある。正しいかどうかは別として。


「"どうきょう"」

「"うごくはし"」


 ここにきて初めて答えが分かれた。あたしが言った"どうきょう"に対して、知宵は…。


「…なんて?」

「…"うごくはし"よ]

「ぷっ」

「な、なに笑っているのよ!」

「ご、ごめん。わ、わざとじゃないのよ?」


 だって笑っちゃうってそんなの。顔赤くしてるってことはそれなりに自覚あるんでしょ。動く橋って…なによそれ。意味わかんない。はー面白いっ。


「あ、あなたの答えだって絶対間違っているわ」

「…まあ、うん。それはそうかも。どうですか?そこのところは」


 ふん、っとSEでも付きそうな知宵から高凪さんに目を移す。

 実際、あたしの答えも間違っているとは思う。ただ、面白解答ではないから知宵のよりまだ望みありよ。高凪さんのことだからそう簡単な答えじゃないわよね、きっと。


「どちらも不正解です」

「やっぱり」

「…正解はなんですか?」

動橋いぶりはしです」

「…わからなくて当然だと思うのだけれど」

「さすがに難しいわねー」


 難しい。動橋いぶりはしは想像もつかなかった。

 どう読んだら動くって漢字をいぶるなんて読むのよ。考えた人おかしいんじゃない?


「…はぁ、次行きましょう次。わからないものは仕方ないわ。さっさと次やりましょう。日結花、早く終わらせて観光に戻るわよ」

「おっけー。高凪さん次お願い」

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