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恋よりさきのその先で  作者: 坂水 雨木
第2章 足りないものと成長と
30/123

22. 恋愛相談①

 



 新年。

 1/1の朝6時。この時間にどうして外出しているかというと、それは当然のごとく初詣。

 寒い。眠い。おかしい。こんな早起きする予定はなかったはずなのに…はりきったママのせいで予定が狂った。せっかくの新年なのよ?普通もっと寝ようとするでしょ?もちろんあたしも寝たかった。


「日結花、参拝に行くわよ。5円玉は持った?」


 昨日は結構早く寝た。23時くらいには寝てたと思う。本当は年越しまで起きているつもりだったのに、話し疲れてすぐ寝ちゃった。長々と話していたからもっと遅い時間だと思ったけれど、案外早かったわ。話し始めが早かったからよね。きっと。


「そこそこ混んでるから並ばないといけないわ。早く済ませるわよ。ほら、早く」


 本当にすぐ眠って、きっちり初夢も見た。色々と恥ずかしい夢ではあったけれど、今のあたしの心情にふさわしいものであったと思う。

 おのれ郁弥さんめ。新年から妹扱いするとは許すまじ。今度会ったらお兄ちゃん扱いしてやるわ。

 嬉し恥ずかしい初夢を見て起こされて悶えて、パパの運転でうちの近くの神社までやってきた。


「日結花聞いてる?」

「聞いてるわよ。5円玉でしょ?ちゃんと持ってるわ」


 隣で眉を寄せて尋ねてくる女性。名前は青美知宵。朝からテンション高く元気いっぱいな姿を見せてくれた。ちなみに、あたしは元気なし。

 同じように話していたというのに、知宵の元気さは謎すぎる。どんな体力してるのよ。


「ならいいわ。行きましょう?」

「はいはい」


 どうして知宵がいるかというと、それは昨日、去年までさかのぼることになる―――。



 ◇



「大掃除も終わったし!お仕事ももうないし!最高ね!」

「うふふ、日結花。楽しそうね」

「ふふ、まあね。なにせあたし、これから一週間くらいは自由だもん」

「そうねぇ…私も似たようなものかしら」


 時刻は14時。やることをすべて終え、リビングのソファーでだらけながらママと話をする。ママはなにやら手帳とにらめっこをしていて、まだお仕事かなにかがあるのかもしれない。ちなみにパパは本がどうとか言って、今年買った本の整理をしている。終わらない終わらないと嘆いていた。

 可哀想。頑張って。応援してるわ。


「ん、ママまだなにかあるの?」

「いいえ、そうじゃないの…少し、知宵ちゃんのことを考えていたのよ」

「知宵の?」


 どうして知宵の名前が出たのか一言聞き返す。動かしたくない身体をのろのろ動かして、ママのいる方へ顔を向けた。


「ええ。ほら、うちに泊まってもらうって話したじゃない」

「うん」

「私も正道さんも知宵ちゃんには日結花のことを聞いておきたくて、そうすると予定が合わせずらくなるのよ」

「…パパも知宵と話すことあるの?」

「うふ、そうみたいね。日結花がお友達連れてくるなんてそうそうなかったから、楽しみなのよ。きっと」

「…むぅ」


 たしかに友達連れてきたりなんてほとんどしなかったし、お泊まりなんてしたことないけど…べつにそこまでしなくたって…知宵だってわざわざ話すようなことなんてないわよ。たぶん。


「それで、来年になってからも合わせるのは難しいと思うの」

「…ママ、そんなに忙しくなるの?」

「ふふ、私だけじゃないでしょ?私と正道さん。日結花と知宵ちゃん。4人ぶんになるんだもの」

「そう、ね…」


 …個人的にはなんとかなりそうな気はする。だって、土日としても土曜日の夕方から日曜日のお昼まで空いていればいいんでしょ?それくらいなら…。


「来年始めでもいいけど、知宵ちゃん実家に帰っているでしょう?」

「え、うん。遅くても1/2には帰るって言ってた」

「あら、まだ戻ってないのね…そう」


 全部終えて落ち着いた頃にのんびり帰りたいとかなんとか。長期で休み取ったから時間はあるみたい。

 ママはあたしの言葉に考える部分でもあったのか、視線を落として物思いにふけっている。


「それなら日結花。今日呼んでみない?」

「…今日?」

「ええ。どうかしら?」

「…聞くだけ聞いてみる」


 名案とでも言いたげに話すママから目をそらして携帯をいじる。

 たぶん無理。今日って、突然過ぎよ。何一つ知宵に伝えてないのに、いきなり来ない?って…予定空いてないでしょ。この忙しい年末。それも最終日に。


 ―――♪


 携帯で電話をかける。部屋の整理してるにしても、知宵の家なら着信にはすぐ気づくと思う。

 お手洗いやお風呂はない。この時間にお風呂は普通しないわよ……あの子、昼風呂なんて習慣なかったわよね。

 …ともかく、電話くらい通じるはず。


『…はい、もしもし』


 ほら通じた…に、しても固い声してるわね。声的に知宵だとは思うけど…一応きちんとしておこうかな。


「私、咲澄日結花と申しますが、青美知宵さんの携帯電話でよろしかったでしょうか?」

『なによ、日結花だったの』

「あ、知宵?」

『ええ。何か用?』


 うん…なんだろ。この子ちょっと不機嫌?もしかして…。


「ええと…あんた寝起きだったりする?」

『……』


 そうかと思って聞いてみたら当たり。無言が返ってきた。

 …悪いことしたわね。


「あー、ごめんね?起こしちゃったみたいで」

『…これくらいいいわよ。それより何か用事があったんでしょう?』

「うん…知宵さ。今日ひま?」

『ええ。今日は大丈夫』

「そう?じゃあさ。うち来ない?泊まりにだけど…」

『いいわ。行く』

「うん…うん?」


 え、今行くって言った?


「…来るの?ていうか来れるの?」

『行くわ。時間なら大丈夫。新幹線は明日だから』

「いや明日って…泊まりなんて無理じゃない」

『新幹線の時間は昼過ぎなのよ?余裕だわ』

「うーん…ほんとに来る?」

『行く』


 食い気味に声が返ってくる。

 そんなに来たいのか。知宵がいいならいいけどさ。…当日にお泊まり決めるってなかなかしないと思うわよ。


「ちょっとママに聞いてみるわね」

『ええ、お願い』

「ママ、知宵が…あれ?」


 振り返って椅子に座るママに聞こうとしたら、そこには誰もいない。


「こっちよー」

「あ、そこにいたんだ」


 どこかと思ったらキッチンにいた。柱の陰から顔だけ出して返事をくれる。カウンターキッチンだし、そっちにはいないと思ったのに、ちょうど見えない位置にいただけらしい。あの位置でいうと、おそらく冷蔵庫の前。


「なにやってたの?」

「知宵ちゃん来るんでしょ?夕飯の準備しないとだめじゃない?」

「あ、うん。もう来るの決定なんだ」

「うふふ、知宵ちゃんが大丈夫ならちょうどいいでしょう?歓迎するって伝えておいてね?」

「わかったー」


 予想外にノリノリ。

 夕飯の時間まで4時間くらいはあるのに…どんな手の込んだもの作るつもりなのよ。とりあえず、歓迎のこと知宵に伝えておかなきゃ。


「知宵?」

『ええ。どうだった?』

「ママが歓迎するって」

『そう…よかったわ。それで、あなたはどこに住んでいるの?』

「ん?教えてなかった?咲見岡駅さきみおかえきの近くよ」

『少し待って。調べるわ』

「ん」


 そういえば、知宵の家はうちからかなり近かった覚えがある。だいたい40分かからないくらい。快速とかタイミング合うと30分くらいで行けたはず。


『…日結花』

「はいはい、なに?」

『…あなた、こんな近いところに住んでいたのね』

「うん。結構近いのよね。あたしとあんたが住んでるとこ」


 歩き含めればもうちょっと伸びるかも。あたしの方だけでも駅まで10分以上はかかるし。


『いいわね。これくらいの距離なら16時前には着けそうよ』

「そう?明日の準備とか終わってるの?」

『当然』

「あ、だからお昼寝してたのね」

『…それはいいでしょう。着く前に連絡するから、そうしたら迎えにきてちょうだい』

「おっけー、じゃ、あとでね」

『ええ。また後で』


 あっさり決まって電話を切った。16時前というと、余裕をもって1時間ちょい。それまでにやることは…特にないかな。大掃除のおかげで部屋は綺麗なまま。色々と作業するために服も動きやすい格好にしてあったし…メイクは別にいいわ。どうせマスクしていくもの。


「…ふわぁ」


 よし、ひと眠りしよう。

 ママに知宵が来そうな時間を伝え、目覚ましを1時間後にセット。そのままソファーで横になって目を閉じる。あくびが出たこともあるのか、すぐに意識が落ちた。



「…ねえ知宵」

「なに?」

「…なにしてるの?」

「携帯」


 短く答えた知宵はベッドで仰向けに寝ころび、顔の上で携帯をいじっている。あたしはというと、椅子に座ってぼーっとゆらゆら。ベッドを占領されているため座るところがここしかない。


「…誰の?」

「あなたの」


 特に含むものもない真面目な声色。勝手に人のものをいじっているというのに遠慮がまったく感じられない。


「いや…冷静に考えてだめでしょ。プライバシーの侵害ってやつよ、それ」


 見られて困るものもないからそのまま放置してはいる。それにしたって、携帯見られて何も言わない人はいないと思う。

 精神衛生上よろしくないもの。


「日結花」

「はいなに?」

「この"いくやさん"って人誰?」

「わー!ばか!!何見てんのよあんた!!」


 急いで椅子の向きを変えて携帯を奪い取った。

 見せちゃいけないものあったわね!よろしくない!ほんとによろしくないわ!


「ふーん…あなた面白いことになってそうね」

「…なにその嫌な笑い。やめてよ」


 にやりと口角を上げて楽しそうに笑う。反してあたしは意気消沈。全然楽しくない。むしろ嫌な予感しかしない。


「その"いくやさん"って人、どんな関係なの?」

「…その前に、人のネミリ勝手に見るとかマナー違反よ」

「あら、私は気にしないわよ?ほら」

「む…」


 軽やかに笑って携帯を渡してきた。ドヤ顔の知宵にムッとしつつもネミリを開いてログを見る。


「…お仕事の会話しかしてないじゃない」

「なっ…べ、べつにいいでしょそんなの」


 特徴的なことが何一つなく、苦し紛れの一言が存外効いたらしい。家族、あたし、他数人の友人らしき会話のみで、他はすべて事務連絡。悲しいことに知宵の交流関係の狭さを改めて認識してしまった。


「私はもういいでしょう。そんな程度のことよ。それよりあなたの方が大事だわ」

「…うーん」


 実際、話そうと思ってたことだしいいっちゃいいのよね。ただ、どうやって話を切り出していけばいいか…。


「…まあいっか。知宵だし」

「…何か失礼な言い草に聞こえるけれど、いいわ。早く話しなさい」

「あーうん。その人はね。簡単にいうと…一言で…」


 え、あれ…なんだろう。友達…じゃちょっと距離遠いし、相談役…はもう超えた気がするし、恋人…はなってないししっくりこないし、愛しい人…はないない!そんな関係じゃないわ!他にだと…好きな人、なのかなぁ…総括的に?色々含めるとそうなる、のよ…ね?たぶん。あたし自身イマイチピンと来ないからなんともいえないけど…。


「たぶん、好きな人」

「ふーん。そう……んん!?」


 自信なさげな呟きに、予想以上の驚きを返してきた。一瞬理解が追い付かなかったらしい。

 …やっぱり好きな人であってるわね。言葉に出したらぴたっとはまったわ。


「え、いや、あなた…ちょ、ちょっと待って?」


 ベッドから起き上がって右手の手のひらを向けてくる。いわゆる静止のサイン。

 前に郁弥さんも似たようなことしてた。口に物入れてるときに、待ってって意味合いのポーズだったと思う…うん。結構好きよ、このポーズ。


「好きな人って…本気?」


 どこか探るような、そんな視線を送ってきた。


「…本気」

「…そう」


 あたしの真剣さが伝わったのか、一言呟いて再びベッドに倒れ込んだ。どことなく哀愁が漂っているようにも見える。


「…私より年下の日結花に先を越されるなんて…はぁ…」

「ええぇ…」


 なにを言うかと思えば、先を越されたとかいうよくわからないセリフ。


「まあいいわ…それで?どんな人なの?」


 さっきまでのやる気はどこへ行ったのか、だるさを隠さず適当に尋ねてくる。

 この…面白くなさそうだとわかったらすぐこれ。もうちょっとしっかり聞きなさいよ…あたしにとってはそこそこ大事な話なんだから。


「そうね。良い人よ。優しくて大人で落ち着いていて…あたしのこと考えてくれる人」

「ふーん…そういえばあなた高校生だったわね。同級生?」

「ううん」

「…仕事の人?」

「ううん」

「…ファンの人?」

「うーん…微妙」


 一応ファンといえばファン。あたしの作品知ってたし、歌劇とかサイン会とかのイベントにも来てくれてたし。でも…なんていうのかな。あの人、作品が好きだった、っていうよりも以前からあたしを知っていて、作品も知った。みたいな感じなのよ…そう、あたしとの因縁…じゃなくて、縁とかそういうのがありそうで……ほんとなんであたしなんにも覚えてないのよ。ああもどかしい!


「微妙って…じゃあ誰なのよ。"いくやさん"とやらは」

「……運命の人?」


 あ、結構しっくりきた。うん。運命の人。いいわねこれ。


「…はぁ」

「な、なによそのため息…」


 まるで可哀想なものでも見るかのような目で見てくる。

 あたし、変なこと言ってないわよね?普通のはずよ?…だって郁弥さんとの出会いって運命みたいだし。


「あなた、いつもは大人びているのに、案外ロマンチックなところもあるのね」

「…ばかにしてる?」

「いえ?微笑ましいだけよ」


 柔らかく微笑んで言った。

 綺麗な笑みなのに、すごくむかっとくる。いいわよロマンチックで…あたしは運命を信じるわ。


「とにかくそれで、その人のことで相談があるのよ」

「また唐突ね…」


 ちゃっちゃと切り出さないと話できない気がして…。


「いいわよ、聞いてあげる」

「うん。ええと…なにから話せばいいのか…」



 だいたいの話を省いて、今の気持ちを大まかに伝えた。



「…色々言いたいことはあるけれど、結局日結花はどうしたいの?」

「どうって…」

「関係を変えたいと言っていたわね。どんな関係になりたいのよ」


 どんな関係…。


「友達でも相談相手でも恋人でもない。あなたがなりたい関係はなに?それがわからないとアドバイスのしようがないわ」

「……」


 なりたい関係か…。

 あたしは…郁弥さんが好き。一緒にいたい。たくさんお話したい。あたしに笑いかけてほしい。ご飯食べたり、お出かけしたり、二人でのんびりしたり…手を繋いだり、抱きしめてほしい。

 でも…それより、なにより…あたしに話してほしい。何があったのか、どうしてあんな悲しそうな顔するのか、"恩人"ってなんなのか、全部全部…抱えてること全部話して、楽になってほしい……そっか。あたし、支えてあげたかったんだ。支えられるだけじゃない、支え合える関係に…。


「…あたし、郁弥さんを支えてあげたい」

「そう…今のあなたじゃ無理ね」

「う…」


 ばっさり切られた。

 今のちょっと胸に来た。自覚があるだけにグサッと刺さる。


「というか支えてあげたいって、どうやって支えるつもりなのよ。その郁弥さんとやらは、あなたに話すつもりなさそうじゃない」

「うう…」


 また痛いところを…。


「さて、そんな日結花にアドバイス」

「な、なに?」

「あなたの目標は相手を支える、つまり相手から頼られる存在になることよね?」

「…うん」


 …知宵が年上っぽく見える。この子、経験者だわ…こんな饒舌じょうぜつに自信満々で話す知宵初めて見た。


「いきなり頼られるのは無理よ。段階を踏んでステップアップしないといけないわ」

「…なるほど」


 少しずつ仲良し度を上げていくのね…でも、今の仲良し度そこそこ高いと思うんだけど…ううん、まずは知宵の話を聞きましょ。


「友人にはなっているようだから、次は恋人ね」

「も、もう恋人!?」

「支えたいのでしょう?少なくとも友人より恋人の方が心の支えにはなるわ」

「それは…」


 恋人…悪くない。遅かれ早かれならないといけないんだもの。ちょっと早い気はするけど、恋人になってもっと近くに行けるならそうしたい。


「うん…恋人目指す」

「ええ。第一目標は恋人よ…ただ、問題が一つ」

「…問題?」


 問題ってなにかしら…。


「話を聞く限り、郁弥さん?はあなたを恋愛相手として意識していないようね。そう、例えるなら、恩人に対する感謝の気持ちよ。動揺はしても、恋愛相手として意識しないようにしているのだと思うわ。それもかたくなにね」

「…むむ」


 言われてみれば…そういう気配はある。自分のことよりあたし優先なところとか、まさにそれ。


「そんなあなたが取れる手段は一つ」

「それは…?」


 一つと言い切る姿は自信に満ちあふれていて、迷いが見られない。無意識に引き込まれて、自然と聞き返していた。


「デートをするのよ」

「デート?」


 なにか妙案でもあるのかと思いきや、案外普通な提案。

 デートというと、二人で買い物したり遊んだりご飯食べたりするあれよね…もう何回もしてるんだけど…。


「ふ、デートなら何度もしたと言いたいのでしょう?」

「む…そうよ」


 なにその人を小馬鹿にした顔。イラっとくる…ううん。今は我慢してあげるわ。教わる身だもの。


「あなたのしたデートは、ただの遊び。お互いを意識していないデートはデートとは言わないわ」

「な…」


 じゃ、じゃあ…あたしたちのお出かけはほんとにただのお出かけだったの?…ううん。少なくともつい先週の食事はちゃんと意識していたわ。


「言いたいことはわかるけれど、あなたが意識していても、相手が意識していなければ意味がないのよ。残念なことにね」

「う…」


 …先回りして話すのやめて。


「もしもあなたがそのことに気づいていて、より自分を意識させるようアピールしていたら話は変わっていたけれど…していたかしら?」

「……」


 して…ない。と思う。ちょくちょくそれっぽいこと言ってたりはしても、本格的に意識して動いてなかった…。


「…してない」

「そう。それならわかりやすいわ。相手を意識してデートを重ねなさい」

「つまり?」

「積極的になるの。相手にあなた自身を意識させれば勝ちよ。もっと甘えなさい。冗談を交えながら好意を言葉にするのもいいわね。手を繋いだり腕を組むのも効果的だわ」


 冷静にやるべきことを羅列していった。途中で止まることもなく、当然のことを言っているかのよう。

 …誰これ。なんでこんな知識豊富な人みたいになってるの?いや、あたしにとってはためになるからいいんだけど…なんか釈然としない。


「日結花、聞いているの?」

「うん。手を繋ぐのよね。それとなく好意を伝えるのは頑張ってみるわ。甘えるのは…ちょっと難しいかも」


 …もうたくさん甘えてるもの。悩みも聞いてもらって、気を遣ってもらって…あたしが甘えるというより、彼が甘やかしてくるのよ…。


「どうして?」

「これまでもたくさん甘えてきたから?」

「…日結花のいう甘えは大したことなさそうね」

「むっ、じゃああんたの甘えってなんなのよ」


 この上から目線の表情ほんと鬱陶しい。ベッドに肘ついてあたしを見上げる、この体勢も相まってウザさがすごいことになってる。

 あたしの経験値が足りないっていうのをわかってるから余計にむかつくわ…絶対知宵より先に結婚までいってやるんだから。

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