4.悩み相談のお話①
「ここに書けばいいんですか?」
「はい、そこでお願いします」
「わかりました」
今日はCDショップの看板?にサインを書きに来ている。一つ二つ三つと華麗にサインを書き上げてお仕事は終わり。
「お疲れ様ですーっ」
当然のごとく今日も一人。ソロCDなだけあって他に人はいない。
そのぶん早く終わったのは良いことよね。サイン書きが楽しいかどうかは別として。
「……」
面倒だったけれど、こういう販促活動も重要なお仕事なのよ。今日もいくつかのお店を回って、それぞれ指定された箇所にサインを書いてきたわ。一店舗につき数か所の割合でね。この地道な活動がいつか実を結ぶことになる…らしい。あたしはあんまり知らないからなんとも言えないけど。別に宣伝しなくても十分お仕事あるし。だって声者だもの。来ないわけないわ。
「あっつ…」
裏口からお店を出た。まだ外は明るく青い空に太陽が輝いている。夏真っ盛りは過ぎたとはいえ、まだまだ暑さが残る中を、いつもより早歩きで駅に向かう。ゆだるような暑さのせいで、つい独り言が出てしまった。
「はぁ…」
さすがに暑いわね。風もあまりないし太陽も燦々と照っているから実際の気温より体感気温はかなり高いのかも。あたしの体感でも頬が火照る程度には高いわ。
裏通りから表通りに出ることで影から日向へと変わり、より暑さを感じるようになった。
「ん?」
駅までは徒歩10分程度。暑さに耐えながら歩いていくと、前方から見覚えのある顔が歩いてきた。
「…あ」
まだ距離がある中その人を見ているとすぐに誰だかわかった。
うん、藍崎…いえ、郁弥さんねアレ。眼鏡かけてないから最初はわかんなかったけど、あの顔は郁弥さんだわ。前に視力悪いって言ってたし絶対あたしのことわかってない。
じわじわと距離が縮まっていくも、彼は全く気がつく気配がない…ほんとに視力悪いみたい。それもかなり。
ゆっくり歩く郁弥さんとの距離が10mを切ったあたりで、彼はぶつかるのを避けるように右にずれる。もちろんあたしも右にずれる。歩調を緩めながら同じ行動を数回繰り返し、ついには目の前でぶつかるような形になった。
「すいません」
頭を下げたまま横を抜けようとする郁弥さんの左腕を掴んでゆっくり歩き始めた。彼は掴まれた瞬間驚いたように"うおっ"と声をあげていたけれど、当然無視。
「こんにちは郁弥さん」
「っとっとって日結花ちゃん!?」
「そうそう、あたしですよ。奇遇ですねー」
あたしに気づいてびっくりする彼の腕を掴んだまま歩いていく。
偶然会ったのだし奇遇というのは本当。この人この辺に住んでるのかしら。
「いやちょっと待って!?手を放してくれると助かるんですが!?」
「逃げませんか?」
「逃げませんよ!というかどうして僕が逃げるんですか!」
「だってあたしに気づいてなかったみたいですし」
「そ、それは何一つ見えていなかったからで…それに日結花ちゃんがこんなところにいるとは思っていませんでしたし」
「ほんとに逃げません?」
「もちろんです!」
「ならいいです」
というわけで腕を離してあげた。
腕が少し汗ばんでいて掴んだときにドキッとしたけど、あたしの手も汗ばんでいただろうし大丈夫よね…気にしない気にしない。
すれ違いざまに腕を掴んだから、郁弥さんは会話中ずっと後ろ歩きをしていた。ゆっくり歩いていたしそれほど大変じゃなかったとは思う。まあ、歩きにくいことに変わりはないわね。ごめんなさい。
「それで、どうして平日の昼間にこんなところにいるんですか?お昼休憩ですか?」
「違いますよ、今日は振り替え休日です。大きい案件のせいで休日潰れてたんで今日休みになっているんですよ。多いわけじゃないんですけど、稀にこういうこともあるんです」
「へー、そうなんですか。ふふ、さぼりじゃなかったんですね。郁弥さんさぼり魔かと思いましたよ」
「そりゃそうですよ。って日結花ちゃんさっきから僕の呼び方が」
どうやら彼は休日だったらしい。それよりようやく気がついたようね。自分自身の呼ばれ方に。
戸惑ったような、その上嬉し恥ずかしな顔をして尋ねてきた…嬉し恥ずかしそうなのはいつものことだったわね。あたしと話すときはだいたいそんな感じだもの。
ちなみに、呼び方を変えたのにはちゃんと理由がある。
前回話してから真面目にこの人と友人関係築こうと思ったのよ。その第一歩が名前の呼び方になるわ。
「どう?」
にこりと笑みを浮かべて問いかけてみれば、彼は目をそらして言葉を返してきた。
「う、うん。なんか恥ずかしいです。いやすごく嬉しいんですけど。でもいいんですか?僕なんて精神攻撃に耐性のあるただの一般人ですよ?僕が言うのもなんですけど、そこまでしてもらう価値はないと思います…あと、声者の方がいきなり友人だなんて色々とよろしくないんじゃないですか?」
「…あなた、声者をなんだと思ってるのよ。声者は芸能人でも有名人でもないから。あと、こんなこと他にするわけないでしょ?郁弥さんは価値がないって言ったけど、毎回最後まで歌劇聞いてくれるだけで十分価値はあるわ。ていうかあたしのお話を精神攻撃とか言うのはどういう了見?」
むしろ精神安定剤でしょ。
「え、ええと…強制睡眠、みたいな?」
「どうして疑問形なのよ…」
こめかみに手を当てる。
頭が痛くなりそうよ。あたしのお話に睡眠効果があるのは事実だから仕方ないけれど…強制睡眠は言い過ぎだと思うの。
「あ、あはは…僕は眠ったことないので…でも、うん。それならちゃんと歌劇聞いててよかったです」
そう言って郁弥さんは目を細めて微笑んだ。
ここまで嬉しそうにしてくれると…少し照れる。
「えへへ…喜んでくれてなによりよ。それじゃあ、どうせだしカフェでも行きましょ?このあと暇でしょ?」
「え、は、はい。暇ですけど…」
「じゃあ決定。行くわよ?」
一歩前に出て振り向きながら声をかける。
妙にたどたどしい歩き方をする郁弥さんを横目に、軽い心持ちで歩みを進める。
頬を赤く染めた彼と同じで、あたしの方もちょっぴり頬が熱い。夏の暑さとは関係なしに自分の頬が赤くなっている気がした。
「ふぅ、涼しいわねー」
「そうですね」
近くにあったカフェに入って案内された席に着く。店内は冷房がかかっていて、今までの暑さが嘘だったかのように冷たい空気が漂っている。周りに座っている人たちはだいたいカップルで、コーヒーや紅茶を飲むというよりは軽食を食べるカフェといった感じ。
「んー、気持ちいー」
「…日結花ちゃん。それはちょっとだめだと思うんですよ僕」
「ふふ、なんのこと?」
今日は夏らしく首周りを大きく露出した服を着てきている。鎖骨当たりにある襟元を掴んでパタパタ仰いでいたら、郁弥さんが焦ったように声をかけてきた。
「何って…目に毒ですよ。それ」
そんな発言を聞いて視線を合わせようとすると、目をそらして顔を赤くする人がいた。
涼しい部屋にいるというのに、真っ赤になっちゃって可愛らしいこと。こういう反応嫌いじゃないわ。
「あら、ごめんなさい。わざとじゃないのよ?」
大丈夫、あたしも周囲の目くらいは気にしてるから。
彼にわかる程度な動かし方だったし、静かに話していたから注目も集めていない。
はしたなくならない程度に楽しくするのがいいのよ。節度を守って常識的に、ね。
「…どう考えてもわざとだったと思うんですが」
じと目なのに顔赤いから全然悪い気がしてこない。もっとからかいたくなってくる。
「ふふ、手が滑っただけなのよ?ほら…」
「だからわざとにしか…いやいいです。わざとじゃなくてもなんでもいいのでやめてください。お願いします本当に」
「はいはい。わかったわ。もうしないからこっち見なさい」
照れて焦る郁弥さんを眺めながら両腕の肘を立てて、重ねた手の甲の上に顎を乗せた。
「そ、そうですか……はぁ…ってなんで笑ってるんですか」
「え、楽しいから?」
くるくる表情を変える郁弥さんとの会話が楽しくて頬が緩む。あたしが笑っているのを見て釈然としない様子。
「楽しいって…僕は楽しくないですよ」
「…楽しくないの?」
「い、いや。そんな暗い表情しないでください。楽しいですよ?すっごく楽しいです!」
ちょっと暗く見せればわーわー言ってなだめようとしてくれた。
ごめんね、そんな必死になってくれるとは思わなかったのよ。わざとだけど許して?
「ふふ」
「どうしてそこで笑ってらっしゃるんですかね」
以前波長が合うと思ったのは本当にその通りで、今も話をすることが楽しすぎて笑いが漏れてしまった。
「郁弥さんは可愛いなーって思って」
「そ、それはありがとうございます?僕より日結花ちゃんの方が可愛いと思いますけど」
「え、うん。そ、そう?」
「もちろんですよ。日結花ちゃんほど輝いた宝石のような女の子は他に見たことがありません。THE QUEEN とはよく言ったものですね」
不意打ち禁止。あたしがちょっとからかってたらすぐこれなんだから。いくらあたしでも照れるものは照れるのよ?嬉しいけど。あと…後半のはあれね。
「…あたしのことばかにしてる?」
「え、どうしてですか?」
「クイーンとか一度も呼ばれたことないわよ。あと褒め方が気取ってる感じするから」
「ええぇ…」
不服そうな顔。
一度もクイーンだなんて呼ばれたことないもの。あなたが悪いわ。
「ばかになんてしていませんよ。それどころか世界一可愛いくらいには思っています」
「ふ、ふーん…」
そ、そう。世界一可愛い、ね…ま、まあ?それならあたしもいいかな。そんなに褒められちゃったらね?うんうん。悪くない悪くない。
「そんな可愛い日結花ちゃんに質問なんですが」
「あら、なに?」
今は機嫌がいいからなんでも答えてあげる。それこそ守秘義務に抵触しないやつなら全部答えてあげてもいいくらい。
「ええと…今さらなんですけど、日結花ちゃん…口調といいますか、喋り方といいますか…その辺どうしたのかと」
「なんだ、そのこと?」
「はい。さっきから聞こうとは思っていたんですがタイミングがなくて…」
言いよどむから何かと思ったら。あたしが敬語取り払ったことについてだったのね。
「そんなの簡単よ。郁弥さんなら別に敬語で話さなくてもいいかと思ったからやめただけ。嫌だった?」
「い、いえ!全然嫌なんてことはありません!」
ぐっと手を握って語気強く言い切る。この人にしては珍しく声が大きめ。
「ふふ、ほらほら落ち着きなさい。どーどー」
「…いや、僕そこまで声大きくしてませんよね?」
「ん、そうかしら?」
すぐに声量も戻って、いつもの落ち着いた声色になった。
うん。この人はこれくらい落ち着いてるのがいいわ。
「そうですよ…」
呆れたような一言。でもどこか声に柔らかい響きが伴っていて、表情も優しい。見ていて安心する顔。
「ふふ、それよりどう?敬語なくしちゃったけど感想は?」
「…日結花ちゃんは敬語なんてない方が似合っていますよ。今の方が自然体です」
「ならよかったわ」
自然体なのは当然よね。だって今のあたし素だもの。お仕事のときはたいていパーフェクトスマイルにしてるし、敬語は敬語で壁作ってるでしょ?だからお仕事以外のときで、しかも敬語取り払ってようやく素が見えるのよ。
「あと、感想といえばですが僕の名前のことですよ」
「あー、そういえばさっき途中だったわね」
「そうです…どうにも自分の名前を呼ばれると恥ずかしくてですね…」
また初心なことを言う。照れていそうな気がして顔を見ると案の定赤く染まっていた。
「恥ずかしいって、別に郁弥さんが言う側じゃないでしょ」
「それはそうなんですが…今まで女性に下の名前を呼ばれることがなかったもので…」
「ふーん?…それはなに?飲み会とかそういうのでも呼ばれたりしなかったの?」
あたしの場合声者やってるから呼ばれることも多いし、打ち上げとかでも名前は普通に呼ばれる。同業の人で男女問わずにね。最近はちっちゃい頃ほど呼ばれないけど、それでも知り合いからはよく呼ばれるわね。
郁弥さんの場合は…。
「…それ含めてです。良くも悪くも名字だけでした」
「んー…なら、あたしが郁弥さんの初めてってことね?」
「う…そ、そうです。はい」
軽く言うと、恥ずかしそうに目をそらした。
…ん?今恥ずかしがる要素あった?……あ、あー…う、うん。そっか。言葉の捉え方ね、うん。"初めて"、ね…別にあたしは恥ずかしくないから。
「べ、べつに変な意味じゃないのよ?」
…上手く舌が回らないからって恥ずかしいとか照れてるとかそういんじゃないから!…とりあえず落ち着こう。
「……ふぅ」
「……はぁ」
小さく息を吐いて落ち着きを取り戻すことにした。郁弥さんの方もそれは同じようで、軽く深呼吸している。
「……」
気持ちも落ち着いたところで意識を前に戻す。彼の方へ目を向けるとちょうど目が合った。照れた笑みがあたしの心を温かくする。
「はは」
「ふふ」
二人でひとしきり笑いあって、さっきまでの空気が嘘みたいになごやかな雰囲気になった。
「…なんかいいわね、こういうの」
「こういうの…ですか?」
「そ。今みたいに優しい空気のこと」
「…なんとなく言いたいことはわかります。穏やかな気分でいられる感じですよね」
ふんわりと柔らかい笑みを浮かべる。
…こんな空気のまま眠りたい。ていうかお昼寝よお昼寝。お昼寝したいわ。
「ん、そんな感じ」
はぁぁ…身体の力が抜ける。やっぱ郁弥さん癒しだわぁ…疲れが取れる。できれば肩たたきとか肩揉みとかマッサージとかしてほしいけど…さすがに贅沢よね。いつかでいいからやってもらいたいわ…。
「ふぅ…あぁそうだ郁弥さん」
「はい、なんですか?」
ふわふわと気分のいいまま思いついたことを口にする。
「さっき女の人に名前呼ばれたことないって言ってたじゃない?」
「そうですね」
「女の子の友達いないの?」
「ちょ、直球ですね」
なんとなく聞きたくて。他意はないわ。あと、あたしも異性の友達なんていないから大丈夫。
「いませんよ。知り合いはいますけど友達と言ってもいいのか微妙ですし、下の名前でなんて呼ばれませんから」
「ふーん…ねえ郁弥さん」
「はい?なんですか?」
突然の変な質問にもちゃんと答えてくれた。苦笑いしつつも答えてくれるのが彼らしい。
でも…そっか。女の子の友達いないのね。うん。別に深い意味とかないけど、納得したわ。免疫なさそうだし、すぐ照れるし。まあそれで何かが変わるってわけじゃないから。むしろ女慣れしてない方が友達としては楽しそうでいいじゃない。
「あたし郁弥さんのこと結構呼んでるけど、どう?」
「そ、そうですね。言われてみればさっきから回数重ねてますね…」
「でしょ?慣れない?」
「…はい。慣れませんよこれは」
「これまでも緊張解けたりと慣れてきたし、大丈夫でしょ?今だってそうでもなさそうだし」
「いや……確かに、言われてみればちょっと恥ずかしいだけですね。最初ほどじゃないです」
「ふふ、見ててわかるもの」
思ったより郁弥さん呼びも大丈夫だった。
この人順応してくし、あたしと話して緊張しなくなってきた辺りでそういったことはだいたい平気になってそうだわ。あたしもちょっとだけ恥ずかしいけど…それこそ慣れよ慣れ。
「でもこれ、意識すると恥ずかしさすっごくなってきますね」
「そう?郁弥さん」
「だ、だからそうやってわざとらしくするのやめてくださいって!」
「ふふ、ごめんごめん」
小首をかしげて名前を呼んでみれば、じわじわと頬を赤くしてあたしに抗議してくる。
あーもう楽しい。郁弥さんと話すのすっごく楽しい。
「ええと…それより日結花ちゃん。何頼みます?僕は甘いものを軽く食べようかなーと思ったんですけど」
「んー…そうね。郁弥さんはなににするの?」
「このミルクパフェにしようかと。美味しそうですし」
「ふーん、たしかに美味しそう…うん、あたしも同じのにするわ」
色々と話して身体から熱が取れてきた。今さらというかようやくというか、二人で一つのメニューを眺めながら注文を決める。
「じゃあ注文しちゃいますよ?」
「うん。お願いね」
ミルクパフェに限らず飲み物も同じアイスティーで、さらっと注文をこなしてくれた。
ちなみに、メニューを見ているときにちらっと横目で彼の方を見たら思ったより距離が近くてびっくりした。あっちは全然気づいてなかったけど。考えてみればそれほど広い机でもないのだし、一つのメニューを一緒に見ようとすればそうなるのよね。納得納得…地味に顔が熱くなるのやめてほしいわ。
「ええと…郁弥さんって甘いもの好きなの?」
「好きですよ、割と色々食べてます。外食もそうですけどスーパーとかコンビニで買ったり」
「あ、それわかるわ。コンビニとかのって結構美味しいのよね。新しいのもよく出てくるし」
「ですよねー。最近はコンビニに行く用事がなくて買うこともあんまりなかったんですけど、ちょっと前に食べたスーパーの"かりんとう饅頭"は美味しかったです」
「ふふっ、"かりんとう饅頭"って。おじいちゃんみたいね、ふふ」
「た、確かにそれっぽいですけど、ほんとに美味しかったんですよ?」
ミルクパフェ頼んだから甘いもの好きなのかなーとは思ったけど…まさか"かりんとう饅頭"が出てくるなんてね。予想外。ふふ、さすがにパフェ頼もうとしている状況からそんな和風なものになるとは思ってもみなかったわ。
「そ、それじゃあ日結花ちゃんはどうなんですか?好きなデザートとか」
「あたし?」
「はい」
"かりんとう饅頭"で笑われると思っていなかったのか、少し頬を赤くして口調早めに話を振ってきた。
別に悪意があって笑ったわけじゃないのに。それはまあ郁弥さんの方ももわかっているでしょうけど、恥ずかしいものは恥ずかしいってことかしらね。
「あたしはチーズケーキかな。レアチーズとスフレどっちも好きよ?好きなデザートはいっぱいあるし好きなケーキもたくさんあるけど、一番はチーズケーキね」
「おお、僕と一緒じゃないですか」
「郁弥さんもチーズケーキ好きなの?」
「はい、昔はスフレの方が好きだったんですが、最近はレアチーズですね。特にタルトが好きで、レアチーズタルトは大好きです」
「タルトかー、あんまり食べる機会ないからなんとも言えないわ。そんなに美味しい?」
「ええ、いつかケーキ屋さんにでも行ったときにでも買ってみてください」
「ふふ、そうね。買ってみるわ」
そうはいっても…ケーキ屋さんに行く機会がそもそもほとんどないから、いつ食べられるかはわからないわ。食べるのは…今度行ったときに買えばいいわよね。これだけ勧めてくれたんだし機会があればということで…あ、でも。
「買うつもりはあるけど、郁弥さんがお土産的に渡してくれてもいいのよ?」
「え、生ものだから無理ですよ?普通に」
「…そうだったわねー」
…やっぱり自分で買わないとだめよね。