妄想にて
最寄駅を降りると雑木林のような細い路地を通り抜け、ただただまっすぐ歩いた所に私の家がある。学校方面の都会側から離れた駅なので、言うならば“田舎寄りの都会”という感じだ。
五分歩いた所に神社が、さらに二分歩くとジャンクフード店が、さらにさらに五分歩いたところで交差点があり、左に曲がるとコンビニが見え、自宅に着く。
地元では唯一の高層マンションだが特別高い訳ではなく、最上階は十一階だ。エレベーターに乗り九階のボタンを押す。
都会もどきの田舎(田舎もどきの都会というべきか…)だからか、緑が少し多めである。景色は、まぁ、良くも悪くもというところだ。近くには公園があるので、子供達がキャッキャしている声が建物に反響して響き渡る。
玄関の右隣にそれぞれその部屋の窓がある。見る限り電気は点いてない。きっと母は買い物中なのだろう。
家の中に入るとゲラゲラと誰も居ないはずの家に笑い声がした。びっくりしたがそれが付けっ放しのテレビだということにすぐ気付く。呆れた。この前も付けっ放しだったとお母さんに話したのにまるで直っていないじゃないか。
母はどうかしてる。私は母の事が物心ついた時から嫌いだった。理由は分からない。でも、人は普通何らかのきっかけがあってその人を好いたり嫌ったりするのに、私の場合はその前からすでに母のやる事が気に食わなくて気に食わなくて嫌いすぎて、プラスきっかけがあると尚更嫌になっていた。
でもまあ、自分が付ける手間が省けたと思えばだいぶ思考は変わるのだけど。
やっていたのはワイドショーだった。画面右上に大きくテーマが表示されている。
『愛にカタチはない 〜今ドキの恋愛事情〜』
要約すると、一般的な恋愛というものは男と女が堕ち合って成就することを指すが、人権や自由、個人の尊重といったことが求められるようになったこのご時世、今まで止むを得ず隠れていた同性愛者達が公に晒しているのだという。
私が制服を脱いでいる時はゲイの方を取材していたが、脱ぎ終わりおやつを食べようとした時には、レズの方を取材していた。
チャンネルは変えようとは思わなかった。どうせこの時間は特に面白い番組などやっていないだろうし、何せ中学生という多感な時期だ。動物的な本能という言い訳の元、見たいという意識が先立っていた。
「私が彼氏ポジで、隣の子が彼女ポジです」
一見仲の良い友達という風にしか見えない二十代同い年の女性二人。
「付き合い始めたのはいつからです?」
「そうですねぇ、出会いが高一で、付き合ったのが高三の体育祭が終わったくらいだったかと」
隣の若干メルヘンが入った服を纏う彼女ポジが話す。
「男性に興味は無いんですか?」
「いや、ありますよ、多少はね。私も中学生の頃少しだけ付き合ってましたから」
へぇ…それは意外だ。
「お互いのことをどう思っていますか?」
「かけがえのない大切な人です。性別がどうのって、本当に馬鹿げた話ですよ!今度ちゃんと親にも話すつもりなんです」
「確かに中には気持ち悪いと思う人が居るのは事実です。でもそれって凄い偏見なんだってことを理解してほしいな。同じ性だから生き方とか感じることとかが似ていて心が通い合いやすかったりするし、何より二人とも乙女ですから、一度好きになった相手をポイっと粗末にするなんてことしません!お互い、かつての痛みが分かる同士なので」
「なんか恥ずかしいな…そういう話今さらするのって」
メロンパンを頬張りながらテレビを凝視する。気付けば三十分弱経っていた。
同性愛者というと無意識のうちにもっと激しいものを想像していた。男女の初々しさとは遠くかけ離れた泥沼の昼ドラのような感じ。案外普通の恋愛なんだな、性別という人間の大元を除いて…。勝手に勘違いしていた自分が恥ずかしくなる。
自分は別に同性愛を特別嫌な風には捉えてなかった。現に私の友達にも他の子には内緒でそういう子がいるし、身近なものというのも変だけど慣れてはいる。しかしどのような心のメカニズムなのかというのは知らなかったし想像がつかなかった。
丁度テレビを消したと同時に玄関がガチャっと鳴った。お母さんが帰ってきた。
「ただいまぁ、あら、帰ってたの」
「またテレビ付けっ放しなんだけど」
「本当?消したはずなんだけどなぁ」
「知るか。付いてたものは付いてたんだから」
「お父さん今日は?」
「…。また当分帰ってこないみたい。お仕事大変なのね。夜は外食にでもしましょうか」
私のお父さんはたまにしか帰ってこない。元々忙しいのも有るのだろうけど、それにしても最近は滅多に帰ってこないのだ。薄々ながらそれがどういう事か、私には察しがつくのだけど、お母さんが何か隠しているなと感じる。
私の毎日はいつもこんな感じだ。学校行って、帰って、おやつ食べて、宿題とか勉強して、夜は外食が手作りかを聞かれて、食べて、風呂入って寝る。当たり前のサイクルだ。
でも今日は少しだけ違う。多感な中学生が見るべきではなかったのだろうか、夕方のワイドショーの内容が頭から離れないのだ。なんて自分は変態なんだ、って思っても、ふとした時にクラスの子を例に挙げて想像してしまっている。人間に他人の心を読み取る機能なんて無くてよかったと本当に思う。
気付けば、自分を軸にして考えていた。もし、もしも自分は男に興味がなくて、幼い頃からの親友に想いを寄せていたならば…。でも相手は女の子で、打ち明けることによって引かれてしまうのが怖いから未だに親友というキャスティングで参加している。
もし自分が惹かれるのならば、どんな子なのか。私は今までの友達関係の少ない経験からして考えた。
一つ目はわがままじゃない子。これは必須。いつまでもベタベタしてくる奴には恋人どころか友達としてもお断りだ。
二つ目は勉強のできる子。頭の良い子ってやっぱり努力を惜しまない子なんだろうし、こんなことをいうのは酷いのかもしれないけれどハズレがない。
三つ目は…個性的な子。あんまりきついのは無理だけど、いつも周りを見て流行に乗るようなヒラヒラした子よりかは、独特な性格が少しだけ滲み出ていて、世間にこだわらない人が良い。
例えば、好きなキャラクターに対しては並々ならぬこだわりがあるとか、単独行動が多いけど普通にクラスから愛されてる子とか、凄く些細なことだけど、ちょっとくらいの味は欲しい。
果たしてうちのクラスにはいるのだろうか。みんな友達とか恋人目線で物事を考えるから行動もそれに沿う。個性的な子なんて…
長谷川さん…?
何故だろう、自分でもよく分からない。ただ、真っ先に浮かんだのはこの名前だったのだ。
中途半端な終わり方ですみません。
それともう一つ謝らなければならないことが…。
先週あと一話投稿すると言っておきながら一週間過ぎてしまいました。楽しみにしてくださった方々、申し訳ありません。
私情により一週間に一話投稿が限度になってきました。出来たらそれ以上投稿するつもりです。
これからもよろしくお願いします!