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「ハチミツを舐めて。」  作者: 閑古鳥
2/5

初心

緑とピンクが入り混じった囲いから、漏れ出す青空と眩しい日差しに嫌気がさす。床一面には散って汚れた桜の残骸が広がり、自分がそれを踏み潰して歩いているんだと思うと、気味が悪い。


あんまり大袈裟にやると怪しまれるから、少し爪先立ちをして慎重に歩いてみる。


やはり周りの人に気付かれて見られたが、すぐに元の方向に戻った。私が制服を着ているから、学生の単なる遊びだなと思ったんだろう。まだこの歳だから誤魔化せる事だ。


こういう時に制服って、便利だなあと思う。



自分が人と比べてやたらと、俗にいう神経質だという事にはとうに気付いていた。


どんな具合にというと、例えば、人に自分の身体を触られるが駄目なのだ。髪をいじられるだなんてもっての他。ほっぺを突っつかれたり、手を繋いだり、基本的に距離が近いのが特徴の女子がするコミュニケーションを自分は取ることができない。


だからどんなにトークで盛り上げたって、一旦は必ず冷めてしまう。今までそれを何度も経験してからはずっと、嫌でも我慢しているのだけれど。


でも、気になるものは気になるし、ムズムズして気持ち悪いからやたらとハンカチで擦ってしまう。納得いくまで、ずっと、触られた感触を忘れるまで、ずっと。おかげで私の肌は、所々毛羽立っていて赤く腫れている。


そのうち人を否定する事をせずにいたら顔見知りが自然と増え、増えた分だけ近接なコミュニケーションを取って我慢して、その繰り返しで…。


やがて脳内で友達の株価が暴落しているのを感じ取るようになった。親友に悩みを相談だとか、趣味や好きな物を語り合ったりだとか、今の脳内価値観ではそんな未来到底想像できない。


大半は声高くして笑えばテンション高いように見えるし、場も必ずと言っていいほど盛り上がる。あとはそこにわざとらしさを少し加えたボケネタを吐けば尚良し。


二重人格みたいだなってふと感じた事もあったけど、自分はそんなんじゃない。外と中でメリハリをちゃんと付ける事が出来ている、“いい子ちゃん”なのだ。



中学生の最高学年へと格上げされて約一ヶ月。友達の扱いだなんて小慣れたもんだし、おまけに彼氏も出来て、今のところは勝ち組の中にいるのではないか。


今年の目標はクラス全員と仲良くなる事。小学生みたいだな目標だが、そんなに深い意味はない。自分のコミュ力の高さを伺える丁度いい機会だと思っただけである。


今のクラスは運良く、元々顔の知っていた子や中一の時に同じグループで翌年違うクラスだった子、同じ部活の子など、目標を達成するにはあまりにも難易度が低い。この調子でなら楽勝だろう。


残りあと一人ーー私はまだクラスで一人だけ、この三年間一度も話したことの無い子がいる。


“長谷川茉莉”ーー地味な子達、通称ジミーズの中でもトップな才能をお持ちなジミーズだ。必要以上に相手を見ない聞かない話さない、おまけに他人に近寄らない。まさにその姿は一匹オオカミの最終形態といえる。


目標達成はこの子をどうやって乗り越え、手中に収めるかが鍵なのだ。


そこで私は話をするきっかけを模索しているのだが一回も来ず、あっという間に二ヶ月を経てしまったのである。


まあ、そうなるはずだとは思っていたはいた。だって相手は一匹オオカミ。私なんかが関わらずとも器用に、要領よくこなすのだから。


一体なぜ、あそこまで一人でいる事にこだわるのだろうか。いや、もしかしたらこだわっているのではなく、単純に友達が出来ないシャイな子なのかもしれない。もしくは以前にトラブルがあったか。


彼女と会話をする事で、きっと何か情報が得られるのではないか。いや、得たい。得てみたい、


次第に私は、自分が気付かぬうち彼女を追いかける事に対して、使命感だけでなく、ただ話してみたいという純粋な願望も入り混じっていたのだった。


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