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井上兄弟(2)

  井上兄弟が南北両奉行直々のお供で品川の船宿に着いたのはそれから二時ふたときほどたってからだった。

村岡の命は最早風前の灯だった。一応手術の準備はしてきた直だったが、何しろ満足な手術ができそうにない環境で行なわなければならないのだ。そのためいつもより余計に準備に手間取り、実際手術が始まったのは更に一時いっとき後だった。

  初め兵吾は絶対村岡の傍から離れまいと必死に抵抗していたのだが、直に村岡を死なせたいのか!と怒鳴られると仕方なくあてがわれた部屋に引き下がった。しかし座っていても落ち着かない様子で、音がするたび腰を浮かせていた。

「兵吾。井上兄弟に任せておけば大丈夫だ。俺はあの2人の腕を知っている。村岡さんは必ず良くなる。だからお前も信じるんだ。」

泰然自若としている数馬をジロリと睨んだ兵吾だったのだが、逆に冷静な数馬の目に見つめられるとその視線を逸らした。そんな姿にいじらしさを感じフッと笑みがこぼれる数馬。

「案ずるなと言っても今のお前には無理な話だな。・・俺はお前の兄さんが羨ましい。お前のような兄想いの弟がいて。――― 先だって病で亡くしたが、俺にも兄がいた。あの頃の俺は周りから見たら丁度お前と同じ目をしていたのかも知れぬな。――― 大丈夫だ。兄さんは絶対助かる。信じるんだ。良いな。」

力強い数馬の言葉に素直に頷く兵吾。


  それからどれほどの時が流れたであろうか。外が白々と白み始めた頃、ようやく人の動く気配がした。それまでは時折金属らしきもののこすれる音が聞こえていたが、今回は明らかに手術の終わりを告げるものに相違なかった。案の定、手術着を脱いだ直が疲れたような顔で2人の前に姿を現した。それを見てサッと立ち上がる兵吾。

「大丈夫。村岡さんは随分強靭な身体の持ち主のようですね。先日の手術もそうでしたが、今日のはもっと凄かった。それを難なく耐えてしまったのですからね。感服いたしましたよ。」

そう言いながらチラッと曰くありげな目を数馬に向けた。そうとは気付かない兵吾は気が抜けたのかヘタヘタと座り込み、疲労も手伝ってかそのまま気を失った。慌てた数馬だったが直に心配する事はないと言われ、促されるままに外へ出た。外は少々肌寒かったが、疲れた頭には心地好かった。

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