表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/77

切り札

  「茉莉さん。これが最後だ。私は武士である前に1人の男です。いつまでも女々しく降られた女の家に出入りしていると言われたくない。今一度あなたに断られたらすっぱり諦め、この家には金輪際足を踏み入れないつもりです。――――― 私の妻になってくれませぬか。」

これが最後・・・そう言い切る数馬に茉莉の心は大きく揺さぶられた。

「最後?」

恐る恐る問いかける茉莉。それに対し静かに頷く数馬。

「・・・わたくしを心底好いてくださると?一度はあなた様の申し出を断ったわたくしなのに?」

「私が心底妻にしたいと思うのはあなただけです。そのようなことはこれからの私にとって取るに足りない小さなことです。」

噛み締めるような数馬の言い方にじっと下を向く茉莉。しばらくして顔を上げると目に一杯涙を溜めてにっこりと笑った。

「・・初めてお会いしたあの夜からわたくしはずっとあなた様をお慕い申しておりました。・・富良風太郎様と鏑木数馬様が同一人物と知ったときは、複雑な気持ちがいたしましたけれど、それでもあなた様を想う気持ちが揺らぐことはありませんでした。・・・改めてお願い致します。わたくしをあなた様のお嫁にして下さい。」

「え?・・・ま・まことですか!茉莉さん、それがしの頬をつねって下さい!  イタッ!!まことだ!いやっほう!!」

思い切り茉莉の身体を抱き上げ、ぐるぐるとその身体を回したのち数馬は突然立ち止まった。力任せに身体を回され、目が回ってしまった茉莉だったが、ふと数馬の身体が小刻みに震えていることに気付いた。

「お寒うございますか?」

「――― あなたからまた断られるのではないかと・・急にそんな気がしてきて恐ろしくなったのです。・・・今私の腕の中にあなたがいることが信じられないのです。・・・この場面を何度夢に見たことか・・・・」

数馬は茉莉の顔と自分の手を交互に見ながらとても信じられないという思いに囚われていた。「夢ではございませんのよ。わたくしは今本当にあなたの腕にすっぽり包まれておりますわ。」

決意を表明したことで急に茉莉は大人びた口調になった。その時点で数馬は既に尻に敷かれていたのかもしれないが、今の2人はそのことに気付いてはいなかった。

「・・・生涯離しはしない・・・宜しいか。」

「わたくしも生涯あなた様の傍を離れませぬ。」

ひしと抱き合う2人の様子を、わずかに開いた襖の陰から宗太郎と瑠璃はホッとしたような表情で眺めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ