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根競べ

  「鏑木殿。あの我儘な妹のためにあなたがそのような所に・・・」

「いや、これは全て某の責任。誠意を持って謝罪しなければならないのです。」

茉莉の後を追いかけるように部屋の前までやって来た数馬は、宗太郎の言葉にそう答えた。

その後、時々中にいる茉莉の気持ちを解きほぐすように声をかけてみるのだが、固く閉ざしてしまった心は容易に解けるものではなかった。

どちらが先に根を上げるか、根競べですな。と言って茶菓子の代わりに宗太郎自ら酒と肴を持って来て一献やりましょう、と一緒に部屋の前に座り込んだ。

  「それはそうと稲から聞きましたが、貴殿は妹を部屋から出すために何か歯の浮くような台詞せりふを言われたとか。一体何を言ったのですか?」

「歯の浮くような?・・・はて・・・某には思い当たる節はござらんが・・」

「妹に惚れているとか、男が容易に口にせぬようなことを口走ったそうですな。」

「ああ。あれですか。確かに言いました。なれどあれはまことのことです。おお!そうだ。」

とそこで何を思ったのか、急に数馬は声を高くして叫んだ。

「私は茉莉殿に惚れています。と言いました!それは鏑木数馬としてでも富良風太郎という男でもない。恋というものに目のくらんだ男の正直な気持ちでござった!しからばあれは芝居ではなく本音です!茉莉殿!そんな男の純情まで疑われるのか!宗太郎殿は歯の浮くようなと申されたが、私はそうは思いませぬ!あなたがほっするならいつでも何度でも叫んでみましょう!惚れている!惚れている!鏑木数馬は日下部茉莉に惚れている!私は今この時の言葉に我が生涯を賭けてもいい!」

  少しの間沈黙があった。その後すーっと襖が開き今にも泣きそうな顔の茉莉が立っていた。

「もうお止め下さい。そのような大きな声で。」

「茉莉殿!」「茉莉!」

数馬と宗太郎が同時に叫んだが、茉莉の目には数馬の端正な顔しか映っていないようだった。それを察した宗太郎はそっとその場を離れた。次の瞬間数馬の身体は茉莉の部屋へ消えた。


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