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新目付け誕生

  あわただしく初七日が過ぎ落ち着きを取り戻した鏑木家では、静馬の遺言通り、数馬の鏑木家当主就任の儀式が執り行われた。

静馬の名代で何度か城中に顔を出していたためみな顔見知りだったこともあり、実質的な儀式は型通り運んだのだが、届出書類の多さに数馬は辟易してしまった。よくこんな繁多な仕事を佐々岡はくそ真面目にやっているものだ、と本人を目の前にして愚痴をこぼす有様だ。

  ようやく一月後ひとつきごに手続きが完了し、名実ともに目付け鏑木数馬の誕生となった。ただ通常の役所勤めとは違うため、今までとさほど変わらぬ毎日となりそうだった。

一応身辺が落ち着いたと思いきや、またぞろ鳥居が忘れていただろうと気を利かし、日下部家との見合い話を持ち出してきた。

数馬にしても忘れていたわけではなかったのだが、公的に忙しく、そこまで手が回るような情況ではなかった。それに静馬の49日もまだ済ませていないのに、という気持ちもあった。ところが老い先短いこの年寄りの、唯一の楽しみである縁組話をないがしろにするのか!と強く出られると、鳥居に借りのある数馬にとっては無下に断る事もできず、鳥居の言うがまま、見合いの日程を決められてしまった。しかし何か言い返さなくては気が治まらない数馬は、

「小父上、日下部殿はこの時期にこういう話をするということを承知しておられるのですか?」

「いやなに、全て儂に任す。ということで約定もとっておるのでの。構わん、構わん。」

「私といたしましては、できれば兄の喪が明けてからと致したいのですが・・・」

「いや、それはならん!駄目じゃ。お前は静馬の遺言を忘れたのか!お前の花嫁が見たかったと言ったではないか。ええい!面倒な!良いか。見合いは3日後ぞ!まったく儂等の若い頃なぞは婚礼の晩にならんとお互いの顔を見ることすら出来なんだのに。お前は幸せ者じゃ!事前に見合いをさせて貰えるのじゃからの!」

ブツブツ言いながらサッサと勝手に事を決め帰って行く鳥居の後姿をため息まじりに見送りながら数馬は1人愚痴をこぼした。

「見合いなんぞしなくとも相手の顔など知っておるわ。」

ボソッと呟いた後、面と向かって言えぬ自分が憎らしくさえ感じた。

  「旦那。」

突然下のほうから声がした。

「粂か!びっくりさせるなよ!」

ギョッとしてそちらを見ると粂八が神妙な格好で構えていた。

「へぇ。すいやせん。ですが旦那。珍しい事もあったもんですね。いつもならあっしが突然声をかけても驚いた事なんかなかったのに。一体どうしなすったんで?」

「う・うん。・・ちょ、ちょっとな。・・と、ところでお前、今の聞いたか?」

「何のこってす?最近年ですかねぇ、あっしゃぁ耳が遠くなっていけねぇ。で、何の話で?」

「やっぱり聞こえたんだな。」

「大丈夫ですよ。鳥居様には口が裂けたって言いやしません。」

「頼むよ。あの爺さんには小せぇ時分から頭が上がらねぇんだ。」

「わかりやした。旦那の仰るとおりにいたしやす。」

元より粂八は数馬の不利になるようなことをする気も喋るきもなかった。


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