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稲からの手紙

  その日の夕刻。数馬は稲からの文を受け取った。それは走り書きのようでとても慌てて書いたものらしく、墨の色はまだらで文字は乱れ、およそ稲の性質からは想像できない粗雑なものだった。時節の挨拶は省略され、用件のみが記載されていた。

『茉莉様の容態が思わしくありません。先刻あなた様よりの文を受け取った折には大変に元気になられましたが、その後、殿様と若様より見合いの件を告げられると途端に泣き出す有様です。恐らくは富良風太郎様を想う余りのことと察します。しかしこのままではまたやまいがぶり返すのは明らかと井上様が診察のあと私に内密に教えてくれました。鏑木様のご事情は重々存じております。なれどこの年寄りの願いをどうぞお聞きくださいますよう、どうぞあなた様のお力で茉莉様をお救い下さいませ。よろしくお願い申し上げます。  稲』

  (何たる事だ!)

数馬は見合いを密かに楽しみにしていた。それゆえこの文を読んで臍を噛むような悔しい気持ちがした。数馬は稲の文をぎゅっと握りつぶした。あろうことか茉莉は風太郎を想う余り、再び床に伏せるかもしれないのだ。猶予がならないと判断した数馬は、見合いの日を待たず近日中に直接日下部家へ赴こうと決心した。

ところがその夜。鏑木家にとって重大な事件が持ち上がった。そのために数馬の日下部家訪問の決意は実行不可能になってしまった。数馬の兄、鏑木静馬がこの世を身罷みまかったのである。享年三十歳の若さであった。

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