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兄と弟

  部屋の前で案内を請うと静馬は待ちくたびれたようにそわそわしながら待っていた。

「兄上。ただ今戻りました。」

「おお!待っておったぞ!元気そうでなによりじゃ!して首尾は?」

「はい。意外に早く目的を果たしましたのでそのまま戻りました。」

「左様か。それは上々。」

しばらくぶりの対面で静馬は夜分にもかかわらず上機嫌である。

「途中、井上 すぐるに偶然出会い、手紙にしたためました事態になってしまいました。それで兄上にお願いいたしました件はいかが致しましたでしょうか?」

「うむ。鳥居様になるべく早くと頼んでおいた。案ずることはないと思うが、お前明日にでも屋敷にご機嫌伺いに行くが良いぞ。」

「さすが兄上!ありがとう存じます。」

「しかしその九頭竜家とお前の繋がりは何なのだ?手紙にはそこまで記されておらなんだから、鳥居様の追及が厳しければ私は返事に窮するところだった。」

「申し訳ありませぬ。実は私も直接その人物を見知っているわけではないのです。」

「そうであろうと思っておった。お前の口から今までそのような名前を聞いたことはなかったからの。」

「はい。――― ところで兄上に1つ訊ねたいことがあるのですが。正直に答えていただけますか?」

「何だ。」

「私の見合いの相手です。手紙にもしたためましたが、勘定吟味役日下部主水殿ご息女、茉莉殿で間違いありませんか?」

「見合いの?それがこの件と何か関わりがあるのか?」

「大いに。」

「左様か。実はお前の推察通り、日下部殿のご息女だ。」

「やはり・・・」

「知っておったのか?」

「薄々。茉莉殿には宗太郎殿という兄がおられるはず。」

「宗太郎?おお、確かに。」

「その宗太郎殿と九頭竜殿は竹馬の仲なのだとか。それで九頭竜殿から自分のことは良いから兄と内儀を助けてもらえないか、と頼まれたのだそうです。しかし宗太郎殿としては役目違いもあって難儀していたそうなのです。それをすなお殿が聞き、事が事だけに直殿も困り果てていたという訳で、私が少々お節介を申し出たという次第です。」

「ふうむ。それは難題だな。なれど紀伊にいる九頭竜家と、江戸にいる日下部家では接点がないな。」

それは・・・と数馬は直から聞いた2人の事情を説明した。

「――― なるほど。そういえばそうだったかも知れぬ。・・・それでお前の見合いの相手が日下部家のご息女ではないかと気付いたのはいつのことだ?」

「それですよ!兄上。」

ポンと膝を叩き、身を乗り出す数馬。楽しそうに目が輝いているのを静馬は見た。

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