表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/77

江戸へ

  馬車の中で青白い顔で目をつぶっている茉莉の顔を見ながら数馬は一昨夜の事を思い出していた。宿の主人に江戸までの馬車の手配を頼んだ後、部屋に戻り茉莉に明後日の旅立ちを告げた。一瞬驚いた表情をした茉莉だったが、今では数馬のすることに間違いはないと信じているのか、また、深く考えるのも億劫なのか、ただ黙って頷いた。その顔と今の顔が重なり愛しさがこみ上げてきて、その身体を支えるために回した腕におのずと力が入った。ついこの娘は俺のものだ!と叫んでしまいそうになるのを必死でこらえる数馬であった。

「富良さん。茉莉殿は私がしっかり看病いたしますから大丈夫ですよ。」

数馬の様子を見かねてすなおが少々勘違いなことを言ってしまうのも無理からぬことだった。馬車のお陰でその日のうちに日暮里に着いた3人は、ひとまず稲の庵に草鞋わらじを脱いだ。帰郷の連絡をしていなかったので、稲は驚くや嬉しいやらで大粒の涙を流しながら茉莉のために別室に布団を取らせた。その後、すなおの診察で安心したのか、茉莉はぐっすり眠った。そこで初めて数馬は道中の仔細をすなおも交えて稲に報告することができた。すなおのことは稲も知っていたので、それは宜しゅうございました、とその手を取って何度も礼を言った。

  一通りの報告を終えるとそれまでの真面目ま顔から一転、あの笑顔を見せ数馬は更に付け加えた。

「――― でな、お稲さん。俺はまだ自分の正体を言ってないのだ。訳あってもうしばらく黙っていたいと思う。悪いんだがあんたもそのつもりでいてくれ。」

「鏑・・いえ、富良様。それは一体どのような?」

不思議がる稲にすなおが数馬に代わって答えた。

「宗太郎殿の気鬱きうつの事と関係があることなのです。稲殿もそのことはご存知でしょう。」

「まぁ!左様でございますか。ええ、心得ておりますとも!不肖この私、口が裂けても鏑木・・いえ、富良様のことは申しませんよ!」

「頼みまするぞ。:

「・・・富良様。私1つお尋ねしたいことがあります。」

話題を変えるように稲が姿勢を正した。

「もし、事が無事成就いたしましたなら、お嬢様に真相を明かしその上で。」

「みなまで申されずとも承知いたしております。そのあかつきには必ずあなたのお考えのままにいたす所存です。」

まことでございますか?」

稲の言葉に深く頷く数馬。

「ですからこれから先の茉莉殿のことは一切あなたに任せたいのです。無論、宗太郎殿との間に入っての取り成しも含めてです。本来ならそれがしが直接会って謝罪なりしなければならないのですが、すなお殿の申される一件がありますので、できればこれからしばらくの間、そちらに専念したいと思うのです。だがその事であなたを辛い立場に立たせてしまうことになるのが申し訳ない・・・」

「何を仰います!そのくらいのこと!それで若様やお嬢様が助かるのであれば、老婆心ながら私、一肌脱がせていただきます!」

その言葉にはかつての精気がみなぎってきたようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ