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静馬からの手紙

  韋駄天の如く走り去った粂八が再び数馬の下に戻って来た。胸にはしっかり兄静馬の手紙を携えている。それを受け取り、ざっと読んだ数馬はちょっと困ったような顔をした。しかしすぐいつもの表情に戻った。だが粂八はその困った顔が気になりつい口に出した。

「旦那。一体どうしたんです?」

「何が?」

「何だか浮かねぇ顔をしてなさる。」

「お前の目は誤魔化せんな。兄上から俺の居ぬ間に婚礼の日取りを決めてしまったと言って来た。それも来月の事らしい。」

「来月?ひぇぇ!殿様もなかなかやるねぇ。」

「兄上1人で決められたのではないだろう。たぶん鳥居の小父貴の差し金だ。今回の頼みを聞いてやる代わりに出されてた交換条件だと思う。――― 粂。せっかく戻って来たところ悪いんだが、また頼まれちゃくれねぇか。」

「へぇ。何です?」

「日下部家が今どうなっているか探りを入れて来てくれ。というよりお嬢さんの兄、宗太郎殿のことをできるだけ詳しく調べて貰いたいんだ。時間はあまりかけられねぇが。そうだな、落ち合う場所はあの稲さんの庵にしよう。これは必要経費だ。」

そう言って懐から出した包みは、粂八が稲から預かった袱紗だ。手に取るとずっしりと重い。粂八はあの時の感触を思い出し、おそらく数馬はその包みを一度も開いてはいないだろうと感じた。

「へぇ。でも旦那はいつここを立つんで?」

粂八はその包みをしっかり懐にしまいながら聞いた。

「うむ。茉莉さんの熱が下がるのを待ってすぐにでも立とうと思っているのだが。」

「旦那。まさか歩いての道中じゃぁねぇでしょう?それじゃぁあんまりお嬢さんが可哀相だ。」

「粂。おめぇ、あのお嬢さんに情が移ったんじゃねぇのか?悪いがな、あの人は俺の嫁さんになるんだぜ。ちィーっとばかし遅かったなあ。」

ニコッと笑いながら片目をつぶって見せる数馬に、粂八はフーッとため息を漏らした。

「馬鹿言っちゃいけやせんぜ。あっしゃぁ人としての道理を言ってるんです。」

「ん?―――― そうか、すまん。嬉しくってつい軽口を言っちまった。この通りだ。」

自分の火を素直に認める数馬に、再び心酔してしまう粂八であった。


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