表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/77

密談

  一時いっときほどして数馬が『つるや』に戻って来た。そして新之介の顔を見ると、さも懐かしそうに声をかけた。

「ご亭主。勝手を申して済まぬが、部屋をちょっと貸しては貰えまいか。内々で新之介殿と話したいことがあるのだが。」

「部屋でございますか?へぇ。ではこちらへ。」

2人は隅の部屋へ通された。狭いが内緒話をするには絶好の空間だ。2人きりになるとまず新之介が口を開いた。相変わらずその目は怒っている。

「茉莉殿といつ夫婦になった!」

「気になるのか?」

数馬はその状況を楽しんでいる様子だ。

「そ・そういうわけではないが・・・恐らく旅をし易くするための偽りであろうと思った。」

「ふむ。そうではない。と言ったら?」

「どういう意味だ。」

「そういう意味だ。」

「おぬし!人を馬鹿にしておるのか!」

「おいおい。そんなに短腹では事を仕損じるぞ。別におぬしをからかうつもりなどない。どのみちおぬしには可奈さんという娘がいるのだから、茉莉殿が誰と夫婦になっても文句は言えまい?事実、茉莉殿には縁談があるのだからな。」

「相手が問題だ。あんたじゃ納得できない。」

「なぜ?」

「なぜって―――」

「新之介殿。いや、新之介。それは単なるヤキモチというものだ。俺がおぬしに試合で勝ったものだからその腹いせに自分のものだった茉莉殿を渡したくないだけなのだ。もっと現実に目を向けろ。だがそんなに気になるなら教えてやろう。おぬしの睨んだとおり、俺と茉莉殿とは偽りの夫婦だ。まだ3日目の新婚だがな。はっはっはっは!」

そう言って高笑いする数馬にふとつられて新之介も笑ってしまった。

「おぬし、笑った方がいい顔になるぞ。先刻のようなしかめ面では役人に捕えて下さいと言っているようなものだ。――― して決心はついたのか?」

「・・・・・あんたが指導者なら良かったかもしれない・・・」

「俺はおぬしのように強い人間ではないからな。家や家族が大事なんだ・とりわけ現当主の兄は身体が丈夫ではないから、今も訃報が届くのではないかと心配で仕方がない。だから卑怯者とののしられようともそういった争い事に組しないと決めている。・・・それよりもこの辺りの情況は先刻見てきた。そしておぬしの言う正義も納得するものがあると感じた。だからこそ頭を使うのだ。やみくもに騒動を起こしても全員が捕縛されてみろ。残った者達は一層惨めな思いをする。年貢の取立てが今以上に厳しくなることは明白だからな。そうなったらまた一揆を起こせばいいのか?そうではないだろう。そんな事を繰り返しても無駄骨を折るばかりだ。」

「ならどうすれば良いと言うのだ!」

「それよ。――― 甘藷かんしょという植物を知っておるか?」

「甘藷?知らぬ。それがどうした!」

「まぁ落ち着け。青木昆陽という人物が薩摩で栽培に成功したということで、薩摩芋さつまいもというそうだが、甘みがあってなかなか美味いらしい。それをこの地で作ってみてはどうか?その御仁が出版して薩摩芋の栽培の条件というものを読んだが、ここに合っているように思う。もちろん寒暖の差はあるだろうがな。」

「その薩摩芋というものはすぐできるのか?!出来んだろう!植物だものな!百姓は今、食うや食わずの貧困にあえいでいるのだ。そんなものを待っている余裕も時間もないくらいにな!」

「ではどうする?今食えないからと他の地の者達に呼応するかのように騒動を起こして結果は?首謀者はことごとく捕えられ断罪になっているではないか!今まで企てた計画が成功した村があったか?良いか新之介。長い目で世の中を捉えるのだ。現在の情況については俺が何とかしよう。」

「何だって!何とかするって出来るのか?!そんなこと無理だ!」

「知ってるか?俺の兄は目付け役だ。」

そう言うと数馬はニヤリと笑い、片目をつぶってみせた。

目付け!その役職に新之介は愕然となった。あろう事か公儀の者に計画が露見してしまったのだ!新之介はスーッと意識が遠のくのを感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ