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ある思惑

  (多くの民百姓が犠牲になるんだぞ。それに可奈という娘と一緒になりたければ、茉莉殿とのことをはっきりさせなければいけない。)数馬の言葉が新之介の耳元から離れない。自分は元よりどうなっても構わない。しかし数馬の言う通り一揆を起こせば罪もない百姓やその家族が巻き添えを食う。それから父、新太郎の顔を思い浮かべた。自分がいなくなってから苦労をかけたと思う。その父に追い討ちをかけるように更に辛い思いをさせてしまう。・・・数馬に諭されて新之介は何のための一揆なのか、と目標を失いかけていた。天明の大飢饉以降百姓達の口にするものといえば、水とほんの一握りだけの食料だけ。それもひえや粟を食える者はまだ良い方だった。大概の者達は雑草や木の根などを食していたのだ。口減らしに生まれたばかりの赤ん坊は殺され、年頃の娘を持った両親は娘をビタ銭程度の金で女衒ぜげんに売り飛ばす。しかしそれでも尚、餓死者は後を絶たなかった。そういう現実を目の当たりにしてきた自分だったからこそ、百姓達の先頭に立って武芸指南をしてきたのではないか。それを今更やめろ、と言われて引き下がれるか!と勇気を奮い立たせた。・・・・すると今度は可奈のふっくらした顔が浮かんだ。何も知らず身重の身体でやもめの父と自分の世話をしているのだ。その可奈の泣き顔は見たくない。―――ああ!俺は一体どうすればいいんだ!!


  (ここは?・・・何故ここに来てしまったんだろう。)ふと我に返って立ち止まると、数馬の宿泊所である『つるや』の前に立っていた。ちょっとためらった後、暖簾を割って入って行くと、新之介の顔を知っている主がにこにこ顔で出て来た。

「おや、先生。今日は一体どのようなことで?」

「こちらに富良風太郎という旅の侍が宿泊していると聞いたんだが。」

「あンれマァ!あのお2人と先生はお知り合いかの?」

あの2人とは数馬と茉莉のことに違いない。

「そうだ。」

「ンだども、旦那様の方はさっき出かけられたです。奥様はうちの女中共にお針を教えてくださるちゅうんで残っておられるがの。いやぁ、大した奥様だぁね。どこかのお嬢様には違ぇねぇのに、あっしらみてぇなもんにも気軽にお声をかけてくださる。それにカカァには内緒ですが、えらい別嬪さんでなぁ。あっしゃぁお顔を拝むたんびにポーッとなってしまうです。もっともうちのカカァも旦那様のお顔を見るたんびポーッとなってますがね。」

顔馴染みという気軽さから、つい主の話し方も営業用ではなくなる。

「奥様?―― そうか。」

数馬が旅をし易いよう夫婦と偽っているのだろうということはすぐわかった。でなければこのまま茉莉を自分の手元に残して帰るとは言わないだろう。

「では奥方お一人のところにお邪魔しては悪いな。ちと待たせて貰っても良いか?」

「へぇ。んではこっちの方へどうぞ。」

と新之介は帳場へ通され、お茶代わりにと茶碗酒を振舞われた。

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