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私は管理本部長。  作者: たろう
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経費削減依頼

「高良川くん、社内の不必要な経費を洗い出して削減してくれ!君も知っての通り、我が社は店舗営業に特化した会社だ。現場の人間では売上を上げる意識が強すぎて散財に気が付かないこともあるだろうと思う。任せたよ!」


社長のありがたい言葉である。


社長の週に一度のキャバクラとゴルフを止めればそれだけで年間300万ほどの経費削減になるのだが、それは今言うべきタイミングではないのだろう。


「承知しました。最善を尽くします」


私はそう言って社長室を後にしたのだった。




数日後、私は、もっとも大きな費用となっていた【人件費】から手を付けることにした。


昨年度は例年よりも10%ほど売上が高かった為、特に土日祝日には人手が足りない店舗が続出した。その為、従業員の休日出勤や残業がグッと増えてしまうという現象が起こった。


しかし今年度の売上は例年の12%減となっていて、未だ上昇の兆しが見えない。にも関わらず、休日出勤や残業にかかる費用が昨年度とほぼ同額だったのだ。


(これはおかしい・・・)


そう考えた私は一週間かけて全店舗を調査した。




そこで分かったことは、暇をもてあそぶ従業員たちは時間も忘れて延々とおしゃべりをしてしまうということだった。


暇ほど恐ろしいものはない。


昨年度はあれだけ元気よく働いていた従業員たちが、今はほぼ一日中おしゃべりに余念がないのだ。




「今、店舗の人員工数が多すぎます。まずは、今当たり前のように行われている社員の休日出勤を止めましょう。それだけで年間120万の経費削減が見込めますし、多少人数が少なくても現場はそれなりに回せるだけの人材がいるので、もっとも大きな負担がなく削減出来る箇所だと考えます」


私は、二カ月に一度参加している営業会議の場でそう提案した。


「んー・・・、言っていることはよくわかりますが、そこをすべて止めるのは難しいですよ。確かに今は暇な日が多いですが、いきなり忙しくなったらどうします?万が一に対処する為と考えれば、それは必要経費と言えるんじゃないですか?」


シフト作成を担当しているエリアマネージャーの竹原くんがそう答えた。


ちなみに、今年度に入ってから半年が経とうとしている今、数字を見る限りではその「万が一」で上がった売上は5万円くらいだ。


「そうですか・・・、わかりました。では、平日に一店舗一人ずつで構わないので、アルバイトを一時間早上がりさせましょう。今は人員工数も多いので閉め作業に支障はないはずです。これだけで年間400万円程度の経費削減が見込めます」


本当はアルバイト全体の出勤日数を減らせば手っ取り早いのだが、アルバイトの人たちにも生活がある。あまり大きな変化をさせない為の提案だった。


すると、神奈川店舗を統括している橋間くんがこう答えた。


「・・・高良川さん、非常に申し上げにくいのですが、店舗が閉まってもいないのに先に帰るのは寂しいものですよ。事務所勤務の方には理解しづらいかもしれませんが、私たち営業はモチベーションを大切にしています。先に帰らせてしまうなんて出来ませんよ!」




私は思った。


・・・なるほど。


彼は、アルバイトのモチベーションアップに年間400万の予算を使用すると言っていることに気が付いていないのだ。


そして、私が知らないとでも思っているのだろうか。


君の浮気相手のあのアルバイトの子が先に帰ってしまうと君のモチベーションがだだ下がりしてしまうってことを・・・。




結局、経費削減に関しては人件費以外のところが好ましいということになった。


話は二転三転したが、営業統括の人間たちは自分の配下スタッフたちに「人件費を削減する」ということはどうしても言いたくないらしく、まあ単純な話、言いにくいことは出来る限り後回しにしたいというだけのことだった。


取り急ぎ出た代替え案は「エアコンの消し忘れに気をつけましょう」と「メモは裏紙を使いましょう」で、これはすぐに可決されてこの日の会議は終わったのだった。




会社を出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。




「いやぁ、みなさん!軽く飲みにでも行きますか!」


「お、いいね~」


「そう言えば、前にみんなと行った串カツ屋のオーナーが、近くに新しくガールズバー始めたらしいよ!」


「へ~、じゃあ今日はそっちに行ってみるか!高良川さんも一緒に行きましょうよ!」


「すみません。せっかくのお誘いですが、今日は妻と約束があるんです。みなさんで楽しんできて下さい。今日もお疲れ様でした」


そう答えて、私はみんなの歩く方角の逆側に向かって歩き始めた。


「お疲れ様でしたー!」

屈託のない笑顔で私に手を振る彼ら。


そんな彼らを横目に、私は、気持ち早足に近くのスーパーマーケットに向かうのだった。




ここのスーパーは、20時を過ぎるとほとんどの菓子パンが50%オフになるのだ。さらには弁当やデザートも、また運が良ければ牛乳やピザなんかも30%オフくらいになっていたりする。


そして、そのことを知っている妻は、私が会議の日の朝に限って必ずこう言うのだ。


「もしも今日遅くなりそうなら、あのスーパーにあるお得商品を適当に買ってきて~。我が家も経費削減をしなけりゃですから!」




私は、20分ほど店舗を練り歩き、厳選した商品をカートに山盛りにしてレジに向かった。


「2,160円になります」


今日はついていた。


ほとんどの商品が50%オフだった。




私は管理本部長。

経費削減なんてお手のものなのだ。

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